創作小説④ マイ・ストーリー~Awakening

(前回の続き、そして最終回) 
3回に渡って長々と書いてきましたが、4回目の今日で最終回となります。あと少しだけお付き合いくださいませ。

 前回は、夜明け前に起きだし、ぐるぐると考えていたら人生の沼の淵にたどり着いてしまった、という話をしました。今振り返ると危ういところにいたのだと思います。
 人生の沼。あの時、私は、まるで少女のような無防備さでその沼に近づき、水面に映る自分を見ようとしたのです。それなのに沼が暗くて私の姿は中々見えない。身体を乗りだしてさらに覗き込むものだからずるずると滑り落ちていく。それなのに、「このまま沼に落ちたら大変よね」、などと他人事のように思っていて……。
 でも、そこに夜明けが訪れたので救われました。いえ、夜が明けて、何か啓示を受けたというのではないです。ただ日が昇れば、日常が始まり、日常が始まると、主婦は考えに耽っているわけにはいかない、そういうことです。家族が起きて来る前にパジャマから着替えたいし、コーヒーを沸かし、朝ご飯の準備をしなくては。そんないつものルーティーンのために身体を動かしていると、心の方も沼からどんどん離れて行かざるを得なくて、家族を送り出し、洗濯をはじめる頃には、「くよくよ考えていてもしょうがないか」と、バチッと打ち切るに至りました。女はすごいですよね。感傷的な生き物だと言われていますが、一方で、驚くほど現実的。このときの私の竹を割ったような切り替えには自分でも笑ってしまいました。
 もちろん、完全にあの「夜明け前」を忘れたのではありません。あのときあんなことを考えた、それがあって、こんなことが起きてーーと、全てが繋がっている、心も身体も、大きな事象も小さな事象も、全てが繋がっている。それが人間なのではないでしょうか。

インス☆の成りすまし投稿について

「黒い帽子の私」の写真をもって、成りすまし投稿をされていることが確実になりましたので、私もインス☆のカスタマーサービスに問題を訴えました。「身に覚えのない投稿をされている」と。メールには、黒い帽子の写真の投稿のスクリーンショットも付けました。
 でも自分で書いた文章と写真を見直すと、どう見ても気が狂ったオバサンからのクレームにしか見えず、送信ボタンを押すのも躊躇われました。そんな弱気では戦う前から負けているようなもの。私は他者と戦うことができない人間なのでしょう。このことは訴訟の時にも感じたことでした。なので数日後に先方から、「当件について調査したけれどそういう実態は把握出来なかった」という内容の返答が来た時には、下唇を噛みしめ、ぐっと呑み込んだのでした。自分でも本当に情けないと落ち込みましたよ。
 ただ、偶然なのか、頃を同じくして関連ニュース記事もよく見かけました。そのためか、あれ以降成りすまし投稿がなくなりました。――でもこれは私の思い過ごしかもしれません。ニュースの方も、私が意識しているからアンテナに引っかかっただけで、テレビで報道された様子もありませんし。
 どんなニュースだったかというと、幾つかあるのですが、大きく2種類に分けられるかと思います。

タイプ①「アカウント乗っ取りマーケティング」
 ターゲット層のフォロワーを持つSNSのアカウントを操作して、フォロワーの反応を調査するというもの。例えば、30代の女性の、色に対する意識調査をしたい場合、30代の女性に人気のインフルエンサーやボランティアに承諾を得て、赤い花の写真、白い花の写真、黄色の花の写真といった具合に投稿をして貰うそうです。それら投稿に対しては♡や「いいね」の数を比較してトレンドを解析するのだとか。また、写真だけでなく、文章でも同様のことをしていて、同じ内容の文章を「ポジティブに書く/ネガティブに書く」と「共感を呼ぶ/呼ばない」、といったことも世代別・性別・学歴別・収入別などで調査しているということでした。
 私の目を引いたのは記事の内容もさることながら、記事の下に付いてくるコメント欄の言葉でした。「これってマーケティングと呼べるの?」という尤もなものもあれば、「使っているのはインフルエンサーだけじゃないだろ」、「ロボット使って成りすまし投稿してない?」などなど。
タイプ②「AIによる生成写真」
 AI技術を使った生成写真については、皆さんも耳にされたことがあるでしょう。既存の画像からモンタージュ写真のように切り貼りして、存在しない人を創り出すという技術です。
 その解説の中で、私が驚いたのは個人情報漏洩のリスクについての記述です。皆さんはインス☆でもFBでも、アカウントを開設したとき、「プライバシー設定」はどのようにされていますか? 私のように他者は閲覧できないようにロックしている、だから大丈夫よ、と安心している方、多いのではないでしょうか。でも、そんなのはちょっとIT知識があれば誰でも鍵を外せるらしいのです。そこまで簡単なことだとは思っていなかったのでぞっとしました。
 ある特集ではそのようにして、SNSやクラウド上のアルバムなどから画像を盗みだし、加工する業者についてルポルタージュしていました。ある業者は、盗んだデータを使って生成・加工し、実在しない人物の画像を作っている、と。それら画像はフェイク・ニュースの流布に信憑性を与えるために使うそうです。スパイ映画以上のことが現実で起こっているのですね。
 また、こんなケースも紹介されていました。あるアパレル会社は新作を売り出す際、普通ならばモデルやセレブに着てもらって広告を出しますが、そうではなく、SNSなどからターゲット層に人気があるインフルエンサーや一般アカウントを拾い出し、あたかもその会社の服を着ているように画像加工して、ネット上にばらまくそうです。記事では当人から承諾を取っているとしていました。でも、本当にそうなのでしょうか。画像を盗むのが簡単ならば、承諾を得るのも面倒だから、と無許可で勝手にやっているケースもあるのではないでしょうか。

 これらニュースを目にして、私もこの業者に勝手に操られたのではないか、と考えたり。
 ――でも、それもやめにしました。帽子の写真を最後に、成りすまし投稿が収まっていたので「もういい」というのもあります。
 ですが、それ以前に、あの「人生の沼」を覗いたあとは、成りすまし投稿のことなどどうでもいい、と思っている自分がいました。あんなに私を不安にし、揺さぶった事件だというのに、不思議ですよね。どうやら人生の沼の存在は、私をもっと根っこのところから揺さぶったようです。成りすましたいなら勝手にどうぞ、私、そんなことよりも考えなくてはいけないことがあるから、という、そんな気持ちになっていたのです。

結論なき終わり

 ということで、成りすまし被害についてはこれでクローズとなります。本来ならここで結びのようなことを書くべきなのでしょうが、起承転結でまとまるのは小説だけの世界。現実は、今日は昨日の続きで、明日は今日の続き、ただそれだけのこと。訴訟では負け、人生の沼からも逃げ、成りすまし詐欺にも泣き寝入り、とコテンパンに負け続けているのだから、せめてそこから見出した人生の悟りがあればよいのですが、残念ながらそういうものも見つけておりません。そもそも、この長文で何をお伝えしたかったのかもわからなくなっています。折角読んで下さったのに、ごめんなさい。
 インス☆批判のような展開となっていますが、そういうつもりもありません。実際、私もインス☆を再開しています。成りすまし投稿は「恐い」と思いましたが、今、落ち着いた気持ちで考えると、インス☆はじめ殆どのSNSは無料のアプリです。タダほど「恐い」ものはないというのは昔から知られている真実。ある程度覚悟して使うべきものなのでしょう。覚悟というのは、インス☆やSNSの運営会社に良いようにされる、ということだけでなく、アナタは自ら個人情報を公開しているのだ、という認識と「それでもいい」という覚悟です。「
 「大丈夫、私はしっかりプライバシーを守りながら公開しているから」と思っている方も多いでしょう。でも、そんなの無理。小さな事象から大きな事象まで全てが繋がってその人が出来ているのです。だから、花一輪の写真からも、花の背景に映った家の住所、うっかり映り込んだアナタの靴、ネイルの模様……アナタの個人情報は漏れています。「息子が、夫が、仕事が」と触れた時点でアナタの家族構成や収入レベルまで漏れてしまうのです。匿名にしているから大丈夫、ですか? そういうのも結構簡単に身元が割れるみたいですよ。私もnaomamaと匿名を使っているのに、友達からのコメントで思いっきり本名で書き込まれていますし、匿名性を守るのは難しいと思います。
 そのことを認識した上で「どうぞご勝手に。そんなことは普通に暮らしていれば周囲には漏れているような情報じゃないの。気にしないわ」と吹っ切れるなら良いと思います。逆に、そういうのが気持ち悪くてアナタを不安にさせるのなら止めるべきでしょう。
 私も以前は多少ビクビクしていましたが、今回の成りすまし被害にあってからは、もうそこは乗り越え(開き直り?)ました。インス☆もSNSも、使い方次第ではやはり楽しいツールだと思うのです。自分の記録であり、自分の声の発信であり。
 最近はこんな写真ばかり載せているんですよ。(はい、アカウント名は変えました)

画像1

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 冬だからでしょうか、妙に枯れ木に惹かれるのです。前と同じ道を歩き、同じ公園に立ち寄っているのに、目に入るのは、可憐な野花や可愛いワンコではなく、枯れ木や枯れ枝、枯れ葉なのです。人間って不思議ですよね。「あの枝の曲がり方! 何であんなに捻られてしまったのだろう」とか、「あらら性格悪そうな枯れ木だこと!」などと目が吸い寄せられるのです。稀なことですが、はっとするほど美しく枯れた木に出会うことがあって、そういう時は写真もパシャパシャと撮ってしまいます。
 いきなり枯れ木写真の連投に、昔からのフォロワーさんは驚いていましたが、もう私もそこは諦めて貰おうと思っています。枯れ木に夢中な私。それが今の私なのです。実はiPhoneで撮るだけでは気が済まず、何十年かぶりにスケッチブックを開いて、写生もしています。それだけでも収まらず、先日はついには家でもキャンバスを張り、以前の図面引きコーナーにイーゼルを置いて油絵を描きだしました。枯れ木から得たインスピレーションで絵の具重ねているのですが、気づくと自分を描いているような錯覚に陥ることもあります。

画像3

 ここまで書いて、やっと自分でも何故noteを再開しようと思ったのかわかりました。

 今の私。

 それをしっかりと記録して置きたかった。そしてそんな私の存在を皆様に知って欲しかったのでしょう。こんな女がいるんですよ、と。「面白いでしょう、この世の中って」、と。
 SNS見ていると、ほんと色んな人が居ますよね。変な人、楽しい人、素晴らしい人、可愛い人、くだらない人、がんばっている人。みんな、それぞれの暮らしがあって、それぞれの視点があって。
 私もそんな「色んな人」の一人です。今までは、自分が空っぽになっていくのを繋ぎ止めたくて目に留まったものを投稿していた、それがこんな奇異な体験を経て、今はこんな景色に惹かれ、こんな絵を描いている。ただそれだけのことなのですが、世界の誰かにそれを知って欲しくて書きました。もしかしたら、誰かは、「あ、わかる」と思ってくれるかもしれない、別の誰かは、「私も一緒」と思うかもれない。また別の誰かは、「そんなことってあるんだ」と驚き、自分のSNSとの関係を今一度考えるきっかけにしてくれるかもしれない。そう思うだけで、私は自分が見えるようになる。自分の存在を確認できるのです。

画像4

 今回は本当に長くなってしまいましたね。最後までお付き合いありがとうございます。これからも不定期に投稿することでしょうが、またこちらでお会いするときを楽しみにしております。
 明日は冬至、夜が一番長い日ですね。どうぞ温かくしてお過ごし下さいませ。
Naomamaこと、長谷川奈緒美

追記がありますが、読んでいただいても、そうでなくても構いません。おまけのようなものですから)

※※この小説に登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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