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下方へ <1968>  【監修済】

2ヴァージョン

(1973年1月のテキスト)

 アンサンブルのための『下方へ』は1969年8月28日の午後6時と午後8時の間に2回録音され、そして私はのちに両方 ---第一ヴァージョン(30分20秒)と第二ヴァージョン(18分)---を放送用に選びました。いずれのヴァージョンもCD14Cに収録されています。
 『下方へ』は事前に演奏やリハーサルをされたことが一度もありませんでした。演奏者はアロイス・コンタルスキー(ピアノ)、アルフレート・アーリングスとロルフ・ゲールハール(マイク付きタム・タムと打楽器)、カルロス・R・アルシナ(ピアノ)、ジャン=ピエール・ドルーエ(打楽器)、ヴィンコ・グロボカール(トロンボーン)、そしてカールハインツ・シュトックハウゼン(カッコウ笛、竹笛、短波ラジオ、石を入れたグラス、砂と小石を入れた厚紙製の箱、タム・タム用フィルターと2ポテンショメーター)。

『下方へ』

一つの振動を奏でよ、あなたの手足のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの細胞のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの分子のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの原子のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの内的な耳が到達することのできる
最も小さな粒子のリズムで

あるリズムから別なリズムへと
ゆっくりと変化させよ
より自由になって
意のままにそれらを交換できるまで

                            1968年5月8日

 『下方へ』の録音の前、そして録音中に、他の演奏者の心の中で何がおきているかは私にはわかりません。『七つの日より』のほとんどすべての演奏でもそうです。演奏家は自分たちの「内的な生活」についてあまり語りません。録音にかなり先だって、私はテキストを彼らに送っておき、誰がどのテキストには参加をのぞまないかを知らせるよう求めました。数名の演奏者は率直に返答をよこし、自分はこれこれのテキストでは何をしてよいかまるで見当が付かない、だから演奏しないということでした(意見の変化もまたありました)。
 『下方へ』のための私自身の準備をするにあたって、あらゆる種類の物を試しました:カッコウ笛、竹笛、タンブラー、小さな四角形のふたのない厚紙製の箱、そして短波ラジオ、まだ他の物も。私はさまざまな小石やいくらかの粗い砂を入手しました。
 とにかく、私は実験を通じて次第に5種類のタイプの音造りを選びだして、テキストに述べられた個々のリズムに以下のような方法で関係づけました:

「一つの振動を奏でよ、あなたの手足のリズムで」
 カッコウ笛、高音の竹笛(指穴全体での急速運動)

「...、あなたの細胞のリズムで」
 石をいれたグラスをゆっくりと廻す、時々滑らかにあるいはがくんと揺さぶる

「...、あなたの分子のリズムで」
 小石といくらかの粗い砂の入った箱をゆっくりと廻す、斜に持って「なだれ」のようにする、穏やかに揺さぶる(そして時には素早く)

「...、あなたの原子のリズムで」
 唇と前歯の間で唾液を内外にすする、舌を押しつけるなど、すべてマイクにとても近づいて

「...、あなたの内的な耳が到達することのできる/最も小さな粒子のリズムで」
 さまざまなヴァリエーションで唇を通して息を吹く:空気のサラサラいう音、カリカリいう音、短波ラジオの「パチパチいう音」(すべてマイクにとても近づいて)

 そして指示はつづきます:「あるリズムから別なリズムへとゆっくりと変化させなさい/より自由になって/意のままにそれらを交換できるまで」。
 さらに述べておかねばなりませんが、このテキストの演奏では---そして他のテキストにおいても---、演奏者は、ときどき個々の指示を飛ばして、その代わりほかの指示により長い時間留まったり、あるいは「沈黙を保って」いました。

[翻訳:山下修司、監修:清水穣]