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パァッと華やいだ気持ちになってほしい 山本正典(コトリ会議) インタビュー

ストレンジシード静岡のサポートスタッフ、その名も「わたげ隊」。ストレンジシードってどんなフェス? どんなアーティストが出るの? ということを伝えるべく、地元・静岡を中心に活動するわたげ隊が出演アーティストにインタビューする企画。第7回はコトリ会議の山本正典さんが登場です。

わたげ隊がゆく!
ストレンジシード静岡2022 アーティストインタビュー

ゲスト:山本正典(コトリ会議)
聞き手:わたげ隊(ハボ)

コトリ会議

「コトリ会議」ってどんな会議?

ハボ:まず、「コトリ会議」という名前の由来からお聞きしてもいいですか?

山本:最初は「小さなコトリ達がチュンチュン会議しているけど、彼らにとっては大事な事件」という意味で、小さな事件を扱うお芝居を作ろうと思って”小さな小鳥”。
あと、些細な物事って言うんですかね。一度自分の戯曲に書いたくだりなんですが、意気消沈している相方のそばに、テーブルのコップを”コトリ”と置いて「あったかいお茶でも飲みな」っていう、ささやかな気遣いをする…そこからドラマが展開したり、関係が動き出すという物語を作りたいと思って。でも気が付けば、僕が書く戯曲はそんな些細な出来事は全く起こらなくて、いつも誰かが死んだりとか(笑)光線銃で撃たれたりとか、そんなんばっかなんですけど。そんな意味で「コトリ会議」という名前を付けました。

ストレンジシード静岡2020 the Park『しばふ暴風警報』上演時の様子

ハボ:なるほど。セリフはあまり声を張らないという演出も、ささやかさ、さりげなさみたいなところを目指して?

山本:実は僕としては「声を張らないでやろう!」っていうのを思っているわけではないんですよ。お客様に声を届けるっていうのはもちろんなんですけど、それよりも目の前にいる相手に言葉を届けようというか。相手との距離感を大切に言葉を表現していこうってなった時に、必然的に小さい声でぽそっと喋るという演出になっていった感じですね。

劇場の暗がりが好き

ハボ:コトリ会議の舞台は、照明も割と控えめな印象なんですが、それにはどういった意図が?

山本:そろそろ、もうちょっと明るい方が良いかなって思ってるんですけど(笑)。何か計算があってそうしているわけではなく、単純に自分の好みというのもあって。
演劇で何が一番好きかと聞かれたら、劇場の闇というか暗がりが好きなんですよね。例えばAI・HALL(兵庫県伊丹にある劇場)で、素舞台(舞台装置などがない空っぽの舞台)でやられている舞台がよくあるんですけど、そういった作品を観る時、舞台の片隅にある、何も映ってない空間も気になります。

山本:今いる空間の中で何が一番面白いんだろう?って思った時、人と人とが関係を作っている明るい空間とは別の所に漂う気配というか。「お化け」と言うか、幽霊的なものというか、そういった空気を感じるのが好きなんです。なので、そういうのが観たいってなったら、絞った照明になってしまって。でも、これからはもう少し明るめにしていこうと思います(笑)眠たいって言われるんで。

ハボ:「お化け」が好きとの事ですが、作品の中にも人じゃないものがよく出てくる印象です。人じゃないもの、普段見えないもの、に対して興味があるんでしょうか。

山本:知り合いに「山本さんはお化けを信じているんですね」って言われたんです。信じるも何も、お化けが居ることも居ないことも証明されてないじゃないですか。でも、江戸時代の妖怪のような、人の脳みそが勝手に作り出している「異界のもの」は必ずあると思うんですよ。
そんな考えが根底にあるから「お化けが見たい」に繋がっているのかもしれませんね。わざと暗い所を使って「自分が幻を見たい」みたいな。

生死の境目を惑わせたい

ハボ:実際にお化けを見たことはあるんですか?

山本:無いです!人間関係の怖い現場に立ち会うことは良くあるんですけど…お化けは無いですね。仏教徒なんですが祖父と祖母が亡くなって「亡くなった人は仏様になって、いつも近くにいてくださるよ」みたいな話は、無下には出来ないというか。そういう話に感謝する瞬間はありますね。

ハボ:作品の中で死を描く時って、お客様に何を伝えたいんでしょうか?

山本:お客様に伝えたい事は、実ははっきりしていなくて。言葉で言い表せるのなら、それをそのまま言葉で言うだけであって。…お客様を惑わせたいのかもしれないな、とは思っています。

山本:例えばお客様の中に近しい人が最近亡くなったという方がいらっしゃったら、「あの人は本当に亡くなったのだろうか?」「通夜で目を閉じてるその人の姿を見たはずだけど、もしかして今もどこかにいるんじゃないだろうか」のように、生死の境目を惑わせてブレさせるような作品をいつか作りたいと思ってます。自分自身がそういう錯覚をしたい、というのもあるんですけど。
だから、そういう作品を作りたいと思っていて、「ああ、今回も出来なかったな」と思って出来上がった作品を眺めてます。

ハボ:お話し聞きながら、私が今まで拝見したコトリ会議の作品を思い返してたんですけど…作品の中で、亡くなった方が確かにそこにいて。時空が歪んでるのかもしれないけど、それが当然の世界というか。「あ、そういうことだったのか」って思いました。

山本:ありがとうございます。嬉しいです!

山本正典さん

ものすごい「何か」が…?

ハボ:今回の作品は、市役所エリアの「鏡池」でしたよね。

山本:鏡池に客席は設置するんですけど、実際に事が起こっているのは市役所の中なんです。今日ここで話した内容は全部無かった事になるような「なんだこれ?」みたいな作品になると思います。相変わらず、ちっぽけな事をやってます。

市役所エリア・鏡池。奥に見えるのが、静岡市役所本館の「あおい塔」

ハボ:髪のお話の予定だったと聞いたんですが…?

山本:そう、もともとは髪のお話だったんです。あおい塔から30mくらいの髪の毛を作ってビャーッ!と伸ばしたかったんですけど「難しい」と言われまして(笑)
髪ではないんですけど「何か」を市役所の中で動かそうと。ものすごい「何か」がうごめくんです、市役所の中で。全然壮大ではない、ものすごい小さい何かが市役所の中を動くっていうのを登場人物が真剣に追いかけるっていうお話です。

ハボ:なるほど…

山本:我ながら、どうしたら「この作品面白いですよ!」って言えるのか…「果たしてこれは面白いんだろうか」と思いながら稽古しています。

ハボ:市役所の中で何かを動かして、鏡池にいるお客様の何を動かしたいですか?

山本:ストレンジシードはすごく良い意味で「フェス」だと思っているんです。ゴールデンウィークじゃないですか。黄金週間。やっぱりまず第一に、みんなに楽しくあって欲しいですね。ワクワクしてほしいし、ポジティブな気持ちになってほしい。そんな「気持ち」は動かして頂きたいなと思いますね。小難しいことは全くなくて。ただ観て、パァッと華やいだ気持ちになって欲しい。それだけを狙ってますね。

駿府城公園は異空間

ハボ:ストレンジシードには2020年に出演なさっていますが、それより前に静岡で公演された事はありますか?

山本:今まで仙台、新潟、福岡、名古屋、東京、大阪、京都、兵庫とやらせていただいてるんですけど、静岡は一度もなくて。何だったら2020年の時、静岡の地に降り立ったのが初めてだったんです。

ハボ:2020年に初めて降り立った時の、静岡の印象はどうでしたか?

山本:あの駿府城公園というのはなかなかの異空間というか…。石垣の詳細な説明とかすごく楽しくて。積み方が歴史によって違うんです、豊臣秀吉が治めた時と徳川家康が治めた時とで。そういう歴史を勉強しながら、石垣跡をそのまま残している空間を拝見しながら、時間の名残を感じさせてくれる場所だなと思って。市役所もそうなんですけど。

駿府城公園(東御門)

ハボ:今まで伺ったお話の流れを含め、今だけじゃない歴史の積み重ねのようなものに興味や愛着を持っていらっしゃるんですね。

山本:そうですね。最近になって「自分はこういう事に興味があるんだな」という事に気付き始めていて。なおさら言葉として出ているのかもしれないですね。

ハボ:そんな静岡の地にいるお客様に、だからこそ伝えたいものはありますか?

山本:街や市役所を使って作品を作れる自治体が他にあるだろうか?と思った時に、あまりそういった場所を知らなくて。芸術に対する懐がすごい深いですよね。静岡市には「まちは劇場推進課」という課があるんですよ?こういう取り組みが全国に広がっていくと良いですよね。

芸術をポジティブに受け止めてくれる街

ハボ:その素晴らしい環境でパフォーマンスをしたコトリ会議が、そこから何を得て、どう広げていくんだろうって期待しながらお話を聞いていました!

山本:あまり壮大な事は考えてないです(笑)でも一昨年ストレンジシードに出演させて頂いて、衝撃だったことがあったんです。帰り道に雨が降っていたので、駅までの短い道をタクシーで帰ったんです。そのタクシーの運転手さんが「あんた達フェスの人?」って。そうです、と答えたら「この辺、大道芸とかめっちゃ楽しいでしょ! ※ 」っておっしゃったんです。街の人がそれを話題にするんだ!って思いました。
※静岡市では「大道芸ワールドカップin静岡」というアジア最大級の大道芸フェスティバルが開催されており、静岡市民にとって大道芸やフェスティバルは馴染み深い存在
自分の住んでいる関西では、タクシーに乗ったとしても、静岡の運転手さんみたいな、芸術をポジティブに受け入れてくださる街の人に出会えるのかなって。静岡の人ってこうなんだって思った時に「あ、やっててよかった」って思いました。その目線で見たものをきちんと受け取って帰りたいなって思います。

ハボ:過去のストレンジシードで、市長さんがリハーサルをご覧になってたのを見たことがあります。出演するアーティストにに「頑張ってね!」って声をかけてらしたのを見て「すごいな静岡!」って思いました。

山本:すごいですね!市長さん、出演してくれないですかねぇ。

ハボ:それが出来たら本当にすごいですよね。

フォーカスを合わせるのはお客様

ハボ:変な質問で申し訳ないんですけど…山本さんの後ろに居る、その”サイ”は何ですか…?

山本:ああ!これシールなんですよ。馴染みすぎてて全然存在に気付いて無かった…。自分では空気としか思ってないものが、他の方には「異質なもの」に見えているんですよね。人間の目って見るものを目的に沿って取捨選択しているんですよね。

ハボ:私が演劇を観ていて何が好きって、舞台の真ん中で喋っている人だけを観なくてもいいじゃないですか。それこそ、暗がりでゴソゴソやっている人達を見ていたかったら、そこを見ていてもいい。あの自由度が好きなんですよね。

山本:そうなんですよ。フォーカスを合わせるのはお客様なので。「どこにフォーカスを合わせたらいいんだ!」っていう事件がどんどん起こって欲しい。ストレンジシードでは、そういう自由な部分も併せてフェスだと思って楽しんでいただけたらなと思いますね。

ハボ:ストレンジシードってパフォーマンスが同時多発で起こるから、ホント目移りしちゃうんですよね(笑)。 今回のコトリ会議がどんな「事件」を起こしてくれるか、楽しみです!

コトリ会議
2007年結成。
劇団の中核となる作家・山本正典は近未来を想起させるSF感あふれる壮大な設定の中に、現代社会における”ふつうの人"の持つ気持ちを反映させた物語を創作。その作品でもちいる言葉は、軽妙で笑えるが、詩情に満ちて切なくも響く。そして発話するテンポとボリュームを操り声や音を聴かせる演出を得意とする。
2016年におこなった地方3劇団協働の「対ゲキツアー」以降、単独ツアー公演をおもにした本公演と、イベント的な小規模公演、演劇祭では誰も狙わない”隙き間”を利用した神出鬼没な小作品を、規模によって変幻自在に上演している。
http://kotorikaigi.com/

ストレンジシード静岡2022
『そして誰もいなくなったから風と共に去りぬ』
コトリ会議


コロナ禍に閉じ込められた私たちは、夕方になるとにちゃにちゃになるマスクと格闘し、それでも希望を歌い続けました。だからなのでしょう。自分の椿がマスクの内側の世界の全てでポワンと香る様な心地になり、ポワポポリン、一つの大発見へと至ったのです! その発見とは「人の絆の秘密について」
これから私たちは、その大発見が果たして真実なのか、市役所を使った壮大な実験を試みます。皆さんもよろしければ見届けてください!

日程:2022年
5月3日(火・祝)11:20 / 16:10
5月4日(水・祝)12:40 / 15:10
5月5日(木・祝)13:50 / 16:50

会場:市役所エリア[鏡池]

作・演出:山本正典
出演:大石丈太郎/川端真奈/三ヶ日晩/花屋敷鴨/山本正典/吉田凪詐 ほか

詳細はこちら
https://www.strangeseed.info/

インタビュー・テキスト:ハボ(わたげ隊)
記録:天野(わたげ隊)
編集:山口良太(ストレンジシード静岡 事務局)
編集協力:柴山紗智子


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