ソファチラシ

【脚本公開③】箱の中

こってこてのショートミステリ。
脚本提供した後に同名の小説が存在することに気が付きました。

初演

劇団AQUA 第5回公演
ドレミファソファ
日程 2013/12/21
会場 市川市男女共同参画センター7階 研修ホール

タイトル

箱の中

登場人物(男2・女1)

不知火(しらぬい・男) 探偵
朝日奈(あさひな・女) 助手
怪盗レトロ(男) 声のみ

上映時間の目安

15分~20分

本文

部屋の中にはソファ、テーブル、そして、
たくさんの箱と、ぬいぐるみや置物などのファンシーな雑貨。

ソファの上で背中合わせに座っている二人。(朝日奈は不知火に寄り掛かりぎみ)
どうやら後ろ手に縛られているようだ。

し「朝日奈くん」
あ「んん~~…」
し「朝日奈くん」
あ「んぅ~~まだ寝るぅ~~」
し「(強めに)こら。起きろ、朝日奈くん」
あ「だ、だめですよぉ~せんせぇ…そんな…やだ……。ふふっ。ふふふふふっ。」
し「なんて夢を見てるんだよ…。」
あ「むにゃむにゃ」
し「(朝日奈の耳元で)朝日奈くん!」
あ「はっ」
し「起きたか」
あ「……あれ? ここ…あれ? せんせぇ~? わっ、腕が!!」
し「朝日奈くん」
あ「え、し、縛られ…ていうか、先生と密着…! あうう」
し「大丈夫だから、落ち着け。朝日奈くん。」
あ「はははい。」
し「いいかい、朝日奈くん。」
あ「はい。」
し「落ち着いて聞きなさい。」
あ「はい。」
し「私たちは今、何者かによって閉じ込められているようだ」
あ「は……えっ!?」
し「この部屋の中にな。」
あ「え、うそっ (立ち上がろうとし)あっ動けな…イテテ…」
し「気をつけてくれ。まずはこの縄を解くところからだな…。」
あ「ど、どうしましょう? 縄を解こうにも身動きが…」
し「そうだね。私のズボンのバックポケットに、ツールナイフが入っている。取り出せるかい」
あ「はい、やってみます」

暫しの間、後ろ手に格闘。

し「く、くすぐったいよ朝日奈くん!」
あ「うわぁんごめんなさい! えっとえっと…」
し「もっと右だ」
あ「右っ…あれ、右ってどっち」
し「箸を持つ方」
あ「あ、ありました!」
し「貸してごらん」
あ「はい」
し「危ないから、動いちゃダメだよ」
あ「わかりました」
し「……。」
あ「……。」
し「別に、黙りこくらなくてもいいんだけど…。」
あ「そ、そうですよね…えへへ…。」
し「……。よし、解けたよ。」
あ「あ、有難うございます!」

立ち上がる二人。
不知火がドアノブを回す。

し「もちろん、施錠されている…か。…おや。」
あ「先生。さっきから思ってたんですけど…、もしかして、僕たちを閉じ込めたのって…」
し「あぁ。十中八九、怪盗レトロだろうね」
あ「ということは、もうすでに、レトロは建物内に潜んでいるということですね?」
し「そうだろうね。私たちがこの建物を調べたときは抜け道のようなものは見つからなかったし、もしかしたら既に誰かに変装していたのかも…。」
あ「これはやっぱり、僕たちの足止めをするため…でしょうか。」
し「うん、怪盗レトロの考えそうなことだ。ご丁寧に脱出のヒントまで出してくれているしね。」
あ「え? ……あっ。」

ソファの下には一枚の紙切れ。
怪盗レトロからの暗号である。

あ「『不知火探偵と朝日奈助手へ…すべての答えは、ハコの中。
P.S. たまにはこういうのも、悪くないでしょう? 怪盗レトロ』」
し「相変わらずいけ好かないヤツだね」
あ「本当ですよ! それに…これは、どういう意味なんでしょうか?」
し「ふむ…。怪盗レトロから私たちへの挑戦状と言ったところか…。」
あ「この謎を解かないことには、脱出できそうにないですね…。」
し「…ふん。面白い、受けて立とうじゃないか。」
あ「あっ、売られた喧嘩は買うのが礼儀…って、言いますもんね!」
し「その表現はちょっと殺伐としすぎだ」

部屋の中を探索し始める二人。

あ「ううん…箱の中…箱の中…。」
し「この扉の鍵を開けるには、このパネルで数字を入力するみたいだね。」
あ「うーん、まだ皆目見当つきませんけど……
(時計を見る)予告状で示されていた時間まで、あと一時間か…」
し「あまり猶予がないね。」
あ「はい。」
し「今回は、持ち時間もあまりないしね。」
あ「持ち時間?」
し「こっちの話」

探索を続ける。

あ「うーん、いっそ、この部屋にある箱を片っ端から開けてみる…とか」
し「そんなことをしていたらレトロを取り逃がしてしまうよ。」
あ「ですよね…。」
し「そういえば、朝日奈くん。今回のターゲットは、ブルー・グラスという青いバラをモチーフにしたアクセサリーボックスだったね。」
あ「はい。薔薇の形に削られたブルーダイヤモンドがボックスにはめ込まれているんですよね。」
し「そうだね」
あ「その中には、ガラス細工の青いバラが入って……あっ。」
し「うん?」
あ「もしかして、青いバラを探せってことでしょうか?」
し「どうかな? この部屋の中をよく見てごらん。」
あ「……うーん。青いバラどころか、花を象ったものすらないですね…。」
し「もっと色んな可能性を探ってみようか。」
あ「はい。やっぱり、“ハコ”がキーワードですよね…。あ、語呂合わせで、85とか?」
し「入力してみてごらん」

パネルに入力してみる。
何も起こらない。

あ「やっぱり、そんなに単純じゃないか…」
し「部屋の中をよく観察してみようか。何か気になるものはないかな?」
あ「はい。……花はないけど、動物を象った置物やぬいぐるみはたくさんありますね…。あの怪盗レトロに似合わず、ファンシーな」
し「うんうん。その調子だよ、朝日奈くん。」
あ「……ということは、先生はもうわかってるんですね」
し「さぁ、どうだろうね。」
あ「……先生のいじわる。教えてくれたっていいのに!」
し「仕方ないなぁ。じゃぁ、ヒントだよ。この暗号では“ハコ”がカタカナで書かれているね。ハコを漢字で書くと?」
あ「……先生がそう言うってことは、単純に、ポピュラーなほうの“箱”じゃないってことですよね。」
し「おや、鋭いね。」
あ「伊達に何年も先生の助手やってないですから! てことは、旧字体かな…。はこがまえに、甲羅の甲(匣)……あっ。」

動物たちの群れのなかにあった、カメの置物を手に取る。

あ「先生、わかりました! これが答えですね?」
し「正解。さすがは私の優秀な助手だ。」
あ「んもう! 褒めすぎですよ!」
し「甲羅に切れ目が入っているだろう。開くと思うよ。」
あ「開けてみていいですか?」
し「どうぞ」

亀の甲羅の蓋を開ける。
スピーカーが入っていたようで、開けた途端、音声が流れ始める。

怪盗レトロ
「お見事です、探偵諸君。さすがは私の見込んだライバルだ。
では、扉を開くパスワードを…。教えて差し上げたいところですが、…はい、それではつまりませんよね。そう言うと思っていました。謎を愛するあなたに、もう一つ謎のプレゼントをしたいと思います。中々健気なライバルでしょう?
では、パスワードのヒントです。
REDは、27。YELLOWは、92。では、“宝物”は?
制限時間は二分間。それまでに解けないと、この扉は私がブルーグラスを頂戴するまでずーっと開きません♪
今回のターゲットのモチーフは、不可能の代名詞…。不可能を可能にするのは、この私でしょうか。
それとも、貴方がたでしょうか。
それでは、シンキングターイム♪」

し「面倒だな。タイマー式か…」
あ「せ、せんせぇぇ…。すみませぇん…。僕が箱を開いたりするから…。」
し「大丈夫。朝日奈くんは、残り時間を見ていてくれるかな?」
あ「は、はいぃ…。残り、1分40秒です。」
し「それに、焦らなくていいよ。簡単な暗号さ。」
あ「本当ですか!?」
し「うん。Rはアルファベット順で、18番目。Eは、5番目。Dは、4番目だね。」
あ「……合計するんですね!?」
し「察しがいいね。」
あ「宝物…つまり、今回のターゲットはブルー・グラス。」
し「B、L、U、E、G、L、A、S、Sだね。2、12、21…と当てはめていって、合計は…98。」
あ「簡単ですね! レトロのやつ、僕たちを甘く見たら痛い目に遭うぞっ。」

意気揚々と入力する。
が、何も起こらない。

し「おや。」
あ「あれ!?」
し「ブルー・グラスじゃないのか…。他に、宝物と言えば…。」
あ「せ、せんせぇ。あと一分です。」
し「まさかトレジャー? いや、ここに来て、それじゃないはず…。
宝物…。価値のあるもの。アクセサリー。宝物(ほうもつ)…。まだ時間はある…考えろ…。」

部屋をゆっくり歩きながら思考する不知火。
タイムリミットは刻々と迫って来ている。

あ「40秒前…。せ、せんせぇ。僕、思ったんですけど…。」
し「なんだい」
あ「今までにレトロが盗んでいったものって、指輪とか、髪飾りとか、ネックレスとか、全部アクセサリーでしたよね。」
し「あぁ、そうだね。」
あ「それが、今回はアクセサリーボックスなんで、めずらしいなって…」
し「…確かに。そう言われてみればそうだな…。」
あ「わ、20秒切りました!」
し「レトロは何と言っていた? 宝物? 今回のターゲットは、アクセサリーボックス。箱…。宝箱ではなく、宝物。 …全ての答えは、箱の中…。もう少し、もう少しなんだ…。」
あ「…10秒前!」
し「…不可能を、可能に…」
あ「6、5、4、」
し「…そうか!」
あ「3、2、…」

パネルに「97」と入力。
鍵の開く音。

あ「開いた!」
し「宝物は、宝箱の中…。ブルー・グラスは宝箱。その中に入っている宝物は、ブルー・ローズだ。答えは、97。
…青いバラは、不可能の代名詞。ここまでがヒントだったんだな…。」
あ「すごいです、先生! さすがは僕の尊敬する名探偵ですね!」
し「いや、ギリギリだったね。不安にさせてごめん。」
あ「いいえ。僕は、先生を信じていましたから!」
し「…朝日奈くんのおかげだよ。」
あ「えっ。僕の?」
し「あぁ。レトロのターゲットが、今回は珍しくアクセサリーボックスだってね。
……朝日奈くん。」
あ「なんでしょう?」
し「これから、怪盗レトロとの直接対決だ。」
あ「……はいっ。」
し「何がなんでも、ブルー・グラスを守りぬくぞ。」
あ「はい、任せてください!」
し「いいね、その意気だ。さぁ、この扉を開けたら、それがスタートの合図だよ。」
あ「はい、先生!」
し「いいかい? よーい…」

不知火の声をかき消すようにBGMが高まる。
二人で扉を開き、
客席に降りて走って退場!

終。

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