ミクロフォニーI <1964>
タム・タム、2マイク、2ポテンショメーター付きフィルター(6奏者)のための
(1965年1月にWDRケルンでの『ミクロフォニーI』の初放送のために書いた紹介、1994年に編集と補遺)
紹介
1964年の夏に私は二つの作品を作曲しました。最初の作品は5オーケストラ・グループ、4正弦波ジェネレーターと4リング・モジュレーターのための『ミクストゥール』でした。四つの器楽グループの演奏する音響はマイクで---各個別に---ピック・アップされ四つの信号音と混合されて四台のリング・モジュレーターに接続されます。これらのモジュレーターの中で楽譜の指示に従って演奏者によって操作される正弦波ジェネレーターによって器楽音響は音色、リズム、強弱レベルと音高において変調されます。リング変調された音響は四つのスピーカー・グループから---オーケストラ音響と同時に---サウンド・プロジェクショニストによって投射されます。これに、第五のグループが追加されます:3タム・タムと3シンバル、コンタクト・マイクによって増幅されて3台のスピーカーから演奏されます。
1967年に作成された『ミクストゥール』の二つの録音がシュトックハウゼン全集CD8でリリースされています。
オーケストラとリング・モジュレーターのための『ミクストゥール』を書き終えた後で、私はマイク録音のプロセスを---柔軟に---作曲する方法を探究しました。今日まで固定したものとして、可能な限り忠実に音響を再現する受動的な録音機器として使用されたマイクを、音楽的な楽器になるようにし、他方では、その操作によって、音響のあらゆる特質に影響を与えるつもりでした。言い換えれば、音響のリズム、強弱レベル、音色と空間的投射と同じく、和声的にそして旋律的に---作曲された指示に従って---音高の形成に参加させるつもりでした。
私の作曲した次の作品がタム・タム、2マイク、2ポテンショメーター付きフィルター(6奏者)のための『ミクロフォニーI』でした。1961年に私は作品『モメンテ』のために大きなタム・タムを購入していてそれをバルコニーと後ほどは庭に置いていました。何度も私は家のあちこちから集めてきた多くの種類の器具---ガラス、ボール紙、金属、木、ゴム、プラスチックの---を使用してタム・タムを刺激する実験をしてみたものでした。
ある日私はWDR電子音楽スタジオからいくつかの機材を家に持ってきました。私の協力者ヤープ・スペックが私を手伝いました。私が可能な限りのあらゆる器具でタム・タムを演奏し、そしてその間にタム・タムの表面上でマイクを移動しました。マイクは電子的なフィルターに接続され、その出力はボリューム・コントロール(ポテンショメーター)に接続され、そしてこれが今度は、アンプとスピーカーに接続されていました。この間、ヤープ・スペックはフィルターの設定と強弱レベルを、即興で、変化させました。同時に、私達はその結果をテープに録音しました。
この最初のミクロフォニー実験のテープ録音は私にとって最大限の重要性の発見となりました。私達は何も打ち合わせていませんでした:医者が聴診器で身体を聴診するように、マイクでタム・タムの表面を徹底的に調査する一方で私は広げられた器具のいくつかを私自身の裁量で使用しました。スペックは私達の共同活動の結果として彼が聴いたものに---なおまた自発的に---反応しました。
実際に、この瞬間が型にはまらない楽器によるライブ・エレクトロニック・ミュージックの起源でした。
この実験に基づいて私はそれから『ミクロフォニーI』の楽譜を書きました。二人の奏者が多くの種類の器具を使用してタム・タムを刺激し、さらに二人の奏者がマイクでタム・タムを走査し;適切な記譜法はマイクとタム・タムの間の距離(それは強弱レベルと音色に影響を及ぼします)、刺激地点からのマイクの相対的な距離(それは音高、音色ととりわけ音響の空間的な印象---共鳴音を通じてとても遠く離れたところから極端に近くまで---を決定します)とマイクの運動のリズムを規定します。さらに二人の奏者---オーディトリウムの左側と右側の中央に座った---のそれぞれが電子的フィルター1台とポテンショメーター2台を操作します。彼らは、交互に、音色と音高(フィルター設定によって)、強弱レベルと空間的効果(フィルター設定とボリューム・コントロールの組合せを通じて)と構造のリズム(二つの機材のために規定された時間的な変化によって)に新たな形態を与えます。この方法で3人は相互に依存し、相互に影響し合うと同時に音響構造化の独立したプロセスが互いに連結されます。これらは同期してあるいは時間的に独立して、ホモフォニックあるいは六つまでのポリフォニックな層になるように作曲されました。
楽譜は33の独立した音楽的構造からなり、それは演奏のために、すなわちバージョンとして、規定された連結スキーマに従って、演奏者によって組合されます。このスキーマは構造の間の関係を示します。3人の演奏者---タム・タム奏者1名、マイク奏者1名とフィルターとポテンショメーターのオペレーター1名---は独立したグループを構成してこれら33の構造の一つを演奏します。ある時点で彼らはもう一つのグループに次の構造を始めるための合図を与え、それから指定された時間の後で合図を戻す、等々。
これらの構造の間の関係は毎回三つの方法で決定されます:後続の構造は、先行する構造に関して、類似、相違あるいは対立する;関係は一定、増加あるいは減少する;後続の構造(それは実際には一般的に先行する構造の間に始まる)は先行する構造を支持、中立、破壊する。
このように各々の場合において連結スキーマは隣接する構造の各々のペアに三つの指示をあたえます;例えば、一定的に支持して類似;または増加的に破壊して対立;または減少的に中立して相違、等々。演奏者はこのように作曲された構造---それ自体も同じ方法で作曲された---の順序を規定された基準に従って選択します。
構造の間の関係、すなわち連結スキーマは厳密で指向形式を保証するためにあらゆる演奏で常に同じままといえども、構造の連続する順序はあるバージョンから別のバージョンでまったく異なることが可能です。
『ミクロフォニーI』は1964年12月9日にブリュッセルにて世界初演されました。ドイツ初演は1965年6月11日にケルンの西ドイツ放送局にて同じ演奏者で行われました:タム・タム奏者1と2アロイス・コンタルスキーとアルフレート・アーリングス;マイク奏者1と2ヨハネス・G・フリッチュとベレンハルト・コンタルスキー;フィルター操作とボリューム・コントロール1カールハインツ・シュトックハウゼン、フィルター操作2ヤープ・スペックとボリューム・コントロール2ヒュー・デイヴィス(スペックとデイヴィスが二つの役割を分担したのはスペックがかなり複雑な技術的手順を同時に担当しているからでした)。これらの演奏者は1965年12月17日と18日にWDRにてブリュッセル・バージョンを録音しました。私はこれを2トラックのステレオ・バージョンにミックス・ダウンし、そしてこれがこの全集CD9に収められている録音です。
最初の上演の後で、ハラルド・ボイェがベレンハルト・コンタルスキーに代わり、そしてロルフ・ゲールハールがヤープ・スペックとヒュー・デイヴィスに代わりました。
70年代初頭にアロイス・コンタルスキー、ペーター・エトヴェシュとカールハインツ・シュトックハウゼンが一方の側、そしてヨアキム・クリスト、ハラルド・ボイェとティム・サウスターがもう一方の側による新しい『ミクロフォニー』アンサンブルが結成されました。
ミクロフォニーI連結スキーマ
関係:
<記号:略>=一致(類似)┐/+=支持┐ /<記号:略>=一定
<記号:略>=相違 │―│=中立│それが―<記号:略>=増加
<記号:略>=対立 ┘\-=破壊┘ \<記号:略>=減少
(これら三つの記号はモメンテの
間の+や│や-の傾向を表す)
グループIは18のモメンテ(位置IA-R)を演奏し、グループIIは17のモメンテ(位置IIA-Q)を演奏します。位置IDとIIC、IJとIIJ、INとIINはそれぞれ同一で、それで32のモメンテになります。連結スキーマに必要とされる32のモメンテに加えて、さらに(比較的短い)ものがBERSTEND:破裂音(KRACHEND:衝突音)の内部で別のグループによって演奏されます。
三つのTUTTI:全奏(TUTTIフォルテ、TUTTIピアニシモ、TUTTI157)は常に表示された箇所で行なわれ、そして互いの間で交換できます。同じことが二つのソロ=モメンテXとYにも適用されます。
残りの位置に他のモメンテを任意の配列で選択できます。このためにはスキーマで与えられた連結関係を常に考慮しなければなりません。三つの記号のセットはモメンテから別のグループの先行するモメンテへの関係を示します。
<モメンテ配置図>略
全奏者が個別のモメンテのすべての音響の特質を一緒に決定し、そしてリハーサルをしてからのみ(最初は誰がどちらのグループに所属するべきかを決めることなく)、どのモメンテが特有の連結にふさわしいかを判断することができます。それから配列が決定されます。最初に終了部すなわち位置IRのモメンテを自由に選択します:次に冒頭部すなわち位置IAのモメンテを選び、それはIRに関して<記号:略>(「一致」すなわち「類似」、「支持」、「一定」)されます。それからIIAのモメンテを選びそれはIAに関して<記号:略>(「一致」すなわち「類似」、「支持」、「増加」)され、それからIIAに関してIB、など。
33のモメンテの名称
33のモメンテがあり、それは44ページで記譜されています。
モメンテはそれぞれ名称によって特徴づけられ、例えばSCHNARRENDまたはLA"UTEND-SA"GENDまたはRAUSCHEND-TO"NED-TUTENDまたはGERA"USCH adlib.またはTUTTIフォルテまたはCOLLAGEまたはXなど。
モメンテTUTTI157とPRASSELND-KRA"CHZEND-TOSENDとXはそれぞれ3ページで記譜されています;モメンテY、KNISTERND-GACKERND、RAUSCHEND-TO"END-TUTEND、SCHLU"RFEND-QUIETSCHENDとWISCHEND-SCHARREND-BRUMMEND-POSAUNENDはそれぞれ2ページで記譜されています;その他のすべてはそれぞれ1ページで記譜されています。
<訳者注:以下の表では2グループで演奏するモメンテと各モメンテのページ数を省略しています>
TUTTI157
TUTTIフォルテ
TUTTIピアニシモ
X
Y
BERSTEND(KRACHEND):破裂音(衝突音)
COLLAGE:コラージュ
GERA"USCHadlib.:ノイズ・アドリブ
KLATSCHEND-HEULEND-BELLEND:拍手音-喚き声-吠え声
KLA"NGEadlib.:音高のある音・アドリブ
KNISTERND-GACKERND:パサパサ音-ガーガー音
LA"UTEND-SA"GEND:ゴーンゴーン音-ノコギリ音
PFEIFEND-FLO"TEND:口笛音-フルート音
PIEPSEND-KNACKEND:ピヨピヨ声-ピシピシ音
PRASSELND-KRA"CHZEND-TOSEND:ジャンジャン音-カアカア声-咆哮
PRELLEND-KNATTERND(RATTERND):ピシャリ音-パタパタ音(ガチャガチャ音)
QUAKEND:ガーガー声
RASCHELND(RATTELND)-MURMELND:パチパチ音(ガラガラ音)-呟き声
RASSELND-A"CHZEND-DONNERND:ガチャンガチャン音-軋み音-雷鳴
RAUSCHEND-TO"NEND-TUTEND:サラサラ音-鳴り響く音-ホーホー声
ROLLEND:回転音
SCHLU"RFEND-QUIETSCHEND:飲食音-キーキー声
SCHNARREND:ギシギシ音
SCHWIRREND-KNURREND:ブンブン音-ガタゴト音
SINGEND:歌声
TRILLERND-KNALLEND-GELLEND:リンリン音-ガンガン音-叫び声
TROMPETEND-BRU"LLEND:トランペット音-怒鳴り声
WINSELND-JAULEND:シクシク声-物悲しい音
WIRBELND-TROMMELND-KNARREND:グルグル音-ドラム音-耳障りな音
WISCHEND-SCHARREND-BRUMMEND-POSAUNEND:衣擦音-擦る音-唸り声-トロンボーン音
WISPERND:囁き声
ZIRPEND-SCHNARCHEND-GRAUNZEND:チュンチュン声-いびき音-ブーブー声
ZUPFEND:撥弦音
原訳注:以下のリストはモメンテの名称と、と共にモメンテXとYの内部だけで行われる別の名称が含まれています。
A"chzend:軋み音
Bellend:吠え声
Berstend:破裂音
Bru"llend:怒鳴り声
Brummend:唸り声
Donnernd:雷鳴
Fauchend:歯擦音
Flotend:フルート音
Gackernd:ガーガー音
Gellend:叫び声
Gera"usch:ノイズ
Grunzend:ブーブー声
Hauchend:吐息音
Heulend:喚き声
Jaulend:物悲しい音
Kla"nge:音高のある音
Klappernd:カタカタ音
Klatschend:拍手音
Klirrend:チリンチリン音
Knackend:ピシピシ音
Knallend:ガンガン音
Knarrend:耳障りな音
Knatternd:パタパタ音
Knirschend:ザクザク音
Knisternd:パサパサ音
Knurrend:ガタゴト音
Krachend:衝突音
Kra"chzend:カアカア声
Kratzend:引掻音
Kreischend:金切り声
La"utend:ゴーンゴーン音
Murmelnd:呟き声
Pfeifend:口笛音
Piepsend:ピヨピヨ声
Posaunend:トロンボーン音
Prasselnd:ジャンジャン音
Prellend:ピシャリ音
Quakend:ガーガー声
Quietschend:キーキー声
Raschelnd:パチパチ音
Rasselnd:ガチャンガチャン音
Rattelnd:ガラガラ音
Ratternd:ガチャガチャ音
Rauschend:サラサラ音
Reibend:摩擦音
Ro"chelnd:ガラガラ声
Rollend:回転音
Rumpelnd:ゴロゴロ音
Sa"gend:ノコギリ音
Scharrend:擦る音
Schlu"rfend:飲食音
Schnarchend:いびき音
Schnarrend:ギシギシ音
Schwirred:ブンブン音
Singend:歌声
To"nend:鳴り響く音
Tosend:咆哮
Trillernd:リンリン音
Trommelnd:ドラム音
Trompetend:トランペット音
Tutend:ホーホー声
Unkend:泣き叫び声
Winselnd:シクシク声
Wirbelnd:グルグル音
Wischend:衣擦音
Wispernd:囁き声
Zirpend:チュンチュン声
Zupfend:撥弦音
パイステ・シンフォニック・ゴング・ミクロフォニーI
ミクロフォニー・タム・タムの物語は非常に冒険的です。1961年に私はフランクフルトの音楽博覧会にて大きなパイステ社製のタム・タムを発見して、それを『モメンテ』で使用しました。その後、私はこのタム・タムのために『ミクロフォニーI』を作曲しました。何年もの間、各種団体が『モメンテ』や『ミクロフォニーI』のためのこのタム・タムのコピーを購入しようとしました。その一方で、パイステ社は、しかしながら、とても厚い材料とよりラフな表面の別な種類のタム・タムを製造していましたので、『ミクロフォニーI』を正確に演奏することは不可能でした。
ロバート・パイステ---パイステ兄弟は二人います---が3人のゴング製造者と共に1991年に3日間にわたってキュルテンに私を訪ねてきました。私はその場に数名の打楽器奏者を招待していました。私たちはキュルテンの学校で三つの新しいタム・タムを試しました。パイステはジーゲンの圧延工場でブランクを延ばしてきていました。タム・タムはあまりの厚さでした。私はより薄いものを作る必要があることを私の古いタム・タムで実演しました。エッジはそれほど鋭く曲げるのではなくむしろより平らに曲げることも加えておきました。これらの新しいタム・タムはもはやボール紙の筒、箱、プラスチックのカップ、蓋、ガラス、紅茶缶、吸盤、プラスチック・エッグ・タイマー・ボックス、メッセージ・バイブレーター、モノコード、スパゲッティ・フォークに反応しませんでした。すべての響きが間違っていました。そしてそのように重いタム・タムを一度振動させたならば、それをダンプすることはとても困難です。
この会合の後で、パイステはより薄い材料で提案にそってタム・タムの製造を試みて用意ができたときに、私達はそれらすべてを再度試してつもりでした。贈り物として、彼は私に知らせてくれました:「私たちはそのタム・タムをシュトックハウゼン・ミクロフォニー・タム・タムと名付けようと思っています」。
そして、1994年に、ロバート・パイステが3人のゴング製造者と共に八つの新しいタム・タムを持ってきて、私はそのすべてを試しそのうち二つを私が取っておきました。1994年のパイステ社のカタログには、これら新しいタム・タムがシンフォニック・ゴング・ミクロフォニーI(車輪付き特別製スタンド付属)として掲載されています。
バージョン作成
バージョンを作成するにあたって、二つの演奏者グループ間の33のモメンテの配置をTUTTI157の上下のグループのアレンジに可能なかぎり近づけなければならないことを覚えておくべきです(56-57ページの譜例を参照)。
合図の矢印<記号:略>は互いに後続するモメンテの配列に使用されます。一つのモメンテには三つまでの矢印があります:始まりと(または)その間と(または)終わり。それぞれの場合において一つの矢印が後続のモメンテの合図として選ばれます。バージョンの間の異なる矢印の位置は全体的に見て検討すべきです。もしあるモメンテの始まりの矢印を別のグループが後続のモメンテに着手するための合図として採用するならば、このモメンテ---「後続の」と連結スキーマで示された--はほんの始まりから同時に演奏されるでしょう。
もしあるグループが別のグループから合図を受けてそのモメンテの演奏をまだ終えてなければ、それを中断して後続のモメンテに着手しなければなりません(もし必要ならば、器具を変更するために、幾分早めに中断しなければなりません)。21のモメンテはそのような方法で記譜されていてそのそれぞれは一つの演奏者のグループだけで演奏されます。
実演されたバージョンの例として1964年の世界初演のために作成されたブリュッセル・バージョンを比較しなければなりません。
これはこの全集CD9に収められたバージョンです。
ブリュッセル・バージョンのフォルム・スキーマ
<図>略
演奏実践
楽器
タム・タム1台、直径155センチ、吊り下げ(表紙内側と16ページの写真を参照)
マイク(高感度指向性)2本、タム・タムの表面上を手で動かす。
帯域幅可変式バンド=パス・フィルター(ステップ式、クリック・フリー)2台、2本のマイクでピック・アップされたタム・タムの音響を互いに独立してフィルター処理。
スライド式ポテンショメーター2x2台、フィルターに添付。
39ページの写真:マイハック社(ハンブルク)製フィルターW49「ラジオ・ドラマ・フィルター」。スライド式ポテンショメーター2台がフィルターの左側に2本の金属片によってねじで固定されている。二つのこのようなフィルターは、それぞれがポテンショメーター2台を付属して、約5メートル離れた小さなテーブル(高さ40センチ、ホール中央の座席の一列に)にしっかりと固定されます。フィルター操作の二人のすぐそばにスピーカーへの調節式4チャンネル・プリアンプを取り付けるのが最良です。
フィルターW49
<写真>略
周波数スケール
<図>略
減衰スロープは常に最大値に設定(フィルター勾配1度)
<記号:略>=上限と下限のノブは個別に、それぞれがもう一つのものの位置まで移動できます:最大帯域幅は30-10000Hz;最小帯域幅は隣接する二つの周波数の数字の間の距離に相当します。二つのノブの間の周波数域は聴きとれます。上下限のノブはあらゆる位置で片手で動かすことができます。
ボリューム・コントロール(スライド式ポテンショメーター)4台。2台のフィルターそれぞれの出力は2台のポテンショメーターに接続されます。ポテンショメーターはアンプとスピーカーにつながっています。
回路図(この回路が二つ必要です)
<図>略
コンデンサー・マイク
マイク・アンプ(必要ならば内蔵式コンプレッサー付き)
バンド=パス・フィルター
ポテンショメーター2台
プリアンプ2台と出力アンプ2台
スピーカー2台
演奏者
6奏者は、各3名の二つのグループに分かれて、これらの楽器を演奏します。各グループの第一奏者は多様な器具を使用してタム・タムを刺激します;その一方で第二奏者はマイクで、同時にいわゆる「共鳴器」を使用して、タム・タムを走査して、そしていくつかのパッセージでは第一奏者のようにタム・タムを刺激します;第三奏者はフィルターとポテンショメーターを操作します。
配置と準備(写真を参照)
<配置図>略
左側のグループの2台のポテンショメーターはスピーカ1と2に、右側のグループはスピーカ3と4に接続されます。4x2台のスピーカーを使用するのが最良です(1A、1B;2A、2B;3A、3B;4A、4B):
<配置図>略
各グループの範囲内でこれらの方向は交換できます(例えば1Aと4Aはバルコニー上、そして(または)2Bと3Bはボックス席上に高く)
各グループの第一奏者とときには第二奏者も自ら器具を選択します:選択は音響の特質に導かれ、それは楽譜に言葉で説明されています。
器具は任意の素材と任意の形状から選択され(家事用器具など)、そしてそれらの使用方法(ノック、打撃、引っ掻き、摩擦、払拭、など)は言葉と図形記号の両方から得られます。いくつかの音響の特質を単一の器具で、異なる方法で使用して、作りだせます。器具は両方のグループでも使用できます。楽譜のいくつかのパッセージには、吊したストップ・ウォッチが必要です。
第三奏者はホール内の、あらゆる音響(タム・タムの直接音も)を聴くことのできて、特に自らのグループの、他の全奏者の動作を見ることのできる場所に座ります。音響的条件によって、彼らの場所は聴衆の間の中央列になるでしょう。
各グループの音響は二つのスピーカー(グループ)の間---左側と右側それぞれの前後---に分配されてそれらの前後間の運動は各第三奏者が自由に決定します(前のみ-後のみ-両方同じ強さ-あらゆるスピードでの運動);楽譜の音量指示はそのときに開いているスピーカーの合計値としてとらえ、そして可能な限り正確に実現しなければなりません。
タム・タムから前方スピーカまでの距離はフィードバックを避けるために可能な限り大きくしなければなりません(もし必要ならばスピーカーをタム・タムから音響的に遮るべきでしょう)。グループごとに任意の数のスピーカーを使用できますが、左右の方向がはっきりとしていなければなりません;スピーカーは台とホールの天井の高さの間に任意の高さで設置できます。
具体例:TUTTI1571ページ(56と57ページに掲載)
すでに説明したように、『ミクロフォニーI』の演奏素材はフォルム・スキーマに従って二つの演奏者のグループの間に分配された(16と17のモメンテ)33のモメンテから成り立っています。これらのモメンテの一つがTUTTI157と名付けられ、その最初のページが56と57ページに掲載されています。それには作品の全モメンテが、同時にそして連続して、凝縮されています(貯蔵庫)。このモメンテは常にフォルム・スキーマの固定された場所の中央にあります:両グループは同時に演奏します(グループI---3奏者---のための上段の譜表とグループII---3奏者---のための下段の譜表を参照)。
譜表の上の連続した数字は時間区分です。二つの譜表のそれぞれは互いに三つの水平欄から成り立っています:最上欄は第一奏者「音響刺激者」のためのものです;刺激された「音色」の種類は言葉で示され(譜表上方のSOUND adlib.-LA"UTEND-SA"GEND-QUAKEND-PIEPSEND-KNACENDなどを参照)、そして最上欄の点線で区切られた3つの区域は高-中-低音域を示します;点の濃度と線は強弱レベルを示します。
中央欄は第二奏者「マイク奏者」のためのものです;3つの区域はタム・タム上の刺激される地点からのマイク(タム・タムの表面上)の距離(直接-より離れて-間接)を表わします;線の濃度はマイクとタム・タムの間の距離を示します(細線=遠く離れて、太線=タム・タムにとても近付いて)。
第三奏者(フィルターとポテンショメーター)のための最下欄は二つに分割されています:陰影を付けられた領域はどの周波数域が電子的フィルターを通過できるのかを示します;この下は二つのスライド式フェーダーで調節される音量進行のための「エンベロープ曲線」です(前後のスピーカー)。
下の譜表はグループII(第四、第五と第六奏者)のために同じくアレンジされています。
<譜例>略
記譜法
あらゆる持続はスケールで描かれて各モメンテの終わりか最後の矢印の組織の上に数字で加算されています;それらはカウントされるかストップ・ウォッチで計測されます(ときにこれは明確に規定されます)。
基準の単位の持続(1)はバージョンのために選択されますが、しかしながら、固定されたままです。全集CD9に収められたブリュッセル・バージョンでは、1単位が1秒です。
↓=完全にダンプ(手、肩、肘、膝で);可能ならば数名の奏者で。
<記号:略>=スタッカート<記号:略>でとても簡潔に、ポルタートで<記号:略>わずかに長く、記譜された休止のリズムでダンプ---しかしながら音響は持続。
モメンテの最大音量
第一奏者
名称(タム・タムの刺激)[原脚注1] |高音域/中音域/低音域 点と線は通常は三つの音域の一つに同じ高さで記譜されます。この音域の音高は、しかしながら、自由に変化を与えなければなりません。三つの音域が点線で区切られていないときは、全音域で望むままに変化を与えられます。 ●=1つの短いイベント(打撃、衝撃、強打、唸り、など) ■=1つの鋭い擦り <記号:略>=1つの持続音響 持続のための他のすべての図形記号の意味はモメンテの名称から推定されなければなりません <記号:略>最大音量(左上、モメンテの始めのボックスを参照) <記号:略>より弱く <記号:略>さらに弱く <記号:略>クレシェンド <記号:略>ディミヌエンド
第二奏者
マイク位置 |直接(刺激地点にマイク)/より離れて/間接(刺激地点から可能な限り離れて;しかし線の太さが最大値で、タム・タムの表面に近付いて) タム・タムの表面からのマイクの距離 <記号:略>とても近付いて <記号:略>より離れて <記号:略>遠くで <記号:略>推移
共鳴器[原脚注2] |3種類:大、中、小
第三奏者
ステップ式フィルター |高/中/低 3音域のそれぞれはさらに3倍に細別されます。したがって周波数域全体に及ぶ少なくとも九つの周波数帯設定(ほぼ均等幅で)できるフィルターが必要です。
<記号:略>陰影付けられた領域はフィルターの通過帯域に相当します;図形的に連続して記譜されているあらゆるフィルターの変化は、ステップ式フィルターのために、実際は段階を追って行われます。 「W49」フィルターのHzでの分割例は今のところ<図:略>音響によって、ときには1000Hzの代わりに1500Hzが「高」の下限として、あるいは450Hzの代わりに300Hzが「中」の下限として
音量(スライド式ポテンショメーター) |強く⇔弱く 音量が変化する範囲は各モメンテと各ホールの音響によって見い出さなければならない。
原脚注1:各音響を作るときは、器具がタム・タムに触れなければならず、タム・タムから個別の共鳴がもたらされる(モメンテXのTICKEN=カチカチ音を除く);声で生じた音響(タム・タムとマイクにとても近付いて)は、可能な限り、タム・タムに共鳴反応をもたらすようにしなければならない。
原脚注2:「共鳴器」は振動するタム・タムの表面上に---とても近付いて---片手でマイク(もう一方の手で移動される)の右側を移動する空の容器(ガラス、カップ、プラスチックの植木鉢、など)を意味します;この方法でピック・アップされた音響の音色は明るくから暗くまで(母音の音色[i⇔u]のように)連続的に変化します。
共鳴器
○=容器の開いた方の外縁部をタム・タム表面と平行に持つ(上から見ると:<図:略>);タム・タムと共鳴器の間に指を入れる。
C=共鳴器の縁の一部をタム・タムにとても近付け、容器はわずかに角度をつける(<図:略>);
⊂=共鳴器に約45度の角度をつける(<図:略>);
(=共鳴器に約60度の角度をつける;
|=共鳴器に約90度の角度をつける;
○+○=連続的推移(多かれ少なかれ速く:もし可能ならば、はっきりした音色グリサンドに努める);
●=タム・タム表面を、○のように、共鳴器で一打;
●…=一打のあとにタム・タムと数回の短い接触(ガラガラ音、チリンチリン音、など);
<記号:略>●+●=上のような位置で一撃、点線が後続するときは、記譜された角度で、繰り返してチリンと鳴らすことを続ける。
ときには共鳴器も器具として使用しなければなりません。
いくつかのモメンテにおいて第一と第二奏者は音節か語句を話すか叫ばなければなりません:これらは音響と(声の音高の一致によって)良く混合され、しかし理解できるようにしておかなければなりません。
STREICHTO"NE(弦の音)とPIZZ(ピチカート)には、ブリュッセル・バージョンでは、弦をさまざまな長さの4枚の細い木板上にブリッジを横切って張りました:板のうち二枚はそれぞれ一本の低音弦をつけます(例えばピアノの低音弦---ワイアーを一度巻き付けている---とチェロのC弦)。別の二枚の板のそれぞれには2本の高音弦をつけます(例えば一枚にはビオラのG弦と標準的なピアノのスチール弦:もう一枚にはGとAのマンドリン弦2本)。これらの「バイオリン」はタム・タムの縁にしっかりと弦を押し付けられてチェロとビオラの弓で(それぞれ)奏され、あるいはピックで弾かれます。接触地点が音高を決定し、それは、もし可能ならば、ある音から次の音へと変化を与えなければなりません。
GLASSINGEND(=ガラスの歌)、"gla"sern"(ガラスのように)、などには、例えば、さまざまなサイズのワインと「ヒヤシンス」グラスを水に浸してその縁はタム・タム表面を横切って入念に引っぱられます。これは持続音響の中で音高の違いを生じさせるでしょう。
PAPPROHRE(=ボール紙の筒)(TUTEND、POSAUNEND、TROMPETENDなどでも)には、例えば、丈夫なボール紙でできた、さまざまな直径と長さの、ボール紙のバケツまたはポスター発送用の筒が斜めの角度でタム・タム表面上を連続的にまたは痙攣して引っぱられます:音色と音高が圧力と速度にしたがって生じます。ときどきボール紙の縁は切り整えられなければなりません。
展望
ケルン・アンサンブルによる70年代の演奏以来、『ミクロフォニーI』は別のバージョンを演奏する別のグループ(例えばスラグヴェルク・グループ・デン・ハーグ、そしてアンドレアス・ベトガーの率いるフライブルク音楽院のグループ)によってくり返し演奏されてきました。他のどの作品も『ミクロフォニーI』ほどに偉大な広範さで創造的=実験的ファンタジー、技術と演奏実践の翼を与えるものはないということがさらにはっきりとしてきました。
[翻訳:山下修司]