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【夢日記】中古の一軒家

広くて古い家にいる。

何でも、むかし母方の祖父母が住んでいた家にも似ているような気がするけれども、もっと広い。ぼくはとても喉が渇いていて、古い冷蔵庫から麦茶を出してがぶがぶと飲んでいる。麦茶の入っている容器には茶渋がついているのが見える。1リットル入りの容器がほとんどからっぽになるまで飲んだ頃に、奥からキャッという悲鳴が聞こえてくる。

奥には二間分の大きな寝室がある。

布団やら毛布やら雑然と敷いてあるが、その奥のところで細君が震えている。どうしたのかと尋ねると、「鼠が…」と云うばかりでことばにならない。指さす方を見れば、床近くの壁に穴が開いており、そのまた穴をふさぐブロックみたようなものがあるのだが、それが外れている。然し、肝腎の鼠そのものは見当たらない。

「風でも吹いたんじゃないか」と云いかけて、一応ぐるりの毛布やらを蹴飛ばして探す素振りをしていたら、そこには鼠色ならぬ栗色の毛をした大きな鼠が同じような色の毛布に隠れている。ジュッとか云う可愛気の無い声を立て、ミミズみたような長い尾を振り乱して、鼠は慌てて壁の穴に這入って行った。

ぼくは一応ブロックで以て壁の穴を埋めはしたが、細君は「パテ」とか云うので厳重に壁を埋めるらしい。いわく「私達もそろそろそれなりのトシだから中古のお家を買ってみたけど、中古はこういうのがあるから駄目ね。賃貸でも新しいところに移ろうかしら」と。

「それではぼくはもう仕事に行くから」と細君に云いおいて、着替えて出ようとすると、細君に「さっきまで飲んでいらしたんですから、車に乗ってはいけませんよ。電車でいらっしゃいな」と釘を刺される。なるほど、喉が渇いていたが、それも昨夜寝ない前に随分と葡萄酒を飲んだからであるような気もしてくる。

「わかっている。きょうはチョット遅くなるから」と云って、家を出た。駅までは家から随分歩くので閉口した。最寄りの駅は「奥多摩」と云うのだそうだが、東京の西の方やら、秩父の方やらにある、あの多摩ではないような気がしてくる。とにかく、此処に越してきた覚えはない。

後ろから、朝だというのに酔っ払いが歩いて近づいてくる。なにを云うわけでもするわけでもないけれども、少し身の危険を感じ出したぼくは外套(最近はあの通りの暑さだと云うのに!)の隠しから携帯電話を取り出して、密かに自分の背後を映してみた。然し、其れを目ざとく見つけた酔っぱらいの親爺は「何だ盗撮か、バカヤロー」と大声でがなり立てる。

…嗚呼、暑いな、と思ったらソファで季節外れの毛布をかけられたまま眠っていた。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。