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なぜ積読を語ってすれ違うのか


 ペケ(X)でこんな記事が話題になっていた。呆れられていた、ともいう。

 まあこの記事についてはろくでもないなあ以外の感想がないのだが、だいたいにおいてこういう話になるとネットでは積読の何が悪いという側の声が圧倒的大半になっているので、ひねくれたい気持ち少し違う角度から見てみたい気持ちもある。

 この記事に対する反応のなかに、「本をろくに読まない人に向けて書かれたんだろう」という声があった。確かにそれはそうだろう。もっとも、一年に読まない本が6冊という人は多分年に2~30冊くらいは本を買っていると思うので、世間的には本を読んでいる方になるかもしれない。それはどうでもいいとして、この6冊の本が未読になっているままになっているのを気にしない人がいないかというと、どうもいるように思うのだ。
 元記事がカネカネ言ってるのでなんだか見過ごされやすいのだが、それは家族の中に本を大量に買って読まない人がいる人ではないか。

 世の中には本をためこまれるのが苦痛である立場の人というのがいるという問題だ。ありていにいうと、書籍収集家の家族である。
 で、今の時代ならいざしらず、昔の場合はその収集家は夫であり、本が大量に積みあがっている家に長くいるのは妻だったりする。で、掃除するのも妻であったりした日にはそれはもう降ってわいた災難となる。「捨てる!技術」なんてのがベストセラーになるのもわからんでもないのである。ブックオフで見つけたら100円で買って焚き付けにしたいくらい嫌いだけど しないけどよ
 勝手に捨てられたという話だとこれはもうネットにおける危険物第四種テーマといっても過言ではないのであるが、家族でも人のものを勝手に捨ててはいけないとかいうのはある意味キレイゴトである。実際に裁判になったりする例もあるのでそれで済ませるのもどうかとは思うが、生活空間を圧迫していくうえにそれを整理しろと言ってもしないとなると、これはもうどうしようもない。家族のものでも勝手に捨てていいわけではないですからね~という人が、「で、自分のものでもないものが生活空間を圧迫していくら言っても聞かない人がQOLを上げるために何をしたらいいので?」という疑問に対する回答を持っているところは見ないように思う。
 蒐集趣味と、それをきれいに整理する趣味および能力はまったく相関するところがない。相関係数がマイナスである可能性すらある。とりあえずうちの床はいつもエントロピーとの闘いになっている。独身だから良いようなものだが、実家から「もう帰省のついでに段ボールに詰めた本を車のトランクに詰めてくるのをやめろ」とお達しを受けているので、やっぱりそういう話なのである。

 それにしても世の整理したがる人と、ものが増える人というのはいっさいかみ合わないのだろうか。「夫は妻の話を聞かない」という話に落とし込むことも可能だとは思う。しかし、ダンシャリをやっている男性になら説得されるかというと多分そんな話はいっさいなさそうだ。
 ひとつは、ダンシャリのような極端な話は思想に近いものがあるので、その思想を受け入れる土壌がある人以外にはまったく響かない、ということ。収集癖があるひとでも、転勤が極めて多かったりすると受け入れる土壌は発生するのではないか。本が部屋に散らかる人はだいたい荷造りも苦手だと思うし。
 もうひとつは、思想が相容れないということ。

 今でこそSNSなどで、普通の人がいくらでもモノを書けるけれども、少し前までは「捨てる技術とかクソクラエ」などというようなことが書ける場といえば活字媒体だった(あれが発売したころにはすでにネットはあったとかそういう話ではない)。
 だいたいにおいて、活字媒体にものをかくのは活字媒体で仕事をしている人である。別に進次郎構文であそんでいるのではない。研究者だったり、作家だったり、ライターだったり。そういう人が資料を必要とするのは当たり前である。つまり、本がたまるというのは肉体労働者の家にはサロンパスがあるみたいな話なので、サロンパス臭いなといったら殴られるわけだ。そして資料は今読んでいない、開いていないからといっていつか必要になるかもしれないし、いつかが来なくてもそんなことは大した問題ではないのである。いつかが来た時手の届くところにそれがない可能性に比べれば。
 「いつかなんて来ない」と言われたところで、ハイとなるわけがないのである。もっというなら、「具体的に表現しづらいが、直感的に反感しか感じない」という話でもある。なにか極めてなにか生命に対する侮辱を感じますというやつだ。

 たぶん、必要な話題が違うのである。積読で家が埋まっている人にとって必要なのは、「どうやって本を整理して、必要なときに必要なものがとりだせるようにするか」「本の山が部屋にそびえている人のための掃除の仕方」などだと思う。トランクルームの使い方とか書籍保管サービスの比較とか本棚の作り方とか。
 



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