21.全裸弟

僕の家は4人兄弟。しかも全員男。みな年も近いので、おかげでケンカに遊びと、少年時代に退屈した記憶はあまりない。

3番目がコウという奴なのだが、こいつがなかなか変わり者で、時折おかしな行動をとることがある。小学生の頃、当時コウはスティックパン(コンビニで6本入りとかで袋に入って売っている、細長い菓子パン)が大好きで、どこに行くにもムシャムシャとスティックパンを食べていた。

ある日、家の便所(当時はまだ和式便所だった)を開けると、コウが尻をこちらに向けて大便をしている最中だった。どうやら鍵を閉め忘れたらしく、僕も見たくないものを見てしまったのですぐに扉を閉めたが、その時僕は見てしまった。和式便所の脇の床に、じかに置かれた食べかけのスティックパンを。

弟が便所から出てくると、先のスティックパンが右手に握られていた。思わず「お前、そのパン・・・」と漏らすと、コウは慌てて「食わねーよ!」と言ってすぐさまゴミ箱に捨てたが、もし僕が指摘しなかったら彼はそのまま、何食わぬ顔でスティックパンを食べていたと思う。

またある時は、僕が風呂場に入ろうとすると、コウが先に湯船に浸かっていた。その時僕は見つけてしまった。気持ちよさそうに浴槽に佇むコウのすぐ脇で泳ぐ1匹のゴキブリの姿を。僕が「オイ、コウ!横!」というと、コウはびっくりして風呂場から飛び出し、そのまま戻って来なかった。たぶん僕が指摘していなかったら、そのままゴキブリと仲良くお風呂に入っていたと思う。

他にもいろいろとエピソードには事欠かないのだが、なんというかコウは抜けているというか、鈍感というか、まあとにかく変わっているのである(一応コウの名誉のために言っておくと、成長した今は割と普通のマイルドヤンキーになっている)。そんな中、僕を始め家族、小学校の友人らを驚愕させた事件がある。

ジリジリと肌が焼けるように暑い夏休みのことだった。夏休みになると、小学校のプールが解放されるので、わんぱく盛りの僕ら兄弟は毎日のように自転車を飛ばしてプールに行っては、日が暮れるまで遊んでいた。

ある日のこと、いつものようにコウを連れてプールに行った。更衣室で着替えを済ませると、コウがモタモタしていたので、「先に行ってるぞ!」といって更衣室を飛び出し、プールへ向かった。すでに学校の友達もたくさん集まっていたので、僕もその輪に混ざって遊んでいた。

すっかりブール遊びに夢中になっていたが、コウのことを忘れていたことにふと気づき、辺りを見渡すと、すこし離れた所にコウが1人でポツンと立っていた。「おい!はやくこっちこいよー!」と僕はコウのもとへ近づき、腕を引っ張ろうとすると、なぜかコウはかたくなにその場を動こうとしない。

「どうした?はやくしろよ!」もう一度強く引っ張るが、びくともしない。おかしいと思った僕が、コウをよく見ると、なんだかモジモジした様子であった。なにかおかしいと感じた僕は、コウの姿をもう一度よく見ると、モジモジと両手を股間の前に組んでいて、さらにその奥にあるはずの、紺色の水着の影が無かった。ぼんやりとした肌の色だけが水中でゆらゆらと揺れている。

「まさか・・・」と思った僕はゴーグルを掛けて水中に潜ると、そこには両手で股間を隠し、全裸で立っている弟の身体があった。僕は驚いて、「おい!何でお前ハダカでプール入ってるんだよ!」と大声を上げてしまった。

すると近くにいた友達が異変に気付き、ぞくぞくと近づいてくる。そしてコウの姿を見て、みな大騒ぎし始めた。大爆笑するものや、驚きの表情を浮かべる者。あっという間にコウの周りには人だかりができてしまった。

異変に気付いた監視役の男の先生が、「何してるんだー!」と声を上げた。すると友人の1人が「先生ー!コウがハダカでプールに入ってまーす!」と叫んだ。先生は驚いた表情を浮かべた後、すぐさま水泳用のまきまきタオルを持ってきて、「コウー!こっちにこい!」と呼んだ。

僕らはSPのようにコウを取り囲んだまま、先生のいるプールサイドへと移動した。そしてプールサイドに到着し、陸に上がろうとするコウの股間が、水中から現れるか否かの絶妙なタイミングで、先生はファサッと巻き巻きタオルをコウの下半身に巻き付けて、そのままプールサイドに引き上げた。

そのままコウは家に帰された。僕はそのまま友達と日没までプールで遊んだ後、自転車を漕いで家に帰ると、コウは呑気に祖母のカットしたスイカを食べていた。

「お前・・・なんでフルチンでプール入ったんだよ・・・」僕が聞くとコウはただ一言、「え?水着忘れたから。」とだけ答えた。

え、それだけ?

「じゃあ、どうやって全裸でプールの中に入ったんだよ?」と聞くと、「普通にはいれた」とだけ。そのあっけらかんとした態度に、それ以上問い詰める気も無くなって、そのままコウと一緒にスイカをむしゃむしゃ食べた。

夜になって、母が仕事から帰宅すると、顔を真っ赤にして僕らを怒った。どうやらすでに母の耳には、昼間のプールでの騒動が届いていたようだ。僕は「お兄ちゃんがいながらまったくもう!」と怒られ、コウは「裸でプールに入るなんて、何考えてんの!!」と怒られた。でもやっぱりコウはあっけらかんとしていて、「もうやんねーし」と答えるだけだった。

そういう問題じゃない。だぶんもっと根本的に、何かがおかしいぞ・・・と小学生ながらに思ったが、たぶんコウに言っても効き目がない気がしたので、結局僕は何も言わなかった。母の説教もそこで終わった。

これが小学校の時にコウが起こした事件である。その数年後、高校生になったコウは、また学校でおかしな問題を起こすのだが、その話についてはまた明日書くこととする。

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