蛇と龍の違い、日本の伝説に関して

大阪の国立民族学博物館で、昔の神楽などでの八岐大蛇のお面をいくつかみてきました。見た目は中華のラーメンの装飾に使われそうな龍のイメージですが、すべて「蛇」という題がついていました。

道成寺伝説の大蛇もそうですが、現代の動物園にいる蛇のビジュアルで造形されることよりも、大陸由来の聖獣である龍のビジュアルになることがわりとある印象です。

道場寺伝説の場合は「悪い意味での欲望の象徴で悪役」で、ヤマタノオロチの場合は「人間を苦しめる敵役」なので、これらのお話での「蛇」は「悪役を演じている龍」と言ってもいいかもしれません。

西洋のドラゴンと違って日本や中国大陸の龍は基本的に「聖なる存在」であることが多いのですが、悪役をやってることもないわけではありません。

仏教目線だと、蛇はインドでは水神ナーガで、ナーガが仏教が中国大陸に入ってきた時に「龍」と翻訳され、それが日本列島にも伝来した、というような流れがあります。

神道目線だと、「神=蛇」の例が三輪山の神様の話のようにあり、「蛇=聖なる存在」という概念が仏教以前からあります。「聖なる動物としての蛇」という概念がもともとあって、そこに「龍」が重なっていったというイメージです。

龍も蛇も「水神」のイメージがベースとしてはあって、どっちのビジュアルをとるかは状況によるくらいに思っておき、「蛇と龍の違い」はあまり厳密に見ない前提でいるほうが、日本の伝説の世界を見るには適しているかもしれないと、私は考えています。

また、水は生活に欠かせない自然の恵みでもありますが、一方で河川の氾濫や大津波など、水害のもとでもあります。水を司る存在が、状況に応じて悪神にも善神にもなるのは自然な流れかと思われます。

ところで、帝王の先祖と動物の縁が深い伝説というのは世界各地にあります。

たとえば、ローマ帝国の建国の始祖ロムルスとレムスは狼(動物)に育てられた伝説になっています。あるいはモンゴル帝国のチンギス・ハーンの先祖は「蒼き狼(あおきおおかみ)と白き牝鹿(しろきめしか)」とされています。

日本の伝説では初代の帝である神武天皇の系図をさかのぼるとわりと近い所(祖母)に海神の娘(本性はワニとされる。龍やサメやクロコダイルを連想してよい。)が存在しています。これも帝王の先祖が動物に縁が深い伝説の親戚と考えてよいでしょう。

これは「動物=すごい存在」という認識が、色んな地域で一般的だったからそういう伝説になったと考えられます。超人的なパワーのシンボルとしての動物パワーと考えておくと分かりやすいでしょう。


※神武天皇の系譜(記紀)

1.アマテラス 
2.アマテラスの息子ニニギ (山神の娘コノハナサクヤヒメと結婚)
3.ニニギとコノハナサクヤの息子ホオリ  (海神の娘 豊玉姫(※)と結婚)
4.山幸彦と豊玉姫(※)の息子、ウガヤフキアエズノミコト
5.ウガヤフキアエズノミコトと玉依姫(海神の娘)の息子、神武天皇

(※)海神の娘である豊玉姫の本性はワニとされています。日本書記では「龍」の文字になっているので「龍」を想像してよいと思います。この伝説の「ワニ」を実在生物として解釈する場合、サメ説とクロコダイル(アリゲーター)説とあります。


※蛇に関して

こちらでも記事を書いてます。
https://sacredstory.info/yomimono/symbol_image/hebi_symbol/


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