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エス <1968> 【監修済】

(1971年11月のテキスト)

 『エス』は二つの楽器編成で録音されました。このCDの第一ヴァージョン(演奏時間:24分26秒)は1969年8月26日の午後6時から8時の間に録音されました。演奏者はヴィンコ・グロボカール(トロンボーン)、カルロス・アルシナ(ピアノ)、ジャン=フランソワ・ジェニー=クラーク(ダブル・ベース)、ジャン=ピエール・ドルーエ(打楽器)、ミシェル・ポルタル(サキソフォン、フルート、クラリネット)、カールハインツ・シュトックハウゼン(声、サイレンの笛、短波ラジオ)。
 第二ヴァージョン(23分07秒)は1969年8月31日の午後12時から12時30分に演奏されました。演奏者はハラルド・ボイエ(エレクトロニウム)、アロイス・コンタルスキー(ピアノ)、ヨハネス・G・フリッチュ(コンタクト・マイク付きヴィオラとフィルター)、アルフレート・アーリングスとロルフ・ゲールハール(マイク付きタム・タムとフィルター)、カールハインツ・シュトックハウゼン(タム・タムとヴィオラ用フィルターとポテンショメーター、声)。

『エス』

「何も」考えるな
おまえの内が完全に静まるまで待て
そこに達したら
奏ではじめよ

思考が動きはじめたら、ただちに止めよ
そして「無思考」の状態に
ふたたび到るようにせよ
そうなったら また奏でよ

                           1968年5月10日

 『七つの日より』のサイクルの中で、テキスト『エス』は、「無思考」の状態に到ったときのみ演奏し、そして考えはじめたら止める、という演奏指示によって直観的演奏の極致へと達しました。純粋に「直観的」に行動し反応するという、演奏状態が成し遂げなければならないわけです。何かを考えはじめるやいなや(例えば、演奏している「こと」;演奏している「もの」;他人が演奏し、または演奏した「もの」;「いかに」反応すべきか;車が外を通り過ぎた「こと」など)、止めなければならず、そしてただ聴いているだけのとき、聴いたものと一体になったとき、再びはじめます。もちろん、このような瞑想的状態で楽器を演奏し、自分自身を徹底的に直観にゆだねることに不安を抱かないなどということは、通常ではあり得ません。ある特定の演奏者のタイプが求められています。彼らが演奏するとき、そこでは演奏というものが、何ら頭で反省することなく、自ずと瞬間瞬間に生起するのです。
 私たちのグループで『エス』を演奏しようという最初の試みは、短い参入と長い休止だけで成り立っていました。あらゆる演奏は--- この演奏も含めて---突然に中断され、あるいはお互いを断ち切るような断片からはじまり、やがて次第次第に、より長い響きの層やポリフォニックなパッセージが現れてきます。いうまでもなく、演奏者がある考えによって中断されたときには、好きなことを好きなだけ長いあいだ考えていてかまいません。ただ演奏のあいだは思考(反省、考慮、予想)をしてはなりません。

[翻訳:山下修司、監修:清水穣]