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アトリエで語ろう

 ここは四国の山あいにある、小さな町である。町の中央を川が流れ、何キロにもわたって堤防が築かれている。川はほぼまっすぐで、はるか先まで見通せる。遊歩道も整備されていて、散歩する人や犬を連れて歩く人も多い。かつては鉱山で栄えた町であるが、今はその面影はない。東京でもないのに、「銀座」と呼ばれていた商店街も、歯抜け状態で、住宅や駐車場になっているところも多い。
 そんな商店街の一角に、古びた木造の商家があった。ぱっと見は普通の民家だが、その二階には普通見られない、特別な空間が隠されていた。アトリエである。天井が高く、通りに面したそのアトリエは、窓が大きくもうけられており、より多くの陽の光を取り入れることができる。かつてここに無名の画家がいた。絵画の才能に溢れ、将来を嘱望された、しかし、戦争によって若くしてその望みを断たれた戦没画家。そのアトリエが、大正、昭和、平成、令和の風雪に耐え、主を持つこともなく、ひっそりと佇んでいた。

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