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【脚本公開⑥】窓辺の雪が融けるまで

テーマ:ツンデレ妹と人外お姉ちゃん。
タイトルはそのまんま、ツンデレ妹がデレるまでというイメージです。

初演

劇団AQUA 第10回記念公演
結婚式への招待状(仮)

日程 2016年12月04日(日)
会場 市川市男女共同参画センター7階 研修ホール

タイトル

窓辺の雪が融けるまで

登場人物(女3)

深雪 みゆき 女性
春奈 はるな 女性
付き人 女性

上映時間の目安

20分


向かい合わせに座り、カードゲームをしている深雪と春奈。
風がびゅうと窓をたたく音。

深雪 「はい、革命」
春奈 「……パスで。」
深雪 「8切り~」
春奈 「……。」
深雪 「ハイ、あがり」
春奈 「……。」
深雪 「どうする、もう一回やる? 大・貧・民・さん?」
春奈 「(素っ気なく)いえ、もう結構ですから。」
深雪 「あら、そう? じゃぁお茶でも淹れてきて、大貧民さん♪」
春奈 「ないですよ、わかってるくせに」
深雪 「そうだった。(窓を見やり)この吹雪の中、夏樹くんも可哀そうにね」
春奈 「あなたが言いますか」
深雪 「大貧民が買い出しに行くって決めたのは誰だったかしら?」
春奈 「お兄ちゃん…」
深雪 「でしょ? 自業自得じゃない」
春奈 「自分の家なのに閉め出されて…。結婚前から尻に敷かれてて大丈夫なのかなぁ、お兄ちゃん…」
深雪 「人聞きが悪いわね。そんなことないわよ?」
春奈 「え~?」
深雪 「夏樹くんが私を大好きだから、尽くしたくなっちゃうのよ?」
春奈 「…あーハイハイ、そういうのはもういいですから」
深雪 「そう?」

窓の外を眺める春奈。

春奈 「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ」
深雪 「心配なんだ? 本当にお兄ちゃん思いね」
春奈 「そんなんじゃないですから」
深雪 「大丈夫よ、この吹雪もじきに弱まるわ」

窓を人差し指でコンコンと叩く深雪。

春奈 「そうですか? でも天気予報だと今夜は一晩中吹雪くって…」
深雪 「そんなことないわよ、ほら」

風音が弱まる。

春奈 「ん? あれ? ちょっと弱まった?」
深雪 「ね、言ったでしょ」
春奈 「ん…、それならいいんですけど」
深雪 「ね、ね、どうする? 次は何して遊ぶ?」
春奈 「いえ、もういいですってば」
深雪 「じゃぁ次はババ抜きね」
春奈 「人の話聞いてました?」
深雪 「ジジ抜きにする?」
春奈 「そういう問題じゃなくて、え、ジジ抜きなんてあるんですか」
深雪 「あるわよ? さ、このカードの中から好きなカードを選んで」
春奈 「…じゃぁ、これ」
深雪 「中身は見ちゃダメよ? はい、じゃぁこれはここに置いておきます」
春奈 「はい」
深雪 「あとはババ抜きと同じ。最後までカードがなくならなかった方の負け」
春奈 「わかりました」

いらないカードを捨て始める二人。

深雪 「はい、どうぞ(カードを引かせる)」
春奈 「(引きかけて)…はっ。ごく自然にゲームに参加させられてしまった?」
深雪 「気づかれてしまった!」
春奈 「やだ、やりませんよ私」
深雪 「もうおそーい。早く引いて」
春奈 「……。」

しばし無言でジジ抜きを始める。

深雪 「春奈ちゃんてさ、私の事苦手でしょ」
春奈 「……。そんなことないですよ」
深雪 「ふふ。春奈ちゃん、すぐ顔に出る」
春奈 「……。」
深雪 「ジジ抜きにしておいてよかったね」
春奈 「これ、キリがなくないですか?」
深雪 「ゲームにはいつか終わりがくるものよ」
春奈 「そうですけど」
深雪 「(カードを捨てる)ほら、終わりが近づいてきた」
春奈 「あっ…。」


黙々とカードのやりとりをする。

深雪 「ねぇ、春奈ちゃん」
春奈 「…なんですか?」
深雪 「せっかくだから、おねえさんと何かお話しましょうよ」
春奈 「……。べつに、話すことなんて、ないですよ。」
深雪 「まぁまぁ、そう言わずに。ね、なんでもいいから」
春奈 「(厭味ったらしく)なんでもいい、が一番困るんですけど」
深雪 「そっか。それもそうね。じゃぁ、お互いに聞きたいことを聞きましょう」
春奈 「はぁ?」
深雪 「ほら、仲良くなるにはまず相手の事を知らないと」
春奈 「べつに、仲良くなろうなんて…」
深雪 「じゃぁ私からね。…んー、春奈ちゃんは、お休みの日は何をしてるの?」
春奈 「(呆れて)……。」
深雪 「ね、教えて?」
春奈 「…そんな、ふつうですよ」
深雪 「ふつう?」
春奈 「買い物したりとか」
深雪 「とか?」
春奈 「(嫌そうに)映画観たりとか、カラオケ行ったりとか」
深雪 「ふふ、高校生ってかんじ」
春奈 「バカにしてるんですか?」
深雪 「してないしてない。ねぇ、お買い物が好きなら、今度一緒にお買い物に行きましょうよ。」
春奈 「一緒に行く理由がないです」
深雪 「春奈ちゃん、いつも可愛いお洋服着てるから。どんなお店が好きなのか、知りたいな」
春奈 「そんなの、あなたに関係ないでしょ」
深雪 「ね、ね、彼氏はいるの?」
春奈 「…べつに、どうでもいいじゃないですか」
深雪 「居そうな反応ねぇ。夏樹くんが知ったら、しょんぼりしそう。ふふ。」
春奈 「……。」
深雪 「大丈夫よ、言わないから。」
春奈 「……。」


深雪 「じゃぁ、次は春奈ちゃんの番。」
春奈 「え?」
深雪 「質問。」
春奈 「べつに、あなたに興味なんて」
深雪 「はやく。」
春奈 「(考えて)…じゃぁ、深雪さんて、なんでお兄ちゃんにしたんですか」
深雪 「結婚相手のこと?」
春奈 「はい」
深雪 「私が守らなきゃって思ったから」
春奈 「…何それ」
深雪 「違うな…私なら守れるって思ったの」
春奈 「まるでお兄ちゃんが弱いみたいに」
深雪 「弱いでしょう、でも強いわ」
春奈 「どういうことですか?」
深雪 「ただ、弱いってだけの人じゃないってことよ」
春奈 「意味わかんない」
深雪 「わからなくていいのよ」
春奈 「お兄ちゃんだって、ジャンケンは…弱いし、力は…弱いし、気も…弱いけど、」
深雪 「弱いわね」
春奈 「弱いな…。」
深雪 「夏樹くん、私のことお姫様抱っこできないのよ」
春奈 「えっ」
深雪 「だから私が逆に持ち上げてやったわ」
春奈 「弱いな…」
深雪 「弱いでしょ」
春奈 「お兄ちゃん、なんであんなに情けないんだろ」
深雪 「守ってあげたくなっちゃう(はぁと)」
春奈 「そんなこと言ってるの深雪さんくらいですよ」
深雪 「そうかしら」
春奈 「ていうか、守るって何!? 何から守るんですか!」
深雪 「いきなりなに?」
春奈 「JPOPとか少女漫画とかでよくあるじゃないですか、(イケボで)「僕が君を守るよ…」みたいな。あれいつも思うんですけど、何から守るんですか」
深雪 「外敵かしら」
春奈 「そんな頻繁に狙われないでしょ? 何と戦ってるの??」
深雪 「じゃぁ、寒さとか?」
春奈 「厚着しろ! 暖房つけろ!」
深雪 「そういうのってお金が要るわよね」
春奈 「金銭的負担かぁ~(突っ伏す)」
深雪 「大丈夫? さっきから変よ」
春奈 「(カードをばらまく)深雪さんに言われたくありません!」
深雪 「わ。びっくりした」
春奈 「この際言っておきますけどね! 私、あなたのことまだ認めたわけじゃありませんから!」
深雪 「すごい、ドラマみたいなセリフ!」
春奈 「(乗せられて)一回言ってみたかったんですよね…ってそうじゃなくて!」
深雪 「忙しい子ね」
春奈 「大体、今日だってお兄ちゃん独身最後の日だから、きょうだい水入らずって思ってたのに! なんかいるし!」
深雪 「居るわねぇ」
春奈 「夜ご飯の材料買ってうきうきでお兄ちゃん家の呼び鈴ならしたら得体のしれない女が出てきた時の私の気持ち、わかります?」
深雪 「助かったわ、夜ご飯何にするか決めてなかったから」
春奈 「あなたがいたせいで材料足りなくなったんですけどね?」
深雪 「おいしかったわ、春奈ちゃんの手羽大根」
春奈 「(嫌味っぽく)明日式なのに、準備とかしなくていいんですか?」
深雪 「会場側でいろいろ準備してくれたから、もうほとんどやることなんてないわよ。」
春奈 「今日くらい遠慮してくれてもよかったんじゃないですか?」
深雪 「えぇ? せっかく春奈ちゃんに会えたのに?」
春奈 「私は会いたくなかったですけど」
深雪 「私は会えてうれしいわ。春奈ちゃん、照れ屋さんだから、顔を合わせるといつも逃げちゃうんですもの」
春奈 「私、あなたみたいに、なに考えてるかわかんない人って嫌なんです、すぐ嘘つきそうで」
深雪 「ついてないわよ?」
春奈 「正直に言ってください。なんかの勧誘ですか?」
深雪 「えぇ??」
春奈 「ツボか? 絵か? 白状しろ!」
深雪 「(飄々と)違うわよ、そんなので結婚までこぎつけるわけないでしょう」
春奈 「じゃぁなんでお兄ちゃんなんですか!」
深雪 「話題がループしてない?」
春奈 「してません」
深雪 「言ったでしょ、守ってあげたいの」
春奈 「何から?」
深雪 「外敵から?」
春奈 「意味わかんない」
深雪 「強いのよ、私」
春奈 「意味わかんない」
深雪 「トランプも強いでしょ?」
春奈 「強いけど」
深雪 「物理的にも精神的にも強いのよ」
春奈 「強そうですけど」
深雪 「納得した?」
春奈 「無理やり納得させられそうな気がする」
深雪 「あらひど~い」


春奈 「深雪さんてなんか胡散臭いんですよね。人間味がないっていうか」
深雪 「あー、それは仕方ないわよ。人間じゃないもの」
春奈 「ふーん」

春奈 「え?」
深雪 「え?」
春奈 「え、冗談ですよね?」
深雪 「本気よ? あのね私、雪女なの」
春奈 「は?」
深雪 「ん?」
春奈 「え、そういう冗談マジ引くんですけど」
深雪 「本当だって。もう一回見せてあげましょうか?」
春奈 「何を?」
深雪 「私のちから」

窓の外を見やる深雪。

春奈 「は?」
深雪 「今から吹雪強くします」

窓を指でコンコンする。
ものすごい吹雪の音。

深雪 「弱くしまーす」

窓を指でコンコンする。
吹雪がやむ。

深雪 「ね?」
春奈 「え、たまたまでしょ?」
深雪 「ひどーい。信じてくれなーい。夏樹くんはころっと信じてくれたのに」
春奈 「お兄ちゃんのことだましてるんですか!?」
深雪 「いや、だからだましてないわよ」
春奈 「(バカにした態度で)え、じゃぁお風呂とかどうするんですか?」
深雪 「最近の雪女はお風呂くらいじゃ融けないのよ」
春奈 「は~~~????」
深雪 「夏もおでこに冷えピタ貼ればなんとかなるわよ」
春奈 「詭弁でしょう」
深雪 「人間とか動物と同じよ。雪女も環境に適応していってるの。」
春奈 「どうとでも言えるじゃないですか」
深雪 「う~~ん、なかなか手ごわいわね」
春奈 「胡散臭いんですよ」
深雪 「あ。また言った。地味に傷つくのよ、それ」
春奈 「じゃぁもっと証明してくださいよ」
深雪 「私が雪女だって?」
春奈 「(うなずく)」
深雪 「んー、でも適応していくうちにちからも衰えてきてて、さっき以上に派手なのはあんまりないのよね」
春奈 「(「ほらやっぱり嘘」の顔)」
深雪 「あ、体温低いわよ、ほら(春奈に手を渡す)」
春奈 「(考える)……。」
深雪 「信じた?」
春奈 「極度の冷え症では?」
深雪 「あ。あと、かき氷作るの得意よ? こう、イイ感じにふわふわの氷を…」
春奈 「それは雪女関係なくないですか?」
深雪 「いまいち説得力に欠けるようね…。」
春奈 「もうこの話題よくないですか?」
深雪 「飽きられてる!」
春奈 「もうどうでもよくなってきました」
深雪 「(残念そうに)そう…」


春奈 「(無視して)お兄ちゃんどこまで行ったんだろ」
深雪 「シブーストは駅前のケーキ屋さんまでいかないとないのよねぇ…。」
春奈 「あなたのせいか」
深雪 「春奈ちゃんだってショートケーキって言ったじゃない」
春奈 「ショートケーキくらい今時コンビニにもありますぅ」
深雪 「(大げさに)あの優しい夏樹くんのことよ。可愛い妹には少しでもおいしいショートケーキをご馳走してあげたいって、ケーキ屋さんに車を走らせたに違いないわ」
春奈 「まぁイチゴの代わりにイチゴジャムが挟んであるようなショートケーキはショートケーキじゃないですよね」
深雪 「それは言えてるわ。ジャムや薄いスライスのイチゴなんて論外よ。背の高いイチゴがクリームと一緒にスポンジとスポンジの間を支えている方が絶対においしいに決まってるもの」
春奈 「わかります!? そう、大事なのはイチゴの存在感とバランスなんです」
深雪 「どこから食べてもスポンジとクリームといちごを同時に味わえるショートケーキが最高よね」
春奈 「ほんとそれ!」

熱い握手を交わす二人。

春奈 「…なにをしてるんだ私は!(振り払う)」
深雪 「あ、ひっどーい。」
春奈 「ていうか割と冷たい!」
深雪 「(嬉しそうに)だから、私雪女だから」
春奈 「もうそのネタいいですから」
深雪 「(項垂れる)」
春奈 「お兄ちゃん早く帰ってきて」
深雪 「でも確かに、ちょっと遅すぎるわねぇ」
春奈 「私見てこようかな」
深雪 「ダメ!」

出ていこうとする春奈に抱き着く深雪。

春奈 「なんですかもう!」
深雪 「死亡フラグが立ったから…!」
春奈 「はぁ?」
深雪 「台風の時にわざわざ氾濫している川を見に行くおじいちゃんと同じことしようとしてたわよ?」
春奈 「大げさだなぁ」
深雪 「とにかくだめ! 戻って!」

しぶしぶ元の位置に戻る春奈。

深雪 「座って」
春奈 「はぁ」
深雪 「あのね春奈ちゃん。雪女の私がいうのもなんだけど、雪を甘く見ちゃダメ」
春奈 「はぁ」
深雪 「吹雪の中、何かに足を取られて転ぶ。風にあおられながらもなんとか立ち上がって、ふと周りを見ると、もう自分がどこから来たのかもわからず白銀の世界に覆われるのよ」
春奈 「吹雪いてないじゃん」
深雪 「吹雪いてないけど」
春奈 「ていうかお兄ちゃんはいいの」
深雪 「夏樹くんは私が守ってるから大丈夫なの。雪女パワーで」
春奈 「はいはい」
深雪 「対応がだんだん雑になってきたわ」
春奈 「バレたか」
深雪 「どうせ冗談だと思ってるんでしょう?」
春奈 「どうせ私の事からかってるんでしょう?」
深雪 「そんなわけないじゃない」
春奈 「だって深雪さん、私の事子ども扱いしてる」
深雪 「そりゃ、未来の妹ですもの」
春奈 「妹ねぇ…」


深雪 「あ! 私、家族が欲しかったの」
春奈 「なんのことですか?」
深雪 「ほら、さっきの結婚の話」
春奈 「…それとお兄ちゃんを選ぶことに、何の関係があるんですか?」
深雪 「夏樹くんとなら、幸せな家族になれると思ったの」
春奈 「……ふーん。」
深雪 「あのね、私、両親のことは好きだけど…ひとつだけ不満だったのが、あんまり構ってもらえなかったことなの。」
春奈 「……。」
深雪 「広い家に私ひとり。父も母も、家の中に居るのかどうかわからないのが普通だった。」
春奈 「……。」
深雪 「でも、夏樹くんはそんなことない。家に帰ってきたらおかえりを言ってくれるし、出かけるときはいってきますを言ってくれる。そばにいてほしい時には、ずっとそばにいてくれる。」
春奈 「……そう、ですね。」
深雪 「夏樹くんなら、私が子供を産んだとしても、きっといいお父さんになるわ。誰よりも、人の気持ちを考えられる人だもの。」
春奈 「…あたりまえです、お兄ちゃんはそういう人だから」
深雪 「そう、そういう人なの。だから、私は夏樹くんがいいの」
春奈 「…そうですか。」
深雪 「それに、夏樹くんと結婚したら、春奈ちゃんっていう、可愛い妹もできるしね。私、一人っこだったから、きょうだいができるのすごく嬉しいの。」
春奈 「そんなんで懐柔されるほど、私子供じゃありませんから」
深雪 「知ってるわ。そういうところも含めて可愛いの」
春奈 「はぁ…?」
深雪 「夏樹くんもあなたも、一緒にいると心があったかくなるのよ。」
春奈 「よくそんなこと、恥ずかし気もなく言えますね」
深雪 「(茶化して)融けちゃいそう(はぁと)」
春奈 「だから、そういうところが…。もう、いいです(立ち上がる)」
深雪 「…どこ行くの!?」
春奈 「トイレです!」


春奈いったんはける。
と、思ったら戻ってくる。

深雪 「ずいぶん早いわね」
春奈 「ドアの前に…奴が…」
深雪 「奴?」
春奈 「Gが」
深雪 「G?」
春奈 「あぁ飛んだ!」

深雪のうしろに隠れる春奈。

深雪 「(納得して)G!」
春奈 「だめだめだめマジむり、おにいちゃんありえない、冬なのにGって」
深雪 「春奈ちゃん虫ダメなの?」
春奈 「虫っていうか、奴は得体のしれないもの筆頭じゃないですか!」
深雪 「なるほど、確かにね」

Gが飛び上がる。

春奈 「ひぇ! あ、あれは…DNAに…恐怖感を抱くようにインプットされているとしか思えないんです!」
深雪 「夏樹くんも似たようなこと言ってたわ。ふふ、そっくりね」
春奈 「深雪さんG平気なの」
深雪 「平気ってほどでもないけど…」
春奈 「あ、ダメ、目離さないで」
深雪 「わかってるわ」
春奈 「あぁやだ、マジむり、さいあく。深雪さんは居るし、おにいちゃんは遅いし、Gはでるし」
深雪 「私ってGと同列なのね」

ゆっくりと忍び寄るG

春奈 「やだ! こっちこないで!」
深雪 「春奈ちゃん、大丈夫。落ち着いて? あなたのことは私が守るわ。だから安心して」
春奈 「(パニくって)そんなの、どうせ口先だけなんでしょう!」
深雪 「春奈ちゃんも、もう私の家族になる人だもの。夏樹くんともども、まとめて守って見せるわ」
春奈 「深雪さん…。」
深雪 「ここでじっとしててね」
春奈 「はい…。」

深雪だけがドアに近づく。

大きく深呼吸。
したのち、どこからか殺虫剤を取り出して

深雪 「必殺! れいとうビーム!」

噴射音。
しばらくGを見つめる。
死んだことを確認して、
トイレに死骸を捨てに行き、戻ってくる。

深雪 「これでもう大丈夫よ、春奈ちゃん」
春奈 「…すごい」
深雪 「え?」
春奈 「すごい! 今の、ほんとに雪女っぽかった!!」
深雪 「えっ…(照れる)そ、そう?」
春奈 「すごいです。見直しちゃいました。」
深雪 「(かっこよく殺虫剤を構えて)ふふ。何を隠そう、この家の平和は私が守っているのよ」
春奈 「殺虫剤で?」
深雪 「雪女パワーで」
春奈 「それ、どこから取り出したんですか? 手品ですか?」
深雪 「…雪女パワーよ!」
春奈 「雪女関係なくないですか?」
深雪 「知らないの? 雪でできてるのよ、このスプレー」
春奈 「少なくとも、雪では、ないかな…。」
深雪 「(項垂れる)……。」
春奈 「(からかうように)もう、せっかく見直したのに、なんでそんなウソつくんですか?」
深雪 「一向に信じてもらえないけど、ほんとうに雪女なのよ?」
春奈 「はいはい、もうわかりましたから」
深雪 「ついには宥められてしまったわ!」

ドアの方から足音が聞こえる。

深雪 「もう、信じてくれないなら、春奈ちゃんのぶんまでケーキ食べちゃうんだからね!」
春奈 「えぇ!? ちょっと」
深雪 「夏樹くーん!」

深雪がはける。
袖から深雪が夏樹に話しかけるような声。

春奈 「……変な人。」


暗転。
場面変わって、結婚式の控室。
ウェディングドレスを着て、お付きの人に仕上げ(?)をしてもらっている深雪。

春奈が入ってくる。

春奈 「あの…」
付き人 「妹さん、いらしてますよ」
深雪 「春奈ちゃん」
春奈 「聞いてくださいよ深雪さん。お兄ちゃんったら部屋に眼鏡忘れたって言って」
深雪 「うん」
春奈 「私にとりにいかせ…。………。」
深雪 「ん? どうしたの?」
春奈 「……いえ、あの。深雪さんがあんまりにもきれいだから…」
深雪 「まぁ、お上手ね。」
春奈 「お兄ちゃんが見たら腰ぬかしますよ」
深雪 「そんなにー?」
春奈 「いやホント」
深雪 「それじゃぁ、思いっきり腰ぬかすように、とびきりきれいにしてください」
付き人 「ふふ、お任せください」
深雪 「楽しみね」
春奈 「は、はい…。」

しばしの間。
所在なさげな春奈。

深雪 「春奈ちゃん、そのドレス可愛いわね。どこのブランド?」
春奈 「あっ…えっと、melting snowっていう…」
深雪 「いいわね。今度一緒にお買い物に行きましょう。」
春奈 「あ、はい…。」
深雪 「私の好きなお洋服屋さんにもついてきてくれる?」
春奈 「…いいですよ。」
深雪 「やった! 妹とお洋服選びあいっこするの、夢だったの」
春奈 「そこまで約束してない…」
深雪 「ダメよ、もう言質はとったんだから。訂正禁止。」
春奈 「…仕方ないなぁ。」
深雪 「春奈ちゃんとこんなに仲良くなれるなんて、トランプさまさまね」
春奈 「えぇ…ていうか、なんでかたくなにトランプだったんですか」
深雪 「え? だって春奈ちゃんトランプ好きでしょう。」
春奈 「え?」
深雪 「だって、ふたりでよくトランプで遊んでたって、夏樹くんが」
春奈 「まぁ、好きっちゃ好きですけど、いつもトランプやろうって言いだすのはお兄ちゃんのほうですよ」
深雪 「夏樹くんはいつも春奈ちゃんがって」
春奈 「……。」
深雪 「……?」
春奈 「まぁ、そんなの、べつにどっちでもいいです。」
深雪 「それもそうね。」
春奈 「そ、それより…」
深雪 「?」
春奈 「…あの…」
深雪 「なぁに?」
春奈 「お、」
深雪 「お?」

間。

春奈 「……お姉ちゃん」
深雪 「! なぁに??」
春奈 「すっごくきれい…だよ。本当に人間なのかな、って、思うレベルで」
深雪 「そりゃぁそうでしょう。だって私、」
二人 「「雪女だもの」」

顔を見合わせる。

深雪 「やるわね~?」
春奈 「もうパターン読めてきましたから」
深雪 「あれ、敬語に戻しちゃうの?」
春奈 「さっきのはサービスです」
深雪 「えぇ~、もっとサービスしてよ。ほら、もう一回おねえちゃんって」
春奈 「嫌です」

アドリブ適当に挟んでください。

付き人 「よし、できました。さ、行きましょうか」
二人 「「はーーい」」

仲良く連れ立って歩いていく二人。

幕。


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