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いとこの兄ちゃんの結婚と感覚

いとこの兄ちゃんが結婚するらしい

36歳
周りはようやくだな、とか、あとまだ結婚してない年頃の奴は3人だなとか、少々騒がしい

祖母の一周忌で、わたしは親戚が会する場へ向かうこととなった
わたしは普段名古屋にいて、おばあちゃんは東北だったので、そもそもなかなか親戚自体に会うことがなく
ちょっといつも身構えていく

一周忌の集まり、
案の定26歳独身のわたしにも微妙に飛び火が来るので、それをわたしは笑顔でかわしながら、素直にいとこの兄ちゃんの婚約を祝った


いきなりだが
わたしは人見知りだ

だから、そんな1、2年に一回くらいしか会わない親戚と1日2日で急に打ち解けることなど至難の業であった
そんなこんなでもちろんのこと
いとこの兄ちゃんとは歳も10程離れていることも相まって、正直まともに話したことはなかった

だがわたしも思春期をとうに終え、いまは26歳
大分大人というベールを纏い始め、昔よりほんの少し話すことができたのだ(ベールを纏ってるくせにほんの少しであるのが悲しい)

わたしの会社の話や兄ちゃんの会社の話、好きなキャラクターやゲームの話
意外にもわたし自身が元気に話しているので、そんな自分にちょっと驚いた(もちろん酒も入っていた)
向こうもそんな私に心を開いてくれたのか、なんとちびちび話しかけてくれたりした。

わたしにはその楽しく話せたことがとても報酬となった
一皮剥けた感じがした
えらく大げさである

だがそれは、昔からいとこの兄ちゃんのことがちょっと好きだったというのもあった
背がめちゃくちゃ高くて、なんだか落ち着いていたから
方言もすてきだった(私はもともと関東で育ったので方言に異常に憧れている)
バンドもやっており、それもなんだかイケてる感じがした

そんな兄ちゃんが結婚するという事実に若干の寂しさを感じつつ、だがやっとしっかりお話しできたうれしさをわたしは噛み締めた

が、それと同時に
わたしは以前起こったある秘密の出来事を思い返しながら、なんともいえない気持ちになっていた

以下、その話である

祖母の家は二世帯で、そこに長男のおじさん一家が一緒に住んでいた
いとこの兄ちゃんはそのおじさんの長男坊だ
でも現在兄ちゃんはとっくに一人暮らしをしていて、そこにはいなかった
けれども時々帰ってくることもあり、兄ちゃんの部屋は依然としてそのままであった

まだ祖母がいた頃、夏休みに遊びに行ったわたしは、兄ちゃんは今日は帰ってこないからといって、一回だけその兄ちゃんの部屋で寝ることがあった


わたしは暇だったし、いとこの兄ちゃんはアニメや漫画好きであったから、
本棚の漫画を色々読んだりしていた。

いつでも帰ってこれるようなそのまんまの部屋
勉強机つきのロフトベッドも、本棚も、フィギュアとかも、全部そのまんま
さすがにロフトベッドに眠るのは気が引けたので、布団を貸してもらい下で寝た(が今思うとちょっとロフトベッドで寝てみたかった)

ひとしきり漫画をペラペラした後、わたしはひとつの下心が湧いて出た

この感じだ
きっとエロ本がある
探そう

わたしは興味津々であった

そもそも昔から実の兄のそういう本を漁って読むタイプ(そんなタイプがあるのかは不明)であったので、男の人がそういう本を読むことに全く抵抗がなかった
むしろどんなジャンルを読んでいるのか非常に興味があるタイプである
だから私情ではあるが彼氏がそういうのを読んだり、見たりしてるのも全然気にならない
むしろなんかうれしくなって色々根掘り葉掘り聞きたくなるタイプ(そんなタイプがあるのかはやはり不明)であった

話を戻そう
わたしは探す前から謎の確信があった
ぜったい鍵つきのところにしまったりはしていない、ということに

何故そう思ったかというと、
実の兄も父もそういう系の本の置き場所は大体机の本棚の下の方だったし、そういう系のビデオは大体ロックのかけられていないケータイやPSPであったからだ

いとこの兄ちゃんの部屋を見た時わたしは本能的にそのエロの隠し場所に関してのオープンでラフな血筋を感じた

なんて気持ち悪いんだ、自分
だがそれはいま掘り下げることではない
一旦置いておこう

わたしは部屋のちょっと奥の方にある本棚の下の方や、机の下のスキマを探した

そしてわたしの薄気味悪い本能は見事的中
ものの数分でそのような本が見つかった

それは漫画タイプであった
この時、実写タイプだとさすがのわたしもエロ・ダイレクト・アタックをくらい怯んでしまうので、漫画タイプであることに少し安堵感を覚えた

わたしは勤勉な学生のように黙々と、粛々とエロ本を読み耽った
タッチは90年代くらいのちょっとクセのある画風の少女漫画ぽく、今まで見たことのないジャンルにわたしは心躍らせていた
なるほどたしかに普通の漫画棚にも少年漫画に混じって少女漫画も数冊あった

大人しくてかわいい女の子で、全体的にストーリー重視のものが好きなのか…
さながら専門書を読む大学院生の雰囲気を醸し出しながら、わたしは読みに読み漁った
ワイルドなジャンルやアブノーマルなジャンルであったらそれはそれで興味深かったと思うが、
これはこれでなんだか兄ちゃんのイメージと違って、とても興味をそそった


そうしてひとしきりチェックしたわたしはすっかり満足して、ぬくぬくと布団に入った

一瞬さっきの本たちを読み耽るいとこの兄ちゃんを想像したが、それはちょっとさすがにいけない気がして、頭の中でかき消しかき消しした。

これはわたしだけの一生の秘密であり、感覚である

その感覚をまるで懐かしい宝物を引き出しからそっと出すような思い出しては
結婚することになったいとこの兄ちゃんのことを改めて少し、寂しく、思うのであった