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結合 <1968> 【監修済】

(1973年1月のテキスト)

 アンサンブルのための『結合』は1969年6月7日にパリのスタジオ・ダヴーにて最初に録音されました。二つのヴァージョンが演奏され、その二番目のヴァージョン(24分5秒)がレコードになりました(Musique Vivante,HarmoniaMundiMV30.795)。そしてダルムシュタットにて、1969年8月30日の午前11時くらいから11時30分の間に同じ演奏家たちによってこの録音が行われました(事前のリハーサルなしでたった一回だけ)が、不思議なことに以前の録音とほとんど同じ演奏時間(24分45秒)になりました。演奏者はハラルド・ボイエ(エレクトロニウム)、アロイス・コンタルスキー(ピアノ)、ヨハネス・G・フリッチュ(コンタクト・マイク付きヴィオラとフィルター)、アルフレート・アーリングスとロルフ・ゲールハール(タム・タムとマイク付き打楽器とフィルター)、ジャン=ピエール・ドルーエ(タブラ、インディアン・ベル、その他の打楽器)、ミシェル・ポルタル(フルート、バス・クラリネット、テナー・サキソフォン)、ジャン=フランソワ・ジェニー=クラーク(ダブル・ベース)、そしてカールハインツ・シュトックハウゼン(ヴィオラとタム・タム用2フィルターと4ポテンショメーター)。

『結合』

一つの振動を奏でよ、あなたの身体のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの心臓のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの呼吸のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの思考のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの直観のリズムで
一つの振動を奏でよ、あなたの啓示のリズムで
一つの振動を奏でよ、宇宙のリズムで

それらの振動を自由な順序で混ぜ合わせよ

それらのあいだに充分に静寂をおけ

                            1968年5月8日

 それぞれの演奏者は「身体・心臓・呼吸・思考・直観・啓示・宇宙のリズムにおける振動」を次々に奏でなければなりません。それから「それらの振動を自由な順序で混ぜ合わせ」て「あいだには充分に静寂をおき」ます。

 最初はそれ---はじめの三つのリズムは別として---は不可能な要求に思われました。しかし、もし他の四つのリズムに充分に注意を集中するならば、徐々にそれらにも気付くでしょう。
 「思考のリズム」は比較的簡単に自分で---そして特にグループでも---体験できます。目を閉じ、思考が自由に流れるようにしておいて、そして心に新しい考えが浮かぶたび(考えの方向性が変わったとき)に何かを軽く叩くようにします。残りのリズムにとって本質的なのは、直観、啓示、宇宙の「リズム」で演奏しなければならないのであって、絶対的な「テンポ」で演奏するのではないということです。つまりこれらのリズムを音楽的演奏の時間へと置き換えるわけです。
 「直観のリズム」は、思考を停止させておいて、直観的な衝動を感じたとき(自発的な「アイデア」「インスピレーション」を得たとき)にだけ演奏する ---あるいは鳴らし続けていた振動を変更する---とはっきりするでしょう。
 「啓示」に関係するかぎり、それは稀にしか、もしくは決して起こらないものと一般的には思われています。しかし本当はそれは直観的インスピレーションからの「選択」の問題なのです。つまり、ただ直接的な「正しさ」の確信、突き通すような、光輝くような「(音の)ヴィジョン」の確信によってのみ生じることだけが、啓示といえるのです。そのような啓示は「直観音楽」を演奏していると時折に生じますし、そして特に良く同調した音楽家たちにおいては、このような音楽的「啓示」がより一層密に連続して生じることもあります。そういうとき「啓示」は比類ない幸福と感謝の気持ちといつも結びついていて、長い時間にわたって音楽全体の経過を規定するのです。
 最後に、「宇宙のリズム」は夢のなかで、天体の構成について瞑想し天文学と占星術に没頭することを通じて経験されるものであり、そしてそれから、音楽的なリズムへと置き換えられるものです。

 ここで一般的に「振動」といわれているものは、「楽音」や「音」と同等に「非楽音」や「雑音」でもあり、それらがさまざまなリズムで演奏されるわけです。
 最後に、タイトルは「あらゆる」それらの「リズム」を「結合」することを述べています。

(1974年1月のテキスト)

 アンサンブルのための『結合』では、それぞれの演奏者はまず順序通りに、彼の身体のリズム(すなわち身体の全体が動くリズム)の振動を演奏します:それから彼の心臓のリズムの振動を;それから彼の呼吸のリズムの振動を;それから彼の思考のリズムの振動を(彼の思考 --イメージ、考え--が方向性を変えるたびに振動を変化させる);それから彼の直観のリズムの振動を(新しい「インスピレーション」を得るたびに振動を変化させる);それから彼の啓示のリズムの振動を(全体をいっそう完璧さへ近づけるための方向転換を、自分が演奏しようとするものを通じてもたらしうると、彼が一切の疑いなく感知したときだけ振動を変化させる);それから宇宙のリズムの振動を(すなわち彼自身からではなくむしろ宇宙のリズムから読みとられるリズムをもつ振動、例えば星の運行のリズムは大空の星座から読みとられて、音楽的な旋律、リズム、強度へと転化される)演奏するのです。
 この後に、それぞれの演奏者はそれらの振動とリズムを任意の順序で混ぜ合わせます。個々の振動のあいだにはそれぞれ「充分な静寂」をおきます。

 明らかなことですが、これら演奏規定の特定の指示を実行しようとして何も思いつかない演奏者は、そのときは沈黙しなければなりません ---それはまたアンサンブルにとって有利なことです、なぜならそのときには演奏の密度がより透明になるからです。
 このような指示を実行する際、演奏者が無条件的にそこに参与すること、それは何ら外的な強制ではなく、それぞれの演奏者が自分自身に対してとる責任に委ねられるのであり、そして各人のこの究極の芸術的責任は、このような「直観」音楽にとって最も重要な目標のひとつなのです。

[翻訳:山下修司、監修:清水穣]