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【夢日記】古書店

目の前にずらりと本棚が並んでいて、品定めをする客でごった返している。ぼくは古書店に古本を見ているのだが、子どもふたりが店内をうろちょろしていて迷子にでもなるのではないか、と落ち着かない。「まあ、迷子になっても自分らで帰ってくるさ」と自分に言い聞かせ、気を取り直して、背表紙を眺める。

顔なじみらしい店主がしきりに私に本を勧める。
「どうです、これ。正直言って難しすぎて、私にはなにやらわからない本だけど、あなた、きっとこういうのがお好きでしょう」
と洋書を手渡してくる。見たところ英語のようであり、紙質は洋書にしては良いもので、本全体がずっしりしている。明らかに表紙が外れてしまっていて、痛みがひどいが、そう古い本ではなさそうだ。

最初の頁に印刷された表題は "Being and Time" …何だ、ハイデガーの『存在と時間』じゃないか。本屋をやっているのに、ハイデガーの『存在と時間』を「なにやらわからない」だなんて…。この店ではもう何冊も哲学書を和書、洋書問わず買ってきたが、実はそんなに詳しくはないんだな、などと思った。見れば見るほど、うちの本棚にある "Sein und Zeit" の英訳本と同じもので、ただ表紙がとれただけのものである。

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そう思うと、ぼくは急に興味を失って、子どもたちの行方が気になりだした。どこまで行ってしまったのだろうか。店内はやけに広く、大きな本棚を何列も通り過ぎた。すると、不思議なことにそこは精肉売場になっている。高くて旨そうな肉がところ狭しと並んでいるが、そんなものを買う金なぞなし、また、そんなことをしている場合でもない。

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精肉売場を抜けると、今度は陶器がたくさん置いてある売場に出た。おかしいな、本屋に肉や陶器を売る場所なんて付いていたかしらんと思うと、ふとぼくの子どもたちが駆け出して陶器を割りやしないかと心配になってきた。弁償にでもなったら大変である。

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そう思ったら、触れてもいないのに、目の前の壺みたいなものがぐらぐらと揺れだして、ぼくの足元に落ち、がちゃんと大きな音を立てて粉々に割れてしまった。その「がちゃん」で気が付くと、布団のなかだった。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。