【2つめのPOV】シリーズ 第2回「手」Part.4(No.0158)


パターンC〈セルゲイのMix Up〉



都会、朝のラッシュアワーに揉まれながら改札に向かうOLの女

女 改札に勢いよくスマホを当てる

整った身だしなみと同じく背筋も顔つきも硬い

コンビニで買い物をする

支払いの時もカードリーダーに勢いよくスマホを当てる


スーツ姿が激しく行き交うビジネス街を歩く女

足並みは早い



口の広い大きな瓶に卵くらいのサイズの動物のぬいぐるみが入れられる



建物の中を歩く女

カツカツと硬い足音が響く


エレベーターの中

密集した室内でも表情は変わらない


あるフロアで止まり、一斉に人が降りる

女も降りようとする

彼女の片足に紐がくくられている

一瞬、足が進まず躊躇するが、足の方を見向きもせずにそのまま足を前に出し、紐をちぎってエレベーターを降りていく

ちぎれた紐はエレベーターの下に吸い込まれ、暗闇の中を落ちていく



蛍光灯が激しく照る、だだ広いオフィス

電話の声、話し声やキーボードを叩く音、プリンターの音やエアコンの音が密閉した室内に充満している

上長のデスク前に輪を作って並び、朝礼を聞く女

彼女と同じようにみんな表情は固く、室内に響く上長の言葉は重苦しい

軍隊のように一同が挨拶を発し、自席に散る



口の広い瓶にぬいぐるみが入れられる

既に底は様々な種類のぬいぐるみで埋まっている



女、自席で書類をまとめるなり、すぐにオフィスを出る

地下の駐車場で社用車に乗り込む

ドアを閉めようとすると、また足に紐がついていてドアが閉まらない

女は苛立ちながらも前を向いたまま何度もドアを力づくで閉めようとする

紐がちぎれドアが閉まる

厳しい目つきのままエンジンを掛け走り出す

駐車場に残された紐から水が溢れ出し、駐車場に広がっていく



落ち着きのある喫茶店で初老の夫婦と向かい合って座り、パンフレットを見せ、笑顔で話を進める女

話の中身についていけず、また気乗りのしない顔つきで黙って聞いている老夫婦

女の差し出すパンフレットを受け取り、二人で覗き込むように読み始める


ウェイトレスが来て注文した飲み物をテーブルに置いていく

老夫婦の前に置かれたコーヒーカップからは南京錠が顔を出している

女は自分の前に置かれたカップに目を向けると、ヒヨコが入っている



夜、ダイニングバーで同僚数人と酒を交わしながら食事をする女

がやがやと騒がしく楽しげに談笑する



暗闇の中に一人でいる女

手の中にはダーツの矢がある

前を見るが的が見当たらない

力いっぱい暗闇に向かって矢を投げる

矢は闇に吸い込まれたまま何の音もしない

手にはまたしても矢がある

また投げるが何の反応もない

手にはまた矢がある

また投げる

反応はない



瓶の中のぬいぐるみは一杯になっている



マンションのオートロックを開け、自室へと進む女

ドアの横には壊れた時計が捨ててある

鍵を開け中に入る

電気を付けると部屋の中は壁一面に時計がある

ソファにかばんを放り出す


シャワーを浴びる

浴室の壁にも時計が一面に取り付けられている

それぞれが全く別の時間を指している


髪も乾かし着替えた女はベッドに入ろうと上掛けをまくると、大きな裁ちバサミが置いてある

女はその裁ちバサミに手を伸ばす

しかし、一瞬伸ばす手を止める

そのあとすぐに裁ちバサミを手に取り、そのままゴミ箱に捨てる

ゴミ箱には裁ちバサミが溢れている


ベッドに入る

明かりを消すが、すぐにまた明かりを付けてベッドの下をまさぐる

手にとったのはボロボロに千切れた古い紐

女は自分の足にその紐を結ぶ


手を止めてチラッとゴミ箱の裁ちバサミに目をやる

すぐに目線を戻し紐を結び終え、改めて明かりを消し眠りにつく



朝、目を覚まし上体を起こす



ぬいぐるみが詰った瓶に更にぬいぐるみを詰め込もうとする手



湯を沸かしインスタントコーヒーを入れる



鷲掴みにしたぬいぐるみを瓶に押し込む手



コーヒーの入ったマグカップを見つめる

スティックシュガーを取って入れようとするが、手を止め、冷蔵庫から牛乳パックを取り出し注ごうとするが、それも止める



瓶から溢れ出るぬいぐるみをなおを押し込む手



足に結ばれた紐を追いかけるように部屋に戻る

部屋の中の時計は全て9時5分前を指している


しゃがみ込み、紐を掴もうとする手



ぬいぐるみを押し込まれた瓶は破裂する



手が紐を掴んだ瞬間に、紐はベッド下へと女を引っ張り込む


引き摺られる女


そのまま彼女はベッド下へと吸い込まれる


無人になった部屋の時計は1つを除いて全て消える


その残った時計が壁から落ちる

割れた時計にはダーツの矢が突き刺さっている



つづく

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