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元KADOKAWA社長・佐藤辰男が小説家デビューした理由。

明日2022年12月21日に、元KADOKAWA社長、佐藤辰男さんがセカンドキャリアとして小説家を選択、作家デビューを果たします。

輝かしいキャリアを歩み、今現在もコーエーテクモホールディングスの社外

取締役を務める佐藤さんが、なぜそのような決断をしたのか。

どのような思いで、小説を書いたのか。

エンターテイメント(物語)を描くことで、なにを伝えたかったのか。

その理由は、デビュー作『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』のあとがきに書かれていました。

ここでは、そのあとがきを先行公開させていただきます。
これを読めば、大手出版社の社長を勤め上げた佐藤辰男という人間の想いを垣間見ることができると思います。

※以下は、『謎のJC』のあとがきを編集・再構成したものです。

◆◆◆




みなさん、はじめまして。佐藤辰男です。

ぼくにとってこの『謎のJC』という書籍は、2冊めの著書となります。

1冊目の本はぼくが勤めていた会社の社史でしたから一般には流通しませんでした。

その社史のタイトルは『KADOKAWA のメディアミックス全史――サブカルチャーの創造と発展』と言います。

ライトノベル、マンガ、アニメ、ゲームといったサブカルチャー分野でKADOKAWA という会社が残してきた業績を記したものです。1982年(当時は角川書店という1945年創業の書籍出版社でした)の『ザテレビジョン』に始まり、ぼくが関わったゲーム雑誌『コンプティーク』や、アニメ誌『ニュータイプ』などの雑誌の創刊から書き起こして、新会社の起業や上場、様々な会社の買収、そしてデジタル化の波にもまれての苦闘など、波乱に富んだ40年近いKADOKAWA の軌跡を描いています。

一般には、販売されませんでしたからKADOKAWA の社員でないみなさんには読んでいただくことができなくて残念でしたが、SNSで話題になって、KADOKAWA の電子書籍サイト「ブックウォーカー」が期間限定でその電子書籍版を一般の方々にも無料で配布しました。

それでまあ、少し評判になってうれしかったという自慢話です。

それはともかく、社史を書き終えたとき、最後までやり終えた満足感とは裏腹に、まだ書き足りないという飢餓感のようなものを感じました。

ぼくにとってそれは不思議な感覚でした。悶々とした日々が何日かあって、頭の上に電球が灯るみたいに湧いたアイデアが、この本の最初の構想でした。

つまりどこにでもいる怠惰な青年が起業し、仲間の力を得て会社を上場させる、という話を書いてみたい。

テーマはイノベーションだ!

ぼくは、社史を書くことによって、この40年の自らのサラリーマン人生を振り返る機会を得たのでした。

そこで気づいたことはいろいろあったのですが、いまさらのように衝撃だったのは、自分の存立を揺るがすような言わばライバルとして立ちはだかった存在は、『少年ジャンプ』や『Vジャンプ』のような膨大な部数を誇るマンガ雑誌やゲーム雑誌ではなく、業界のヒエラルキーを支配してきた講談社や小学館のような大手出版社の存在でもなく――つまり業界の中の巨人ではなく、門外漢であるIT業界やネットの世界のオタクたち、デジタル世代のニューカマーだった、ということに思い至ったことです。

その人たちは出版界という伝統的な業界にイノベーションを強いたのです。

そこで、知識偏重と高度資本主義社会のいまの世で、閉塞感を覚えているに違いない若い社会人のみなさんに、怠惰で頼りない青山くんというキャラクターを提示してみることを思いたちました。

ぼくは2008年から2013年まで角川グループホールディングスという会社の社長を務めました。その時代は、様々なSNSのサービスやスマホのゲーム、小説投稿サイトや動画サービスなどが登場し、出版界に侵食し、KADOKAWA も苦境に追い込まれた時代です。新しいサービスは人々から″紙の本を読む時間″ と″雑誌を買うという習慣″ を奪ったのです。

そういう新しいサービスの担い手は、必ずしも既存の世界のエリートたちではありませんでした。ネット空間に生きる″変な人″、デジタルツールを使いこなす″新しい人″ でした。

かつて雑誌の編集長だったぼくのライバルは競合他社の雑誌でしたが、そういう雑誌自体がどんどん姿を消し、得体のしれない(当時はそう思いました)デジタルネイティブがぼくたちの存立を脅かす時代になっていたのです。

それが社会の変化というものでした(因みに、KADOKAWA は次世代で見事な飛躍を遂げました。苦境の元凶だったデジタル配信サービスや投稿サイトを自ら取り込んで大きな成長を遂げました。出版大手も同様にデジタル対応で復活したと聞いています。外部からの圧力で鍛えられて次の時代を迎えられたということでしょうか)。

社史を書き終えて、ぼくは角川グループホールディングスの社長時代に感じた新しいカ  ルチャーに対するイライラ感ではなく、ゆるゆるでも時代の変化を楽しんで攻め込む側の爽快感を書きたくなった、ということかもしれません。

振り返れば、40年前のゲームやアニメが好きな昔のオタクの仲間たちも業界の中枢に行くことのできない″片隅の人たち″ でした。

ぼく自身も40年前はおもちゃやファミコンの好きな、怠惰な青山くんの同類で、業界の中で決して中枢に迫ることはないと、あきらめていました。

ぼくたちは激しい変化のなかにありました。その変化は、外から、周辺から迫って中枢を脅かすことを許すのです。

みなさんが生きているこの高度に発達した資本主義社会は、みなさんが感じている閉塞感の源かもしれませんが、一方で、激しい時代の変化が、みなさんにチャンスをもたらすかもしれないのです。

時代を動かすのは、一握りの知的エリートだけの特権ではありません。青山くんや江川くんのように好きなものがあって人に恵まれれば、自己実現が可能になるかもしれないのです。資本主義経済は格差社会の元凶と言われますが、人とお金を集めて社会に財を送り出す仕組みとしては大変優れています。

起業は金、物、人を欠く初々しいチャレンジャーにチャンスを与え、上場は、投資家に透明性の高い説明責任を果たさなければならないために、社会的存在であるみなさんの自己実現として、価値ある目標となります。

『謎のJC』は読者のみなさんに起業せよ、上場せよと奮起を促すために書かれたわけではありません。もしあなたが社会人としてサラリーマン&ウーマンとして不安や不満を抱えているなら、一歩踏み出してみるのもいいかもしれません。

あなたが踏み出すと誰かが支えてくれるかもしれません。踏み出さなければそこに化学変化は起きません。仮に失敗しても、あなたが生きる資本主義社会は、再起の機会を与えてくれるかもしれない。あなたが好きなことをやってみたいと思ったときに、この本があなたの傍らにあることを願います。


◆◆◆

以上です。
こちらをお読みになって、もし興味を惹かれた読者様がおりましたら、ぜひ『謎のJC』を手に取ってみてください!!




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