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【脚本公開⑦】あまいものには毒がある

夏っぽいお話を、ということで。
アイスクリームのようなお話を書きました。

初演

劇団AQUA 第11回公演
あまいものには毒がある
日程 2017年7月23(日)
会場 市川市男女共同参画センター7階 研修ホール

タイトル

あまいものには毒がある

登場人物(女5)

ねね
アーニー
瑛人
たんたん

店員さん

上映時間の目安

約1時間

1-1

カラオケの一室
中央にテーブル
長いソファ
たんたん、アーニー、瑛人が板付き

たんたんが備え付けの電話で注文をしている。

たんたん 「はい、はい、で、食べ放題のアイスはとりあえず3つで、はい、クッキーアンドクリームと、抹茶と、チョコレート味一つずつで。はい、ほかなにか頼むものあるかな?」
アーニー 「今はいいや!」
瑛人 「私も平気」
たんたん 「はい、じゃぁ以上でお願いします。はい、失礼します」
アーニー 「ありがとー。電話ってちょっと苦手だから、助かるー」
たんたん 「そう? 自分がお客さんの立場なら、私は平気かも」
アーニー 「あぁ…そういわれれば確かに…」
瑛人 「自分がお客さんにかけるのとはまた違うからな」
アーニー 「そうそう。BtoCで、こっちがお客さんにかける仕事はもうやりたくないなぁ。ガチャ切りされるの当たり前だし、出たと思ったら「うちはそういうのやってませんから」って言われるし、まともに話聞いてくれる人なんて2パーセントくらいだよね? かと思ったら、最後まで話聞いといて「ありがとう、でも結構です」みたいな反応されるときもあるし、いや、優しくしてもらえるのめっちゃうれしいんだけど、できれば契約してほしかったなーって。しょうがないんだけどね。」
たんたん 「そのうち他人に拒絶されるのが当たり前みたいな思考になってきて、電話かけるのが嫌すぎて、電話のボタン押す指が痙攣してくるのよね」
アーニー 「もうその段階まで来ると電話みるだけで眩暈がしてくるよね」
たんたん 「で、指の皮とかすっごいむけてくるのよね。薬塗っても治らないし」
アーニー 「そうそう、わかるわかる~」
瑛人 「結構壮絶だったんだな…」
たんたん 「瑛人はSEだったっけ?」
瑛人 「うん、だからそういう一般のお客様に電話をかけまくるような仕事はなかったかな…」
アーニー 「いいなぁ」
瑛人 「仕事は別に嫌いじゃなかったし、働いたら負け、ってわけでもないんだけど…必要なくなっちゃったから」
たんたん 「いいなぁ、言ってみたいわ、それ」
アーニー 「生きてるうちに言ってみたいセリフベスト10には入るよね。「働く必要なくなっちゃった」って」
たんたん 「うんうん、私は5位くらいには食い込むわ、そのセリフ」
瑛人 「なんだそれ」
アーニー 「瑛人はない? 生きてるうちに言ってみたいセリフ」
瑛人 「えぇ…「ここは俺が食い止めるから、先に行け!」みたいなヤツ?」
たんたん 「そう、そういうヤツ」
アーニー 「っていうかそれ言いたいんだ瑛人は」
瑛人 「え? かっこよくない?」
たんたん 「わからなくはないけど、確実にサムズアップして死ぬわよねそれ」
瑛人 「儚く散るのもいいかと思って」
アーニー 「意味がわからない」
瑛人 「「バカバカしい! 俺は先に部屋に戻るからな!」」
たんたん 「なんでそのあとすぐ死にそうなセリフばっかり言いたがるの?」
瑛人 「サスペンスの登場人物っぽくてイイ」
アーニー 「もっと、言った後に幸せになれそうなセリフをチョイスしてほしかったかな」
瑛人 「「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」」
たんたん 「それもアウトだから」
アーニー 「ていうかなんで全部男側のセリフなの」
瑛人 「カッコいいからかな…」
アーニー 「あ、ここ飲み物はセルフだっけ?」
瑛人 「うん」
たんたん 「私荷物見てるから、さきに二人でとってきて」
アーニー 「いいの?」
たんたん 「うん」
瑛人 「ありがとう」

飲み物をとりにいくアーニーと瑛人。
なんとなく一曲歌うたんたん。
歌い終わるが、落ち着きがなく悩んでいる。

1-2

たんたん 「(深刻そうに)ずっと黙っててごめん、実は私、2か月前から…。うん、そうだよね、怒るよね。当たり前よ、私だけこんな…裏切るような…。本当に、ごめんなさい」

たんたん 「んん、違う、(明るめに)……いやー実はね、2カ月くらい前から…。いや、自分からってわけじゃないのよ? どうしても、ってお願いされたから。だから、わたしが自発的にどうこうって話じゃなくて、受動的に…」

たんたん 「違うな…(マイクをとって)えー盛り上がってきたところで、私、たんたんからみんなにお知らせがありまーす! ……じつはー…! わたしー…! 2か月前からー…!!」


そこへ、飲み物を持ったアーニーと瑛人が入ってくる

たんたん 「わっ!!」
アーニー 「…どうしたの?」
たんたん 「ごめん、なんでもない。私もとってくるね」
瑛人 「うん」

入れ違いにたんたんが部屋から出る

1-3

アーニー 「ねね連絡ついた?」
瑛人 「音沙汰なし」
アーニー 「こっちも既読すらつかないよーまだ寝てるのかな?」
瑛人 「そうかも。いつも通りだ」
アーニー 「こういうさ、待ち合わせ場所から一番近いヤツに限って遅刻する現象に名前を付けたい」
瑛人 「わかる」
アーニー 「なんだろ、近いからやっぱ朝油断するのかな?」
瑛人 「あぁ…ギリギリ10分前に出れば間に合うからまだ寝れる、みたいな?」
アーニー 「二度寝したパターンね」
瑛人 「そう」
アーニー 「瑛人はそういうのなさそう」
瑛人 「二度寝?」
アーニー 「うん、朝起きた瞬間からシャキッとしてそう」
瑛人 「まぁ、私いつも朝6時に起きるから」
アーニー 「えっ毎日?」
瑛人 「毎日」
アーニー 「ニートなのに?」
瑛人 「ニートでもある程度のスケジュール管理は必要…」
アーニー 「スケジュールとかあるの」
瑛人 「あるよ、朝6時に起きてまず犬の散歩、そのあと朝食をとって、少しのんびりして、8時くらいから勉強…」
アーニー 「勉強?」
瑛人 「うん」
アーニー 「なんの?」
瑛人 「資格とか」
アーニー 「し、資格、とるの?」
瑛人 「とらないよ」
アーニー 「とらないんかい」
瑛人 「とらないけど、なんか、暇だからやろうかなって」
アーニー 「暇だから勉強?」
瑛人 「そう」
アーニー 「信じらんない、せっかく自由になったのに、暇つぶしに勉強とか私むり」

たんたんが飲み物をもって帰ってくる

1-4

たんたん 「なにが無理なの?」
瑛人 「私が暇つぶしに勉強してるって言ったら、アーニーがこのガリ勉オンナめ! って」
アーニー 「言ってないわ」
たんたん 「暇つぶしに勉強…さすが、意識高い人はやることが違うわ…。」
瑛人 「いい暇つぶしだよ」
たんたん 「確かに、時間はつぶれそうだけど」
瑛人 「集中できるから」
アーニー 「それだったら映画とかでもよくない?」
瑛人 「映画の時間もスケジュールに組み込まれてる」
アーニー 「マジか」
たんたん 「スケジュール?」
アーニー 「瑛人は、毎日決まったスケジュールがあるらしいよ」
たんたん 「えっ…すご…」
アーニー 「たんたんは毎日起きる時間決まってる?」
たんたん 「あー…なんとなくはね…」
アーニー 「何時くらい?」
たんたん 「9時くらいかな…あ、でも最近はもっと早いわね、8時とか」
アーニー 「結構早い」
たんたん 「アーニーは?」
アーニー 「11時…か、12時…。」
瑛人 「信じられない…私より6時間も遅い…」
アーニー 「うるさいなー! 瑛人とは違って私は夜型なの! ていうか、瑛人のスケジュールってどのレベルで決まってるの? 分刻み?」
瑛人 「えぇ…」
たんたん 「気になる、教えてよ」
アーニー 「教えて教えて!」
瑛人 「…平日は、朝6時に起きて犬の散歩して、ご近所の犬友にお洋服変えたんですねーとか、カットしてもらったんですねーとか、挨拶して回って」
たんたん 「犬友…?」
アーニー 「犬友…??」
瑛人 「うちの犬の友達」
たんたん 「瑛人の犬のお友達の犬?」
瑛人 「そう」
アーニー 「オッケー、続けて」
瑛人 「帰ってきたらちょうど6時50分のZIPでポンに参加できるから、それに参加した後、6時58分のめざましジャンケンに挑戦して、朝食の支度をして、朝食を食べながら7時29分のめざましジャンケン、ごはんを食べ終わってコーヒーで一息つきながら、7時50分のZIPでポン、7時58分のめざましジャンケンに交互で参加してポイントをひたすら貯める。」
アーニー 「…ま、待って」
瑛人 「なに?」
アーニー 「朝だけで過密スケジュールっぷりがやばい」
たんたん 「まさか本当に分刻みなんて…」
瑛人 「たまにしくじってどれか参加できない時もあるけどな。」
アーニー 「ていうか、瑛人って宝くじで当たったお金がたくさんあるからニートしてるんでしょ? 懸賞とかそんなに頑張って参加する必要なくない?」
瑛人 「私はもうあのお金で一生を終えようと思ってるから…正確なスケジュール管理と資産運用が必要なんだ。まぁ、懸賞は備えあれば憂いなしって気持ちで、念のため。暇つぶしにもなるし…」
たんたん 「いいなぁ、一生暮らせるくらいのお金が一気に手に入るって、どんな気持ちなんだろう。自分じゃ想像つかないわ。」
アーニー 「わたしだったら、無駄遣いしてすぐなくなってめちゃくちゃ後悔すると思う…」
たんたん 「あぁ、それ、私もそうなる自信ある…。瑛人くらいしっかりしてなきゃ、無理ね」
瑛人 「まぁ、いざとなったら働いてもいいかもしれないけど…今のところは、その気は全くないかな。」
アーニー 「あ、中断しちゃってごめんね。続きをどうぞ」
瑛人 「え、まだ話すの」
アーニー 「うん」
瑛人 「もういいだろ。みんなのも教えてよ」
たんたん 「何を?」
瑛人 「スケジュール」
アーニー 「え、でも私たち瑛人みたいにきっちりスケジュールとかないし…」
たんたん 「そうそう、その日によって違うし」
瑛人 「私にだけ話させるなんて卑怯じゃないか? さ、次はたんたんな」
たんたん 「えぇ…。」
瑛人 「早く」
たんたん 「えぇっと…。朝は8時くらいに起きるでしょ、でも起きてすぐ行動できるタイプじゃないから、しばらく布団の中でツイッター見ながらグダグダして…結局ちゃんと起きるのは9時前くらいかな?」
アーニー 「わかる」
瑛人 「アーニーはもっと遅いんだから「わかる」じゃないだろ」
アーニー 「キーッ!!」
たんたん 「…で、テレビ見ながらお母さんが用意してくれた朝ごはん食べて…お母さんがパートに出かけたら、居間のテレビでアニメみたりドラマみたりニュース見たりして。どうでもいいけどニートしてると無駄にニュースに詳しくなるわよね。」
アーニー 「あんまりやることないからね」
瑛人 「事件の犯人像が朝は30代から50代男性みたいに幅があったのに、夕方のニュースだと50代男性くらいまで絞られてくるよな」
アーニー 「別にこっちは見てるだけなんだけど、もしかしたら犯人は息子かなーとか、動機は介護疲れかなーとか、ちょっとした探偵気分味わえるよね」
たんたん 「ニュースのプロよね、もう私たち」
アーニー 「見すぎると飽きるけどね」
たんたん 「…元気があるとこのあたりで一回外に出たりするけど、そうじゃなければお母さんが帰ってくるまでずーっと居間でダラダラして、お母さんが帰ってきたら部屋に戻ってずっとネットとスマホゲー、夜ご飯たべて、眠くなったらお風呂入って、寝るのは12時くらいかな…。」
瑛人 「あれ、一日2食?」
たんたん 「居間にいる間はエンドレスおかしタイムだから」
瑛人 「……。」
たんたん 「ちょっと、なんか反応してよ」
瑛人 「いや…うん。いいんじゃないか」
アーニー 「絶対思ってない」
たんたん 「アーニーは?」
アーニー 「ていうかアイスくるの遅くない?」
瑛人 「ディッシャーで掬ってお皿に乗せるだけだと思うけどな」
アーニー 「ふつうこういうのってすぐ来ない?」
たんたん 「混んでるんじゃない? で、アーニーは?」
アーニー 「なにが?」
たんたん 「スケジュール」
アーニー 「えー…私はよくない?」
たんたん 「一人だけ話さないなんてずるいぞー」
瑛人 「そうだぞー言い出しっぺー」
アーニー 「でも私ほんと暗いし、やってることが」
たんたん 「気にしないから、ほーら」
瑛人 「ほーら」
アーニー 「もーわかったよ…。私はー、」

ノック音。
アイスを持った店員さんが入ってくる。

1-5

店員さん 「大変お待たせいたしました! 食べ放題のアイスクリームです。こちらがチョコレート、こちらが抹茶、それで、こちらがクッキーアンドクリームですね。お代わりの際は食べ終わったお皿と交換となりますのでご注意ください。」
たんたん 「はい、ありがとうございます」
瑛人 「アーニー、アイス来たよ」
アーニー 「……。」
店員さん 「それでは…。あれ?」
アーニー 「………。」

アーニーの顔をじっと見つめる店員さん。
アーニーは必死に顔をそらしている。

店員さん 「…もしかして、りさ?」

間。

アーニー 「……ヒ、ヒサシブリー…。」
店員さん 「あんた今なにやってんの? 由佳も江里子も連絡とれなくなったって言ってたんだけど」
アーニー 「まぁ…いろいろ…」
店員さん 「大丈夫なの? グループラインも返事ないし、ツイッターも最近更新してないし、仕事やめちゃったんじゃないかってみんな心配してるよ」
アーニー 「や、やだなぁ、そんなわけないじゃん。更新めんどくさくなっただけだって、大丈夫」
店員さん 「それならいいんだけど…。あ、ごめん、あたし仕事中だから、あとでまたラインするね。楽しんでいってね。」

たんたんと瑛人に会釈する店員さん

店員さん 「それでは、失礼いたします」

店員さんがはける。
短い間。

アーニー 「……大学の友達」
たんたん 「そ、そうなんだ…」
瑛人 「イイ子そうだったな…」
たんたん 「ね!」
瑛人 「うん」
アーニー 「まぁ、イイ子なんだけどね…。」

再びの間。

1-6

アーニー 「(妙に明るく)で! なんだったっけ! あ、私のスケジュール?」
たんたん 「う、うん」
アーニー 「わたしはねー! まず、毎日特に予定なんてないからお昼の12時くらいに起きるでしょ? で、今育ててるキャベツと豆苗にあいさつして、それからは一日中どうやって暇つぶすか考えてる! で、気が付いたら夜中になってるから寝る! 以上!」
たんたん 「……。」
瑛人 「豆苗おいしいよな、わかる」
たんたん 「そこ?」
アーニー 「というわけでスケジュールというスケジュールなんてないわけよ」
たんたん 「同じインドアニートとしては暇つぶしのところが気になるから教えてほしいわ」
アーニー 「マジでやることなさすぎて、最近はどれだけ長い時間歯を磨けるかとかやってたよ」
瑛人 「どういうこと?」
アーニー 「そのまんまだよ。歯医者さんとかでもさ、本当は30分とか歯を磨かないと隅々まで磨けてないみたいな話あるじゃん? だから実際に磨いてみてー、30分超えてもまだ磨けそうだったから、そこから最長どのくらい磨けるのかな? って思うじゃん?」
瑛人 「じゃん?って言われても」
たんたん 「わたし1時間」
アーニー 「勝った! 3時間」
瑛人 「そこ競うところなのか」
たんたん 「3時間ってやばくない? もうほとんど口の中の水分ないんじゃない?」
アーニー 「映画一本みてたら、かっぴかぴになったわ」
たんたん 「やばいね。ちょっと今度わたしもやってみる」
アーニー 「おすすめはハリポタ」
たんたん 「夜中の何時くらいに寝てるの?」
アーニー 「4時、いや5時くらい…?」
瑛人 「ほぼ朝だな」
たんたん 「今の時期とかもうその時間帯だと空ちょっと明るくない?」
アーニー 「明るいよ」
瑛人 「朝じゃん」
アーニー 「夜だよ。夜型だもん」
瑛人 「夜型の夜ってそういう意味じゃないぞ」
たんたん 「夜型といえば、ねねちゃんってなにか言ってた?」
瑛人 「連絡なし」
たんたん 「まぁ、いつものことね」
アーニー 「ていうか、ヤツは夜型かどうかもあやしくない? いつ寝てるのかわかんないもん」
たんたん 「あー…まぁね…。」
瑛人 「とんでもない時間にライン飛ばしてくるよな、あの子」
アーニー 「こないだ朝の4時くらいにケーキなうって画像つきで送ってきたよね」
たんたん 「とんでもない時間にケーキ食べるよね…」
瑛人 「恐ろしい…」
アーニー 「絶対体に悪い」
瑛人 「夜10時のケーキは昼3時のケーキ20個分の摂取カロリーになるらしいな」
アーニー 「それなら夜中なんてもっとヤバそう」
たんたん 「…でも私、たまに夜中にラーメン食べるときがあるから、人の事言えないかも」
アーニー 「待って! 夜中ラーメンは正直私もやるわ」
たんたん 「やめられないよね」
アーニー 「わかる、一日のどの時間よりも夜中に食べるラーメンが一番おいしい」
たんたん 「絶対なんか出てるよね」
瑛人 「なんかって?」
アーニー 「快楽物質みたいな」
たんたん 「アドレナリン?」
アーニー 「背徳感がより美味しさを増幅させる…絶対体に悪いってわかってるのにやめられない…むしろなんかしばらく食べないと禁断症状が出る」
たんたん 「いや、禁断症状は出ないかな」
アーニー 「うらぎりもの!」
たんたん 「瑛人は、夜ちゃんと寝てるからこういうのないか」
瑛人 「あー、朝食のあとに飲むコーヒーが一日の中で一番美味しい」
アーニー 「健康的すぎる」

着信音。

瑛人 「ねねだ」
アーニー 「今起きたのかな」
たんたん 「でしょうね…」

瑛人が通話しながらはける。

2-1

アーニー 「歌わないの?」
たんたん 「え、今?」
アーニー 「うん」
たんたん 「みんなが揃ってから的なノリだと思ってたわ」
アーニー 「そうなんだけど、まだそろわなそうじゃない? だから、はい」
たんたん 「いやいやいや」
アーニー 「いやいやいや」
たんたん 「むりむりむり」
アーニー 「そんなこと言わずに」
たんたん 「アーニーが歌えばいいじゃない」
アーニー 「トップバッターは勇気要るじゃん」
たんたん 「そんなの私もそうだよ!」
アーニー 「せっかくカラオケ入ったんだから、時間もったいないし、歌いたいんだけど、自分から歌い始めるのは恥ずかしくない!?」
たんたん 「だから、私も恥ずかしいのよ!」
アーニー 「知ってるよ~~~」

アイスを食べ始めるアーニー

アーニー 「もう半分くらい溶けてる」
たんたん 「すぐ食べないからよ」
アーニー 「カラオケなんてめちゃくちゃ久しぶりに来たよー。アイス食べ放題とかあるんだね、アイスはね、無限だよ」
たんたん 「食べ過ぎておなか壊しちゃだめよ」
アーニー 「はーい、お母さん」
たんたん 「こんなに大きい子供を産んだ覚えはありません」
アーニー 「たんたん最近はなんかポケモン捕まえた?」
たんたん 「メリープ捕まえたよ」
アーニー 「うそ! どこ!」
たんたん 「十字路のとこの公園」
アーニー 「マジか…。もはやみんなと遊ぶときくらいしか外でないんだよね…だからぜんぜん捕まらなくて。主人公が勝手に動いてポケモン捕まえてくれたらいいのにって思うもん」
たんたん 「別のゲームになっちゃうよ」
アーニー 「ただのポケモンだよね」
たんたん 「DSやった方がいいよ」
アーニー 「あ! 今度みんなでDS持ち寄って対戦する!?」
たんたん 「いいよ。…ねねちゃんなんてすごく強そう」
アーニー 「完全にやりこみタイプだよね…個体値の話とかしそうだもん」
たんたん 「瑛人は相性とかダメージ倍率の計算が速そう」
アーニー 「わかる。電卓片手にやりそう」
たんたん 「想像つくわ」
アーニー 「楽しみだー…あのね、私、みんなでやりたいことたくさんあるんだ。」
たんたん 「やりたいこと?」
アーニー 「そう! 夏だし、プールとか、花火とか、バーベキューもやりたいな。暑くてやってらんないと思うけど、遊園地とかも行きたい。時間はいっぱいあるんだから、みんなでたくさん遊びたい!」
たんたん 「いいわね。私もやりたいな。」
アーニー 「ちょっと前までは外に出ることなんて考えられなくて、誰かと関わることもありえなくって、ひとりぼっちだったけど、あの日、勇気を出してオフ会に来てみてよかった。今ね、すっごく楽しいんだ、私。」
たんたん 「そうね。……行くまでは、すっごく不安だったし、億劫だったけど。」
アーニー 「わかる! 来てしまえば楽しいんだけどね、なんだろうね、あれ。外に出る決意をするのにものすごく時間がかかるの。」
たんたん 「ほら、私たち、インドアだから。外に出ることに慣れてないから。」
アーニー 「まぁねー。あ、でも聞いて! 最近はえらいんだよ、私!」
たんたん 「なになに?」
アーニー 「勇気を振り絞って、ハロワに行ったの!」
たんたん 「超えらーい!」
アーニー 「でしょー! …ま、行くだけ行ってなにもしないんだけどね。働いた気分になっただけ。」
たんたん 「求人のファイル見て働く想像して満足するのよね。」
アーニー 「そうそう。別になんかしたわけじゃないのにね。」
たんたん 「そういうもんよ」
アーニー 「ほんとさー、毎日毎日なんにもやってないんだよ。なんにも進歩してない。」
たんたん 「…たまに、ちょっと焦るわよね。これでいいのかなって。」
アーニー 「そうなんだよー。ただただ、若さを浪費しているだけってことにも気づいてるんだよ。私、妹がいるんだけどさ。」
たんたん 「うん?」
アーニー 「妹はちゃんと就職して、長いこと付き合ってる彼氏もいて、きっとそのうちとんとん拍子で結婚するんだよ。私はこのままだと独居老人になるかもしれないのにさ。」
たんたん 「先越されちゃうかもってこと?」
アーニー 「就職も、結婚もね。ていうか私がニートしてることで、いざ妹が結婚するってなったときに破談になったりしないかが目下の悩みかな…」
たんたん 「あぁ……。」
アーニー 「なんとも言えないでしょ」
たんたん 「うまいフォローが出てこなくてごめん…」
アーニー 「いいよ、自分でもわかってるし。たんたんは兄弟とかいるの?」
たんたん 「私はお兄ちゃんがいるけど、もう家出てるからあんまり関わりないかな…。」
アーニー 「それだとまだ気が楽かも~」
たんたん 「そうねー。けど、お母さんといるときがちょっと気まずいかな…。私はなんにもしてないのに、お母さんはパートに行ってるわけだし」
アーニー 「なんにもしてないのにごはん出てくるしね…」
たんたん 「罪悪感すごいわよね……。」
アーニー 「ニート始めたとき、最初は楽しかったんだけどさ、現実に直面し始めると一瞬でサーッと血の気が引くんだよね。」
たんたん 「お金はどんどん減っていく一方だしね…」
アーニー 「働いてないからまず増えることはないし。このアイスと一緒でさ、ニート楽しい!って気持ちはいつのまにか溶けてるんだよ。溶けて初めて、現実が見えてくる。いま、みんながいてすっごく楽しいけど、それもまたいずれ溶けちゃうのかなって、最近考えてる。」
たんたん 「最初は甘くておいしいのにね。」
アーニー 「だまされちゃったよね、私たち。」

2-2

たんたん 「ね! あ、アイスと言えば、さっきの店員さん、友達なんでしょ。」
アーニー 「え? うん…」
たんたん 「積もる話とかあったら、私のことは気にしなくていいからね。」
アーニー 「なんで?」
たんたん 「え? だって、久しぶりに会ったんでしょう?」
アーニー 「でも、今はたんたんといるんだからいいよ。」
たんたん 「けど、お友達は大事にしたほうがいいわよ。大人になると友達って減っていくし、新しく友達をつくるのだって難しいじゃない?」
アーニー 「でも、みんなとは友達になれたもん」
たんたん 「それはそうだけど、新しい縁だけじゃなくて、旧い縁も大事にしたほうがいいんじゃないって言ってるのよ。」
アーニー 「そうかもしれないけど、そんなの、たんたんには関係ないじゃん!」

間。

たんたん 「……そうね、お節介だったみたい。私たちとアーニーは所詮ネットで出会ったような仲だし。本名だって知らないし。リアルのことに突っ込んでいっていいほどじゃないものね。」
アーニー 「え? ちが…」
たんたん 「ごめんなさい。大きなお世話よね。」
アーニー 「そういうことじゃなくて!」
たんたん 「じゃぁ、どういうこと?」
アーニー 「別にみんなとの仲を軽んじてるわけじゃない」
たんたん 「……うん」
アーニー 「けど、ごめん。感じ悪かったよね」
たんたん 「まぁ、私もお節介だったし」
アーニー 「たんたんは心配してくれてるだけってわかってるから」
たんたん 「うん…」
アーニー 「あの子…梓っていうんだけど。接客の仕事なんて相当大変だろうに、奨学金返さなきゃいけないから頑張る!って、私みたいに逃げずにちゃんと働いてるんだよ。愚痴だっていうし、辞めようかなって相談も何回もされたけど、それでもちゃんと戦ってる。えらいよね。」
たんたん 「えらいねぇ…。」
アーニー 「そんな子にさ、仕事辛いからやめちゃったテヘペロとか! 言えないじゃん!」
たんたん 「言えないねぇ…。」
アーニー 「あの子の辞めようかなーは本気じゃなくて、働く理由もあるし気力もあるし、私みたいな軟弱な人間とは違うんだよ。ニートになってから、それがもう浮彫りになっちゃって、連絡とるのやめちゃった。」
たんたん 「辞めようかな~って言ってる人はやめないのよね。辞める人はいきなり辞めるのよ。」
アーニー 「私たちみたいにね!」
たんたん 「笑えなーい!」
アーニー 「ほんとだよ…だから今わざわざ連絡とるのもなんか気持ち的に微妙っていうか…私がもうちょっと恥ずかしくない人間になってからまた友達になりたい」
たんたん 「…やっぱりお節介だったわね、私。」
アーニー 「え? 違うって! ていうか、そもそも、ネットの友達にリアルの友達の話するのって恥ずかしいじゃん!」
たんたん 「あぁ…。」
アーニー 「さっきも相当恥ずかしかったんだよ!? 本名バレるし!」
たんたん 「ハンドルネームと一個もかすってないなって思った」
アーニー 「ほら! そういうのがあるから! もう!」
たんたん 「ごめんね、りさちゃん」
アーニー 「忘れてってばー!」

2-3

カラオケの操作をするたんたん。

アーニー 「お、歌う気になった?」
たんたん 「まぁね」

瑛人とねねがケーキをもって現れる。

アーニー 「えっ」

同時に、Happy birthday to youが流れ始める。
アーニー以外の3人が歌いきる。
おめでとうなどと声をかける。

アーニー 「うそ…ありがとう…」
ねね 「いやー待たせたねぇ」
瑛人 「ホントだよ」
たんたん 「ケーキ買ってくるのにどれだけ時間かかってんのよ」
ねね 「ごめんって言ってるじゃん。」
瑛人 「いや、言ってないし」
アーニー 「えぇ…超うれしい…あ、しかもこれ最近ツイッターでめっちゃ話題になってるケーキ屋さんじゃない?」
ねね 「さすが、お目が高い。金に物を言わせたよ!」
アーニー 「わー! ありがとう! ねね大好き!」
ねね 「許された!」
たんたん 「あと、はいこれ私から」
アーニー 「え、いいの??」
瑛人 「はい」
ねね 「おめでとー」

それぞれプレゼントを渡す。

アーニー 「みんなありがとう…いま一生分の幸せを感じてる…!」
瑛人 「そんなに?」
たんたん 「喜びすぎ」
アーニー 「だってー…ニートになってからリア友と疎遠になってたからー…こんなにちゃんと祝ってもらえると思わなくて」
ねね 「泣くなよ」
アーニー 「泣いてないもん!」
瑛人 「みんな働いてるしね。私も働いてることになってる」
アーニー 「だから、ニートの友達ができたことがまず奇跡なんだよね」
ねね 「ニー友な」
瑛人 「ニー友」
アーニー 「犬友みたいな」
ねね 「ニー友」
たんたん 「それもどうなのって感じだけど」
アーニー 「あ! そういえばねねのスケジュールだけ聞いてない」
ねね 「なに?」
たんたん 「みんなで一日のスケジュールを話してたのよ」
アーニー 「瑛人は分刻みだったよ」
ねね 「スケジュール? ニートのスケジュール?」
瑛人 「そう」
アーニー 「というわけで教えてよ」
ねね 「いや私みんなの聞いてないし」
たんたん 「いいじゃない」
ねね 「これなんか私だけ公開処刑みたいにならないか?」
アーニー 「気になるんだよ金持ちニートのスケジュール」
ねね 「えー…大したことないぞ」
瑛人 「大したことないのはわかってるから早く」
ねね 「ひどい! …まず朝は、決めておいた時間になったらお手伝いさんが起こしてくれるだろ」
たんたん 「うん??」
ねね 「食堂まで行くの面倒だから部屋に直接朝ごはんを持ってきてもらって、お手伝いさんおすすめの紅茶を入れてもらって朝ごはんだ。」
瑛人 「えぇ…」
ねね 「ごはんを食べ終わったら歯を磨いて顔洗って、用意してもらった服を着て、髪とメイクをやってもらいながらどこに遊びに行くか考える。場合によってはこの時にえいてぃんとかみんなに声かけたりもする。で、行き先が決まったら運転手さんに来てもらって、車出してもらう。気が済んだら帰ってきて、そしたら大体夜ご飯の時間だから、この時はちゃんと食堂まで食べに行く。おとんとおかんに近況報告して、部屋に戻ってネットやったりとかして、風呂入って、夜更かしして、寝る」
アーニー 「……。」
ねね 「な、大したことなかったろ」
瑛人 「そのスケジュールでどうやって毎回遅刻するの」
ねね 「フシギなんだよな、化粧とかしてもらいながらうとうとしてるからか?」
たんたん 「二度寝してる可能性あるわね」
アーニー 「うん、ていうか今のを聞いてやっぱり世の中お金なんだなって実感した」
たんたん 「わかる」
アーニー 「ねねも瑛人もうらやましいよー! お金がほしいよー!」
ねね 「お金が欲しいなら稼ぐしかないな」
瑛人 「ねねの口からそれを言われるとちょっと腹立つ」
たんたん 「でも正論すぎて何も言い返せない」
アーニー 「やっぱり働くしかないのかー…嫌だー」
たんたん 「…じゃぁ、予行練習しよう!」
ねね 「え? いきなり何??」
たんたん 「私たちは働きたくない。でも、働かないとお金が手に入らない。だから、今のうちから予行練習するのよ。アンダースタン?」
瑛人 「わかるようなわからないような…」
ねね 「私とえいてぃんは必要ないぞ!」
たんたん 「いつか必要になるかもしれないじゃない?」
アーニー 「なんでいきなりやる気だしてるの…」
瑛人 「さぁ…?」
たんたん 「じゃぁ…テーマ「理想の職場」!」

2-4

なぜか小芝居が始まる。
照明が変わる。

えらそうに座っている瑛人。
机をぶっ叩くねね。

ねね 「なぜですか! なぜ、今回のプロジェクトから私を外すんですか!」
瑛人 「苦渋の決断だったのだよ、ねね君。だから、一週間ほど暇を与えようと思ってね。どうだい、家族で海外旅行にでも出かけるのは? 旅費は私が出そうじゃないか。」
ねね 「そんなものいりません! せっかくここまで作り上げたのに、わたし、私は…!」
アーニー 「(制止して)ねね君!」
ねね 「ア、アーニー先輩…」
アーニー 「お言葉ですが社長。今回のプロジェクトからねね君を外すことには納得できかねます。」
瑛人 「そうは言ってもねぇアーニー君…」
アーニー 「彼は今回のプロジェクトには欠かせない存在です。彼が今まで積み上げてきた実績を、社長もご存知でしょう?」
瑛人 「だが、ねね君は知りすぎてしまったのだよ…。」
ねね 「社長…」
アーニー 「ねね君の作成した予算案が出回ることで、なにか不利益を被るとでも?」
瑛人 「アーニー君。それ以上の詮索はよしたまえ。君も、彼のようにはなりたくないだろう?」
ねね 「くっ…」
アーニー 「それはどうでしょうか?」
瑛人 「なにっ…?」
アーニー 「あなたの考えが変わらないようであれば、私もそれ相応の手段をとらせていただきます。」

書類(マイム)を机の上に差し出すアーニー。
それを受け取る瑛人。

瑛人 「こ、これは…!?」
アーニー 「ねね君の作った資料を基に、私が作成したものです。これを公にだせば、あなたの半年間の横領が明らかになる。」
ねね 「先輩…!」
瑛人 「こ、こんなことをしてただで済むと思っているのかね!」
アーニー 「それはこちらのセリフです。こちらの件については、すでに弁護士事務所にも相談済みです。ちなみに…これまでの会話もすべて録音済みですよ?」
瑛人 「くそっ…! ここまでか…!!」

敗北のBGM?
なぜか場転している。

ねね 「先輩、もう行ってしまうんですか!?」
アーニー 「あぁ…。もう、この場所での責務は果たした…。君も、俺の事は忘れて、次の現場へ」
ねね 「嫌です!」
アーニー 「ねね君?」
ねね 「私、先輩についていきます! ずっとずっと、ついていきます! だって私、先輩のこと…」
アーニー 「ねね君…」

ムーディーなBGMが流れて、ふたりはシルエットに変わる。
ふたりの距離がどんどん近づいていき…

たんたん 「はいストーップ!」
ねね 「いいところだったのに」
たんたん 「理想の職場って言ったわよね?」
瑛人 「ある意味理想だよ」
アーニー 「ね」
たんたん 「私が思っていたのとだいぶ違うのよ…なんで一昔前のトレンディドラマみたいなムードなの」
ねね 「えいてぃんが入った時点で予想つくだろ」
瑛人 「私のせい?」
アーニー 「瑛人そういう悪い役好きだよね。」
瑛人 「将来の夢は渋いおじさんになることだから…」
たんたん 「テレビっ子なんだから」

2-5

ねね 「あ、忘れることだった! たんにもこれあげる」

ねねがたんたんにプレゼントを渡す。

たんたん 「え? なんで?」
ねね 「んー就職祝い? おめでとさん」
アーニー 「えっ…」

しばしの間。

ねね 「…ん? もしかして違った? このあいだ十字路のとこのラーメン屋の前通ったら、たんが働いてるの見えたから、おーあいつ就職したのかーすげーって思って、ついでに祝おうと思ったんだけど」
たんたん 「……いや、違わない…ありがとう」
瑛人 「へー、いいな、ラーメン屋。食べに行ってもいい?」
たんたん 「え? うん、もちろん。っていうか、まだバイトなんだけど…」
ねね 「バイトも就職でいいのかね? まぁ似たようなもんだよな」
瑛人 「今までニートだったこと考えれば」
ねね 「大出世だよな」
瑛人 「ね、私たちとは大違いだ」
たんたん 「…なんか、言うタイミング逃しててごめんね…2か月前から、親戚がやってるラーメン屋で働いてて…ひまなら働いてよみたいに、頼まれてね? で、何か月か働いたら社員にしてくれる…みたい」
ねね 「すげー! もうほぼ確定じゃんそれ? ちょーかっこいーね」
瑛人 「みんなで働いてるとこ見に行くか」
たんたん 「えー…ちょっとそれは恥ずかしい…」
ねね 「頭にアレ巻かないの、タオル」
瑛人 「アレ男の人だけでしょ」
ねね 「こう、頭に白いタオル巻いて、黒いTシャツでさ、こう」

ラーメン屋の店員のポーズ

瑛人 「なんでみんな写真とるときこのポーズなんだろうね」
ねね 「決まりがあるんじゃん? ラーメン協会指定ポーズ。カメラを向けられたらこのポーズをとるがよろしい。」
たんたん 「とらないよ」

みんなが話してる中電話でアイスを注文するアーニー。

アーニー 「すみません注文なんですけど、はい。アイス食べ放題お代わりで、クッキーアンドクリーム一つ。はい。お願いします。(電話を切って)……私、飲み物とってくるね」

2-6

アーニーがはける。
間。

ねね 「ごめん、私またやっちゃった?」
瑛人 「アーニーものすごく静かになってたね」
たんたん 「違う…私がもっと早く言わないから…ねねちゃんのせいじゃないのよ。っていうか、言ってくれてむしろ有難かったかも」
ねね 「また一ついいことをしてしまったか…」
瑛人 「調子に乗らない」
たんたん 「いつも、言わなきゃって思ってたのよ…けど、アーニーがすごく楽しそうにしてるから、言ってもし嫌われたらどうしようって、保身ばっかり考えて」
瑛人 「嫌われるってことはないと思うけど、さすがにタイミングが悪かったかもなぁ」
たんたん 「うん…でも、ねねちゃんが言わなきゃまたズルズル先延ばしにしてたと思うし」
ねね 「遠回しに責められてるのか?」
瑛人 「直接責めてる」
ねね 「あちゃー」
たんたん 「今日も、今日こそ言おうって決意して出てきたのに、アーニーと話してるうちに決意にぶってきちゃって、今日はやめとこうかなって、先延ばしにしてたの。私が悪い…。」
瑛人 「別に、誰が悪いとか、ないよ」
ねね 「そうだよ、強いて言えば私が悪い。すまん」
たんたん 「だから、ねねちゃんのせいじゃないから」
瑛人 「たんたんがそうやって甘やかすから調子に乗るんだよ」
ねね 「えいてぃん私のこと嫌いなのか?」
瑛人 「好きだよ」
ねね 「キャ!」

3-1

アーニーが戻ってくる。
静かに座る。
間。
ねねと瑛人がジェスチャーでやりとりしているが、
たんたんがそれを制して

たんたん 「アーニー? あの、ごめんなさい、私…」
アーニー 「大丈夫…」
たんたん 「大丈夫じゃないでしょ。ずっと黙っててごめんね。私、」
アーニー 「だから、大丈夫だって」
ねね 「ケーキ! ケーキ食べよう。いちごいっぱいのってるよアーニー。好きでしょ。」
瑛人 「おいしそうだ、ね、アーニー」

ノック音がして、店員さんがアイスをもって入ってくる。

店員さん 「お待たせいたしました。クッキーアンドクリームです」
アーニー 「はい、交換」
店員さん 「オッケー。…ありがとうございます。それでは、失礼いたします。」

店員さんがはける。
静かにアイスを食べるアーニーを見守る3人。
何か言いたそうにしているが、誰も何も言えない。
アイスを食べ終わるアーニー。
間。

3-2

アーニー 「こういう、ときにね」
たんたん 「うん」
アーニー 「素直におめでとうって言いたいのに、とっさに出てこなくて、ごめんなさい」
たんたん 「ううん…。」
アーニー 「私ね、働いてるとき、ずっと辛くて。就活あんまりしたくなくてテキトーに決めた会社だからかな、毎日毎日上司に怒られて、先輩には嫌味言われるし、私がダメダメなのがいけないんだけど」
たんたん 「……。」
アーニー 「同期はみんなそのうち契約がとれるようになってくるんだけど、私だけ契約一件もとれなくて。お客さんに玄関先で怒鳴られたりとか、無視されたりとかもあって、私この仕事向いてないなって。だから、会社にだんだんいけなくなってきて…。朝起きて、あぁ今日も起きてしまった、また死んでなかった。ってがっかりするんだよ。だから、行くのやめちゃったんだ。私。」
たんたん 「うん。」
アーニー 「やめたばっかりの頃は本当に楽しかった! やめてやったぞ!って思った。毎日いつまで寝ててもいい。外に出て、誰かに怒鳴り散らされることもない。好きなことだけしてても誰にも何も言われない。仕事が忙しくて今まで観られなかった映画観て、大好きなマンガ読み返して、ずーっとツイッター張ってた。たまには作るのに時間かかるごはんとか、ネットでみた究極のカレーの作り方とか試して、楽しかった。自由だった。いくらでも時間があった…。」
たんたん 「そうだね」
アーニー 「でもね、だんだんつらくなってきた。現実が見えてきたんだよね。このまま貯金が尽きたらどうなるのかなとか。働くことなんて、まだ全然考えられないし。全然外でないし、お風呂入る元気もなくなってきて。家の前人が通っただけで怖くて布団に隠れるし。リア友とつながってるアカウントで会社に行ってるのを装ったツイートするのも馬鹿らしくなってきて、私なにしてんだろって。」
たんたん 「うん…。」
アーニー 「だから、新しいアカウント作ってリアルとか全然関係ないところで、自分の好きな話して好きなだけ現実逃避できる場所を作った。そしたらみんなと仲良くなれた! うれしかった…」
たんたん 「アーニー…」
アーニー 「仲間ができたって思った! 私だけじゃないって思えた。」
たんたん 「…私もね、似たような感じだったからわかるよ。一人じゃないってわかって、うれしかった」
アーニー 「けど、たんたんは気づいちゃったんだよね。世間から外れていく焦燥感とか、落ち着かない気持ちとか、寂しさとか、そういうのを、みんなで集まって一緒に傷をなめあっているだけ、これはそういう会。…そんなの、いつまでも続きっこないもんね」

3-3

たんたん 「ちがうのよ、アーニー」
アーニー 「え?」
たんたん 「みんなが居たからまた働いてみようって思うことができたの、だから、私、ニートやめたの」
アーニー 「…どういうこと?」
たんたん 「私は、ねねちゃんみたいにお金持ちじゃないし、瑛人みたいに宝くじを当てるような強運も持ってない。だから、いつか決断をするときが来る。生きるのにはお金が要るから」
アーニー 「…そうだね」
たんたん 「その決断ができたのは、アーニーと、瑛人と、ねねちゃんに出会ったから。あなたたちに出会って、たくさん遊んで、社会がこわいとか、働きたくないとか、そういう薄暗い感情が少しずつ消えていった。今ならまた働けるかも!働いてみたい!って思った。だから、みんなのおかげなんだよ」
アーニー 「……私、もうこんなふうにみんなで集まったりできなくなるかもって、そればっかり考えてて…」
たんたん 「うん、でも、心配いらないよ」
瑛人 「そうだよ、今さら友達やめたりしない」
ねね 「それに、どうしようもなくなったらうちに来ればいいんだよ。部屋あまってるし。みんなで一緒に住んで、毎日ゲームして、お菓子食べて、遊びに行きたくなったらどこかに出かければいいんだ。」
アーニー 「…なにそれ。夏休みみたい」
瑛人 「そう、夏休みだよ。今はみんな、人生の夏休み。8月31日がくるまで、たくさん遊んでいればいいよ。それで、8月31日までに、宿題が終わってなかったら、それはその時悩めばいい。私たちも手伝えるかもしれないし」
アーニー 「人生の夏休みかぁ…。」
ねね 「私は一生夏休みのままがいいな。8月31日なんていらねぇ」
瑛人 「ねねの宿題は手伝わないからな、私」
ねね 「えいてぃんまたそうやって私にだけ冷たくする!」
アーニー 「ずーっと、今が人生の端っこで、私はそこで一人でうずくまっているような気持でいたけど、…そっか、夏休みなんだね」
たんたん 「人生にはお休みも必要なのよ。お休みがないと、気持ちをリフレッシュできないもの」
アーニー 「うん、そうだね。そうなんだよね…。」
ねね 「人生は死ぬまでの暇つぶしって言うじゃん? だからそんなに悲観的になることもないんじゃん? どうせ暇つぶしなんだし!」
アーニー 「…ねね、ケーキ食べていい?」
ねね 「おたべ!」

ケーキに手を伸ばすアーニー。

アーニー 「…おいしい」
ねね 「でしょでしょ? ちょー並んだんだから」
たんたん 「やっぱり、甘いものは癒しだわー」
瑛人 「脳の回路が一回止まるよね」
アーニー 「口に入れた瞬間、何にも考えられなくなるー。」
ねね 「ちょーおいしー。さすが私」

しばらく黙々と食べ続ける4人

アーニー 「よし、決めた!」
瑛人 「どうした?」
アーニー 「問題の先送りはもうやめる。決断の時が来るまでに、私は私をどうするのかちゃんと決める。」
ねね 「おお!」
アーニー 「また働ける…かどうかはわからないけど、逃げるのはやめて、これからどうするのか、ちゃんと考えることにする。」
たんたん 「いいんじゃない。働くだけが人生じゃないわよ」
瑛人 「株とかどう? ちょっと興味あるんだ」
アーニー 「それは元手がいるんでは」
ねね 「いまはユーチューバーとかもあるじゃん」
アーニー 「そういうのはねねがやってよ」
ねね 「どういうこと?」
たんたん 「不労所得って憧れるわよね…」
アーニー 「マンション経営とかやってみたいよね、元手がないけど」
ねね 「一番いい不労所得があるじゃん」
たんたん 「なになに?」
ねね 「金持ちと結婚」
アーニー 「なに、ねね、私と結婚してくれるの? ありがとう」
ねね 「そういうことじゃない」
瑛人 「稼いでる人が居るんだから不労所得じゃないだろ…」

カラオケを操作するアーニー

たんたん 「恥ずかしいんじゃなかったの」
アーニー 「いいのいいの。1番、アーニー、歌います!」

曲が始まり、アーニーが歌い始める。
幕。


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