見出し画像

学天即のラストイヤーを終えて


2020年12月20日。

ファイナリスト・敗者復活組の中で唯一のラストイヤーの学天即が、一度も決勝に行けぬまま15年のM-1人生の幕を閉じた。



私が学天即を追い始めたのは2015年M-1グランプリの敗者復活戦を見てからだ。久しぶりにM-1グランプリが再始動するとなり、午後から生放送の「敗者復活戦」を自宅で見ていた。

私自身その当時、バラエティで活躍しているメジャーな芸人以外はあまり知らず、こんなコンビもいるんだなと思いながら見ていた。その中でひときわ興味を引いたコンビがいた。学天即というコンビだった。

敗者復活でその時していたネタは「モテたい」というネタ。俺実はめっちゃモテんねん、と言うよじょうに対して奥田がつっこんでいくというネタ内容。

驚愕した。

正統派中の正統派漫才師で、しかもこんなに手放しで笑えるコンビに、初めて会った瞬間だった。腹がちぎれるくらい笑った。


わたしはその時大学生になりたての身分だったので、M-1グランプリ2015が終わった後、学天即を見に行くためだけにバイトを増やし、月の携帯代も一緒に払いながら、なんとかやりくりしてNGK夜公演や漫才劇場や祇園花月に足を運んだ。

吉本のポイントを貯めてなかなかいけないNGK本公演に足を運んだ時、びっくりした。ふつう、若手コンビなら老若男女が揃い集うNGK本公演でどの年齢層の方からも笑いをとる事は難しいのに、学天即はそれをいとも簡単にやってのけた。いや、簡単と言えば失礼かもしれない。けれど、あれだけ1階席からも2階席からも、10代から60代以上の方からも笑いを引き出せるなんて、と感動したことを覚えている(本来ネタを見て感動するなんておかしな話ですが)。

こんなに魅力的で面白い人達なら、絶対M-1グランプリ優勝できる!

そう信じてやまなかった。


月日が経ち、M-1グランプリ2016がはじまった。

今回こそ学天即なら絶対決勝までいけるはず。

準決勝敗退。敗者復活戦敗退。

まぁまぁ、また来年がある。まだ時間はある。



M-1グランプリ2017がはじまった。

今回こそ、今回こそは、決勝までいける、はず。

準々決勝敗退。

ここから、学天即の中でなにかが崩れはじめている気がした。

でも、あれだけいい成績を残している学天即が準々決勝敗退なんて、ありえない。審査員の見る目がないだけ。そうに違いない。

そう思っていた。



M-1グランプリ2018がはじまった。

あの学天即が、今年は1回戦からの出場。わたしにとっては大きすぎるショックだったし、多分、当人もショックだったと思う。

順調に予選を突破していき、そして、3回戦が来た。

3回戦でしたネタは「クリケット」。クリケットのルールややり方に奥田がつっこんでいくというネタ。

このネタが、その日の中でイチウケだった。何の贔屓目もなく、本当におもしろくて会場中が揺れるくらいウケた。最高だった。

まだ、まだ二人の中に勝機はあるんだと思った。

その日の終わりにたまたまよじょうさんと会い、「今日一番ウケてましたよ!イチウケだと思います」と伝えると「手ごたえはあったんやけど、どうかなぁ~」と言っていた。当人も手ごたえがあったという位には面白かった。

今回こそはこのままストレート決勝ありえる!と思った矢先。

準々決勝敗退。

またか。また準々決勝敗退。

思えばこの時点で、M-1の話になっても全然答えていなかった気がする。振られたとしても敗因を分析した上で「しゃあないっすね」「負けたんですし」ばかりだった気がする。

何回も聞いた。呆れるほど聞いた。

しゃあないっすね。仕方ないです。

なにが、仕方ないのか。



M-1グランプリ2019。

3回戦敗退。

なかなかに衝撃的だった。

初めて、好きな芸人の事で泣いた。あんなに泣いた日はなかったと思う。

3回戦を見に行ったとき、まずまずのウケ量と安定した漫才をしていた。

ボーダーギリギリかと感じたが、上げさせてくれるだろうと思っていた矢先の事だった。

ああもうだめだ。来年がラストイヤーになるけれど、来年は出ないかもしれない。学天即はここまでなのかもしれない。直観的にそう思った。



迎えた、2020年。

4月初めくらいにあった緊急事態宣言や自粛期間の間、色んな東京芸人の配信を見たりゲーム実況を見たりアニメを見始めたりして、学天即を見る機会は少なくなった。元々実況や配信などをするようなコンビではなかったし、自身のYouTubeチャンネルでネタ動画を週1ペースで投稿するだけだったので、必然的に見る機会は少なくなった。吉本自宅劇場でやっている人数限定のZoom配信も、私自身そういうのが苦手なので買う事もなかった。

仕事や自粛がある程度落ち着いて、やっと生でネタを見ることが出来たのは偶然にもM-1グランプリ2020の2回戦だった。

去年、もしかしたら2020年は出ないかもしれないと危惧していたが、無事にエントリーしてくれていた。

嬉しかったが、まさか半年以上ぶりに生でネタを見るのがM-1とは…と感慨深くなった。しかし同時に、見ていないからこその不安というものがあった。去年3回戦で落ちていることもあり、また今年は3回戦が撤廃され2回戦の次が準々決勝。実質2回戦が3回戦みたいな事になっていたので、不安でいっぱいになった。

M-1・2回戦1日目の大トリで出て来た学天即。流石の貫禄。

宇宙旅行ネタ。

違う!!と感じた。勿論いい意味で。

昨年までの学天即とは雰囲気が違う。今までパワーバランスが1:9で奥田さんの方が勝っていたのに、今回は5:5で対等な関係になっていた感じがした。というか、仲が悪かった一時期より格段に良い関係になっていた。

一体どこで変わったのか。自粛期間中かもしれないし、M-1に参加すると決めた瞬間かもしれないし。その期間を見れていないので何とも言えないが、明らかに今まで見てきた中で最も良い関係で良いコンディションだった。


M-1準々決勝。最後から2番目のブロックに出場。

ここが、ここが学天即にとっての最初の関門だった。去年一昨年と準々決勝で敗退している。ここを越えたら、決勝に行こうが行けまいが12月20日はM-1に携わることが出来る。客席で心の中で祈りながら、心配しながら出番を見ていた。

宇宙旅行ネタ。

よしよし、ウケてる。拍手笑いもあった。あとはもう、ここで振り落とされないことを祈るのみ。



M-1サポーターズに入会していたので公式より先に結果を見れたのだが、学天即の3文字を見た瞬間、崩れ落ちた。めちゃくちゃ嬉しかった。どうなろうが当日20日に全国放送で漫才を見れる事が確定した。もう一度チャンスが訪れた。それだけで本当に心の底から嬉しかった。

わたしの心配が杞憂で終わって良かった。



M-1準決勝。

あいにくこのご時世なので現地に行くのは憚られた。ので、リアルタイムライブビューイングへ行った。

出てくるのは最後のブロックのトップバッター。

はりけ~んずさんの紹介の後、出囃子と共に出てきた瞬間「あ、これめっちゃ緊張してんなぁ(笑)」と思った。奥田さんのかかり具合がすごかった。

奥田さんは元々、緊張しようがしまいが通常寄席だろうが寒かろうが暑かろうが手は震えてしまう体質だと以前仰っていたけれど、通常の手の震えの5倍は震えていた。

更にネタ終わり捌けるときは方向を間違えて(これは本人曰く、寄席や本公演では出て来た場所に捌けて帰るのが通常だから、それが身についてしまっていて、かつ直前に捌ける方向を教えられたからごっちゃになったと)いたので、15年のベテラン漫才師をも狂わせてしまうのがこの準決勝なんだとこの目で見て感じた。ちなみによじょうさんはいつも通りだった。



ライビュが終わり、帰路についたところでM-1決勝進出者発表会見。

前から3列目あたり、真ん中に2人は立っていた。

2723。この4桁のエントリーナンバーが呼ばれる事は、とうとう最後までなかった。

最後まで呼ばれなかった時、奥田さんは顔を伏せ、よじょうさんは前を見つめながら黙って噛みしめていた。

画像1

悔しい顔を見て、胸が痛くなった。

こんなに実力があるのに、どうしても、どうしても行かせてくれへんのかM-1は。


その次の日から寄席出番が格段に増えた。勿論他のファイナリストや敗者復活組も増えていたが、学天即の出番が一番良く増えていた感じがする。

関西芸人のマネージャーの中で一番信頼できる人(わたしのなかで)である三木マネージャー(元は吉田たちのマネージャーもしていた)が上手い事出番を入れてくれているおかげで、一気に15ステくらい増えていた。本当にありがとうございます、頭があがりません。


敗者復活の前日、頑張れの意味を込めて奥田さんにメッセージを送った。

返って来たのは「素敵な明日を過ごせるように頑張ります」という言葉。

これ以上何も言う事はあるまい。いいねを押して、明日を待った。



12月20日、敗者復活戦本番。

本番前のくじ引きでは11番目。1番~3番さえ回避したら…!と思っていて、くじ引いたときに「1」が出て一瞬焦ったけど11番で良かった。これは風吹いてる!なんかあるかも!と思いながら本番へ。

風が強く寒い中での舞台。

「誕生日サプライズ」というネタだった。花田優一さんを使った自身の見た目のツカミ、奥田さんの誕生日に関するサプライズパーティーを軸にして、後半はSMAPの歌「世界に1つだけの花」をハモるネタへ。まさに学天即のテッパンネタを2種混ぜて揃えた、集大成。寄席でも営業でも本公演でも見たことのある、”絶対ウケるテッパンネタ”だった。

今までM-1に対して消極的で意欲も削がれていたように見えていた2人が、本当に勝ちに来ている。15年目の本気を感じ取った。

すっごく、すぅっごく、楽しそうに2人は漫才をしていた。

嬉しかったし、面白かったし、泣きそうにもなった。

なにより。

ネタを終えて帰る背中が、誰よりも格好よかった。




敗者復活戦を終え、本戦中での結果発表。

結果的に35万票以上を獲得したインディアンスになってしまったけれど、あれだけ今が旬の若手が居る中で最終的に4位に位置づけられたのは、それだけ視聴者が面白いと思って投票してくれて、上げたいと思って投票してくれたから。

それだけで十分満足したし、どんなことよりも嬉しかった。

感染拡大措置のためにあっさりとラストを終えた展開になったのは残念だったけど、"最後"をしっかり見届けることが出来て良かった。


その後、急遽として出演した「テレビ千鳥」では、千鳥の2人がラストイヤーで決勝に上がれず終わった二人の為に、THE NORTH FACEの9万弱のダウン2着東京から新大阪までのグリーン席2枚「ペニ根太 先細赤」と書かれた色紙をプレゼントしていた。

テレビ千鳥の年内最後放送に学天即を持ってくるのは粋で、千鳥の2人も優しい方々だと思ったが、何よりも嬉しかったのが、「なんで?なんで?」と言いつつ奥田さんもよじょうさんも笑っていた事だった。

やっと憑き物が落ちて浮かばれた。そんな顔をしていた。



12月20日で学天即のM-1人生は終えてしまった。

けれど、12月21日からはまた漫才師として歩んでいっている。

前を向いて歩いている。


今後、15年目の中堅実力派漫才師として、色んな番組や舞台に呼ばれていくことだろうと思う。

15年を迎えた漫才師が次に目指す賞は、”上方漫才大賞 大賞”。

いつか学天即がその賞をとるまで、わたしはまだまだ応援していこう。





短いようで長いようにも感じた私自身の5年間を、このnoteに記録として刻んでおく。

2020年12月22日

ほんとによっぽど物好きな方のみサポートの方お願いします。 強制はしません。自分で言うのもあれですがオススメもしません。