死者

運命が、君の長いまつ毛の上に腰掛けた。
楽園が、君の白い指先にぶら下がった。
君は立ち上がり、再び歩み出した。
祝祭が始まる。

君は何度も死者になった。
大切に育てた蛹。君の分身。孵化する直前に、何度も握り潰されて、透明な粉々の死骸と一緒に棺に入って灼かれた。
悪意も愛も等しく濾過した水。君の届かなかった祈り。知らない誰かの罪の為に、死刑台に登った。
そして、もう、誰にも殺されないように、君は自らの手で魂を塗り潰した。四肢をちぎった。心臓の鮮血を浴びた。呼吸をするだけの死者になった。

君が歩き出す。死者の凱旋。
色とりどりの造花達が咲き誇り、錆びた線路に絡みついた。
君は、知らない国の歌を口ずさむ。それは子守唄となって、遠い異国の老人を安らかな眠りに誘う。
君の足跡は、海の子宮となって、そこかしこで新しい海が産声を上げている。
君の歩くスピードが上がっていく、踊るような足取り、世界がコマ送りのように引き伸ばされる。太陽が凍りつき、飛行機が鯨に食べられるのを見た。
観客たちの歓声が聞こえる。

さぁ、目的地だ。
ラストシーンは巻き戻されて、プロローグが幕を開ける。
白黒映画の中、明滅する君の顔は、笑ってるようにも泣いているようにも見えた。
試写室に積み重なっていく君の亡き骸。

祝福を。
どうか、ご都合主義だと嘲る人が列を成しても、君にだけは、ラスト10分のハッピーエンドを。
祝福を。
おとぎ話を馬鹿にする人から嫉妬と羨望の目を向けられても、どうか、君にだけは、つまらないほど幸せな結末を。

君のエンドロールにアンコールを。

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