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備えあれば。

「失敗したぁ…」
「だよなぁ〜」

俺たちは今、中国のなんとか省のなんとか広場に来ている。
なんでなんとかなのか?と言うと、読み方がわからないからだ。
読み方がわからないからスマホで検索することもできず、広い広場の片隅にあるベンチで男二人、途方に暮れていた…
とりあえず現在地を知ろうと、おそらく現地民であろう人に声をかけてみたのだが…

「kgjpwiejfqkfo@w]vmw」
「え?」
「yu3-igko@qkv@pwoigrw@ogw!」
「え?え?」

何人に声をかけても、聞き取れない早口で何かを捲し立てられ、そして人は足早に去っていくのだ。
俺たち日本人は道を尋ねられたら、できるだけわかりやすく教えようとするし、知らない場所であってもなんとかして調べようとする人が多い。
道案内してあげる人もいるくらいだ。
まぁ必ずそうとは言えないけど、俺ならそうする。
だから、そんな日常生活に慣れ親しんでいる俺たちにとって、この塩対応はひどくショックだった…
まぁ、お国柄なのだろうから、そんなに気にする必要もないのだろうが、それでも三人目に失敗した瞬間に俺たちの心は折れた…

「はぁ、辛い…」
「もう声かけるの怖い…」
半べそを書いていた俺たち。

「なぁ、集合時間まであと5分だぜ」
「ほんとだ、どうしよう…」

実は俺たちはとある旅行会社のパッケージツアーでこの地に来ていた。
中国四都市を巡る3泊4日のツアーで宿泊と朝昼夕食付きでなんと19800円の大特価だ。
もちろんエコノミーだが飛行機代も含まれている。

「なぁ、このツアー安くね?」
「え、めっちゃいいじゃん!俺中国行ったことないんだよなぁ〜」
「俺なんて海外旅行行ったことないわw」
「どうする、行っちゃう?」
「よし、行っちゃおうぜ!」
新聞の折込チラシでこのツアーを見つけた俺は、すぐに大学の同級生で仲の良いA太に声をかけた。
A太もその安さに驚き、そして二つ返事でOKをしたんだ。
ツアー内容は添乗員同行のパッケージタイプで、観光名所めぐりと多少の自由時間が用意されているスタンダードなものだった。
が、申し込み後にワクワクガイドブックを見ていた俺はあることに気がついたんだ。

「なぁ、行き先の四都市ってマイナーだったりすんのかな?」
俺がそう聞くと、A太は不思議そうな顔で聞き返してきた。
「え?なんで?」
「だってさ、ここも、ここも、ここも、あ、ここもだな。
地⚫︎の歩き方に載ってないんだぜ?」
「え、そうなの?」
「そうなんだよ。
普通載ってるよな?」
「う〜ん、まぁこれから推していく観光地なのかもよ?
だから安いのかも」
「そう、かもな」
「そうそう!ま、僕は初めての海外旅行に行けるんなら、メジャーな観光地じゃなくてもいいよ!」
「そうだな。
もしかしたら穴場スポットかもしれないしな!」
まさかのガイドブックにも載っていないマイナーな旅行先だったけど、俺たちは特に気にせず出発の準備を進め、大きな問題もなく飛行機に乗り込み、ツアーがスタートした。

そして初日の午後、今に至る。と言うわけだ。
まさかマイナーだから地名が読めずに迷子になるとは…

「集合時間過ぎて戻って来なかったら探してくれるかな?」
「だと良いけどな…」
ちなみに今回のツアーの添乗員はおそらく中国人でカタコトの日本語でガイドをしていた。
そして、迷子になってから何度も添乗員の携帯に電話をかけているのだが出ないどころか一向に折り返しもかかって来ないのだ。
このまま置いていかれる可能性も大いにあり得る…

「どうしよう、なんとか戻らないと…」
歩き回りすぎて元来た道は既にわからなくなっている。
どうしたものか、そう思案していると、

俺たちの前に1台のタクシーが赤信号で停止した。
すかさず窓をノックする俺。
幸いにもスマホに集合場所はメモしてある。
タクシーでここまで連れて行ってもらえれば…
期待を抱きながら俺たちは開けられたドアから後部座席へと乗った。

「で、どこまで?」
多分タクシーの運転手はこう言ったと思う。
やたらニコニコしている彼に俺はスマホのメモを見せ、ここまで連れて行ってほしい!となんとか伝えようとした。
運転手はそのメモを見ると、

フッと鼻で笑い、窓から見える少し高い塔を指差してから、ドアを開けて俺たちに降りろとジェスチャーした。
多分近すぎるから歩いていけ!って言う意味なんだろうけど、近くでもちゃんとお金払うんだから乗せてくれても良くないか?

しかし、運転手のおかげで行くべき方向がわかった俺たちは、とりあえず彼が指差した方角へと向かうことにした。

早足で道を急ぐ俺たち。
集合時間が刻一刻と迫っている。
そして、ひたすら塔を目指しながら細い路地を抜けるとそこには…

「あ、Y崎サン、E島サン!
もう、オソイデスヨ!」
俺たちを待つツアーの参加者がいた。

「すみません、道に迷ってしまって…」
「みなさん、ご迷惑をおかけしました」
安心と共に、時間に遅れて申し訳ない気持ちでいっぱいになり、ひたすら平謝りを繰り返した俺たち。
その後すぐにバスに乗り込み、次の目的地へ出発したんだけど、

「あの、この地名は何て読むんですか?」
「これは、ツーシーデスネ!」
「こっちは?」
「こっちはリンイーヨ!」
すぐさまガイドさんに今後の行き先の読み方を聞いてメモしたのは言うまでもない。

ちなみにそれ以降は迷子になることも迷子になる人も現れず、友人と初中国を満喫したよ。



* 1月20日 海外団体旅行の日 *
1965年のこの日、日本航空が海外団体旅行「ジャルパック」を発売し、海外団体旅行がブームとなった。
引用:今日は何の日(https://www.nnh.to/01/20.html)

[ あとがき ]
私も旅行大好きで中国やイタリアなどパッケージツアーを何度か利用したことがあります。
ちなみに、タクシーを下ろされたのは実体験ですw
私の時は歩き疲れて乗ったのに歩けと下ろされたのですが、小説のネタにできた良い思い出ですw


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