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成功の種

「ねぇねぇ、SNSでバズってるこの歌、めっちゃ良くない?」
「ほんと!オリジナルなのかな?」
「え、でもこれ高校かどっかの学祭の出し物でしょ?
オリジナルなんて歌うかな?」
「確かに…じゃあ昔の曲とかなのかな?」

***

この日は朝からずーっとある音楽が頭の中を流れていた。
みんなも良くあるだろ?
アニメの主題歌とか、CMで流れていた曲とか、とにかくなんでもいいんだけど、同じ曲がずっと頭の中を流れている時。
ただ、俺の場合はその音楽が全く聞き覚えのないメロディで、

「こんな曲、どっから出てきたんだ?」

疑問でしかなかった。

奇しくも今日は高校の文化祭。
軽音部の俺はステージで某有名アーティストの曲を演奏する予定の俺は出番を1時間後に控え、音楽室で練習をしていた。
そんな一大イベントの前だ。
頭の中を全く知らない曲に占拠されている場合ではない。

俺は頭の中を巡る曲を上書きしようと、ギターを持ち出し、文化祭で弾く曲の練習を始めた。

「そんなの、〜ない」
「…」
「ダメだ」

どれだけ大音量で別の曲を流そうとも、頭に流れるメロディーは消えない。
俺は諦めて、

「そうだ」

そして、その音を楽譜に起こしてみることにした。

「ふんふん」
「なるほど」
「へぇ〜」
「マジで、そこでそうくるの?」

側から見たら変な人。
だが俺は真剣だった。
とにかくこの音を止めないと文化祭のステージどころではない。

「で、できた!」
なんとか最後まで書き切った俺は、満足して譜面を眺める。
その時気づいたんだ。

「え、これって何気に名曲じゃね?」
そう、その音楽はかなり良くできていた。
試しにギターで弾いてみると、

「マジかよ、これプロレベルじゃん!」
自分でも驚くぐらいの出来だったんだ。
そうなるともう頭の中はさらにその音でいっぱい。
とてもじゃないが元々の披露曲を練習している場合ではなかった。

その時突然

「高木さん!出番です!」

文化祭のステージ管理係に呼ばれた。

「あ、はい!」
俺は上擦った声で返事をすると、緊張しながらステージに上がった。
目の前には友人、同級生、先輩、後輩、それから先生に保護者、一般客。
多くの人が席に座って俺に視線を向けている。

「え〜、みなさん、本日はありがとうございます。
軽音部高木です。
今日は、某有名アーティストの曲をお届けしたいと思います。
それでは聞いてください」
俺はなんとか声を絞り出すとこう挨拶し、

ジャジャーン!
最初の音を弾いた。

しかし…

どうしても続きが出てこない。
突然止まってしまった演奏にざわつく体育館。
そして頭の中ではまだあの曲が鳴り響いていた。

「えい、ままよ!」
俺は空気に耐えかねて、頭の中に流れる音楽を演奏し出した。
歌詞はないのでギター演奏だけだ。

「某有名アーティストの曲?」「全然知らない曲だけど?」
観客のそんな視線が俺に突き刺さるが、もうやめるわけにはいかない。
一心不乱に演奏し、
そして、最後の一音まで弾き終えた。
その瞬間。

「ブラボー!!!!」
大きな歓声と共に拍手が巻き起こった。
見ると観客たちは笑顔で俺に賞賛を送っていた。
ほっと一安心した俺は、深くお辞儀をすると、ステージを降りた。

それからすぐ、俺の動画がSNSに投稿され、瞬く間に拡散された。
そしてバズったのだ。
その後は驚きの展開の連続だった。
学校内で有名人になったり、道で声をかけられたり、大手音楽プロダクションに声をかけられたりな。
まぁ、俺の力量不足でデビューなんて話にはならなかったけど。

あの日、なんで俺の中に突然メロディが湧いてきたのか?
全くもって不思議だが、成功のアイデアはきっと突然降ってきて、それを押し込めずに外に出すときっと成功するんだろう。
そんな気がした出来事だった。

俺も、君もね。


* 3月19日 ミュージックの日 *
音楽関係者の労働団体・日本音楽家ユニオンが1991(平成3)年に制定。
「ミュー(3)ジック(19)」の語呂合せ。
日本の音楽文化と音楽家の現状について広く理解を求め、その改善の為の支持を得ようと、全国各地でさまざまな活動が行われる。
引用:今日は何の日(https://www.nnh.to/03/19.html)

[ あとがき ]
同じ曲が永久ループすることありますよね。「イヤーワーム」現象って言うらしいです。

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