禍話リライト「エチオピアの儀式」
祭儀場での話だ。
彼の親戚が亡くなり、祭儀場に泊まることになったのだそうだ。
スタッフの人がジュースやら酒やら置いて行ったが飲む気になれず、早々に就寝したらしい。
しばらく経ったときのこと。
「起きてる? ねえ起きてる?」
おばさんの声が聞こえた。
「ねえねえ起きてる?」
彼はもう朝になったのかと思ったそうだ。というのも、親戚のおばさんがその部屋で着替えることになっていたからだ。
しかし、部屋の中はまだ暗い。そんな時間におばさんが来るはずもない。
しかも、声が聞こえるのは入り口ではなく壁の方からだ。
そのうち声が止んだので安心していたら、声の主は部屋に入ってきたようだった。
襖が開いた気配は無かったのに。
なんだかよく分からない気配が、彼の布団のまわりを無言でぐるぐる回っている。
二足歩行だったのがいつの間にか四つん這いになって、ぐるぐる回っている。
隣の布団で兄弟が寝ているのだが、彼は恐ろしくて声を出せない。助けを求めることもできず恐怖が極限に達したとき、おばさんの声が耳もとで聞こえた。
「お前これ、何しとんのや」
怒っている声だ。
「お前みたいのがここで何しとんのや」
彼は身を硬くして怯えるばかりである。
「許さんぞ。お前はもう許さんぞ」
おばさんの声が耳もとで言う。
「お前の家族三人殺すからな、エチオピアの儀式で」
そして、気配はふっと消えた。
彼はすぐさま兄弟を起こしたが、寝ぼけていたんだろうと取り合ってもらえなかったそうだ。
調べてみたところ、エチオピアにそういう儀式はないらしい。
※「燈魂百物語第三夜」より
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