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溢れるほどの暖かさを。


「はぁ、疲れた…」

そう独り言を呟いて、私は冬の空気に冷やされた冷たい布団に横になる。
あまりの寒さに体が震え、縮こまる。

そんな不快を忘れようと、私はスマホに手を伸ばし、SNSを開いた。

ファーストクラス搭乗機。
高級ランチのお味はいかに?!
ブランドバック買いました!

次々流れる友人や著名人の投稿に羨望の眼差しを向けつつ、

「はぁ…
みんなこんな素敵な生活をしているのに、私なんて…」

思わず本音がこぼれた。
28歳、独身、彼氏なし。
6畳の1LDKに一人暮らし。
仕事は忙しく、気の合う友達は数少ない。
食事は毎日ファーストフードで、私のお給料じゃ高級レストランなんて夢のまた夢だ。

SNSの中のキラキラした彼女たちと自分を比べ、ひたすら闇へ、闇へと堕ちていく。
もっと私が綺麗なら。
もっと裕福な家庭に生まれていれば。
もっと、もっと、もっと…

あれ、もっと、なんなんだろう?
急に視界が開けたような気がした。

あれ、私、食べ物に困ってないよね?
ってか、「今日は牛丼な気分」「今日はハンバーガーな気分」って、好きなもの食べてるじゃん!
それに、貯金はそれなりにあるんだから、高級ランチの1回や2回行こうと思えばいけるよね?

それに、少ないとは言え、一緒に遊べる友達もいるし、仕事もある。
生活できるだけのお給料だってちゃんともらってる。

え?私、必要なものは全部持ってるじゃん!

そう、私は無いものにばかり目を向けていて、今自分が持っているものに気がついていなかったのだ。

そして、その持っているものたちは、どれも確実に自分が「欲しい」と思って手に入れたものだった。

「なんだ、私、欲しいものはちゃんと手に入ってるんじゃん」

数分前とは一転、暖かくなった心。
布団も私の体温でいつの間にか温まっていた。

「暖かい布団で眠れる。
なんて幸せ!」

私はスマホの画面を消して、布団の暖かさを感じながら、眠りについた。


* 2月10日 ふとんの日 *
全日本寝具寝装品協会が1997(平成9)年に制定。
「ふ(2)とん(10)」の語呂合せ。

[ あとがき ]
ついつい無いものに目を向けちゃうんですよね。人間。
みんなたくさん持ってるんだよ!


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