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コレカラモキミト

「あの葉っぱが散る頃には、私もこの世からおさらばかもなぁ…」

私の名前は権田竹蔵。
最近定年退職を迎えた65歳のいわゆるシニア世代だ。
高校を卒業してから約47年。
都内の製造会社に勤務し、毎日身を粉にして働いてきた。

25歳の時には良縁に恵まれ、28歳と31歳の時に二人の娘も授かった。
その子供たちも今では独立し、それぞれ結婚して家庭も持っている。
そして妻と二人、「老後はのんびりしようね。」と話していた時だった。

腹に激痛が走り、私は身悶えた。
床に悶絶する俺を見た妻は慌てて救急車を呼ぶ。
結婚してからの40年間、入院どころか風邪にもほとんどひかないくらい私は体が丈夫だった。
だから、初めての状況に妻はさぞかし不安だっただろう。
そうして人生で初めての救急車に乗り、人生で初めての病院のベッドを体験している。と言うわけだ。

病院のベッドで点滴を受けていると腹の痛みはだいぶん引いてきた。
しかし、医師が検査結果を伝えに来るまで気が気ではない。
こんなに痛むんだ。きっと何かしら大きな病気なのだろう。
定年退職してこれからいろんなところに行こうと思っていた矢先に、なんてことだ…
そんな思いが頭をぐるぐると回っていた。
そして私はあることを思いついた。

「なぁ、幸恵」
「はい?」
「死ぬまでにやりたいことリストを作らないか?」
「何縁起でもないこと言ってるんですか」
「いや、違うんだよ。
病気になったのは関係…いや、関係あるが、そんなことは関係ない!」
「どっちなんですか…」
「とにかく、俺たちももう60代半ばだろ?
やり残したことのない人生にしたいと思わないか?」
「それは…そうですけど…」
「じゃあ早速始めよう!」
「今からですか?」
「善は急げっていうじゃないか!」
「まったく、あなたは考えるより先に動くんだから…」

妻はそう言いながらも売店に行ってノートとペンを買って来てくれた。
そして俺たちはノートにこの先の人生でやりたい事を書き出した。

「北海道には一度くらい行ってみたいな。
美味しい海鮮丼を食べるんだ」
「いいですね」
「あと、沖縄も興味があるな。
ガイドブックで見るあの青い海を一度はこの目で見てみたいな」
「海ですか。いいですね」
「それからあれだな、カマクラに入ってみたい。
人生で一度も本物のカマクラを見たことないからな」
「カマクラの中は暖かいって本当なんですかね?」
「あとはあれだな、小説を書いてみたい」
「あら、あなた、そんな夢があったんですか?」
「あぁ、実はな。
それよりお前はどうなんだ?
死ぬまでにやりたいこと、どんな事があるんだ?」
「そうですねぇ、私はまず、遺言書を書きたいです」
「はぁ?」
「死んだ時に銀行口座やらのパスワードがわからなくて大変だって聞きますから、書いておかないと子供達が大変ですからね」
「あ、あぁそうだな」
「あとは、遺品整理ですね。
子供の入学式の時に来たスーツなんてもう入りませんから。
そんなのたくさん家に眠ってるので思い切って捨てちゃいたいですね」
「う、うん。そうだな」
「それから、墓じまいですね。
子供二人も嫁に行きましたし、私たちでこの家系は終わりなので」
「なんか寂しいこと言うなぁ…
ってかお前、そんなんばっかりだな。
もっとこうないのか、どこどこに行きたいとか、なになにを食べたいとか」
「まぁ、私は現実を見て生きてるので…」
「…」

そんな事を言っていた妻だったが、途中からは行きたい場所ややりたい体験を話すようになった。
そしてあらかたの夢を出し終わった私たち。

「全部、できますかね?」
「まぁ、一つずつやっていこう」
そう言って笑い合った。

ちょうどその時、医師が部屋に入ってきた。

「お待たせしました。」
「あの、先生…」
「はい、なんでしょうか?」
「私、あとどれくらい生きれますか?」
「え?」
「妻と死ぬまでにやりたい事リストを作ったんです。
これ、どれくらい叶えられますかね?」
「う〜ん、そうですねぇ…」
「覚悟はできてます。
はっきり言ってください!」
「そうですね。
まぁ平均寿命が今は男性が81歳ですから、あと16年はあるんじゃないですか?」
「へ?」
「そのノート、かなりの数に丸できると思いますよ」
「え、先生。
私、相当悪いんじゃ…」
「えっと、何の話ですか?」
「だって、ここまで風邪もほとんど引かない健康体だったのに、急に倒れて…」
「あぁ、権田さんの病名ね」
「はい。はっきり言ってください」
「うん。えっと、すごく言いづらいんだけど…」
「はい。」
「食あたりですねですね」
「は?!」

なんでも俺は妻に内緒でこっそり食べた生牡蠣に当たったらしい。
妻はわかりやすく呆れていたよ。

「なんか、アレだな」
「えぇ、アレですね」
「ま、まぁ人生を見直すいい機会になったんじゃないか?」
「えぇ、そうですね」
「ど、どうかな、あのリスト、一つずつ丸を付けていかないか?」

俺が恐る恐るそう尋ねると、

「大賛成ですよ」

妻は笑顔でそう答えた。


* 1月23日 ワンツースリーの日 *
「123」で「ワンツースリー」とよむ語呂合せ。
人生に対してジャンプする気持ちを持とうという日。

[ あとがき ]
どこが123の日なの?!って感じなのですが、
123バンジー
→ 死ぬ前にバンジーを飛んでみたい
→ 死ぬ前にやりたい事リスト作成
→ 病気になって人生を深く考える
の流れから来ました。

人生を考える機会って色々あると思うんですけど、病気などの大きな出来事は一番のきっかけになりますよね。
みなさんは死ぬまでにやりたい事ありますか?
私はバンジー飛んでみたいです。あとスカイダイビング!


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