見出し画像

恋文日和ー短編小説ー推しといる世界線

   「湊月(みつき)くん、海外から帰ってきたみたいだよ」


   親友の莉子(りこ)から、差し出されたスマートフォンの画面には、近所の公園を背景にうつる幼なじみの湊月君が、満面の笑みでこちらを見ている。


  高校卒業と同時に海外の大学へ進んで、もう、そのまま現地で就職して帰ってこないと思っていた。

   私の初恋の人。


  爽やかで、声も通るし、優しい声で
   私のことを妹みたいに扱う。同級生なのに。


  お兄ちゃん、のようで
   いつもみんなの輪の中心にいる。


 「これは、ブログ?」

  「そう、この公園、朔夜(さくや)ちゃんの近所じゃないの?近くにいるよってアピールじゃないの?」

   「そうだけど、私にかな。湊月くんモテるし、それも可愛い子から」


  莉子は、大きなため息をついて、さらに画面をスクロールした。

  「これ、抹茶のペットボトル持っているのわかる?」

    抹茶のペットボトル?



  「わかるけど、それがどうしたの?」


  さらにスクロールして
   「これは?レモンのクリームパスタランチ食べていない?」


    ・・・・・・・食べているけど。


 だんだん、何を言おうとしているか分かってきて


   「私の好きな物ばかり、だね」


    莉子が私を指さして御明答と、言う。


   「誰に、見て欲しいんだろうね?これ」

  

  「自惚れだよ。そんなわけないよ」



   「じゃあ、あれは?」


  と言われて私は後ろを振り向く。

 そこには私の初恋の人、推しでもある。私のアイドル的な存在の推しが、好きな人が、居た。


   「ただいま!美琴。ブログ、みてない、よね。美琴はコメントしてこないからみているのか不安で」



   「わ、私に見て欲しかったの?」


   照れて笑う、仕草と、次の瞬間、目が真剣になったので、美琴は一瞬視線を合わせられなくなる。



  「そうだよ。美琴に見て欲しい。君に俺の一番の理解者でいて欲しい。応援、して欲しい」


      莉子が、ぽんっと私の肩に手を置いた。

   「私、先に行くから。話したら?」



  「美琴、俺がお前を好きだったのは、知ってる?」


    世界の音がしなくなる。


   「・・・・・・・湊月くん、私が貴方を4年間想っているのは気づいている?」


     「あ・・・・・・・」

  そういって湊月くんは口元を手で押えた。


     やっと、伝えられた。

    推しが、私の世界線にいる。会える距離にいる。目の前にいる。

    目の前に見えたら、伝えるって、決めている。


     推しが、目の前に、いる。

    「おかえり湊月くん。ずっと貴方のことが好きでした。そしてこれからもずっと、好きです」


End

  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?