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アトリエで語ろう2

「こんなところにアトリエがあるのか」
現地調査に入った町役場の職員、相沢は驚いた。幼い頃、書道教室に通った記憶のある古民家の二階に、洒落たアトリエを見つけたからだ。昭和初期に建てられたそのアトリエは、当時の面影をそのまま残していた。
「らせん階段か」
 一階からアトリエに上がる途中の階段は、木造のらせん階段である。和風の建物に不似合いな板張りの床には、画家が落としたであろう絵の具の跡が、いまだに残っている。その画家は、大学卒業後、故郷に帰り、兵士として出征するまで、ここで絵画の制作に励んだのである。多くの作品が親族によって保管され、今は町に寄贈されている。いくつかの作品は、公民館などの公共施設で展示され、地元では名の知れた存在であった。
 この地域は田舎であるが故に開発から取り残され、逆に昔ながらの風景が残されている。現に隣の町では、昔ながらの町並みや芝居小屋で町の振興を図り、観光客を呼び込んでいた。
「何とかしてこのアトリエを保存できないものか」
相沢は思った。

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