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嗚呼、幻の秘境ラーメン

千葉県の内陸部にある長生郡に「秘境ラーメン」と呼ばれているラーメン屋がある。正式名は「ラーメン八平」なのだが、それよりも「秘境ラーメン」の方が名が知られている。

千葉県三大ラーメンの一つ

 秘境ラーメンの存在を知ったのは、仕事でいすみ市大原に行ったときのこと。千葉市のとある広告代理店の社長が車を運転しながら「せっかくここまで来てくれたんだから、今日のお昼は秘境ラーメンをご馳走しちゃおうかな」と、同乗する私とカメラマンに言ったのだ。
「秘境ラーメン?なんですかそれ」と笑っている私に「ググってみ」と社長。ググってみたら、確かに「秘境ラーメン」についての書き込みは多く、しかも勝浦タンタン麺、竹岡式ラーメンと並ぶ千葉の三大ラーメンの一つとされているではないか。社長が言うには、「俺もさ、こないだ取引先の偉い人に連れてってもらって初めて知ったんだよ。そこの一番人気は『アリランラーメン』って言って、ニンニクたっぷりで一度食べたら忘れられない刺激的な味なんだな、これが」とのこと。

ラーメン

まさかのスープ終了

 ところが車を走らせど走らせどなかなか店にたどりつかない。本当に僻地にあるのだ。ナビに住所を入れても途中から地図に道路の表示がなくなり、道なき道を進むという秘境っぷり。
 一度連れて行ってもらったことがあるという社長のうろ覚えの記憶とカンを頼りに、「こっちだったような気がするな」「あ、違った」なんてことを何度か繰り返しながら、ようやく目的地に到着したのが2時ちょっと過ぎ。
「やっと着いたね」と車内が沸き立つその瞬間、エプロン姿の若い女性が店から出てきてスルスルと暖簾を店の中に入れるではないか。
「うっそーー」「待ってください」「遠くから来たんです」と口々に発して車から飛び出して行くと、その女性は「ちょうど今スープが終わってしまったんです」と申し訳なさそうに説明してくれた。
 こんな辺鄙なところでスープ切れとは恐るべし。
 すると店の奥から、先ほどの女性よりは年配の女性がわざわざ出てきて、「ほんとうにごめんなさいね」と頭を下げる。普通ラーメン屋でスープがなくなって暖簾を入れる場合、もっと偉そうな感じなのに、そうこられたら「いいんです、いいんです、また来ますから」と言って車を出すしかない。

八平

あるいは全てが幻だったのかもしれない

 その後、ネットで調べてわかったことだが、秘境ラーメンはどうやら祖母とお孫さんの2人で切り盛りしていて、スープ切れで時間前に閉店になることも頻繁にあるらしい
 ラーメンを諦め、車を走らせて食事ができる店を探したが、周辺にはファミリーレストランはもとより、定食屋もドライブインも何も見当たらない。
 空腹に耐えかねてイライラし始めたカメラマンの提案で最初に見つけたコンビニで弁当を買って車の中で食べることにした。
 長生郡のあたりに、もう一度仕事で行けるチャンスは滅多にない。一人で行ったとしてもたどり着ける自信はない。幻の秘境ラーメンはひょっとすると永遠に幻なのかもしれない。

店の人



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