ミクストゥール <1964>
5オーケストラ・グループ、4正弦波ジェネレーターと4リング・モジュレーターのための
ミクストゥール1964:ライブ・エレクトロニック・ミュージック
WDRケルンの電子音楽スタジオでの日常的な作業を1953年5月に始め、『ミクストゥール』の前に、電子音楽『習作I』(1953年)、電子音楽『習作II』(1953-54年)、『少年の歌』(1954-56年)、そして『コンタクテ』(1958-60年)を製作しました。これらの作品のために、私は『少年の歌』で少年によって歌われた音節と語句を除くあらゆる音響を電子的に合成しました。ボーデ・メロコードとトラウトニウムがスタジオに備えてありましたが、私は各作品に独特の音響を構成したかったのでそれらの楽器は使用しませんでした。リング・モジュレーターもあったので私はそれで実験しましたが、私はそれを音響製作には使用しませんでした。
7年間の電子音楽の合成的音響製作とこれに並行する、伝統的な楽器と声のための器楽と声の作品(『ピアノ曲I-XI番』、『ツァイトマッセ』、3群オーケストラのための『グルッペン』、『ツィクルス』、『ルフラン』、『カレ』)の後に、電子音響、ピアノと打楽器のための『コンタクテ』(1960年世界初演)での結合よりもさらに進んだ、二つの可能性の統合のために努力しました。私はオーケストラ(『ミクストゥール』)、打楽器(『ミクロフォニーI』、『ヒュムネン』、『プロツェッシオーン』、『クルツヴェレン』、『マントラ』などで)と声(『ミクロフォニーII』、『テレムジーク』、『シュピラール』などで)をリング・モジュレーター、フィルターとポテンショメーター、トランスポージング・マシンなどの電子機器によって変調して変換しました。
そのとき以来、この統合は発展し続けていて、『光』のさまざまな部分でのサウンド・シーンと機械的-電子的楽器(『カティンカの歌』[光の土曜日]、『エーファの歌』[光の月曜日]、『侵略』[光の火曜日]の空想的打楽器と『光の月曜日』と『火曜日』以降の可搬式シンセサイザーとサンプラー)に達しています。
作品リストにおいて、タム・タム、2マイク、2ポテンショメータとフィルタのための『ミクロフォニーI』が作品番号15として『ミクストゥール』(作品番号16と16-1/2)の前に載っているのはタム・タムでの音響実験はすでに1961年に始まり、『ミクロフォニーI』の作曲プランが『ミクストゥール』の作曲の以前にすでに存在して『ミクロフォニーI』の世界初演(1964年12月9日ブリュッセルにて)が『ミクストゥール』の世界初演(1965年11月9日ハンブルクにて)のほぼ1年前に行われていたからです。しかしながら、私は『ミクストゥール』を1964年7月と8月に作曲しました---年代順では『ミクロフォニーI』の楽譜を書き上げる前です。これが---シュトックハウゼン全集において---『ミクストゥール』のCD番号が8で『ミクロフォニーI』---『ミクロフォニーII』と『テレムジーク』---のCD番号が9の理由です。
オーケストラのための『ミクストゥール』はリアル・タイムにオーケストラが電子的に変調される最初の作品なのです:ライブ・エレクトロニック・ミュージックの起源。
私はWDRケルンの電子音楽スタジオの責任者を1963年から務めました。私の器楽音響のマイク操作、フィルタ処理とリング変調による体系的な実験はまず第一に---1964年に---『ミクストゥール』になりました。それによって、私はスタジオ作業の芸術的志向に新しい方向性を与えました。
世界初演:大規模アンサンブル1965-小規模アンサンブル1967
私は『ミクストゥール』を、それぞれが大オーケストラからの不特定数の演奏者からなる4オーケストラ・グループ(木管、弓奏弦、ピチカート弦、金管)に打楽器奏者3名の五番目のグループをくわえたものを思い描きました。そのとおりに、1965年12月9日にハンブルクのNDRにてミカエル・ギーレンの指揮する北ドイツ放送局オーケストラによって楽譜が世界初演されました。正弦波ジェネレーターの奏者はヨハネス・フリッチュ、ヒュー・ディヴィス、篠原誠、ハラルド・ボイエで私はサウンド・プロジェクショニストでした。私達はそれから『ミクストゥール』のこのバージョン---大規模オーケストラのための---を1966年10月14日に1965年のヌチダ音楽コンサートにてミカエル・ギーレンの指揮するストックホルム・ラジオオーケストラと、ハンブルクと同じ正弦波ジェネレーターの奏者と私のサウンド・プロジェクションでもう一度演奏しました。
1967年に私は小規模アンサンブルのための編曲版を作りました(37奏者[または35]:指揮者、4木管、8弓奏弦、8ピチカート弦、4金管、3打楽器、4正弦波ジェネレーター奏者、4[または2]サウンド・ミキサー、サウンド・プロジェクショニスト)。この小規模アンサンブルのための『ミクストゥール』は1967年8月23日にダルムシュタット夏期講座期間中のWDRコンサートでフランクフルトのヘッセン放送局の大放送オーディトリウムにて世界初演されました。それはラディスラフ・クプコヴィック(彼にこの楽譜は献呈された)の指揮するチェコスロバキアのアンサンブルのヒュドバ・ドネスカ(ブラティスラヴァ)によって上演されました。正弦波ジェネレーターの奏者はヨハネス・フリッチュ、ロルフ・ゲールハール、デヴィッド・ジョンソン、ハラルド・ボイエで私はサウンド・プロジェクショニストでした。
『ミクストゥール』の二つのバージョンが同じコンサートで初演されました:最初に、逆行バージョンと最後に、順行バージョン。コンサートの間にこれら二つのバージョンは録音されてこの全集CD8に収められています(わずかな変更や編集なしで)。
この小規模アンサンブルのための『ミクストゥール』は、さまざまなアンサンブルと指揮者と私のサウンド・プロジェクションによって、数多くの上演が行われました。
最初の楽譜、オーケストラのための『ミクストゥール』(1964年)(作品番号16)と二番目の小規模アンサンブルのための『ミクストゥール』(1967年)(作品番号16-1/2)はウイーンのユニバーサル・エディション社から出版されています。
1982年くらいから、あらゆる演奏実践の経験の情報が提供されて数多くのパートが完全に書かれている、『ミクストゥール』の三番目の楽譜を出版するべきであることがますますはっきりとしてきています。この楽譜はシュトックハウゼン出版社から出版される予定です。
『ミクストゥール』のために1965年と1967年に書いたプログラム・ノート
以下のいくつかの文章は、『ミクストゥール』の作曲当時に書かれました。
それらはライブ・エレクトロニック・ミュージックの誕生の事情を明らかにします。
(1965年12月のNDRハンブルクでの世界初演のためのプログラム・ノートの最初の草案。「テクステ」第三巻(ドゥモン出版社、ケルン)51ページから)
ミクストゥール <1964>
5オーケストラ・グループ、4正弦波ジェネレーターと4リング・モジュレーターのための
音楽において(オルガンのレジストレーション、合唱とオーケストラの音響)三つないしそれ以上の並行する声部は「混合音(ミクストゥール)」と名付けられています。
オーケストラ作品『ミクストゥール』では、オーケストラ楽器の音響がマイクによってグループに関してピック・アップされ、リング・モジュレーター(それによって混合された音響の和と差の音高が生じる)で正弦波と混合され、そしてそれらの混合音はスピーカーを経由してオーケストラの音響に付加されます。
これにより、伝統的な楽器を使用するときにも、電子音楽だけで---今まで---可能にだった、新しい音色関係(漸進的な混合、変換など)と新しい音高関係(オクターブの12均等ステップへの分割から逸脱した任意の数のスケール)が作曲できます。
『ミクストゥール』は器楽音楽と電子音楽の合成の始まりでしょう。
(1993年に書いた解説)
リング変調がどのように機能するかを説明する必要があります。例えば、楽譜の第一セクション「MIXTUR」において、木管楽器が数ある中で音高G#4<譜例:略>(約833Hz)を演奏し、そしてこれがリング・モジュレーターで正弦波D#5<譜例:略>(約1248Hz)によって変調されるとき、和の値の1248+833=2081Hz、ほぼ↓C6<譜例:略>と差の値の1248-833=415Hz、ほぼG#3<譜例:略>が結果として生じます。
五度の833:1248を基音415Hzの倍音2:3、したがって和の音を2+3=5x415Hz=2075Hz、そして差の音3-2=1x415=415Hzとして考えることも可能です。
楽譜の1ページ、HOLZ(木管)の上部ブロック
<譜例>略
あらゆるリング変調においてすべての倍音の和の音高と差の音高がもたらされて入力された音高(例えば正弦波の音高と器楽の音高)は隠されます。
第一セクション「MIXTUR」において、トロンボーンがG1<譜例:略>約98Hzを演奏し、D#4<譜例:略>636Hzでリング変調されるとき、トロンボーンの倍音<譜例:略>には636Hzが加えられ<譜例:略>そして同時に引かれます<譜例:略>。
差音の続きは、98Hzの第七倍音で始まる、さらにそれ以上の倍音周波数から正弦波の周波数636Hzの差から生じます。これら上昇する周波数の値は下降する値とそれぞれ2Hzだけ異なり、それによって音響スペクトルは毎秒2回リズミカルに鼓動(ビブラート)します。<譜例:略>
<譜例>略
楽譜の1ページ、BLECH(金管)のブロック
WDR電子音楽スタジオのリング・モジュレーターは単純に和と差の音ばかりでなく、連続的に減衰する強度で和の和と差の差ももたらしました。
第一セクション「MIXTUR」において、弦のフラジョレット音高がゆっくりと加速された正弦波の周波数(1から10Hz)によってリング変調されるとき、各フラジョレット音高は毎秒最大1回リズミカルに鼓動し始め、そして振幅変調は毎秒10回の鼓動まで徐々に加速します。
楽譜の1ページ、ALCO-STTREICHER(弓奏弦)のブロック
<譜例>略
(1965年に書いたテキスト、1967年の小規模アンサンブルのためのバージョンの世界初演と1969年のDGGレコードのために補遺)
ミクストゥール <1967> 小規模アンサンブル
オーケストラ、4正弦波ジェネレーターと4リング・モジュレーターのための
『ミクストゥール』(1964年作曲、1965年12月9日にNDRハンブルクにて世界初演)では、木管楽器グループ、金管楽器グループと二つの弦楽器グループ(一つは主に弓奏、2番目はピチカート)の音高が4グループのマイクによってピック・アップされてミキシング・コンソール4台に接続され、そこで音響技師が個別のマイクと各グループ全体のバランスを調整します。
4台のミキシング・コンソールの出力は4台のリング・モジュレーターに接続されます。4人の演奏者が正弦波ジェネレーター(ビート=フリーケンシー・オシレーター)を「演奏」し、その正弦波がリング・モジュレーターで器楽の音高を変調します。この変調の結果は4グループのスピーカーから演奏されて同時にオーケストラの音響と混合されます。「混合音響」は---楽譜に従って---各器楽音響から生じます。
ハーモニック、サブハーモニックや半音階的インターバルの並行による音色テクスチャーの構成は入り組んでいます。
五番目のグループでは、3名の打楽器奏者がそれぞれにシンバルとタム・タムを演奏し、全楽器には3つの別々のスピーカーに接続されたコンタクト・マイクが付けられています。
このように、洗練された音色構成---私はそれを今までは電子音楽の領域だけで製作することができた---が伝統的な楽器を使用するときも可能になります。
音色の変換に加えて、これまで使用されているオクターブの分割の各半音ステップの範囲内で任意の数の微妙な音高差が作曲できます。
器楽音響のリズム的変換は約16Hz以下のとても低い正弦波の周波数による変調によって生じます。
器楽音楽のさらなる発展は、器楽音楽のかけがえがない特質---特にその歴史における柔軟性、その活発さ---が電子音楽の進歩と結合され、ライブ・エレクトロニック・ミュージックとしての新しい統一体を形成するので、いまや完全に開かれていると私には思えます。これは近年のテープ音楽と器楽音楽の結合体にとって重要な補完なのです。
このようなプロセスはまったく違った種類の作曲、構成、記譜などを必要とするので、『ミクストゥール』の着想に沿って私は思いがけないもの、聴いたことのないものに対して絶えずオープンにしておき喜んで受け入れる機会に直面しました。私は1964年7月と8月に、経験が欠けていたので、インスピレーションだけを聴きながら、とても速くて中断することなく楽譜を書きました。私は音楽があの冒険的な日々の新鮮で幸福なムードを保持していることを望んでいます。
オーケストラの配置
(小規模アンサンブル)
SCH=打楽器
H=木管
B=金管
P=ピチカート
S=弦楽器
SCH=3打楽器奏者、それぞれに革ひもで吊り下げられた1シンバル<記号:略>と1タム・タム<記号:略>;各シンバルと各タム・タムに1コンタクト・マイクを革ひもに取り付けるか楽器に付着させる。
H フルート(ピッコロ)
オーボエ
クラリネット(E♭クラリネットとバス・クラリネット)
バスーン(コントラバスーン)
B トランペット
トロンボーン(Fアタッチメント付)
ハイ・ホルン
ロー・ホルン
[トランペットとトロンボーンには3つのミュートが必要:直管ミュート、カップ・ミュート、ワーワー・ミュート]
S 2バイオリンI
2バイオリンII
2ビオラ
チェロ
コントラバス
P 2バイオリンI
2バイオリンII
2ビオラ
チェロ
コントラバス
31奏者(27器楽プラス4正弦波ジェネレーター)それぞれと4音響ミキサーそれぞれにパートのサイズによる互いに隣接した譜面台が2つ必要。全体では70台の譜面台がそのために必要。各グループは、各打楽器奏者も、個別に照らされる。
2x1.6m(または2x2m)、高さ1.2mの演奏台3つ
3x3m、高さ60cmの演奏台2つ(すべて椅子付)。
全奏ページ2
<譜例>略
『ミクストゥール』のための音響機材(小規模アンサンブル)
マイク(4H、7S、7P、4B) 22本;
2コントラバス用コンタクト・マイク 2本;
打楽器用コンタクト・マイク 6本;
ステージ上のミキシング・コンソール(4入力1出力2台、8入力1出力2台) 4台:
ミキシング・コンソール、各2入力1出力(打楽器) 3台;
ホール用ミキシング・コンソール(7入力9出力) 1台;
正弦波ジェネレーター(10000-10Hz/100-0.2Hz、10進法スイッチ付、またはなし)
リング・モジュレーター 4台。
ステージ上に高く吊り下げられたスピーカー 7台:内4台はオーケストラ・グループH-S-P-Bの上約6m、そしてその間に、ステージのやや後方に低めに(高さ約4m)、3打楽器奏者のために3台。
ホール後方の左右の高さ約4.5mのタワー上に2x2スピーカー。リング変調された4オーケストラ・グループ(打楽器ではない)を、はっきりと前方に定位する全包囲された空間的音響を体験できるように、左右にステレオ的に配置されたスピーカーからより弱めに投射したほうがよい。
回路構成
<図>略
4正弦波ジェネレーター奏者のリハーサルのために、第二正弦波ジェネレーター(例えば880Hz一定に設定)を4リング・モジュレーターの第二入力に(マイクの代わりに)接続して、その出力を4スピーカーに接続する:
4正弦波ジェネレーター奏者がその正弦波をイヤフォン!から聴くことができるようにしなければならない。
ステージの4ミキシング・コンソールに、VUメーターか高品質ボリューム・インディケーターを備えなければならない。もしハイ・フィデリティー(高忠実度)の音響機材を使用するならば、リミッターの使用を推奨。
プログラム作成
オーケストラは、学ばなければならない見慣れない新しい記譜法、数多くのリハーサル、複雑なエレクトロ=アコースティック、特有のオーケストラ配置、特別な照明のために同じプログラムで別の作品を演奏できません。
以下のプログラムを推奨します:
『ミクストゥール』(逆行バージョン)
---休憩---
『テレムジーク』または『少年の歌』
テープでの電子音楽(暗闇の中で)
『ミクストゥール』(順行バージョン)
『ミクストゥール』のリハーサル
あらゆる細部のリハーサルするために、以下のリハーサル・プランが必要なことが立証されています。少なくとも6日目には、リハーサルを全音響機材を備えたコンサート・ホールで行わなければなりません。機材と演奏台は、午後7時に始まる、5日目のリハーサルには搬入しておかねばなりません。
1日目 木管(9-11a.m.) 弓奏弦(11:15a.m.-1:15p.m.) ピチカート(2-4p.m.) 金管(4:15-6:15p.m.) 打楽器(6:30-7:30p.m.) 正弦波ジェネレーター(7:45-10:15p.m.)
2日目 1日目と同じだが、全リハーサルで音響機材とともに
3日目 2日目と同じ
4日目 10a.m.-1p.m./4-7p.m. 全体
5日目 10a.m.-1p.m./4-7p.m. 全体
6日目 10a.m.-1p.m./4-7p.m. 全体(コンサート・ホールにて)
7日目 10a.m.:ドレス・リハーサル/約8p.m.:コンサート
正弦波ジェネレーターとのリハーサルの間、指揮者は指揮をして、この間すべての周波数をチェックしなければなりません(これにはピアノを使用するのが最良)。これらのリハーサルのための正弦波ジェネレーターとリング・モジュレーターの接続はスピーカー・プランの隣に説明されています。
私のリハーサル・プランは誇張されている主張する指揮者もいますが、しかし私は今日までのほとんどすべてのコンサートをサウンド・プロジェクショニストとして経験してきて立証された最小限に必要なリハーサルを勧めています。私はすべての細部にわたる完璧な演奏を一度も経験したことがありません。
エレクトロ=アコースティック機材を使用する作品にはより一層の忍耐を必要としますが、それはより多くの時間を意味します。30本の個別のマイクそれぞれ---そのうち24本は変調される---のテストとレベル調整だけでも通常は各全体リハーサルの冒頭に45分かかります。
いくつかの楽器は簡単に覆い隠されてしまうので、各グループの内部でバランスをとることは非常に達成困難です。四台のミキサー台の合計は絶えずモニターしてバランスをとらなければなりませんが、なぜならさもなければリング変調が歪んでしまうからです。音響ミキサーたちはミキシング・コンソールから彼らのグループの全奏者を見ることができなければなりません。演奏されたパッセージに従い変調する正弦波の周波数次第で、個別の楽器の増幅度を変更しなければなりません。例えば、下部音域においてとても低い正弦波周波数が規定されているときは、振幅の変調がはっきりと聴きとれるように、器楽音響をリング・モジュレーターの前でときどき大いに増幅しなければなりません。
可変形式
『ミクストゥール』の大形式は細部形式と同じく可変的で、すなわち確立した限度の範囲内で交換可能です。
大形式は20の音楽的モメンテに分割されています。モメントはそれぞれ名付けられています。順行バージョンの順序は次のとおり:
MIXTUR(混合)-SCHLAGZEUG(打楽器)-BLO"CKE(ブロック)-RICHTUNG(方向) -WECHSEL(変化)-RUHE(静けさ)-VERTIKAL(垂直的)-STREICHER(弦)-PUNKTE(点) -HOLZ(木管)-SPIEGEL(鏡)-TRANSLATION(翻訳)-TUTTI(全奏)-BLECH (金管)-KAMMERTON(コンサート・ピッチ)-STUFEN(ステップ)-DIALOG(対話)-SCHICHTEN(層) -PIZZICATO(ピチカート)-HOHESC(高いC)。
この順序は逆方向にも演奏でき、逆行バージョンが全集CD8の最初に収められ、順行バージョンが次に続きます。
モメンテのマイナーな位置変更による他の配列は楽譜に表示されています。
モメンテ[BLO"CKE(ブロック)]における細部の可変性の例:Hグループ(バス・クラリネット、バスーン)に、最初の四つのブロックそれぞれに、音高のグループが記譜された、2-1-6-5段の譜表があります。ブロック内の数字は二人の奏者のそれぞれが---規定された時間持続2にて(持続のための数字の最上列を参照)---二つの●(短い個別の音)をffで2段の譜表から任意の順序で演奏する;持続9(または12)にて2⌒(スラー音)ゆっくりとppで;持続3にて、6段の譜表の3つを選び、音のグループは●(スタッカート)のfでとても速く<記号:略>(そして各グループの後に変化に富んだ休止Vを作る)演奏される;持続6(または8)にて5段の譜表の3つを選び、グループは●/⌒(スタッカート=レガート)のpでわずかに速く、そして各グループの前に変化に富んだVを作って演奏されること、などを示しています。
ブロックの間の3-14-5-10の持続は沈黙です(動くことなく!):2(+3沈黙)│9[12](+14沈黙)│3(+5沈黙)│6[8](+10沈黙)など。
(51、91ページの譜例を参照。)
序文にて、2│3│9(または12)│14│3│5│6(または8)│10などのように共通の基本単位(例えば1=1/60分または1=1/40分など)に関係づけられた、持続の全数字が述べられています。
発見されたことは、しかしながら、約1=1/40分の基本単位はあらゆるものをより有機的に聴かせることができ、そしてあまり速いテンポを使用してはならない(すなわち1=1/60分ではもはや効力がない)ということです。
それゆえに例[BLO"CKE(ブロック)]の持続は、MM=40のとき:3秒│4.5秒│13.5(または18)秒│21秒│4.5秒│7.5秒│9(または12)秒│15秒など。
<譜例>略
(モメンテ[BLO"CKE(ブロック)]におけるPとSグループの音符はここでは除外した)
このように可変形式には数多くの種類があります。
『ミクストゥール』の指揮者への手紙の抜粋
前述の解説に加えて、指揮者がリハーサルを始める前に私の書いた手紙から以下の抜粋を引用します。指揮者が始めて『ミクストゥール』を演奏するときに、毎回のリハーサルが始まる前に私がどのように関係しているかが明らかになります。
”楽譜で示されているような打楽器の吊り下げに関して、私達はより良い解決法を発見しています:シンバルはいつものようにスタンドに取り付け、それぞれにコンタクト・マイクを貼り付けます。タム・タムはいつものようにタム・タム・スタンドに吊り下げ、そしてまたそれぞれの表面にコンタクト・マイクを貼り付けます。シンバルとタム・タムの音量は指揮者の指示に従って3人の打楽器奏者がそれぞれに調整すべきです。これが意味することは、各打楽器奏者が彼の前方の小さな箱の中にポテンショメーターを2台持つということです(このために私達はウーヘル社製の小型ミキサーを使用しました)。
打楽器奏者の演奏技術に関しては、『ミクロフォニーI』を演奏した打楽器奏者にアドバイスを求めるべきです。そのような実演説明なしでは、『ミクストゥール』のすべてを誤ることでしょう。演奏者は安定した高音を発するためにシンバルとタム・タムの表面を引っ掻いたり擦ったりするための充分な数のプラスチック製の箱(石鹸箱など)とさまざまな種類のブリキ缶を見つけることから始めなければなりません。
入手できる録音によって、私の求めるリタルダンドとアッチェレランドがどれくらいの長さなのか、そして特にフェルマータがどれくらいの長さなのかを聴いて下さい。とりわけTRANSLATION (翻訳)のようなセクションでは、セクションの半ばで2秒ごとに1つ以上のビートが聴こえないような非常にまばらなテクスチャーが生じるように(6奏者がいるにもかかわらず)、リタルダンドは非常に大きくすべきです。それが意味することは、本当にとても大きなリタルダンドです。TUTTI(全奏)においても、リタルダンドはそのようにまばらなセクションにするようにしなければなりません(すなわち少なくとも半分のテンポ):そのようなセクションにおいては、例えば4分音符2つの間に4分音符約80から4分音符約40まで減速してから再びテンポを加速するために、4分音符を8分音符に分割することが必要です。モルト・リタルダンドではテンポをさらに減速しなければなりません。
もし別の誰かがオーケストラを準備するのならば、STUFEN(ステップ)における微妙な強弱関係(突然の変化)をどのようにリハーサルしたいかを正確に話しておいてください。
たぶんもっとも難しいモメンテは、これも強弱関係によって、SCHICHTEN(層)でしょう。比較的自由な音高と持続で(TUTTI(全奏)でのように)演奏するすべての奏者は一般的に言ってあまりに大きな音で演奏します。このモメンテにおけるさまざまな器楽グループのバランスをとることは本当にとても困難です。
同様にSPIEGEL(鏡)でも、強弱が指示されているところ(例えばp)では弓奏音、ピチカート音と管楽器を確かに同じ音量で発さなければなりません。さまざまな音色の旋律がこのモメンテを駆け抜けていることに気付くでしょう。私が同じ記号で書いているときは、聴こえる音量を同じにしなければなりません。これは、ついでながら、私の強弱の記譜にとって、一般的な真理です(少数の例外を除く):書かれた強弱記号は聴こえるものを表現すべきです。これはときどき与えられた前後関係において別の楽器のpiano(弱く)と同じくらいの強さで音を発するためにメゾ・フォルテやさらにフォルテだとみなされる演奏をしなければならないときに個別の演奏者からの抗議をもたらします。しかし何らかの基準があるべきで、そして私はこの基準が特定の動きによってもたらされる音の強さの度合に対する個別の演奏者の主観的な”感覚”よりも指揮者の耳であることを望みます。それゆえに、楽譜に記譜された音の強さの度合を達成するために、実際に演奏されるものとして強弱を訂正してください。
モメンテRUHE(静けさ)においては、あなたが自由に楽器に登場と退場をし、手のジェスチャーを用い、密度をあなたが調整して固定された音響を形成します。もしも指揮者として介在して個別の楽器の間の相対的な強弱レベルも形作るかのように彼らが演奏するのならば、そこに素晴らしいエンベロープを形成することもできます。このモメンテにおいて重要なことは密度もまた指揮者によって形成されるということです(ときどき一つか二つの楽器だけを聴いてからまたいくつかの別の楽器を登場させるように)。この固定された音響の形成はリング・モジュレーターのゆっくりとしたグリサンドから生じる音響のグリサンドに完全に適合させなければなりません。
モメンテRICHTUNG(方向)(3)において、第一ホルンは、バスーンも同じく、大抵はあまりに強く演奏します。ピチカートと名を挙げた二つの管楽器の間で均質の強弱バランスを完全につくりだそうとしなければなりません。
演奏者が規定された時間インターバル(指揮者のビートの間)に特定の数の音を演奏するモメンテにおいて最大の困難に出会うことでしょう。大抵は冒頭ですぐに全員が演奏し、それから残りの時間インターバルは音響によって充たされません。特に重大なことはRICHTUNG(方向)1ページのようなセクションで、例えば、5小節目では各弦楽器奏者が音のグループをクレシェンドで演奏して大抵はすべてがあまりに早く終わってしまい、穴が空いてしまいます。このような箇所では、私は時間インターバル全体がクレシェンドで充たされるように、もし可能ならば、4つの時間単位のボックスの終わり近くに密度が増大するように、個別の弦楽器に登場を指示したものです。
テンポに関しては、現在まで私達は大抵は1=1/40分(MM40)を時間単位として使用してきました。それは良い時間スケールです。単一セクションにとても長い時間をもたらすことができます。例えばモメンテ SCHLAGZEUG(打楽器)の二番目のボックスには18から36が規定されていて、持続36が選択されたとき---1967年の録音の場合のように、指揮者はシンバルとタム・タムの音の音色変化についてかなり楽しんだので---36時間単位の持続は実際の持続として54秒に達します。
反射された倍音ハーモニーの美
『ミクストゥール』の本質面とは、まず最初に、よく知られているオーケストラの音響の新しく、不思議な音響世界への変換です。それは信じられない体験であり、例えば、弦楽器の弓奏が音を保つのを見聴きしてどのようにしてこの音がグリサンド、パルスの加速と素晴らしい音色スペクトルの展開によってそれ自身からゆっくりと離れるかを同時に知覚することです。オーケストラの演奏者は演奏した音が音色的、旋律的、リズム的そして強弱的に変調されるのを聴くときに驚きます。
そのようなリング変調から、楽音からノイズ、ノイズから和音、音色からリズムとリズムから音高の推移のあらゆる陰影がそれら自身によるかのように生じます。
最も微妙なマイクロ・インターバル、極端なグリサンドと音域変化、標準的にソフトな開始部分の打楽器的なアタック、複雑な倍音、単一の器楽音では及ばない、そして変調の技術と可変的な構造から生じる別の数多くの聴こえない音響イベント。
加えて、リング変調は楽器のスペクトルに、特に『ミクストゥール』の保持された音響の間に、良く聴くことのできる新しい倍音と下方倍音のセリーを付け加えます。そのような混合音は自然のなかや伝統的な楽器のなかには存在しません。これら反射された倍音ハーモニーによって芸術音楽においてまったく新しい美の不思議な魅せられた知覚へと進展します。
そのような音楽的衝撃の刷新だけが新しい技術に意味を与えます。
『ミクストゥール』はライブ・エレクトロニック・ミュージックの始まりであり、その誕生から30年の間に大いに発展し、私の作品『光』の特定の部分によって証明されています。
[翻訳:山下修司]