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日本に足りない体系的思想。体系的戦略がない原因。 物事の二面性36

日本人は優秀である。youtubeとかで識者の話を聞いていると非常に面白い。それらは当然ながらとても私では思いつかないようなアイデアばかりである。しかし多くの場合それらは単発的なすぐれたアイデアであって、ひとつひとつのアイデアが有機的に連関しあう体系的なアイデアではない場合が多い。それらのアイデアが体系を成す体系的思想が無いのが、日本人が戦略が不得意である原因のひとつになっている。

今回のシリーズを全部読んでくれた人は少ないと思うし、部分だけ読んでくれてもとてもありがたいのだが、全部読んでくれた人は、今回のシリーズに思想的体系があるのを分かっていただけたのではないかと思う。部分部分のパーツであるアイデアが相互に連関しあって体系をなしている感じ。私の文章が十分に分かりやすければ伝わったと思う。

自転車に喩える。自転車にはパーツがある。ハンドル、サドル、タイヤ、チェーン、ペダル、ブレーキ、荷台、泥除け、ライト・・などなど。自転車のパーツはそれ自体として価値があるとしても、それ以上に意味があるのはそれぞれのパーツが連携して、自転車が動いたり止まったり曲がったりできるということである。パーツ自体よりその連携に意味がある。

今回の論述もひとつひとつのパーツもそれ自体として重要である。おそらくパーツとして面白いものもいくつかあるだろう。しかし今回、私が伝えたかったのはパーツとしての思想よりも、パーツが組み合わさって体系をとることができるということ、思想というものが体系をとりえるということである。

今回書いた文章の中には面白くない回もあったと思う。しかしそれを書かないと全体の体系が成立しない。自転車でいえば、「すぐれたタイヤが見つからなかったので、今回はタイヤ無しね」とはならない。だから面白くない回も書かざるを得なかった。重要なことは思想が体系をとりうるということを示すことだった。

思想を勉強した人にとっては思想に体系があるなど当たり前かもしれない。しかしその場合も恐らく西洋の思想であり、日本人にとって血肉化しやすい思想かは疑問だ。西洋思想が得意な人は血肉化できるかもしれないが、少なくともそれは少数派である。そして多くの日本人は思想が体系をとりえるということ自体を知らない。

たとえばビジネスにおける戦略は体系が必要である。ひとつひとつのアイデアが相互に連関する。ハードウェアとソフトウェアとビジネスモデルと経営理念が連携する。Appleの音楽戦略もiPodというハードとiTunesというソフトと1曲99セントというビジネスモデルが相互に連携して体系をなしている。

それを持つためには恐らく戦略を作る人の背後に体系的な思想がないといけない。体系的思想においてはひとつひとつの個々のアイデアが相互に連関して体系をなす。同様にビジネスの体系的戦略においてはハードウェアとソフトウェア、ビジネスモデルや理念が相互に連関して体系をなす。『スティーブ・ジョブズI』の序文でウォルター・アイザックソンはスティーブ・ジョブズに関し次のように述べる。

彼の個性と情熱と製品は全体がひとつのシステムであるかのように絡みあっている。アップルのハードウェアとソフトウェアがそうなっていることが多いように。

スティーブ・ジョブズの仕事はひとつひとつの要素が連関して体系をなしているのが分かる。体系的戦略の持ち主である。

『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』にジェフ・ベゾスに関する次の言葉がある。

彼はとても内省的で、どのようなことでも体系的に対処するのです。

ベゾスも同様に体系性を持っている。それはアマゾンの戦略を見れば一目瞭然である。

『ビジョナリーカンパニー』から引用する。

ビジョナリーカンパニーの建築家は、戦略、戦術、組織体系、構造、報奨制度、オフィスレイアウト、職務計画など、企業の動きのすべてに一貫性を持たせようと努力している。

一貫した信念に基づいていればその会社の戦略は一貫性を持つ。体系性と一貫性を備える。部分部分がバラバラではなく体系的で一貫しているのである。

体系性の一つの例がiTunesとiPodである。ユーザーはマッキントッシュ上のiTunesで買った曲をiPodで聴く。スティーブ・ジョブズに次の言葉がある。

我々はハードウェアの経験があり、工業デザインの専門知識やiTunesなどのソフトウェアの専門知識も持っていた。我々が考え出したアイデアの中で特に素晴らしかったのは、ユーザーの音楽ライブラリをiPod上で管理するのではなく、iTunes上で管理しようと決めたことだ。他社は何でもかんでもデバイス本体でやろうとして複雑で使えないものにしていた。

曲の管理をiPodというハードウェア上でやろうとすると、複雑で使いづらいものになっていたという。iTunesというソフトウェア上で管理することにしたのだ。『スティーブ・ジョブズII』から引用する。

itunesで曲が売れれば、ipodが売れ、そうすればマッキントッシュが売れる。同じことがソニーでもできたはずなのに、ハードウェアとソフトウェアとコンテンツの部門を協力させられずに失敗した。

単なる技術力で比較すれば同じことがソニーでもできたかもしれない。しかし複数の部門を協力させることができなかったのだという。組織の部門がバラバラだったのかもしれない。組織と戦略の体系性と一貫性でApple社のほうが上回っていた。

それは日本人が体系的戦略が苦手だからである。スティーブ・ジョブズに次の言葉がある。

iPodがなぜ世の中に存在しているのか、そしてアップルがなぜ携帯音楽市場に参入しているのか。その理由は市場を開拓し独占していた超一流の日本家電メーカーが、しかるべきソフトウェアをつくれなかったからだ。彼らにはこのようなソフトウェアの発想がなく、開発できなかった。iPodはまさにソフトウェアだからね。iPodっていうのは、iPod本体に組み込まれたソフトウェアであり、MacなどのPCのソフトウェアであり、クラウド上にあるストア用のソフトウェアでもあるんだ。

iPodをそもそもハードウェアとしてよりソフトウェアとしてとらえているのが面白い。それがiPodの本質だというのだ。

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