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ツィクルス(サイクル) <1959> 【監修済】

打楽器独奏者のための

 1959年に、私はダルムシュタット国際現代音楽夏期講座の責任者ヴォルフガング・シュタイネッケに、クラーニヒシュタイン音楽コンクールの独奏部門に打楽器奏者を加えるよう提案しました。彼は乗り気になって、課題曲として打楽器ソロのための作品を作曲するよう私に求めました。私は打楽器奏者のための『ツィクルス』を書き、これをヴォルフガング・シュタイネッケに献呈しました。
 『ツィクルス』は、クリストフ・カスケルによって、1959年8月25日、ダルムシュタット夏期講座のオープニング・コンサートで世界初演されました。打楽器奏者のための音楽賞を目指して数多くのコンクール参加者が審査員を前に演奏し、ハインツ・ヘードラーが一等賞を獲得しました。それ以来『ツィクルス』は、広範な打楽器レパートリーを使いこなす最初の打楽器ソロ作品として、試験、コンクール、室内やソロのリサイタルでの打楽器奏者のための代表作になりました。『ツィクルス』には多数のレコードやCDがリリースされています。
 この全集CD6の録音は、1960年10月12日にケルンのWDRにてクリストフ・カスケルを独奏者として製作されました。演奏時間は約11分39秒です。
 楽譜はウイーンのユニヴァーサル・エディション社から出版されています。(U.E.13186LW)『ツィクルス』の完全な分析はテクステ第二巻の73~100ページにて出版されています。(デュモン出版社、ケルン、1964年)

『ツィクルス』という題名には以下の意味があります:

 1)作品全体の大形式17ピリオドからなる一つのサイクル(輪)であり、螺旋綴じになった16のページに印刷されています。演奏者はヴァージョンを準備しますが、それはどのピリオドから始まってもよく、それから与えられた順序で全サイクルを演奏し、冒頭のピリオドの最初の音で演奏を終えます。楽譜は上下を逆転し、すべてのページを逆向きに読むことも可能です。すべてのピリオドは同じ演奏時間でなければいけません。それぞれのピリオドは同じ長さをもつ30のタイム・ユニットに分割されていて、その持続時間は演奏者が決定します。数多くの演奏からメトロノーム44のテンポが好都合だと判明しています:17×30=510ユニット、1.36秒を掛けると695.5秒または約11分36秒になります。このカスケルの録音は11分39秒ですが、いずれにせよ、これはカスケルの演奏においてはピリオドの持続時間に揺れがあるからです。
 17のピリオドの持続時間を一定にするための数多くの実験がさまざまな打楽器奏者によってなされています。アメリカ人のマックス・ニューハウスは数カ月間、任意の周期で点滅させられるストロボ・ランプを使って練習しました。他の打楽器奏者たちは変化する小節のメトロノームのようなタイム・スケールのカウントを自らの声で録音したものによってリハーサルをしました。
 17のピリオドは九つの支配的な音色で特徴付けられますが、その際、2ピリオドごとに、ある楽器ないしある演奏タイプが最大値(スネア・ドラム(第1ピリオド)-ハイハット(第3ピリオド)-トライアングル(第5ピリオド)-など)に達します。ある一つの支配的な音色は、この最大値の後に、後続の八つのピリオドにおいて徐々に稀になり(リタルダンド)、その先の八つのピリオドでは再び少しずつより頻繁に現れるようになります(アッチェレランド)。
 以下の表は、17のピリオドでのこれら九つの支配的な音色とそれらの九つのアタック・サイクルをカスケル・ヴァージョンの順番に従って表しています。下降し上昇する線はリタルダンドとアッチェレランドを示していて、そして九つのアタック・サイクルのアタック間のタイム・インターヴァルの進行を音楽的なインターヴァル(タイム・インターヴァルとしてイメージされる:長6度=4ルート8、長2度=6ルート2など)で示しています

 <表>略

 カスケル・ヴァージョンの第一ピリオドは、最大音量のスネア・ドラムと、41のアタック・サイクルからリタルダンドするトム・トムの最初の七つのリム・ショットが、次のように記譜されています。

 <譜例>略

 2)時間的に固定された九つのアタック・サイクルは、九つの層からなる『ツィクルス』の恒久的な骨格を形成しています。これらは可変的なイベントによって二つの準サイクルに分割され、その順序や時点は演奏者によって選択され、固定されたアタック・サイクルのあいだへ挿入されます。これらの可変的イベントは、規則的一義性から統計的多義性まで9段階に階層づけられた九つの構造タイプとして現れます。
 規則的な構造タイプ1の例はカスケル・ヴァージョンの第1ピリオドで19(111)ページに印刷されています:規則的なリタルダンド(スネア・ドラムとリム・ショット)、可算的にグループ化されています:

 <譜例>略

 統計的構造タイプ9はこのヴァージョンの17番目のピリオドで極限に達します。

 <譜例>略

 カスケル・ヴァージョンの17のピリオドは以下のように九つの構造タイプによって二つの準サイクルに分割されています。

 <表>略

 このように1番目、9番目、17番目のピリオドは分割されていません。どのように他のピリオドが構造タイプによって分割されているかを説明する助けとして、楽譜からいくつかのピリオドを再現してみましょう。

 22ページ:第2ピリオド<譜例>略
 23ページ:第3ピリオド<譜例>略
 24ページ:第4ピリオド<譜例>略
 25ページ:第5ピリオド<譜例>略
 114ページ:第13ピリオド<譜例>略
 115ページ:第14ピリオド<譜例>略
 116ページ:第15ピリオド<譜例>略
 117ページ:第16ピリオド<譜例>略

 3)『ツィクルス』の17のピリオドと二つの準サイクルは音色(楽器)によって特徴づけられます。私は演奏者を囲むように楽器を配置しました。

 セットアップ:

 <配置図>略

 <楽器説明>略

 17のピリオドにおいて可変的なイベントのために使用される楽器の数は(カスケル・ヴァージョンの順列では)二度にわたって増加・減少します。

 <図>略

 ヴィブラフォンとマリンバは九つの骨格サイクルのためにはグリッサンドで使用されますが、可変的構造では、と(グリッサンドのような形態ではない)単音で現れます。スネア・ドラムも同様です:固定されたサイクルではロールによって、統計的構造では群と単打によって演奏されるのです。

 楽器の順序は次の通り。次々に登場し、それぞれ5ピリオド後に退場します:

 <図>略

 このように、演奏のあいだ、演奏者のメイン・ポジションは反時計廻りか時計廻りのいずれかで回転します(演奏者のヴァージョンで読まれる楽譜の方向に依拠します)。

 4)五つの最大音量レヴェル五つの強度形態の交代は、トム・トムのリム・ショット(常にff)の骨格サイクルによって調整されます。
 強度の12段階は音符の大きさによって楽譜で示されます:<図>略

 五つの強度形態は以下のとおりです:
 1 大抵がソフトでいくつかの最大強度のピークを伴う、
 2 アタックからアタックへと強度が変化する(点描的)、
 3 群による強度の変化、
 4 クレッシェンドとデクレッシェンド(完全に作曲されたものとしての)、
 5 絶えず最大強度で。

 これら二つの規定(最大強度と強度形態)は、それぞれのリム・ショットごとに変化・交代します。

 カスケル・ヴァージョンの第1ピリオドの冒頭で、リム・ショットからリム・ショットへと変化する強度は以下のとおりです。

 最大限度        形態
 5(第12段階ff) 4 デクレッシェンド
 2(第6段階p)   2 点描的(第2、5、4、6、3段階)
 3(第8段階mf)  1 ピークを伴うソフト(第2、8、2段階)
 1(第4段階pp)  3 群強度(第2、3、1、4段階)
 4(第10段階f)  5 絶えずf(第10段階)

 次のピリオド:

 最大限度        形態
 4(第10段階f)  3 群強度(第4、10、7/5、10段階)
 2(第6段階p)   5 絶えずp(第6段階)
 3(第8段階mf)  4 クレッシェンド-デクレッシェンド
 1(第4段階pp)  1 ピークを伴うソフト(第1、4、1段階)
 5(第12段階ff) 2 点描的(段階:8、3、10、9/12/11、など
 以下略)

 etc.         etc.

 5)最後に音高のインターヴァルサイクル状になっています。そのインターヴァルの内部で、特定の音高をもつ打楽器(ヴィブラフォン、マリンバ)の周波数が展開するのです。それぞれのグリッサンドはこのようなインターヴァルによって構成され、一つのグリッサンドから次のグリッサンドまで、すべての音高はそのグリッサンドの範囲内で生じます。例外としては、それらのインターヴァルからはっきりと飛び出た個々の音と、そして第7ピリオドでは最小のインターヴァル(ヴィブラフォンのトリル)が、二番目に広い音域と組み合わされています。

 <譜例>略

 サウンドとノイズを媒介するこれまで説明してきたような関係を作曲するために、私は比較的に多くの打楽器(11から41のアタックをもつ9つの骨格サイクルを際立たせるために、9つの異なる特徴をもつ楽器。さらに、可変形式の要素のためだけに使用される他の楽器)を使用しました。その際、入手困難な楽器を選択せざるをえませんでした。例えば音高によって選び抜かれたアフリカン・ウッド・ドラム(ログ・ドラム)、カウ・ベル、ニップル・ゴング。私の選択は、私が1959年の時点で発見できた打楽器のアンサンブルなのです。
 いくつかの打楽器は原始的で、もし可能であったならば他の、とりわけもっと特定の音高をもった打楽器を用いたことでしょう。従って音色の作曲は相対的です:良く響く、あるいは良く響かない音響体の様々なレベルと異なる複雑性、そして、より多くまたは少なく記憶に残る明確さと顕著さの度合いを考慮し、差異化するならば、ここに記述されたサウンドの機能を他の音色でも実現できることが想像できます。だから、個別の定められた楽器を、それより繊細さの劣る楽器に置き換えることは道理にかないません、よくあることなのですが。例えば、可能なかぎり多くの部分音と一つの主な音高---これは基音でなくてもよい---をもち、出来るだけ長く響かねばならないカウ・ベルを、ある演奏者は、とても鈍くて響きの短いセンセロスに置き換えました。また、とても低くて共鳴豊かなウッド・ドラムの代わりに、ある人はテンプル・ブロックを使用しました;ニップル・ゴングの代わりに小さな偽のゴングやタム・タムなどなど。定められた楽器以外の使用については、形式がより明確になり全体的なサウンドがより洗練されるように置き換えられなければなりません。

 印刷譜から直接に演奏することを試みた打楽器奏者もいますが、このような方法で録音されたり演奏されたものが成功したことを聴いたことがありません。反対に私がお勧めするのは、すべての打楽器奏者が構造と各要素の意味をまず研究して、それからそこで得られた認識に基づいて、楽譜をコピーして自分のヴァージョンを作成し、可変的な要素を切り取って固定された骨格サイクルに張り付けることです。こうして作られたヴァージョンを、各人は完璧に練習し、もし可能ならば暗譜で演奏することが必要なのです。そしてあるヴァージョンを幾度か演奏したら、その細部を変更したり、新しいヴァージョンを作成したりできます。さまざまなヴァージョンを作成する基準は前述のテクステ第二巻(デュモン出版社、1964年)に収められた『ツィクルス』の分析で詳細に記述されています。

サウンド・プロジェクション

 『ツィクルス』は以下のプログラムで数多く演奏されています:

ツィクルス
ピアノ曲X番(またはXI番またはその他)
ルフラン
---休憩時間---
コンタクテ

 『コンタクテ』と『ルフラン』では、すべての楽器は増幅され、そして電子音楽は4グループのスピーカーによって演奏されます。『ツィクルス』も増幅されます。
 『ツィクルス』のためには、四つのマイク---またはそれ以上---が楽器の周りに配置され、すべてのサウンドが等しくクリアにスピーカーから聴こえるようにします。パノラマ・ポテンショメーターによる空間的なプロジェクションは---オーディトリウムにおいて---楽器に囲まれた打楽器奏者とほぼ同等に----作品が聴けるようにしますが、増幅されたサウンドよりも直接音のほうが常に若干大きくなるようにします。

 <図>略

[翻訳:山下修司、監修:清水穣]