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ウマ娘から入った競馬新参が引退馬支援を始めた理由

ウマ娘に結構ハマった。

元ネタがあるものにハマると元ネタにもハマるオタクの生態に漏れず、「ギャンブルだから」という理由で触れてこなかった競馬に関しても色々調べた。

……で、なんやかんやあり、俺は今「NPO法人引退馬協会」の会員で、「ハヤテの会」という元競走馬のハヤテ(競走馬名・グランスクセー)の余生を支援する会員で、ディープスカイのフォスターペアレント(里親・養父)の1人だ。馬の余生を支えるには先立つものが必要であり、これらに支援している金額は合計で毎月5000円。俺の月給は大したことないのでまぁまぁ痛い出費。頑張って節約するぞ。


競馬のハマり方としては間の数ステップをすっ飛ばした感があるが、現行の競馬を全く追っていない訳ではない。2021年の競馬は牝馬のキャラが濃くて応援しがいがあると思う。

だが、初めて「競馬」というものに向き合ってみて、現役のレースにのめり込みにいけない理由と、引退馬に関心が向かった理由を書き殴りたい。


結論から言うと、競馬は想像以上に恐ろしかった。


プリンニシテヤルノが教えてくれた事

まず、「競馬は辛く厳しい世界」と意識してしまった事。

競走馬には最高峰のレースを制して名を残し、競馬ファンの誰もが注目する名馬もいれば、その影にいまいち勝ちきれない惜しい馬もいる。

そしてその裏、「影の部分」としての存在すら意識されていない馬達もいる。中央競馬に登録され、1勝も出来ずに登録を抹消される割合は半数では効かず、6割とか7割だとか存在するという。

例えば他のスポーツで、特定のチームや特定の選手のファンになったとする。
その応援対象が「一度の勝利もない」という事はほぼないだろう。シーズン通して1勝もしないプロ野球のチームは流石にない。
(マラソンやF1等のレース競技、ゴルフなど、1位を勝利と定義するならそもそも勝者が極端に少ないスポーツもあるが)


競馬にはそういう応援する上での最低保証がない。様々な理由で「この馬を応援したい!」と思っても、その馬が生涯1勝もせずに競走馬を引退する事が平然と起こる。

「プリンニシテヤルノ」という馬が話題になった。プリンセスコネクトという有名ゲームに登場する、とあるキャラによる特徴的な台詞が馬名の由来で、ウマ娘ブームと重なり特定層から注目を浴びた。馬券を購入したという声も少なくなかった。

が、プリンニシテヤルノは7戦0勝でJRAの競走馬登録を抹消された。
最終戦は3歳未勝利で11着だった。

幸いにして同馬は地方に転籍し初戦で勝利を収めたが、プリンニシテヤルノの一幕は「応援していればいつか勝てる」みたいな事が競馬では甘ったれた発想だという現実を我々新参に突きつけてきた。多くの馬が人知れず表舞台から去る。その行方は想像に難くない公然の秘密だ。

大半の馬がそうなる、という現実は知っていた。
知ってはいたが、「そうなる」未来のあり得る娯楽に触れて来なかった俺には、応援している馬に辛い現実が待ち受けている可能性が結構しんどく感じてしまう。

「未勝利戦」という括りでレースを走れる期間も限度がある。
デッドラインに追い立てられる馬に向ける「頑張れ」は、スポーツの応援のそれなのか、瀬戸際で闘病する者に向けるようなそれなのか。
いつか俺の中でも「そういうもの」になるのかもしれないが、少なくとも今の俺には難しい。

こんな恐れは現在活躍している馬を応援し、文字通り「勝ち馬に乗る」をやっていれば全然気にする必要はないのだが、じゃあ例えばソダシが引退して初の産駒が出た時に注目せずにいられるかという問題もある。

競走馬の世代のサイクルは人間のそれを遥かに上回る以上、「応援してた馬の血を引く馬」がそう遠くない未来現れる。競馬がブラッドスポーツであり、血統にドラマがあり、それが長年ファンを続ける上での大きな魅力である事は間違いないが、それ故ドハマリした時に先の恐怖がチラつく。

先の事を見越して足踏みするのは滑稽だが、熱中した時のフォーカスが狭い俺にとって厳しい現実にぶち当たる未来が見えているのは尻込みする理由になり得る。


「競馬の神」とかいうクソッタレ


そしてもう一つ。俺は今年「競馬はお前の想像上の『辛く厳しい現実』を遥かに上回ってくる」と思い知らされた。


オグリキャップの引退レース、「神はいる」と誰もが思ったという。

だが、競馬に「神」がいるとすれば、そいつは悪辣で嗜虐的、例え天にいようが唾棄せずにいられない最低の屑だろう。


「ミンナノヒーロー」という競走馬がいた。

母父オグリキャップ。オグリキャップの孫であり、一度途絶えた中で現れた、現役でオグリキャップの血を引く唯一の(最後ではない)競走馬だった。

アプリウマ娘のヒット、及び「ウマ娘 シンデレラグレイ」というオグリキャップ主人公のコミカライズの影響で、かつてのオグリキャップの栄光にまた注目が集まった。

が、オグリキャップ縁の地の笠松競馬場は、様々な暗部が浮き彫りになり「聖地」とは到底扱えないような惨状だった。(実際、シンデレラグレイ協賛レースが中止、そのまま休場になる有様)

特に笠松を中心とした陰鬱な流れが続く中で、2021年4月に地方の岩手競馬でデビューしたミンナノヒーローは明るい話題になった。

純朴で直球だが文字通りヒロイックな馬名を背負い、初戦2着、以降3連勝と確かな実力を見せつけた。

骨折の影響でJRAでのデビューこそ叶わなかったが、岩手競馬での走りでJRAに復帰出来る条件を達成。地方から中央へ、ミンナノヒーローにオグリキャップを重ねた者は少なくないだろう。

7月20日、ミンナノヒーローは単勝1.0倍という元返しのオッズで第5戦目に挑んだ。
そのオッズは誰もがミンナノヒーローの走りを疑っていない現れだった。



直線入り口、ミンナノヒーローは足を故障。予後不良となった。


どの馬の命も平等に尊いのは判っている。他に誰かが死ねばよかったなんて微塵も思っていない。


それでも、「どうしてよりにもよってミンナノヒーローなんだ」と思わずにはいられなかった。

レース中の予後不良は競馬を追う上で避けられない悲劇なのは重々理解している。いつの競馬だって競走中のトラブルから転倒するなどし、そのまま予後不良となる馬はいる。海外ではG1レースのドバイゴールデンシャヒーン、人気最下位だったゼンデンが一着でゴールを駆け抜け、歓喜のその瞬間に故障し命を落とした悲劇も今年だった。

それは頭では解っていても、俺の中での「応援していた馬」が予後不良になったのは初めての経験だった。
ただ「母父オグリキャップ」というだけでは注目していなかっただろう。ただ「地方から中央に上がりそうな強い馬」というだけでは知りもしなかっただろう。だがこの2つが組み合わさった時、競馬への関心が浅かった俺でも、「特別な馬」になるには十分だった。


思えばこれが誰かの描いたシナリオだというのならあまりにも完璧だ。

かつての伝説のスターホースの血を引く数少ない競走馬。
怪我による挫折で中央競馬でのデビューこそ出来なかったが、地方競馬で出走すると圧倒的な強さで連勝。

地方から中央への切符を手にし、オグリキャップの軌跡をなぞるかのような活躍に皆が夢と希望を託した。「ミンナノヒーロー」というそれを背負うに足る名前の馬に。

そして皆の期待をオッズという数字で明確に示し、誰もが「勝った」と思うようなレース運びをさせた後、最も残酷な方法でその生命を奪った。
夢の道程を見せるだけ見せて、中央競馬の舞台に立たせる事すらなく、誰もが最大の絶望を味わうタイミングで引き金を引いてみせた。

「競馬の神」とやらがいるのだとしたら、この物語を紡いだこいつを最低最悪の存在と断じずにいられるだろうか。


あの日以来、競馬を見ると頭の片隅に「競馬の神」の存在がチラつくようになった。

意識の割合としては1割以下、脳内の隅っこ程度。
注目の馬が出走するレースの最中、応援する馬の勝利、あるいはドラマチックな展開を期待する影で、今この瞬間にあのクソッタレが気まぐれに切っ先を突き立てて来るんじゃないかという怯えを抱いてしまっている。


9/22 追記

などと言っていたらこれだ。

どうやらあのクソッタレは
「悲劇はレース中に起きる」と誤解していた俺の横っ面を張り倒したかったらしい。

ヨカヨカも「応援していた馬」の一頭だった。

書き出しで「牝馬のキャラが濃い」と言っていたのには理由があり、2020年の「阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)」で掲示板入りした5頭がそれぞれ個性溢れる目立ち方をしていたからだ。

1着、白馬のソダシは最早言うに及ばない。2着には現在まで重賞の勝利はないものの、桜花賞2着、そして牝馬にして日本ダービー5着とその力を確実に見せつけているサトノレイナス。(現在骨折により長期休養中)3着はゴールドシップ産駒にしてオークスを制したユーバーレーベン。4着は何かと話題のメイケイエール。

そして5着がヨカヨカだった。


ヨカヨカ(九州の方言が由来。いいよいいよ、大丈夫だよの意)は熊本産まれの九州期待の星だった。

デビューから他の北海道出身の馬を蹴散らし3連勝。その後は同郷の「ルクシオン」とともに12月阪神ジュベナイルフィリーズに出走。
熊本出身の馬がG1に出走するのはルクシオンと並び初めて、掲示板入りするのは九州出身の馬で初だったらしい。

ルクシオンとヨカヨカ。地元の期待を背負うに有り余る実力だった。


しかし翌月悲劇が起こる。

ルクシオンは調教中、他の馬の挙動に驚き放馬、地下馬道へと逃げ込んでしまう。
そしてそこで壁に激突。手術不能箇所を骨折し、安楽死処分となった。


ルクシオンのお墓の画像を見た事がある。
「感謝」と刻まれた大きく美しい墓標は、ルクシオンが背負っていた声援の大きさの現れだった。


酷いエゴかもしれないが、ヨカヨカを応援する時に「ルクシオンの分も頑張ってくれ」と思わずには居られなかった。


ヨカヨカは皆の想いに応えるように頑張った。

8月の北九州記念(GⅢ)、雨の中のレースをヨカヨカは1着で制した。熊本産馬初の重賞勝利だった。

見てるかルクシオン。熊本の、九州の、そしてルクシオンの分の夢をヨカヨカは叶えたぞ。

きっと誰もがそう思っただろう。


そしてここはヨカヨカによって通過点でしかない。通過点でしかなくあってくれ。目指すは九州産馬初のGⅠ制覇。それが全くの夢物語なんかじゃない所まで来ていた。


そこでこれだった。GⅠレースのスプリンターズステークスの出走を控えた所での怪我だった。

なんの因果か知らないが、故障は地下馬道で起こったと思われるらしい。
ああそうかよ。そこまでやりたいんだな。


注目を集めていた分、ヨカヨカに纏わる記事は多く、単にレースの結果以外にも知った事もあった。

それを聞いて、これまでヨカヨカに関わってきた方々のことを思いました。彼女がトレセンに来たばかりのとき、ニンジンをねだる様子を見て担当の川端強助手が「ニンジンって、2歳馬は食べない子も多いんですよ。競走馬にとってはどちらかといえば嗜好品…ごほうびのオヤツみたいなものだし、値段も高いから、まだキツイ調教をしていない子供時代は与える必要がない。だから最初は食べ物だって分からない感じなんです。でも、ヨカ(ヨカヨカの愛称)は最初からニンジンが大好きみたいで。生産牧場の方があげてたんだな、かわいがられてたんだなって分かります」と目を細めていました。いい話だなと記事に書いたところ、生産者の本田さんからご連絡をいただき、「ヨカヨカは本当に、子供のころからニンジンが大好きだったんです」と。(上記記事より引用)

ヨカヨカがどれだけ愛されてきたのか、という記事。

これを読んで、彼女が愛おしくならない人などいないだろう。

ネットで記事や情報が共有されやすくなった現代、同好の士の語りを目にし、注目の馬へ想いを募らせ、期待を膨らませる事は容易になった。バックボーンを知れば感情移入も強くなっていく。


その分、不意の一撃で俺の心はボッキリとへし折られた。

競馬という物を知って世界の解像度が上がって、数々のドラマを知って胸を熱くした。

それと同時に、なんの予兆もなく簡単に命を弄んでみせる競走馬の世界の残酷さに、脳が悲鳴を上げている。



……この記事は9月中旬には書き上がっていた。

後は月末に会費の引き落としが行われ、正式に会員とフォスターペアレントになる事が確定してから公開しようとキープしていた記事だった。

そこに俺にとっての「特別な馬」の悲劇がまた起きた。


今この瞬間、俺の人生において最低最悪の加筆作業を行っている。

10/6 追記


ヨカヨカの怪我は快方に向かっている。
競走能力喪失が即ち命を落とした事ではない事は勿論知っていて、数日後には元気そうな姿が公開されてはいた。

が、馬にとって第二……どころか第1.5の心臓である脚の怪我が予断を許さないであろう事は容易に想像がついていて、
「命だけは助かったんだから」と素直に喜べない状況が続いていた中でほっと胸を撫で下ろす記事だった。

今後は繁殖牝馬として、次の世代へ悲願を託していくだろう。


馬ってかわいいね

ごめん!!!重い話しちゃったけどこっから先ポジティブな話題しかないから!!!

引退馬の支援を始めた理由として、まず

「何故引退馬を支援するのか」と

「何故その馬を支援するのか」

に分けて話したい。で、前者の理由の1つが

「馬ってかっこよくて可愛いから」。

ふざけてるとかではなく、かなり大きな要素だ。ウマ娘をきっかけに本物の馬の動画もよく見るようになったのだが、これが凄く魅力的だ。最近はウマ娘プレイしてる時間より馬の動画見てる時間の方が長い。

サラブレッドはでかい。疾走する姿は雄々しい。それでいて、どこか人懐っこく愛嬌がある。

サラブレッドを始めとする馬は気性難で心身共に繊細なイメージが強く、まさかこんなに可愛い生き物だとは知らなかった。知性もあって感情表現も豊かで馬ごとに個性もある。

競馬を知らない俺ですら知っていた、絶対的存在「ディープインパクト」の引退後の動画も見た。放牧地に一頭取り残されてオロオロしたり、その後迎えに来てくれたスタッフに寄り添いルンルンで帰る様子が記録されていた。

何が「一着至上主義」だ。可愛いな。

そんな感じですっかり馬の可愛さに夢中になってしまったので、この辺が引退馬支援の最初のトリガーになっている。推しに美味しい物食って貰いたくてグッズ買ったりスパチャするオタクみたいなものだ。

競馬の楽しみ方は多岐に渡るが、競馬を見る理由が「ギャンブルの悲喜交交」とか「データからレースを予測して的中させる楽しさ」とかではなく
「お馬さんがんばえー!」だったので当然の帰結かもしれない。

せめて安らかな余生を

もう一つの理由は、引退馬として平和な余生を送れる馬は限られてしまっている事に由来する。

全ての競走馬が引退馬として余生を送れる訳じゃない現実は知っている。

そもそも「支援する事が出来る」状態の引退馬はその時点でごく少数派の存在だ。

幸運にも「競馬の神」の魔の手から逃れ、競走馬(あるいはその後の繁殖牝馬や種牡馬の仕事も含めて)生活を全うし、現役時代の成績や心優しい人に見初められる等して、さらなる幸運を手に出来た引退馬達。

せめて、彼ら彼女らに安らかな生涯が用意されていて欲しい。そして、ゆくゆくは「さらなる幸運」を手にできる引退馬が少しずつでも増えて欲しい。

俺個人が出せる額は大したものではないが、せめてその一助にはなってくれと、そんな思いで俺は引退馬支援に踏み切った。


頑張れハヤテくん(の中の人)

ここからは「何故その馬を支援しているのか」という話。

先に言うと、今から名前を挙げる二頭はどちらも
『現役時代の走りを生で見てはいない』。
現役からのファンじゃないくせに、という方にはごめんなさい。

俺が最初に支援したのは「ハヤテの会」のハヤテくん。

競走馬時代は「グランスクセー」(フランス語でgreat successの意味らしい)という名前で走った後警視庁騎馬隊に登用され、20歳まで勤め上げる。
その後は鶏卵牧場の警備員(自称)に就いた後、現在ではマーサファームという小さな牧場の警備をしている(自称)。
中央で6000万以上賞金を稼いでいるし、その後の経歴も凄い上に歳がそんなに離れてないので俺はハヤテ「くん」というよりハヤテ「さん」という心持ちでいる。

先に「ハルウララのいるマーサファームに預託されているから」というきっかけは述べておく。じゃないとなみあし会のあかつき君他YouTubeに動画投稿している引退馬を支援してないのが嘘になるからだ。

(あかつき君……Youtubeに動画を投稿しているYoutu馬。なんでも美味しそうに食べる。差し出されたものは躊躇なく食べる。とにかくなんでも美味しそうに食べるので『馬って○○は食べるの?』的な実験に全く信憑性がない。君の周りはいい人だらけかもしれないけど、少しはにんげんさんを疑う素振りを見せてほしい)
(NPO法人なみあし会のチャンネル)
https://www.youtube.com/channel/UCLbXcmIfJemhUHo1zw8UjtQ


ハヤテくんを支援しているのは、「中の人が頑張っているから」という理由。

勿論ハヤテくんがきぐるみって事ではなく、ハヤテくんのTwitter管理者が頑張っているという意味。

ハヤテくんのいるマーサファームは本当に小さな預託牧場で、スタッフもごく少数。少数というか、多分ほぼ1人。

なので、SNS等で情報を発信したり、動画をUPしたりするのは相当に難しい。見学客の受け入れを停止していた期間にようやくYouTubeに手を出せた位だった。

そんな中、ハヤテくんのTwitterの管理者(📱の人と呼ばれている)は積極的にマーサファームの皆の様子を発信してくれている。

動画は高品質という訳ではない。恐らくお手伝いの片手間に(文字通り空いた片手の状態も多い)撮影した動画を撮って出ししていると思われる。
動画映えを意識した出来事もそうそうない。大体が運動用の馬場に移動する道すがらか、ご飯やおやつを皆で食べる様子、馬房から顔を覗かせる写真。

でも、そんな「預託牧場の日常風景」こそが、我々が目にしたい光景だったりする。

マーサファームで暮らすハヤテくんや、うーさん(ハルウララ)やアミちゃん、アンちゃん(ヒシアンデス)、その他牧場の皆の「いつもの日常」が平和に流れていく様を垣間見る事が出来る。
「穏やかに余生を送って欲しい」という支援者の望むものは、まさにその光景だろう。


Twitterでのキャラクターもいい。



とりあえずちょっと見て欲しいのだが、ハヤテくん自身がツイートしているという体で呟かれる、「だぜい」口調のちょっとカッコつけたおじさんみたいなツイート。経歴や馬齢と噛み合った絶妙なコミカルさが「ほんとにこういう事考えてそう」と印象に残りやすく親しみが湧いてくる。丁度いい擬人化感とでも表現できようか。狙ってるかは分からないがTwitterIDが初期のランダム文字列なのも「それっぽさ」を醸している。

そんな感じで、ハヤテくんの中の人は限られたリソースで支援者やファンに向けた情報発信を続けている。

支援の決め手となったのは、「そんな頑張りが報われて欲しい」という想いがあったからだ。

引退馬の支援を集めるには「知ってもらう事」が第一段階だ。


消費者の購買のプロセスを論じる上で「AIDMA」とか「AISAS」という用語がある。AIDMAが元祖でAISASは現代版として電通が提唱したものだ。

どちらも「お金を払う行動(Action)」に至るまでの消費者心理の過程の頭文字を取ったものなのだが、両者の最初の「A」は「Attention(認知・注意)」で共通だ。どんな活動をしていようがまず認知されなければ誰も動いてはくれない。素敵な活動なら支援してもらえるなどというナイーブな考え方は捨てなければならない。

「Yogiboヴェルサイユリゾートファーム」という牧場はその点かなり先進的で、著名な引退馬に会いに行ける牧場として宿泊施設やカフェを併設したり、自動追尾カメラやドローン撮影等を用いた映像発信等を積極的に行っている。名前にビーズソファーで有名な「Yogibo」がついているのも異例のネーミングライツ契約を結んだからだ。

拝金主義的な運営に批判もあるようだが、「引退馬が観光資源となるなら余生を救える馬も増える」という割り切った運営は、実際にグッズ購入やサポート会員という形で成果があるようだ。

とはいえ、引退馬の預託牧場でヴェルサイユリゾートファームのような広大な施設とメディア戦略を持ち得る所は稀だし、そもそも馬の健康の面から観光客の受け入れを出来ない牧場が殆どだ。

そんな中、ハヤテくんの中の人は「やれる事をやる」というスタイルで発信を続けている。
「ホーホケキョ」というSEが似合う小さくのどかな牧場で(というか実際聞こえる)、まさに牧歌的な動画でファンや支援者に元気な姿を届けてくれる。
そんな中の人の頑張りが少しでもハヤテくんの余生の支えになってほしいと、ハヤテの会に入会して支援を始めた。

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スターホースのバトン

次に、ディープスカイのフォスターペアレントになった理由についでだが、まずは「フォスターホース」という制度の説明が必要だろう。

「フォスターホース/ペアレント」は「NPO法人引退馬協会」による制度。
『foster=(実子でない子供などを実子のように)育てる、養う』の通り、支援者達で里親のように馬を養うというシステムになっている。

引退馬協会は権利を譲り受けた複数の引退馬を「フォスターホース」として所有しており、支援者は毎月の支援先を指名する事でその馬の「フォスターペアレント(里親)」になる事が出来る。そうして集めた支援金を引退馬協会が預託先の牧場に支払う形でフォスターホースの余生を支える。フォスターペアレントになると支援している馬に関する様々な特典も受けられたりする。

要は「ハヤテの会」のような支援組織を引退馬協会が一括で執り行う形だ。事務手続きを簡略化しながら特定の馬を支える事ができる。
(ちなみにハヤテくんは引退馬協会のサポートホースなので「ハヤテの会」はシステム的に一部互換性がある)

で、そのフォスターホース制度で何故ディープスカイを指名したのかという話。

「競馬にわかなんだしどうせ有名な馬選んだだけだろ」

と思われるかもしれない。


それで正解だ。


ほぼ正解なのだが、このままだと滅茶苦茶語弊があるのでちょっと順を追って話してもいいですかね。


まず、ディープスカイはつい先日引退馬協会所有馬となり、フォスターホースになったばかりだ。

そのきっかけになったのはナイスネイチャのバースデードネーション。
引退馬協会の広報部長でありフォスターホースの一頭であるナイスネイチャが、自身の誕生日に毎年行っている寄付を募るイベントだ。


https://syncable.biz/campaign/1589/


(こう書くとナイスネイチャ自身がイベントを主催しているようだが、実際にナイスネイチャは引退馬協会の広報部長という肩書だし、バースデードネーションに寄付するとナイスネイチャからお礼のお手紙が届く)

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(届いた)

何かと「3」にゆかりのあったナイスネイチャの、令和3年33歳の誕生日記念の今回は、当初200万円の目標値が300万円に引き上げられる等、大規模な寄付が見込まれた。


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事実、最終的には合計寄付額が358万と目標を大きく……


あ、桁が違う。3580万だ。3580万円の募金が集まった。

去年が180万弱(これでも凄い)な事を考えるととんでもない事だ。オタク側が言うのは憚られるが、流石にウマ娘ブームの影響があった。

突然集まった多額の募金のうち、一部はフォスターホースの不意の医療費等に備えたプール金とし、そして残りを元手に新たに6頭の引退馬をフォスターホースとして迎え入れた。ディープスカイはそのうちの一頭だ。
(買い取ったという事ではなく、預託先の受け入れや今後の預託料を確保した上で譲渡されたという意味)

ディープスカイのフォスターホース受け入れのニュースには
「ダービー馬ですら寄付に頼らないと生きていけないのか」
「馬主は稼がせて貰った金で養えよ」
等の批判も一部であった。

だがこれには「フォスターホース制度」への誤解がある。
ディープスカイがフォスターホースとして引退馬協会に迎え入れられたのには理由があり、そしてそこに俺がディープスカイのフォスターペアレントになった理由がある。


フォスターホースには二種類いるのだ。


大前提としてフォスターホースには余生を送るために金銭的な支援が不可欠な馬が多い。例えばこれには震災地から保護された被災馬や、怪我で視力を失ってしまったサラブレッドのバンダムテスコ等も含まれる。

だが、中には別の役割を担ったフォスターホースもいる。

それがメイショウドトウ、タイキシャトル、そして広報部長ナイスネイチャに代表される、いわば「スターホース」達だ。

例として挙げるにメイショウドトウ以上に最適な馬はいないだろう。


人格者としても知られるドトウのオーナー松本好雄氏は、これまでの自身の所有馬のように、種牡馬引退後のドトウの余生を最後まで面倒を見る用意をしていた。
が、引退馬協会の相談を受け、「引退馬の支援活動を広める役に立てるなら」と無償でメイショウドトウを譲渡した。

金銭的支援が必要ない事が明白なメイショウドトウをフォスターホースに迎え入れた理由がここにある。引退馬協会の活動を周知し、支援を集め、他のフォスターホースを支える為だ。


継続的な寄付というのは限りなく見返りの少ない行為だ。引退馬協会では会員限定の特典やカレンダー等が貰えたりするが、引退馬協会の会員費は毎月1000円、フォスターホースはこれに上乗せする形で最小の0.5口でも2000円。これらは税控除を受けられないタイプの寄付な為減税も出来ない。単発の寄付であるバースデードネーションと比較しても気軽に払ってくれと言える額ではない。

だからこそ、寄付を集めるには「知ってもらう事」、「寄付に踏み切るきっかけ」が必要になる。
ただ漠然と「現役を退いた馬の余生を支える募金を」と言われても身銭を切る人は少ないだろう。そもそも興味を持たない人が大半だ。


……だがそれが「あの名馬の余生を支える寄付」だったら。

競馬史でも稀代の「愛された馬」ナイスネイチャの。
テイエムオペラオー、ナリタトップロードと激闘を繰り広げたメイショウドトウの。
歴代マイラーでも最強と名高いタイキシャトルの。

「あの」と冠詞をつけるに相応しい彼らに対する寄付だったら、注目も格段に増える。その中から実際に寄付に踏み切る人もいる。

引退馬協会には、フォスターホース制度には、彼らのような「スターホース」が必要なのだ。

これだとスターホースにフォスターペアレントが集中するように思えるが、フォスターホースの仕組み上これに問題はない。


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公認NPO法人引退馬協会HPより引用

支援が特定の馬に集中するのは織り込み済みで、フォスターペアレント制度は支援の充足しているフォスターホースが支援口数の少ないフォスターホースに内部で互助を行う形で運営されている。

なので「スターホース」をサポートしている会員は「あの馬」を支援しながら同時にフォスターホース全体を支援している形になり、また他の馬を差し置いて支援が集中している人気の馬を指名する事に負い目を感じる必要はなくなる。


ディープスカイは「スターホース」としての役割を担うに余りある実績を備えている。NHKマイルカップと日本ダービーの変則二冠。ダービー馬という箔。数々の名馬と繰り広げた善戦。(あと大接戦ドゴーン)

引退馬協会への譲渡が発表された時、競馬ファンの間では瞬く間にニュースが広まった。「スターホース」としてのとしての存在感の証明だった。

「ディープスカイ程の名馬ですら余生を送る為に支援が必要なのか」という嘆きや憤慨は全くの検討違いと解る。
引退馬協会と他のフォスターホースを支える為のフォスターホース入り。「ディープスカイだから」出来る事だ。


ナイスネイチャ、メイショウドトウ、タイキシャトルの三頭は、ウマ娘効果もあってか想定以上のフォスターペアレント申し込みがあり、現在新規受付を停止している。

上記の互助がある以上制限を設ける必要はないのでは、と思うかもしれないがそうもいかない。


サラブレッドの平均寿命は25年程と言われているらしい。

メイショウドトウは25歳。タイキシャトルは26歳。
先にも挙げた通りナイスネイチャは33歳。単純な比較は難しいが人間で言えば既に100歳弱に相当する。

……あまり向き合いたくはないが、馬も生き物であり、いつかお別れをしなくてはならない。引退馬に安らかな余生を、という会の理念上、老衰という形で見送る事が出来るのは理想の結末ではある。

だが、組織全体が3頭に依存し、彼らが思い出になった後にフォスターホース制度が破綻しては元も子もない。彼らに続く、フォスターホースを牽引する存在が必要だ。

「スターホース」のバトンは受け渡されていく。ナイスネイチャが彼の母であるウラカワミユキから受け継いだように、今度はきっとディープスカイがそれを受け取る番だ。

だから俺はディープスカイのフォスターペアレントになると決めていた。

勿論(勿論と言い張るのも変だが)当時競馬を見ていなかった俺は「過去の記録」としてしか彼を知らないが、彼の実績、そして引退馬協会に受け入れされた時のファンの反応から見て、次の「スターホース」はディープスカイなのだと確信した。

ディープスカイの役割と、今日に至るまで受け継がれてきた引退馬協会の活動を肯定したくて、フォスターペアレント募集開始と同時に申請の手続きを送っていたのだった。

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(中略)

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(ちょっと前のスクショ)

この1っての俺かな?違うかも?
マジで最速で申し込んだ上に、多分本来は引き落とし先の口座申請とか初期の会費の振り込みとかあって手続き完了までは結構時間かかるんですけど、ハヤテくんを支援する為にハヤテの会に入会していたので間の手続きすっ飛ばせたんですよね。

でも入会証とかFP証が届かないからもしかしたらもっと後の入会になってるかも……?

……0.5口(2000円)だけかよってのはまぁ……俺の限界です……

10/12 追記
追記の多い記事だなぁ。
この記事が書き上がっていたのは9月中旬なんですが、ちゃんと会員証とフォスターペアレント証届いてから記事公開しようと思ってたら住所間違ってて全部返送されちゃってたらしいです。(9月から会費の引き落とし出来ているので会員にはなっている)北海道とのやりとり、かつ10月から土日に郵便配送されなくなったのでそれの確認すら時間かかっちゃった。


(ノ∀`)アチャー

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(無事届きました)

ファイナル追記・そして先日、ディープスカイの移動先であり終生の地となる牧場が「ひだか・ホース・フレンズ」になると発表された。


こちらは最近引退馬の繋養を始めたとのことで、現在サラブレッドはディープスカイのみだという。

移動先がここになった理由は「地域への貢献、地域の活性化の一助となるべく」と発表されている。実はタイキシャトルやメイショウドトウは最近牧場を移ったが、こちらも同じ理由だ。

現在は見学を行えないが、地域活性化に繋がる程の知名度を買われての大役とも言える。

後々は引退馬協会とフォスターホースを背負っていく、ディープスカイの最初のお仕事だ。

現状唯一にして最大の業務内容は「元気に過ごす」だが。


いつかナイスネイチャのようにお礼の手紙を送ってくれたりしたら嬉しい。

最後に

こんなクソ長い記事を読んで頂いて、引退馬支援の現状……のごくごく一部でしかないが、「認定NPO法人 引退馬協会」の存在と「フォスターホース制度」の名前だけでも覚えて貰えれば幸いだ。あらゆる活動はまず「Attention(認知)」して貰う事から始まる。

そもそも引退馬協会は引退馬支援を行っている一つの団体に過ぎず、様々な形式で現役を退いた馬の保養を行っている組織があるので、もし興味があれば調べてみて欲しい。


そして引退馬協会の活動に興味を持たれた方。

いきなり定額の寄付というのは心理的ハードルが高い。

引退馬協会の会員は毎月1000円、フォスターペアレントは更に2000円。
手放しに入会しろとは流石に言えない。

でも、引退馬協会には「グッズ購入」という支援方法もある。


見返りのほぼない寄付は覚悟がいるが、グッズの購入という方法なら少しは気楽かもしれない。支援した形も手元に残るし。

例えば2022年のフォスターホースカレンダーは表紙をナイスネイチャ、背面をメイショウドトウが飾り、中身もフォスターホースの面々の紹介とグラビアで彩られている。1000円だからカレンダーとしてそうお高い訳でもないしどうだろうか。

ただ、人気のグッズ(それこそナイスネイチャ、メイショウドトウ、タイキシャトル関連)は割と早めに売り切れるみたいなのでご了承を。

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