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struggle

コンコンコン
薄暗い廃墟の一室の錆びた扉をいつものようにノックする。

「コードネーム「ライ」」
返事のない扉の向こうに向かってそう呟くと、

スッと扉の下から1枚の紙が差し出される。

「1月21日 22:00
A町4-4 404
ALL」
その紙を一瞥すると、ライターで火をつけ灰にする。
そして俺は廃墟を後にした。

俺の名前は雷人。
フリーの殺し屋だ。
この現代にフリーの殺し屋なんて本当に存在するのか?と思うだろ?
この日本の一年間の行方不明者数は約4万5千人。
ニュースで報道されない事件の方が多いのだ。

そして今日も俺はとある組織のボスから依頼を受けた。
指定の日時、指定の場所でその場にいる全員を…
まぁ、そう言うことだ。

その場にどれくらいの人数がいるかはわからない。
持っていく武器は多い方がいいだろう。
予定時刻は迫っている。
俺は入念に突入の準備を始めた。

そして21:50。
現場へと到着した俺。
今回のプランはこうだ。
部屋を間違えたふりをして堂々と正面突破。
あまり計画的とは言えないが、決行まで時間がない時によく使う手で成功率は高い…
俺が今ここで生きていることがその証拠だ。

俺は一つ深い深呼吸をして、エレベーターのボタンを押した。

4階に着くと目的の部屋はすぐ目の前にあった。
ドアにはボディーガードなどはおらず、無機質な鉄製のドアが俺の前に立ち塞がっている。
扉に耳を当てると、何やら中で話し声が聞こえ、ターゲットは中にいるようだ。

コンコン
ドアをノックする。
間髪あけずに開く扉。

「あぁ?!」
中からはコワモテの男が一人。
おそらく下っぱだ。

「なんだ、にいちゃん!」
「お届け物です」
「はぁ?俺たちは何も頼んでなんて…」
下っぱがそう言った瞬間、俺は奴の口に銃を突っ込みぶっ放した。

倒れる下っぱの脇をすり抜け、室内へと駆け込む。
唖然としている今回のターゲットたちを一通り見回し…

「は?」
俺は一瞬動きを止めてしまった。

「なんだなんだ!」
「侵入者だ!!!」
そのわずかな隙にターゲットたちは物陰に隠れ、武器を手にする。

「な、なんであいつが…」
俺は入り口近くのソファーの裏から様子を伺いながらそう呟いた。
部屋の中央には縛られた男が一人正座で座っていた。
しかもそいつは長年俺を追いかけてきた刑事だった。

「何者だ!出てこい!」
組織のボスらしき人物が窓際の机の裏から声をあげた。
質問には、当然答えるわけがない。

返事がない事にイライラしている様子のボスは
「誰だ、誰なんだ。
まさか西町の組員か?
それとも、東町のヤンキーかぶれか?」
一人ぶつぶつ言っている。

「ふふふ」
そんな時、刑事が笑った。

「な、何笑ってんだよ!」
ボスは明らかに挙動不審になり、机の裏から刑事を問い詰めている。

「やっぱり来たんですね、ライ」
「ラ、ライ?!」
ターゲットたちから動揺の声が漏れた。

「ライってあの、依頼成功率100%の殺し屋か?」
俺の名前を聞いて慌てたボスが刑事に聞いた。
刑事は笑いながら、

「えぇ、そうですよ。
そのライですよ」
「お前は知ってたのか?
こいつが今日、俺のところに来るって」
「いえ、知りませんよ。
でもいつかはターゲットになるとは思ってました」
「だから潜入調査なんてしてたのか…」
「御名答!」
どうやら刑事は俺の仕事場に目星を付けて潜入調査をしていた過程で身元がバレ、捕まってしまったようだ。
そこまでして俺を捕まえたいと言う執念には脱帽するばかりだ。

「ライさん!
このままではあなたも私もピンチです!
どうですか?
共闘といきませんか?」
刑事が叫んだ。

「はぁ?!この人数差でお前たちが無事に逃げれると思ってんのかよ!」
思わず机から飛び出したボスをすかさず俺は発砲した。
しかし、すんでのところで引っ込んでしまった。

「どうですかねぇ。
いい話だと思うんですけど?」
「…」
「ライさーん!」
「…わかった」
俺を逮捕しようと狙っている刑事と手を組むのは癪だが、この際仕方がない。

「ただし、逃げるんじゃなくて依頼を遂行するんだ」
「…仕方ないですね。わかりました。
でも、ここから一歩でも外に出たら私はあなたを全力で捕まえにいきますからね」「それが共闘を頼む人間の態度か…?」
俺は呆れながら銃を一発撃つ。
その弾は刑事を縛っていた縄を掠め、切れ落ちた。

「さっすがライさん!」
「お前、銃は?」
「あ、今ないですね」
「じゃあこれを!」
自由になると同時に物陰に身を隠す刑事。
俺はその場所に向かって持っていた拳銃を投げた。

「助けてくれたお礼に半分は受け持ちますね」
「礼をするなら8割だろ…」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか」
「…ところでお前、名はなんて言うんだ?」
「え?私ですか?」
「お前以外に誰に聞くんだよ…」
「なんか嬉しいです。
私は、バルです!」
「あぁ…そうか」
「私たち、二人でライバルですね!」
その言葉を合図に俺はソファーを飛び出し、ボスの元へと駆け出した。
同時に下っぱ組員たちも発砲を始めるが、ことごとくバルの弾に沈められていった。

そして3分後。
部屋にはボスを含め多数の死体。
その中に、俺とバルは立っていた。

「依頼完了」
「はぁ、疲れた…」
「じゃあな」
「あ、待って!」
その場を去ろうとする俺をバルが止める。
「…」
「あなたは裏組織の人たちを暗殺する殺し屋ですよね?」
今までの事件の被害者は全て社会的に問題がある人たちばかりでした」
「だったらどうだって言うんだよ」
「いえ、だとしてもあなたがやっていることは許されることではありません」
「じゃあ頑張って捕まえることだな」
「はい、次は絶対」
俺はニヤリと笑い、ドアから外に出る。
いつかはこいつに捕まる日が来るのだろうか?
そんな事を思いながら、夜の街に紛れた。


* 1月21日 ライバルが手を結ぶ日 *
1866(慶応2)年のこの日、長州の木戸孝允、薩摩の西郷隆盛らが土佐の坂本竜馬らの仲介で京都で会見し、倒幕の為に薩長同盟(薩長連合)を結んだ。
引用:今日は何の日(https://www.nnh.to/01/21.html)

[ あとがき ]
「この記念日かっこいいなぁ〜」と思いついたお話です。
薩長同盟より規模は大きくないけど、なんだか洋画にありそうな設定で展開してみました。
ちなみに、「バル」はインドネシア語で「new」の意味から頂きました。
(ライにとって、新しい出会いと言う意味です)
書いているうちにこの二人にだんだん愛着湧いてきましてw
もしかしたら続編あるかもです!

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