【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「視野の味:中編」 (No.0094)


 2人は世話や掃除の終わったあと、遅めの朝ごはんを毎日のように一緒に食べていました。いつもは校庭や下駄箱前の浅い階段に座ってお弁当を食べるのですが、今朝は屋上で食べることにしました。
校舎へは鍵が掛かっているので入れない筈でしたが、下駄箱前の飛び出した軒によじ登り、窓を開けると簡単に校舎内に入る事が出来ました。

「少し不用心な気がしますねナツオ。」
「そうですね。でもこの窓の鍵を開けておいたのは私ですから、私以外は殆ど知らないので平気でしょう。」
「どうして開けておいたのですか?」
 
ヒナタの質問に答えず、ナツオは自分の教室へ小走りで向かいつつヒナタを手招きしました。
ナツオは教室に入りました。
ヒナタは自分の教室でない為に、何となく入りづらくて入り口に立ってました。
ナツオはヒナタにまた手招きをして呼び込むと、教室隅の金魚鉢を見せました。

「この金魚が気になったので、学校が閉鎖される前にあの窓を開ける細工をしておいたのです。」

2匹の金魚は久々の子供達の姿に慌ただしさを見せました。

2人は水換えは後日にするとして、換えの水だけ汲み置きして、今朝は餌やりだけにしておきました。
流石に金魚たちも普段よりパクパクと餌に食いつきました。

「ナツオ。金魚がいるなら早く教えてほしかったです。お腹を空かせているようで気の毒です。」
「そんなにはやらなくて平気です。しかし明日からは彼らも気にしてあげましょうか。」

金魚たちの食べっぷりに、2人は朝ごはんを思い出しました。

「ナツオ。ごはんはここで食べますか?」
「いえ、景色を変えようと話したでしょう?今朝は屋上で食べましょう。」
「屋上ですか?しかし鍵が掛かってます。まさかここも細工したのですか?」
「いえ。あそこは鍵が無いと開きませんよ。」

そう言いつつもナツオは屋上への階段を上りました。

屋上階は図書室や荷物置き場と化した空き教室がありました。
屋上テラスへ出るドアはやはり鍵が掛かっていましたが、図書室は鍵は開いたままでした。

2人は図書館へ入り、カーテンと窓を開けました。

金魚の餌やりの間にもおひさまが登っていたので、キラついた朝日が図書室全てを照らし、中の2人まとめて温めました。
しばらく入れ替わることなく室内に留まっていた空気も、窓から吹き込んだ風に押し出され、読書に似つかわしくない程に活気を与えました。

「本に日を当てるのはあまり良くありませんが、たまに空気の入れ替えくらいはするべきでしょうね。」
「うん。湿気も溜まりますからね。金魚みたいに、この風は図書室のごはんですね。」

あははと笑い、2人はリュックからお弁当を出してやっと朝ごはんを食べ始めました。


後編につづく

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