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【イベントレポート】"関係性"ファーストライブ~ポエトリーリーディング×即興音楽の融合~

私は最近「打ちのめされるような作品を鑑賞したい」という欲がありました。典型的に刺激を欲していたんだと思います。観たい聞きたい読みたいけど、自分から手に取るものはどこか想像が追い付いてしまいそうで気が進まない。

そんな中で見かけた‘‘関係性‘‘という言葉。

ここ数日私のX(旧Twitter)タイムラインを騒がせている言葉でした。怪談師の住倉カオスさんがポエトリーリーディングと即興音楽を合わせたライブをされたという事で、そのバンド名の‘‘関係性‘‘が連日呟かれていたのです。

カオスさんが音楽方面でも活躍されているという事はなんとなく認識していましたが、どんな音楽性でどんなステージングかは存じていませんでした。しかも今回はポエトリーリーディングと即興音楽!「これは全く想像がつかない!脳みそかき混ぜてもらえそうだ!」ということでアーカイブを鑑賞。


これは今日までのエンドロール

audio-technicaのイヤホン

何も考えずPCでアーカイブ配信を再生したのですが「あ、音が良い。これはオーディオテクニカのイヤホンで聴きたい」と浮かびます。音声配信の環境が良いからこそ、もっと良い音で聴きたくなるんです。この当初の感覚で、配信という画面越しの状況も関係なくライブに惹き込まれます。

関係性 ファーストライブ

ライブと言うと会場で体感するべきだと昔の私は考えていました。でも最近は配信で観るのも良いなと思うんです。イヤホンを耳に突っ込んで落ち着ける自宅のソファに包まれて穏やかに鑑賞する。まるでこのライブが私のためだけに行われているような錯覚に陥ります。

それでですよ!そんな風に惹き込まれたからこそ感じるものがある!出る言葉がある!もう初めにライブの大きな感想を言っちゃうんですが。
映画のエンドロールを観ているような感覚になったんです。即興だからこそゴールなく広がり続ける音楽をバックに、観客だけでなく人生と未来に向かって発せられていたような詩。その雰囲気は通常の音楽ライブとは異なりました。
その時間に目の前で行われているパフォーマンスをただ観るのとは違い、これまでの過程や生活、今日一日の終わりに区切りをつけるために流れ込んできたと感じたんです。
このライブをその時その瞬間行うためだけではなく、今までの活動や人生が地続きになっているようなステージでの表現。言葉にするのがとても難しく適切か不安ですが、私はそう思いました。このライブはここに関係性を持った人たちに流れる今日までの人生のエンドロール。だけどここで終わりじゃない。

関係性 ファーストライブ

イヤホンに変えてから画面へくぎ付けになって鑑賞し、期待通り脳みそをかき混ぜられ心がじくじくと痛みだしたのでした。

即興だから生まれる熱

関係性 ファーストライブ

ライブの第一部は即興音楽とポエトリーリーディングの融合ステージ。関係性メンバーの小林清美さん(ピアノ・Vo)、劔樹人さん(Ba)、オータコージさん(Dr)、住倉カオスさん(Gt)が静かに登場されて始まる演奏。幻想的とも言えるような穏やかなピアノの旋律が主導していきます。しかし途中登場した村上ロックさんのポエトリーリーディングで一気に熱気が生まれます。
「ひとことで言え、それをひとことで言え」
心の声を振り絞るように出てきた冒頭の詩。ここだけで私はとある人物が頭をよぎります。と、そんな事を考えていると段々とドラムが躍動的になりビッグウェーブが来る前触れのような荒々しさに包まれていきました。怪談のステージより緊張感を纏っていると感じた村上ロックさんからも怒号にも似た表現で言葉が次々と繰り出されます。やっぱりこの声、リズムが心地よい。それは怪談という場だけでなく往々に発揮されるのだと魅力を改めて認識します。
そこから登場してきたダースレイダーさん。本職のままフリースタイルをぶち込んでくる姿。「これがポエトリーリーディングとの融合ステージだろうがそんな事は関係ない」というようなご自身が光る舞台を作り上げるステージングを見せられました。プロの技だ。

村上ロックさん ダースレイダーさん

そしてここから、相反するとも思える2人がポエトリーリーディングとフリースタイルで掛け合っていくんです。きっとこれは配信だから分かる部分ですが、その表情からは堂々としているものの音楽とその場の雰囲気を察知する繊細な見極めを行われているのが伝わります。即興だから繰り広げられるアンテナを巡らせて呼吸を合わせる行為はバックの演奏陣からもビリビリ感じました。緊張感がぐいぐい伝わる。痺れる。
開始20分でステージの熱気がグンと上昇していました。画面越しだけどこっちも熱い。

声を武器に向かう

関係性 ファーストライブ

喘ぐようなギターのノイズから始まった2曲目。決して前に出過ぎることはなく、それでも自由に伸び伸び演奏するリズム隊が良かった。ここのバランス無くして即興演奏は成り立たないはずです。劔さんは今回のステージが即興演奏は10年ぶりと仰られていましたが、そんな風に全く思えません。ウッドベースという大きな楽器だから出るどっしりとした風格には安心感さえ覚えます。イベント前日がお誕生日だったというオータコージさん。トーク時にはべろべろな酔っ払い姿も見せてくださいましたが、演奏はキレキレ!スティック咥えて手を使い叩く姿なんてカッコ良すぎます!!!!

成宮アイコさん 劔樹人さん

真っ赤な照明の中透き通る空気を吹き込むように現れたのは詩人の成宮アイコさん。この日のパフォーマー達の中では一番の異質的存在とも言えたのではないでしょうか。
「いつも未来の無い方を選んできた」
そう、どこか寂しそうに読む成宮さんは悲痛や苦しさを吐露しながらもそれらの言葉を自身から発することで前に前に歩まれているのだろうと感じました。途中で歌を挟んできた小林さん。後に「この時のことを全く覚えていないと」話されており、まさしく即興だったそう。「人生が即興だから!」そう頼もしく話していた小林さんはこの日何度も確変ステージを作ってくださったと思います。凄かった、本当に。
成宮さんに寄り添い彼女を支えるように歌を差し込む小林さんとのかけ合いは、まさしくこのステージ上で変化していくような彼女たちの関係性を見たようでした

関係性 トーク場面

第二部のトークイベントで「声を理由にいじめられた経験があり、そこから会話の代わりとして言葉を綴り詩を読むようになった」と話す成宮さん。そのエピソードを聞いて2週目に聞く「あなたとわたしのドキュメンタリー」は一味も二味も違います。皆さん仰っていましたが、まさに成宮さんの声は彼女自身の軸となり人生を切り開いて未来へ向かう武器です。配信も良いけど、いつかお会いして生でそのポエトリーリーディングを体感したいなと思いました。

成宮アイコさん

「できるだけ生きていようね」
そう発する言葉と成宮さんの底力を見たステージです。

青森から言葉を寄せて

村上ロックさん

その後村上ロックさんが読む「赤い夜」は怪談のようなゾッとする気持ちも生まれました。そんな様々な詩を生み出し、このステージに強く関係性を持っていたのが作家の高田公太先生。冒頭に頭をよぎった人物とはまさにこの方でした。高田先生の詩だろうとすぐに感づいたのには我ながらビックリです。そしてやっぱり良い。

関係性 トーク場面

広い視野で世界を捉え、どこか社会を風刺するような言葉。とても、とても愛らしいんです。‘‘怪談界一のへそ曲がり‘‘として先日怪談本の「絶怪」も発売されています。本やエッセイなどを読んで想像する高田先生は、人間という生き物に大きく関心を寄せているから皮肉も言える。対象に無関心であれば何の感情も湧きませんが、向き合って良いところも悪いところも味わうから様々な言葉を生み出せるのだと思います。だから高田先生の書く言葉は面白い。そしてポエトリーリーディングで「声」という魂を吹き込むことでその面白さがなお広がっています。感想文という媒体を使うから言いますが、とても愛らしい方なんです。味がある。それでこそ完成されるこの関係性だと分かりました。

そんな高田先生もトーク部では登壇されて感想を話されます。「青森でPC に向かってこの詩を作っていた時間がステージにある、という新感覚を味わった」。私が冒頭で‘‘これまでの生活のエンドロールのよう‘‘と表現したのは、まさにそういったことなんです。
この日この時間のために作られたもの決められたものを練習して見せるわけではない。即興で行われるからこそ見える背景、関係性が濃く現れたのです。
手広く様々なイベントを作り上げるカオスさんだから紡いでいける関係性だと感じるステージ。本当にいつも目が離せません。と思っていたら、最後の最後にあんな事も起きちゃって...!カオスさん!これは忘れられません!笑


今改めて思うのですが、即興演奏ということは同じものはもう二度と見られない!!!?!今回のライブを音源化しても良いと思えるぐらい心に迫るものがありました。
でも、ダースレイダーさんが話されていたように「即興だから、生だから」という良さがあるのかもしれない。閉じ込めてしまわない事で開放される、言葉。この新感覚、ぜひ味わってほしいです。


そして来年1月22日には次回ライブが決定されています。怪談もがっつりあるということでかなり気になる…!今後見逃せないこのバンド、あなたも``関係性``を持ちませんか?


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