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煩雑な関係性をも含めるように「係う(かかずらう)」きゅうかくうしお インタビュー

ストレンジシード静岡のサポートスタッフ、その名も「わたげ隊」。ストレンジシードってどんなフェス? どんなアーティストが出るの? ということを伝えるべく、地元・静岡を中心に活動するわたげ隊が出演アーティストにインタビューする企画。きゅうかくうしおのみなさんが登場です。

わたげ隊がゆく!
ストレンジシード静岡2023 アーティストインタビュー
ゲスト:辻󠄀本知彦、松澤聰、森山未來、矢野純子(きゅうかくうしお)
聞き手:天野(わたげ隊)

天野 お一人ずつ自己紹介をお願いします。

辻本知彦 「芸術家」の辻本知彦です!最近近くの文化芸術センターみたいなところに「パフォーマンスをしたい」って言いに行ったら、こいつややこしいなっていう顔で見られたんですよね。それに腹が立って「僕、芸術家なんですけど」って言ったら逆にまた冷ややかな目で見られて、僕、燃えてきたんですよね。だから、これからは芸術家って言おうと思ってます。

森山未來 辻本さん、芸術家というものにかなり旧時代的なイメージを持たれているようなので、そこもリサーチ していただければと思います(笑)

天野 了解しました(笑)

松澤聰 映像をしております、松澤と申します。花粉症でちょっと鼻声になってしまってるんですけど。

森山 メンバーの森山未來です。

矢野純子 宣伝美術をやっている矢野といいます。よろしくお願いします。

左上:森山未來さん 右上:辻本知彦さん
左下:松澤聰さん 右下:矢野純子さん

「きゅうかくうしお」の由来とは? ロゴのデザインは誰が?

天野 早速ですが「きゅうかくうしお」という名前の由来は何ですか?

松澤 辻本さんと森山さんが若かりし頃にですね、自分の子供に名前を付けるならこの名前だっていうのから取ってます。トモさん(辻本さん)が「きゅうかく」、未來くんが「うしお」っていう。それが2013年の時ですね。

天野 「きゅうかく」というのは、花の匂いとかの嗅覚ですか?

辻本 そうです。僕、お寺の生まれだったとしたら「きゅうかく」みたいな…なんか寺っぽい感じの名前がいいなと思って。

松澤 その話、初めて聞きました。

天野 ちなみにどういう漢字ですか?

辻本 漢字まで考えてなかったです。漢字まで考えましょうか?

森山 今やる!?

辻本 今のトーンで言うと「お前にそんな時間を割くな」ていうこと!?

森山 割いてこ!

辻本 芸術家に対してそういう態度あかんやろ!芸術家じゃなくてもあかんけども。

天野 ストレンジシード終わった後にもインタビューをぜひやらせて頂きたいので、その時にお願いします(笑)

辻本 はい!その時までに考えておきます!

松澤 きゅうかくうしおの、犬のロゴみたいなのあるじゃないですか。

天野 はい、気になりました。

松澤 あれは芸術家トモヒコ・ツジモトの描き下ろしでございます。

きゅうかくうしお ロゴ

辻本 森山さんも描きましたよ。左手で描くというコンセプトで。

天野 なんでワンちゃんなんですか?そもそもワンちゃんで合ってますか…?

辻本 ワンちゃんです。

天野 なんで犬だったんですか?

辻本 わかりやすく絵の題材みたいなのがあるのがいいなと思って。ワンちゃんが描きやすかったんですよ。あれ未來、左手で描いてないの?

森山 描いてない、描いてない。トモさん(辻本知彦さん)最初左手で描いてないよ。

辻本 そうだったっけ?

森山 ロゴ描いてからトモさんすごいたくさん絵を描くようになって。そこから「じゃあ左手で描いてみるわ!」って言った後から左手でいくつか描いてると思うけど、あのロゴ自体は別に左手じゃなかったと思うよ。

辻本 そんな気がする。まあそこら辺は曖昧にしておこうよ。そこらへんも芸術家やから。

フラットなスタンスで「係う(かかずらう)」

天野 きゅうかくうしおのプロフィールに「日々係う(かかずらう)」という言葉があって、馴染みがなかったので調べました。〈関わり合う〉という意味合いなんですが、「係う(かかずらう)」という言い回しを選んだのには理由があるんでしょうか?

森山 そうですね。最初トモさんと僕の二人で動き始めたのが2010年で、2017年にきゅうかくうしおで公演をやった時に、コミュニケーションのあり方として、「振付家や演出家がいて、その人たちの振付だったり、世界観をダンサーやスタッフたちが追随して表現していく」という構造を、僕らは廃したかった。
できるだけフラットなスタンスで、みんながみんなに意見を言い合って、お互いに採用し合って一つの作品を構築していくようなスタイルを模索してきたんです。トップダウンで物事が進んでいくのが一番わかりやすいし、進みやすいんですけど。みんなでコミュニケーション取りながら決めていくって、すごい労力も時間もかかるんですよね。
すごくポジティブな側面もありつつ、やっぱりネガティブな側面もある。それは「関わる」というプレーンな響きではなく、時にもつれ合ったり絡まったり、そういう煩雑な関係性をも含めるような響き、そういうものもちゃんと踏まえて関わっていくという意味で「かかずらう」という表現が僕としては適切かなと思っています。

天野 なるほど。今回の『素晴らしい偶然をつないで』は、メンバーのみなさんがインスタレーションやパフォーマンスなど、それぞれの表現を持ち寄る作品だと伺っています。「集団とは何か」を模索してきたという今のお話は、今回の作品にもつながるように感じます。

森山 そうですね。コミュニケーションやコミュニティをどのように創造していくか、そしてそれを(作品として外に)どう開いていくかっていうのは、きゅうかくうしおでやってきたことの根幹でもあり、現在はこういった形で展開することになりましたね。

辻本 すごい言葉上手やな。俺が教えた通りやぞ。

森山 芸術家の先生に教えてもらったとおりです、師匠。

辻本 ハハハハハッ。

キーワードは「醸す」

天野 今回の会場は「人宿町」という町を舞台に選んだとのことですが、元々やりたいことが明確にあったから人宿町を選んだのか、人宿町ありきでこういうことをやろうと決めたのか、どちらでしたか?

森山 これは2022年1月の、豊岡市にある城崎国際アートセンターでの「アーティスト・イン・レジデンス」からの流れがあります。それまでにコミュニケーションの取り方、コミュニティっていうものを考えながら作品づくりを行っていく中で、コロナ禍ということも含めネガティブな側面がかなり強く出てしまったんです。これからどのようにこの集団を運営していくのか、集団として続けていくのかということに対して、立ち止まって考えなければならない時期っていうのが、城崎でのレジデンスのタイミングに当てはまったんですよね。
その時に僕が興味を持っていた「醸す」という言葉をキーワードにメンバーそれぞれリサーチをしてもらって、何かしらのアウトプットをしてもらい、それを一つの空間にまとめてインスタレーションっぽい作りにする。観客に見てもらいながら、僕らがある程度誘導しながらそれらを繋いでいく、みたいなパフォーマンスを作ろうと思ってたんです。
ところが、新型コロナウイルスの影響で、観客に向けてのアウトプットができなくなっちゃって。じゃあどういう形でこれを終わらせるかってなった時に、インスタレーションという考え方であれば、インストラクション、つまり「説明書」をデータとして残しておいて、それを別の場所にインストールし直すことができる。そういった形で最終的にインストラクションを作ったところで終わったんですね。

『KU的醸すin城崎』城崎国際アートセンター(2022)
撮影:bozzo
https://kyukakuushio.com/works/works_202202/

森山 今回ストレンジシードさんからお話をいただいて、静岡という場所にどういうふうに再接続、再インストールできるかを考えながらリサーチさせてもらいました。人宿町って、もともと宿場町だったり、映画館が並んでいたりと賑わいのある場所だったけど、一度廃れてそこに若い人たちが入ってまた盛り上がりを見せてるっていう、タイトな場所にアクティブなものが起こってるっていう印象が大きかったので、このエリアを使って、きゅうかくうしおが「醸す」をコンセプトにやってきたことをどういう風に埋め込めるか、という風に動いています。

天野 「醸す」っていうキーワードに普段あまり馴染みがないんですけど、そういうキーワードは突然降ってきて思いつくんですか?

森山 僕が自分の別プロジェクトでリサーチしている中で出会ったワードでもあるんですけど、この言葉はコロナ禍でかなり強くポップアップして来たワードだとも思うんですね。
グローバリゼーションでみんな外への意識が強くなって、それがすごいスピードで回っていたものが、全部シャットアウトと言うか分断されて…みんな外にも出れないし、自分たちの足元を見ざるを得なくなった。自分の立ってる場所で何を作っていくかという問いに向き合うことを強いられていった中で醸成されていくもの、いわゆるローカリゼーションみたいなことでもいいんですけど、その意識が高まっていったのがこの二、三年だったと思うんですね。

天野 はい。

森山 それはもっと過去を振り返ると、江戸時代に鎖国の中で花開いた江戸文化だったり、さらに前には菅原道真がそれまでの遣唐使制度を終わらせて、国内だけでの文化に集中した結果、国風文化が盛んになっていったりだとか、外からの空気を取り込まないことによって生まれる文化というものもある。そういうものをポジティブに捉えようとした時に、ここ数年で日本の発酵文化が見直されたっていうところが絶対にあると思いますね。

天野 それで人宿町の静岡醸造に訪れたんですか?

森山 そことは関係なかったんですが(笑)。何の前情報もなくふらっと遊びに行ってみたらすごく楽しくて、人宿町で絶対何かやりたいと思ったんです。

必ず、思い出になる。

天野 みなさん、静岡の下見に来られてどうでしたか?静岡や人宿町の印象をお聞きしたいです。

松澤 静岡、僕はすごい好きですね。昔から東海道の一部で人がすごく通ってたんだろうなって。東海道と中山道って、中山道の関所が高くて高貴な人たちがあっちを通ってて、東海道の方は一般の人たちがよく通ってたっていうのを聞いたことがあって。庶民の集まる流れの中の一つ、っていうのが人宿町にはずっと昔からあったんだろうなっていうのと、今の時代の流れで昔のように繁栄してないけど、また新しい風が入ってきて、流れができてるってところにすごく興味があります。そこに暮らす人たちとかそこを通っていく人たちに対して、僕はすごい興味があります。

天野 ありがとうございます。矢野さん、いかがですか?

矢野 抽象的な表現になってしまうんですけど、静岡の街は淡い色合いの中にいろんな色のビー玉が散らばっている感じ。空も広くて穏やかで、全体的に淡いんだけど、お酒とか食とか音楽とか、キラッと光るここにしかない色のコンテンツがたくさんある印象があります。

天野 嬉しい、ありがとうございます。それは人宿町限定ではなくて、静岡全体的にですか?

矢野 全体的に。可愛い色がいろんな所にある印象です。

天野 辻本さんは、いかがでしたか?

辻本 これから思い出ができるんだろうなと。ツアー公演で、三年間で140カ所ぐらい移動したときに「もうどこ行っても一緒だな」って気分になっちゃったんですよね。どこもかしこも違いはあれどもなんか同じように感じてしまって。
これから自分が関わったところは、必ず思い出になるって思ってますね。パフォーマンスを経て、思いがこれからできるんだろうなっていう感じで。

天野 ありがとうございます。森山さんいかがでしたか?

森山 城下町の空気感っていうのはそもそも好きです。区画が整理されているからか、風の通りが凛としてるというか、そういう空気感の街が好きで。駿府城の城下町として栄えてる静岡界隈の空気感っていうのはいいなぁと思いつつ、葵の人たちっていうか、やっぱ徳川のお膝元だからかこう…余裕ありそうだなっていう感じはしましたね。

天野 余裕(笑)

森山 機物(はたもの)だけの店や、神棚だけで成立している店が静岡にはあって、職人文化っていうことなんだろうと思うんですけど。今って小売業とか、もろもろ全部統合されてっちゃったりとか、それだけじゃやっていけなくて廃れちゃうものもあるんですけど、そういうものが静岡の駅前の町の中でよく見かけました。精神的になのか物理的なのかわかんないんですけどそういう余裕みたいなものを感じるところもありましたね。

天野 「どうする家康」ブームなので、より城下町感が出てるかもなと思いました。

絶賛、醸し中!

天野 作品の概要を見せていただいた時に、すごくアトラクション感というかRPGみたいな印象があるなって思ったんですけど、どういう風な作品になりそうですか?

矢野 めっちゃ今「醸してる」ところです。

森山 絶賛メンバー間でアイデアをやりとりしてる最中ですね。

松澤 僕は、より多くの人とお話しできたらなと思ってます。インタビューを映像に撮って集めていくってことを考えていて、人宿町に来られた方々に生まれた場所を聞いて行きたいなと思ってるんですけど……(画面の辻本さんを見ながら)鳥、居ますよね。ともさんの肩に鳥乗ってません??

草野 鳥、乗ってますね…インコですね?

辻本 インコです。

天野 芸術家ですね(笑)。あと、石橋穂乃香さんのクレジットが「ほのちゃん」になってるんですけどこれってどういう意味合いですか?

森山 役職で言うと石橋穂乃香は、日本語だと「ほのちゃん」なんですけど、英語だと「UMAMI」ってなるんですね。

天野 うまみ?

森山 はい。旨味って海外でもUMAMIという言葉で通るんですけど、まあ、そういう考え方ですね。エッセンシャルなものでもいいんですけど。なんかこう、マスコットみたいなものだと思ってもらったらいいです。

天野 きゅうかくうしおの中での旨味が石橋さん、みたいな感じですかね。

森山 まあ、そう願っている感じですね(笑)。

矢野 ほのちゃんは「ほのちゃん」じゃなきゃダメで、居ないときゅうかくうしおが成り立たない存在です。説明出来ないんですけど、ほのちゃんは絶対に必要なんです。

天野 石橋さんとも当日静岡でお会いできるのを楽しみにしてます。

天野 私、「わたげ隊presents ストレンジシードでつながるツアー」というストレンジシード内のツアーを企画しておりまして、「きゅうかくうしお」さんもお伺いさせていただく予定なので、ぜひまたお話しできればなと思います。

松澤 お話ししたいです!

天野 是非よろしくお願いします。本日はお忙しい中ありがとうございました!

ストレンジシード静岡2023
『素晴らしい偶然をつないで』
きゅうかくうしお


日程:2023年
5月4日(木・祝)15:00-21:00(19:00-19:45 パフォーマンス)
5月5日(金・祝)15:00-21:00(19:00-19:45 パフォーマンス)
5月6日(土)15:00-21:00(19:00-19:45 パフォーマンス)
会場:人宿町・毎日江﨑ビルエリア[人宿町]

ほのちゃん:石橋穂乃香
舞台監督:河内崇
踊り子:辻󠄀本知彦
衣裳:藤谷香子
映像:松澤聰
踊り子:森山未來
宣伝美術:矢野純子
照明:吉枝康幸

作品情報については、きゅうかくうしおウェブサイトにて順次更新されます。

インタビュー・編集:天野(わたげ隊)
記録・テキスト:ハボ(わたげ隊)
ストレンジシード静岡 事務局:山口良太、草野冴月

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