ウサギ
私の通っている小学校は、1学年6人も満たない小規模な学校です。
ここでは愛らしいウサギが2匹飼われており、餌やりは子供たちが当番制で行っていました。
ある日、私がその当番になり、一緒に集団登校してきたグループから離れウサギ小屋に向かおうとすると、「君が今日の当番?残念だけど餌やりは必要なくなった。」と先生から声をかけられました。
私はウサギが大好きで、心待ちにしていた当番がやっと回ってきたと思っていたのでひどく落ち込み、先生から理由を聞こうとしたのですが、先生はバツが悪そうに濁すばかりで、はっきりとしたことは言ってくれませんでした。
家から持ってきた野菜屑の入ったビニールを「これ、先生があげてください。」と差し出すと、「もう必要ないんだよ。」と悲しそうに先生は言いました。
不安を感じつつ、朝の全校集会に参加すると、校長先生が怒りを露わにしていました。
「昨日の夜、ウサギが近所の園児に殺されてしまいました。」
声には重苦しく、お腹が痛くなるような響きがありました。
誰もが静まり返り、体育館には冷たい空気が流れたのを今でも覚えています。
その日以来、ウサギ小屋には誰も寄り付かなくなり、学校では鶏や亀などの生き物を飼うこともなくなりました。
あれから2年が経ち、6年生となった私の学校生活も残りわずかとなりました。
今日は卒業記念の『全校大清掃大会』の日です。6年生が中心となり、後輩たちと協力しながら学校の敷地内をきれいに掃除するという行事です。
ウサギの一件はとても悲しい出来事でしたが、学年を超えて生徒全員の仲が良く、楽しい日々を過ごせた私は、学校に感謝の気持ちを込めて掃除することに張り切っていました。
1年生の男の子たちがふさげて遊び、ちりとりを壊してしまい、代わりのちりとりを取りに、私は先陣をきるように掃除道具をしまう物置となったあのウサギ小屋へ向かいます。
そのとき、ふと思ったんです。
校長先生はどうして「園児」なんて言ったのでしょう。
彼らの笑顔が、今では背筋を凍らせる記憶に変わり、2匹のウサギの無惨な姿が頭の中で何度も繰り返されます。