見出し画像

少年の歌 <1955-56> 音楽と話声 【監修済】

電子音楽

『少年の歌』における音楽と話声

(1957年春に書いたテキスト)

「三人の少年の賛歌」は「ダニエル書」の典外書からの一連の歓呼であり、かなり一般的な知識です。『少年の歌』の作曲はカソリック・ミサのあとで唱えられるドイツ語版に基づいています(同じラテン語のテキストのドイツ語訳にはよく使われているもので数種類ありますが、私はそれぞれから必要に応じて音節や語句を選択しました)。以下が言語的素材として使用された詩句です:

Preiset(jubelt)den(m)Herrn,ihrWerkealledesHerrn-
lobtihnundu"beralleserhebtihninEwigkeit.

PreisetdenHerrn,ihrEngeldesHerrn-
preisetdenHerrn,ihrHimmeldroben.

PreisetdenHerrn,ihrWasseralle,dieu"berdenHimmeln sind-
preisetdenHerrn,ihrScharenalledesHerrn.

PreisetdenHerrn,SonneundMond-
preisetdenHerrn,desHimmelsSterne.

PreisetdenHerrn,allerRegenundTau-
preisetdenHerrn,alleWinde.

PreisetdenHerrn,FeuerundSommersglut-
preisetdenHerrn,Ka"lteundstarrerWinter.

PreisetdenHerrn,TauunddesRegensFall-
preisetdenHerrn,EisundFrost.

PreisetdenHerrn,ReifundSchnee-
preisetdenHerrn,Na"chteundTage.

PreisetdenHerrn,LichtundDunkel-
preisetdenHerrn,BlitzeundWolken.

***

汝らはみな主の業、主を(主に)讃えよ(歓呼せよ)-
永久に万物の上にまします主を讃えよ。

汝ら主の天使達よ、主を讃えよ-
汝ら天上の住人よ、主を讃えよ。

汝ら天上のすべての水よ、主を讃えよ-
汝ら主の万軍よ、主を讃えよ。

太陽と月よ、主を讃えよ-
天の星々よ、主を讃えよ。

あらゆる雨と露よ、主を讃えよ-
あらゆる風よ、主を讃えよ。

炎と熱よ、主を讃えよ-
寒さと厳しい冬よ、主を讃えよ。

露と雨の滴りよ、主を讃えよ-
氷と霜よ、主を讃えよ。

霜と雪よ、主を讃えよ-
夜と昼よ、主を讃えよ。

光と闇よ、主を讃えよ-
稲妻と雲よ、主を讃えよ。

━━━━━━━━━━━━

以上は賛歌の九つの節ですが、通常使用される翻訳ではこの賛歌にはさらに11の節が含まれます。(「preiset(讃える)」の代わりに「jubelt(歓呼する)」を文脈に応じて用いました。)
 テキストでは基本的に3語(preisetdenHerrn/主・を・讃えよ)が問題となっていて、それが絶えず繰り返され、繰り返されながらあらゆる事物が列挙されていくのです。明らかに、この列挙はいつまでも続けられますし、または最初の行の後で中断したり、「すべての被造物 alleWerke」という本来の意味は変えないで行や語句を入れ替えても構わないでしょう。つまりこのテキストは、文学的形式とそのメッセージなどを気にせずに、純粋に音楽的な構造(おもに順列によるセリエルなそれ)へと特によく統合されうるのです。「少年の歌」はある集団的な知恵を思い起こさせます。あるときpreist(讃えよ)の語句、別のときにHerrn(主)の語句(あるいはその逆)が発せられると、人は常にすでに知られている言語的つながりを想起します。つまり、語句は記憶され、そして重要なのはそれらが記憶されたこと、そしてそれらがどのように記憶されたかであって、記憶される個々の内容は二義的なのです。注意は宗教的なものへと向かい、言葉はそのとき儀式になります。
 『少年の歌』は緊密に関連しあう六つの構造によって作曲されています。この形式区分が感知されるのは、比較的長い6つの構造それぞれにおいて、"preist"(讃えよ)や"jubelt"(歓呼せよ)が"den Herrn"(主)との関連でとてもはっきりと聴かれることに依ります。これが関連性を産み、大きなタイム・スパンを架橋するのです。
 第一の構造では(冒頭から10.5秒後)遠くで、"jubelt"の語句がまだ不明瞭に聴こえます。
 第二の構造(1分02秒から)では、"demHerrnjubelt"がまず合唱のように聴こえ、そしてすぐ後に(1分8.5秒からと1分58.5秒から)非常に近くで、独唱で"preisetden Herrn"が聴こえます。
 第三の構造(2分52秒から)では、独唱で"preisetdenHerrn"
 第四の構造(5分15.5秒から)では数多くの声が和音で"preisetdenHerrn"を唱う(5分46.5秒にもう一度)。
 第五の構造(6分22秒に始まる)では遠く離れたところからポリフォニックに"Herrnpreiset"(6分52.5秒)と"preiset denHerrn"(7分20.5秒と7分51秒)が聴こえます。
 第六の構造(8分40秒から)では独唱が、大きく旋律の弧を描きつつ"jubeltdemHerrn"(8分40秒)、それから"preist"(8分51秒)、そして"ju------belt"(10分50秒)。

さてこの作品では、歌われた音響は電子的に製作された音響と、一つの共通の音響連続体へと融合されねばなりません。冒頭で述べたように、融合したサウンドは選択された音楽的秩序が命ずるままに、速く、長く、強くそして弱く、密集して織り交わり、どんな小さな、どんな大きな音色や音色比においても聴取可能でなければならないのです。これは持続、強弱、そして音高の調整にとっては、とくに困難ではありませんでした、というのも、すべての話声音響あるいは音節は各パラメーターを正確に制御して(発信器の音を規準とし、一つ一つの音調整のために必要なだけに数多くの実験をした)別々にテープ録音できましたし、また、この素材をのちにさらに加工する際に、もっと厳密な修正を加えることができたからです(オクターブあたり最大42段階の周波数、強弱、持続のスケール)。
 セリエルな作曲という意味で、言語の複雑な音声学的構造を使用するためには、ある所与の音声システム(この場合はドイツ語)の個々の単一音響のあいだに、様々な数の中間段階が必要であり、そうやって一つの連続体から規則正しい音色のスケールを選択できるようになるのです(例えばある母音から別の母音への、母音から半子音へ、子音へ・・の中間段階)。これは --可能であるとすれば--電子的な音響製作によってのみ可能なのです。
 逆の言い方もできます:電子的に製作された音響の、ある選択されたスケールにおいてその個々の段階が、歌われた話声音響によって占められるのです。任意の箇所において歌が電子音響のように、そして電子音響が歌のように聴こえてはじめて、統一的な音響ファミリーが経験されます。(個人的な発声と「フォルマントの個性(個人の声色)」に関して)最大限の均質性を得るために、あらゆる必要な話声音、音節、シラブル、語句、そしてときに語群は、一人の12歳の少年によって歌われ --音高、持続、強弱と音色表現を少年に分からせるためにさまざまな方法を使用しました--それをテープに録音してさらに調整を加えました [英語訳注]。要求されたスケールの両極は次のようなものです:楽音-母音←→子音-ノイズ; 楽音領域のなかでは、最も暗い[u]←→最も明るい音色[i]; 楽音-ノイズの二項対立においては、純粋なハーモニック・スペクトル←→部分音が確率論的に入り乱れるノイズ帯域; ノイズ領域のなかでは、無声音の子音の最も暗い音色[x](有気帯声音・荒い息の音)←→最も明るい音色[s](濁らないs)。

 「音色連続体」に対応して、この作品は「言語連続体」というコンセプトに基づいています。作品の特定の箇所では歌われた音響群が、意味の解る音声言語つまり語句になり、別な時点にはそれらは純粋な音色特質つまり音響のままにとどまります。これらの両極のあいだに言語的理解可能性のさまざまな段階があります。これら様々な段階は、文章のなかの語の置換、語のなかのシラブルの置換、シラブルのなかの音素の置換、あるいはある話声ユニットを何の脈絡もない異質の話声や音響要素と混合することによって生じます(jubilt=「jubelt」の母音eをiに置換, Son-合成音響-ne=「Sonne・太陽」という名詞のなかに合成音響が挿入される、など)。もちろんその際、テキストにはない新しい語の組合せが結果として生じます:Schneewind(雪風)、Eisglut(氷熱)、Feuerreif(炎霜)など。
 音響上の関連は、語句の理解可能性にやはりはっきりとした影響を及ぼします(例えば、人工的エコーによる空間化の度合、音の強さの度合、同時的・継起的イベントの密度など)。
 つまり、音と言語の連続体から個々の段階を選択することによって、作品のなかから「言語」が出現するようにしたいのです。語句の理解可能性がつねに「意味のない」音響から言葉への突然の転化として生じるわけではないのですから ---「不明瞭な発声」「うつろ聴き」「不完全な理解」を思い浮かべてください。むしろ「聴く」から「理解する」までには連続的な推移がありえます。音響-音色面の記号構造が優位ならば、それはより音楽的であり、その言語モチーフ面が優位ならば(音響がはっきりした意味を持つ)それはより話声的である、と言えるでしょう。推移は流動的です。話声は音楽に接近し、音楽は話声に接近して、最後には音響と意味の間の境界線が消えることもありうるのですから。
 もし聴衆にドイツ語の語句が理解できないとしても「理解可能性の度合のセリー」の構造的な機能を認識することは可能でしょう。そのセリーは、歌われる一連の話声音響の段階的な変換セリーと結び付けられているからです。変換レベルが増すにしたがって非・歌唱的な音響結合に似ていき、ついには電子音響がそれにとって代わります。つまり、「歌唱」であるという明確な知覚は、同時に「理解可能性の度合の最も高いこと」を意味します。「理解可能性」の概念は意味論的に、かつ音響-音声学的に分析されているわけです。

『少年の歌』の冒頭では、理解可能性の七つの度合のセリーが聴かれます。

1.「正確には理解不可能」、閉鎖空間で、遠くで(10.5秒):語句はjubelt。

2.低音量・高密度で、声の群れ、音節置換、開放空間で、とても遠くに、比較的短く(約3秒間)(15.4秒後):私はこれを「理解不可能」に分類しました;語句はjubelt demHerrn。

3.わずかに密度低く、その代わりかなり長く(約6秒);音量の増大と減少、そして次の複合体の中央部での空間的近接のおかげで、いくつかの音節がいくらか理解可能になる(20.2秒後):「かろうじて理解可能」に分類;語句はPreiset denHerrnihrWerkealledesHerrn。

4.とても短い話声複合体が後に続く(約1.5秒)、音量を増大させて、低密度で、空間的にとても近付く(27.4秒後):これは「まず理解可能」そして

5.すぐに後に、ゆっくりはっきりと歌う独唱によってうしろからサポートされる(28.4秒後):lobtihn-lobet ihn、「理解可能」に分類。

6.音節と語句の種々様々な置換が最長・最密のグループで同時に生じる、大きな強弱変化量(34.5秒後):「ほぼ理解不可能」に分類;語句はuber allesihn。

7.広大な共鳴空間;とてもゆっくりと、そして---オリジナルの5トラック・バージョンでは---分離されたスピーカーから独唱で歌われる(42.3秒後):「ほぼ理解可能」(しばしば誤解される);語句はin Ewgkeit。

言うまでもなく、これら理解可能性の度合は正確に測定されうるものではなく、ただ数多くの実験、アンケートとテストに拠るものです。様々な聴衆をあつめて意見を求め、彼らが首を振ったり、「これは歌だ」と言ったり、推測し、推量し、間違った主張をし、正しい理解を示すところからのみ、このように質的な理解可能性のセリーが作られるのです。
 七つの例から、例えば以下のセリーができます:不正確に-不可能-かろうじて-まず-完全に-ほぼ不可能-ほぼ理解可能。数値で表せば、これはほぼ5-1-2-6-7-3-4(1は最小の理解可能性、7は最大)となるでしょう。
 上記の話声複合体の開始と持続は時間セリーに従い、それが作品の第一構造をその時間配分において明確化します。同時に、二つの独立した時間層が進行していて、その一つは「インパルス群」によって、もう一つはいわゆる「カラー・ノイズ帯域」によって特徴付けられます。理解可能性について語ったときには、いつもこれら同時的で純粋に音響的な層がすでに考慮にはいっていました(例えばノイズ帯域が語句の理解可能性に影響を及ぼす、妨害する、部分的に隠すなど)。
 どのように「語句の理解可能性」が形式の分化に参与し、機能的になるかという点を考慮しつつ、構造Iの全体を何度も聴くことが最良です。

次に続く構造IIはさらなる空間の奥行き、密度の層と音域の変化を通じて、この話声の細分化を拡大しています。また、少年の声がとてもクローズ・アップして、とても大きな音で彼の最良の声域で preiset denHerrn と歌うときには、これまでで最大の理解可能性の度合を提示します。

次の構造IIIでは、これまでにときどき声の群のなかから浮上していた単一音節が単独化してしまい、最初の二つの構造で聴かれたような声の群や長めのインパルス群は、この第3構造ではただ散発的に密集した塊として鳴り響くだけとなります。個別の音節が完全に理解可能なとき、ある音節から次の音節への間隔が重要な機能を担うことに注目してください。音節は完全に明確ですが、しかしその代わりそれはたいていバラバラになった語の部分音節か、分解された文章中の語句です。こうして今や音節の間の「休止」が理解可能性の度合を支配することになります。つまりある単語の二つの音節が互いに近付いていればいるほど、人はその語句の意味に注意し、離れていればいるほど、そしてまるで異質な電子音響イベントによって遮られていればいるほど、言語的関連を失いやすくなるわけです。純粋な音響では不可能なことが、話声の使用によって達成されます。点的な変化(音節)が群へと --ときにかなりの隔たりをこえて--連合されるのです(語句や文)。例:2分52秒から。
 中間休止としての休止(「コンマ休止」または「ピリオド休止」)に「思考のための休止」が付け加わります。「音響休止」に対する「話声休止」というわけです。いくつか例を挙げますと:
 分離された動詞と目的語:preist(讃えよ)------denHerrn(主を)。
 語の音節、そしてund(と)という語によって関係づけられた二概念の分割:Son----neund----Mond(たいよ ----うと----月)。
 未解決にされた所有格:desHimmels(天国の)--------(何?)--Sterne(星々)。
 そしてシンタクスの分裂:al---lerRe---genund----Tau(すべ---てのあ--- めと----露)
 allerRegenundTau(すべての雨と露)とは何か?解答:denHerrnpreist(主を讃えよ)--- そこにさらにihrWin--de(汝らか--ぜよ)がつきます。

この構造IIIにはいたるところに裂け目が出来ています。直前の構造における声とインパルスの巨大な個々の塊が、単一の音節と一つのジンテーゼを生み出しているのです。孤立した音節が、合唱の音響の柱の中に居残り続けています。前の構造にあった、ある部分音節と次の部分音節の間、または語句と語句の間の休止 --しばしば聴衆が純粋に音響的な時間経過へと注意を振り向けられるくらい長くとられる休止--は、いまやますます「空虚」にされ、いわば音響的にはより空虚に、内容的にはより充実してくるのです。理解可能な音節の塊のあいだで、前の構造の残りの音響層は、理解不能で、純粋な音響に極めて近づいた歌唱複合体として続きます(5分15.5秒から)。

構造IVは、音節と休止だけでできている純粋な話声の領域へと流れ込みます。話声と音楽のあいだの推移において、この構造は作品の一つの極値です。これ以上はっきりと話声が音楽的構造から際だつことはありえません。そしてためらいがちに入り込んでくる純粋な音響構造のあとでは、いまや歌われた言葉を音響に接近させるあらゆる理由があります。そこで言葉の音響面が、数多くの段階において意味を多かれ少なかれ消し去ろうとすることになります。

どのように音節や語句が、純粋に音楽的な形式規則(置換、グループ形成)によって構成されているかは、前述の「サウンドの構成」の章ですでに触れました。そこではまた、正弦波とホワイト・ノイズのあいだのさまざまに複雑な波動構造として、選択された基本要素を挙げておきました。
 この作品では、ある形式上の大構造から別の大構造へと--時間のセリーの最大の投影に従って--使用される音響要素の数と組み合わせが次々に変化します。例えば作品末尾の構造のための以下のプランにおいて、基本要素の頻度配分や比率がどのように正弦波複合体から歌唱の和音へいたるまで変換されるのかを、次の一覧表から知ることが出来ます。要素グループA-Wは、様々な持続の23個の時間セクションにとって規準となります。個々の要素(SK-GA)は全体構造において等しい頻度で出現します。

省略記号:

SK  =正弦波複合体(定義された周波数の正弦波群、とても複雑なリズム的微細構造の持続と強弱);
IK  =インパルス複合体(インパルス群はSKと同様);
LS  =話声と音節;
R   =約2%の幅(Hz)でフィルター処理されたホワイトノイズ;
I   =単一のインパルス;
SV  =合成母音音響(倍音に富むスペクトル、様々なフォルマントの組合せで);
RO  =1-6オクターブの幅でフィルター処理されたホワイトノイズ;
IO  =統計的に規定された密度のインパルス群、1-6オクターブの幅でフィルター処理;
IA =単一のインパルスの和音(そのつど用いられているスケールの音高);
RA =2%の幅(Hz)のノイズの和音(スケールに応じた真ん中の音域);
SA =正弦波音の和音(非和声的スケールの場合は正弦派音の混合音、つまり和声的スケールの場合の境界例としての音響)[英語訳注2]
GA =声の和音(歌われる音響の重ね合わせ)。

音響要素のスケールの組織化(話声音を合成音響へ統合する)のためには、音声分析学の方法)が活用されました(母音-正弦波音:子音-帯域ノイズ;破裂音-インパルス;数多くの混合形態)。


A- SK
B- 〃 IK
C- 〃 〃 LS
D- 〃 〃 〃 R
E- 〃 〃 〃 〃 I
F- 〃 〃 〃 〃 〃 SV
G- 〃 〃 〃 〃 〃 〃 RO
H- 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 IO
I- 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 IA
J- 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 RA
K- 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 SA
L- 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 GA
M-  〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 
N-    〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 
O-      〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 
P-        〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 
Q-          〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃
R-            〃 〃 〃 〃 〃 〃 
S-              〃 〃 〃 〃 〃 
T-                〃 〃 〃 〃 
U-                  〃 〃 〃 
V-                    〃 〃 
W-                      〃 

この連続的な要素交代は、この作品では近しい傾向の四つのセリーに分割されました。
  A E I M Q U →
 → B F J P T(X)→x
 → C G K O S W →
 → D H L N R V 

xは、作品の全体的レイアウトから導かれる、特別に定義される構造をもちます。

時間的に定義された部分構造の各々において、上のように選択された要素は置換によってグループを形成します。時間構造の印はどこに変化が必要かを表し、これらの変化はふたたび --それ自身の上位の時間秩序にしたがい--グループごとに別れます(例えば、ある時間領域では1要素~4要素のグループ、次の時間領域では1要素~6要素のグループなど)。さて、この構造には四つのグループ形態があります:どのグループも均一に異なる(例えば3IK、2LS、4R、1SK)、グループすべてが均一だが、異なる要素で終わる(例えば2SV-GA, 4SV-R,IK,SV-I,3SV-LS,...など)、グループは内部的に変化を与えられるが終わりは同じ、個々のグループ均一で、ある固定された要素が常にグループの終わりを示す。
 ここからおわかりのように、話声音響と他の音響要素とのあいだにいかなる対立も形成されず、それらは規定された音響スケール内の位置に従って機能しているのです。二つ以上のLS(話声音と音節)をもつグループは音節や語句を形成する機会を与え、そしてこの機会は、理解可能性の度合(それは上位の時間構造に依存する)に応じて、利用されます。
LSの音響としての利用は(すでに確定された音高、持続と強弱を除いて)、構造内部における母音の明・暗あるいは子音の有声・無声の配分のセリーの度合いに従いますが、ただしそのような度合を選択されたテキストの話声的要素と常につきあわせてみなければなりません。このことを、ある部分構造のために制作された話声音節のシーケンスを例にとって説明するのが一番よいでしょう。[]内の発音記号は、どの観点から音節が選択されたかを示します。
 これらの例では、[]で示された母音音素の音高が、持続させられる(そして音節内の母音前後の半子音的ないし子音的な音素はとても短いアタックやディケイとして扱われる)か、あるいは、それぞれの持続の最長部分を有声音子音のために使うか(W-erk、[tu]j-)、あるいは、無声音の子音が長い持続(Sch-a、[Rei]-f-)やアクセント付け(Wer"k")によって強調されます。その際、やはり様々な形態が交代します:同じ母音、異なるアタックをもつ音素など。6つの要素からなる4グループは:

 母音   有声子音   無声子音   破裂音
    (しばしば引き延ばされる)  (硬・軟)

<発音記号など>略

母音的に均一な構造では、テキストの類縁関係にある語形を特に利用さしました:二重母音[ai](Reif、preis、Eis、-keit)あるいは[ε](Werk、Herrn、Stern、Na"ch-、-gen、-ren、des、-set、-kel、-len、-ken)。必要な場合は、そのようなグループを無意味な音節(ult、jep、tuj)で補完しました。
 それよりも聴き慣れないケースとして、子音が強調された構造(ノイズ)の例を説明しましょう。そこではノイズ要素に関連して、主に[s]と[t](無声子音)の音素をともなうLS構造が現れます。これらの音素は、所定の音高の非常に短い歌い出しの後で、すぐ発音は子音の方へ移行し、引き延ばされた子音の発音によって所定の持続が満たされるように製作されました。この際、子音の周波数音域をも区別します:高音の[s]、中音の[s]、低音の[s]などです。発音の入りと終わりが様々に交錯し、同時にいくつもの層を成すので、そのような長めの箇所は子音的複合体へと形成されます。[s]と[t]の例としては:

<譜例>略
音節の下の数字は(短い)初めの母音の音高をHzで表わしたもの。

このLS複合体は約6秒間続きます。同時にそれはRとIのグループと結びついて、いつのまにかカラーノイズの複合体([s]と[t])に移行しています。次には主に子音[∫][f][s][ c]を伴う構造がそれに続き、それはSch(nee)、(Rei)f、(prei)st、(Na")ch-(te)といった語から採られた音で補完されています。

ここまで挙げてきた例は、音声学的な要素に基づき、それらの要素のパラメータは作曲をつうじて別々に規定されていたわけですが、話声を扱うにはさらに第二の方法があり、それは直接に上位の統計的な構造概念から始まります。
 統計的な構造は次のように実現されました。例えばある特定の複合体A/IVにおいて、セリエルに規定されるのは:六つの層が使用される数、層あたりの音節の数(5-10)、個別の層の全体的な持続(秒あたり76.2cmにおいて)、音節シーケンスの相対的な時間配分と音高方向、複合体の全体的な運動方向と周波数帯幅(933:767Hzから508:400Hz)、そして平均して優勢となる音声学的構造([u]、[ ]、[ε]、[e:])。グラフィックな譜面とテープ上に準備された手本(おおよその音高と持続が指定されている)の助けをかりて、個々の層が歌われ、そのなかから最上の結果を選んで重ね合わせました。少年が歌った6つの譜面は次の通りです(6層は後に「同期」させられ、たがいに同時に織り交じわることをイメージして下さい):

<譜例>略
(初めはすべての層が同じ平均的強度で録音されました。)

そのような複合体が、さらに強弱エンベロープ|\、/|、/\、|\/|によって調節され、残響処理され、あるいは別の複合体と同期されるのです。それらはもう平均の密度(製作された層の数、層あたりの音節の平均数、そして層の平均の持続)によって、平均の強弱によって、そして空間的投射のタイプ(遠くから近くへの、そして逆もまた同様の空間的な奥行き、;オーディトリウムにおける音響素材の空間的な方向性、そして空間における運動の方向性---反時計廻りや時計の回転、対角線的な空間移動など、聴衆を囲むスピーカー)によって区別することができ、そしてその言語の理解可能性の度合に関して調整されます。
 混合タイプのセリーもあって、ここに説明された話声音響構造の極端な形態の間に数多くの段階が生じます。

『少年の歌』において言葉と音楽の問題にどのように取り組んだか、それについて上記の説明がおおよその概念を伝えていることと望みます。譜例を補うことはできません。というのも、私の作業ノートは製作のための指示と五台のスピーカーの同期プランにすぎず、音響現象についてはただ間接的な指定が書かれているだけですし、それに私は楽譜の清書を作成するのに必要な時間をとりませんでした。基本概念は明らかになったことと思います。相異なるものを、まず出来るかぎり滑らかな連続体のなかへ位置づけること、そしてこの連続体からあらゆる多様性を抽出してそれによって作曲すること。
 1954年から1956年の二年間の製作作業が、歓喜に満ちて神を讃える素晴らしい時間であったこと、そして私自身が「燃えさかる炉のなかの少年」であったことを心に留めておいていただきたいのです。

[英語訳注:『少年の歌』のすべての音声素材を歌った少年は、スタジオでの録音セッションの間、いつもイヤフォンから、私自身が正弦波音をテープに録音して製作しておいた手本を聴くのでした。これらの手本は単音か旋律的な断片のどちらかで、各手本の後に休止をはさんだテープ・ループのかたちで作成されました。少年は各手本を何度も模倣しました。その結果は再生されて、各手本の最も正確なテイクバージョンが選ばれました。
 「調整」は主に強弱と持続に向けられました(例えば、残響処理など)。話声音響はカットされることなく、フィルター処理や別なかたちでの変調も施されることなく、本来の音色にあまり影響を及ぼさないように、ただ音高のとても控え目な変更がなされただけでした。]

[英語訳注2:協和音程---所与の基音上の純粋なオクターブ、5度、長三度など---を多かれ少なかれ含む様々な一連のスケールを使用すると、そうして出来た正弦波音の和音は多かれ少なかれ統合された音色になります。シュトックハウゼンがそのような「自然」音程に対応する周波数比を最小限しか含まないスケールを「非和声的」スケールと名付け、倍音スケールの比に対応する周波数比を数多くもつスケールを「和声的」スケールと名付けるのはそのためです。]

[翻訳:山下修司、監修:清水穣]