見出し画像

【脚本公開⑧】黄昏が知ってる

「夕焼け、キレイだね。ピンク色の夕焼け。」

初演

劇団AQUA 第12回公演
黄昏が知ってる
日程 2018年3月3(土) - 2018年3月4(日)
会場 イオン浦安店4階

タイトル

黄昏が知ってる

登場人物(男2・女5)

天野 昴(一般人)
天野 せいら(干物系かっぱ)
お母さん(天然たぬき)
お父さん(白いハンカチ)
柊木 真緒子
君島さん
西宮さん 

上映時間の目安

約1時間30分

1-1

舞台下 昴と真緒子が高級レストランで食事をしている

真緒子 「最初は緊張したけど、たまにはこういうところでごはん食べるのもいいね」
昴 「そうだね。マナーとかちゃんと調べてこなかったから、少しキョドったけど」
真緒子 「昴、フォーク落としたの拾おうとしてたもんね。」
昴 「自分で拾っちゃダメとか、知らなかったし…」
真緒子 「店員さん、すぐ来てくれてよかったね」
昴 「ごめん。俺、大事なところで抜けてるっていうか…真緒子がしっかりしてて助かった。」
真緒子 「そんなの、いいよー。勉強になったし、いつもと違う雰囲気が味わえて楽しかった。」
昴 「それならよかった…。」
真緒子 「メインのお魚もおいしかったし。」
昴 「俺、緊張して味があんまりわかんなかったよ。」
真緒子 「緊張、引きずりすぎだよ。」
昴 「はは…。」
真緒子 「最後のデザート、入るかなぁ。もうおなかいっぱい…」
昴 「俺も…」
真緒子 「ふふ…。」
昴 「なに?」
真緒子 「昴、ここにソースついてるよ。」
昴 「え? どこ?」
真緒子 「(自分の顔を指さして)ここ。」
昴 「こっち?」
真緒子 「もう、違うってば…」
昴 「じゃぁ、こっち?」

テーブルの上のグラスに昴の腕が当たって、倒しそうになる。

真緒子 「危ない!」
昴 「わっ…」

間一髪のところで、真緒子がキャッチする。

真緒子 「大丈夫?」
昴 「ありがとう…。真緒子って、反射神経いいよね…」
真緒子 「え? あ、うん…っていうか、少し大きな声出しちゃった」
昴 「あぁ…」
真緒子 「今のは、だめだったかも…(周りに)すみません。」
昴 「いや…。」

ソースがまだとれていなかったことに気づいて、
ナプキンで口元を拭う昴。

真緒子 「だから、こっちだって。」

自分のナプキンで実演してみせる真緒子。

昴 「こう?」
真緒子 「うん。とれた。」
昴 「ありがとう。」
真緒子 「あっ…」
昴 「どうした?」
真緒子 「ツメ、ひっかかっちゃったみたい。私、よくやっちゃうんだよね、これ…」
昴 「ちゃんと短く揃えてるのにね」
真緒子 「それでも、ツメ立てちゃうとダメみたい」
昴 「そう…?」
真緒子 「あー…、力入れちゃうと、繊維に絡んじゃうんだよね。引っ掛かりやすいツメの形なのかも。」
昴 「ふーん…」
真緒子 「(笑いながら)わたしたち、ダメダメだね。」
昴 「そうだね…。」

心地のいい音楽が流れている。
しばしの間。

昴 「真緒子。」
真緒子 「うん?」
昴 「俺…今日は、その…大事な話があって…」
真緒子 「…うん。」
昴 「えっと…。」

間。
待っている真緒子。

昴 「あー…真緒子、高いところは好き?」
真緒子 「うん。好き。夜景、こうしてみると、結構キレイだよね。」
昴 「うん。あ、けど、真緒子の方が…(だんだん小さくなる)」

言葉に詰まってしまう昴。

昴 「いや…」
真緒子 「どうしたの? さっきから、なんか変だけど。」
昴 「大丈夫、大丈夫」

深呼吸をする昴。

真緒子 「大丈夫そうに見えないけど」
昴 「大丈夫だって」

間。

昴 「(決心して)真緒子、俺と…」

昴、ポケットの中をまさぐる。

昴 「あ、いや…」
真緒子 「なぁに?」
昴 「その…」

見つめあい、気おされて、出すのをやめてしまう。
間。

昴 「(落胆して)ごめん、やっぱり何でもない…。」
真緒子 「そう?」
昴 「うん…。」
真緒子 「なら、いいんだけど…」

ぎこちない雰囲気のまま、場転


1-2

居間
行き倒れているせいら
コップを持って通りがかる昴

せいら 「うぅ~~~~……」
昴 「………。」
せいら 「(苦しそうに)うぅぅ…うっ……」
昴 「……」
せいら 「の、のどがぁ………。」
昴 「……」

昴、無視して水を汲みに行こうとする

せいら 「(昴の足をつかんで、恨めしそうに)うぅぅぅうぅぅ~~~~~~~~……。」
昴 「わーかった、わかったから」

昴、一旦はけて
二人分水を汲んで戻ってくる
片方をせいらに渡す

せいら 「……生き返った」
昴 「干上がる寸前で水とりにくるのやめてくれない?」
せいら 「集中してるとね、乾くのよ」
昴 「だから、それを先回りしてもっと余力があるうちに取りにきてくれない?」
せいら 「でも、今だ!っていうタイミングを逃したら、その閃きはもう戻ってこないのよ?」
昴 「後から思い出せない程度の閃きなら大したことないだろ」
せいら 「昴はわかってないなぁ、その一瞬の儚い閃きが奇跡を起こすことだってあるのよ? 現にお姉ちゃんは何度もその奇跡を起こしてきました」
昴 「はいはい」
せいら 「でもね、毎回白紙の原稿を見るたびに思うの…。私は今までどうやって奇跡を起こしてきたんだろうって…。」
昴 「で、今回は?」
せいら 「………ただひたすらPCと向かい合っていても、何も生まれないのよ? 言葉は無理やりひねり出すものじゃない、天から降りてくるのを待つものなの」
昴 「つまり?」
せいら 「進捗ヤバいです」
昴 「また…?」
せいら 「仕方ないじゃない、私だって、書けるもんなら書きたいわよ? (スマホを取り出して)でも、私には可愛いアイドルたちをプロデュースするという重大な任務がね…」
昴 「はぁ、それで朝まで集中…」

電話が鳴る

せいら 「電話線また戻したわね!?」
昴 「姉さんのためだけに、うちのライフライン閉ざすわけにいかないだろ」
せいら 「どうすんのよ、君島さんだったら」
昴 「さっきの言葉そっくりそのまま伝えれば」
せいら 「そんなことしたらうちに…」
昴 「ほら、早く出なよ」

イヤイヤはけるせいら
入れ替わりに、お母さんが現れる

母 「昴、朝ごはんは?」
昴 「食欲ないからいいわ」
母 「あら、牛乳だけでも飲みなさい(取りにいこうとして)」
昴 「いいって、そのくらい自分でやるから」
母 「そう? ちなみに、翔子おばさんから送られてきたお米炊いてるけど」
昴 「いらないって。食欲ないって言ってるじゃん」
母 「そーお?」

せいらが戻ってくる

せいら 「なんかネタない?」
昴 「天から降りてくるのを待つんじゃなかったのかよ」
せいら 「人生はそう甘くはないのよ…覚えておきなさい」

昴、いったんはける

母 「せいら、ごはんは?」
せいら 「きゅうりでいい」
母 「明太マヨ?」
せいら 「明太マヨ」
母 「翔子おばさんからもらったお米炊いてるけど」
せいら 「きゅうりでいいって」
母 「お父さんは?」
せいら 「(タンスをのぞいて)まだ寝てるみたい」
母 「そう」

お母さん、いったんはける
入れ替わりに昴が牛乳を持って戻ってくる

せいら 「(思いついたように)やっぱり、ここはありがちだけど『毎朝俺に味噌汁を作ってくれ!』みたいな感じかしら?」
昴 「……いきなり何の話?」
せいら 「何って、プロポーズよプロポーズ!」

飲みかけの牛乳を吹き出す昴

せいら 「うわ、きったない…大丈夫?」
昴 「……なんて??」
せいら 「(布巾を渡しながら)だから、プロポーズよ。いま、主人公がヒロインにプロポーズするシーンで筆がつまっちゃって。」
昴 「あぁ…そういうこと。」
せいら 「やっぱり~、女の子の夢じゃない? ここは思いっきりロマンチックに描写したいのよね。」
昴 「味噌汁はロマンチックさゼロだと思うんだけど」
せいら 「やーねぇ、例えに決まってるでしょ。別にいいのよ、なんだって。まぁ、私だったら『俺のために毎晩きゅうりを漬けてくれ!』かな?」
昴 「ロマンチック度がさらに下がってるぞ」
せいら 「『毎晩』ってところでちょっとロマンチック度上がってない?」
昴 「上がってない」

お母さんがきゅうりを携えて戻ってくる

母 「はい、きゅうり」
せいら 「ありがとー。ねね、お母さんはお父さんになんて言われたの?」
母 「なぁに? 何の話?」
せいら 「プロポーズ!」
昴 「プロポーズのシーンで詰まってるんだってさ。それで朝までゲーム」
母 「また原稿ほっぽりだして一晩中ゲームやってたの…」
せいら 「ちょっと! 余計な事言わないでよ!!」
母 「体に悪いから、徹夜でゲームはやめなさいって何回も言ってるでしょ? やるなら、一時間ごとにちゃんと休憩とらなきゃだめよ??」
昴 「そこじゃないし」
せいら 「いいから! プロポーズの話聞かせて!」
母 「そうねぇ…あの時、私はまだうら若き乙女だった…」
昴 「導入が始まった」
母 「父と母は厳しく、また、化け狸の血が色濃く出た私のことを気味悪く思っていた…。あの時も、そんな両親がどんくさい私を叱り飛ばした時だった」
せいら 「うんうん」
母 「お父さんは私がその日、ひどく落ち込んでいることに気づいて、こう言ってくれたの」

タンスからがたがたと音がする

昴 「やばい! 父さん起きた!」
せいら 「今いいところなのよ!!」

せいらが開きかけたタンスを勢いよく閉め、
その後もタンスが開かないよう押さえ続ける

母 「『真由美、なにか辛いことがあったのか? 俺の前では、涙を我慢しないで欲しい』」
せいら 「ヒューゥ♪」
母 「『真由美が泣きたいとき、俺は真由美のハンカチとして一番に涙をぬぐってあげられる存在でありたい。これからもずっと…』…って。」
昴 「父さん気障だなー」
せいら 「いいこと言うじゃない! ハンカチじゃなくて一反木綿だけど」
母 「お母さん、うれしかったなぁー…。この人と一緒なら、この先もずっと居られるって思ったの」
せいら 「お父さんとお母さんは一反木綿と化け狸の混血同士だったのよね。それでそのセリフかぁ、ロマンチックねぇ~…」
母 「そうねぇ、けどあんまり参考にならないんじゃない? だって、せいらの小説を読むような子って、私たちみたいな混血じゃなくて、ふつうの子が多いでしょ?」
昴 「姉さんの小説を読むようなっていうか、それ以前に大多数が…」
せいら 「ふつうの子たちはまず、『混血』が実際にいるってことを知らないしねぇ…。
(考えて)やっぱりここは、我が家で唯一ふつうな昴の意見が必要…」
昴 「じゃ、いってきまーす」
母 「いってらっしゃーい」
せいら 「あ、こら、待ちなさいよ! 昴―!」

場転


1-3

会社のシーン

上司 「天野君、ちょっと」
昴 「は、はい」
上司 「ここ、また間違ってる。私、ここはこっちのコードにしてって言ったよね?」
昴 「え? でもそれは昨日西宮さんが…(メモを見返す)」
上司 「昨日?」
昴 「パフォーマンスが落ちるからこのコードで進めるって…」
上司 「(遮るように)え?」
昴 「……いや…。」
上司 「私が間違ってるって言ってる?」
昴 「いえ、そういうわけではなく…」
上司 「じゃぁ、何。」
昴 「あの…」
上司 「あのさぁ、天野君。ふつうは、ここの記述はこっちで進めるでしょ。それとも私、なにか間違ったこと言ってる?」
昴 「……。」

なにかを言おうとするが、口を閉ざしてしまう昴。

上司 「なに、言いたいことがあるなら言っていいのよ。」
昴 「…なんでもないです。すみません。」
上司 「とにかく、全部、今日中に直しといて。」
昴 「え、今日中…ですか」
上司 「そうよ、本当なら今日はここまで終わってるはずだったのに、あなたが間違えたんだからあなたが直すべきでしょ。」
昴 「……。」
上司 「ふつうさぁ、考えたらわかるよね? 自分でやったことは、自分で尻ぬぐいしないと。ね。じゃぁ、あとよろしく。」

上司が去る。

昴 「なんだよ、ふつう、ふつう、って。」

昴 「好き勝手言いやがって。俺だって…」

昴 「いや…いつも、大事なことは、なにも言えないじゃないか」

肩を落としながら、PCに向き直る昴。

場転

2-1

舞台下

真緒子 「それでね、待ってる間ずーっと、理香と二人で『たかがパンケーキでしょ?』って言ってたの。」
昴 「うん」
真緒子 「テレビでもネットでも、みんなパンケーキパンケーキ騒ぎすぎだって。どうせインスタにアップするためだけに並んでるんでしょって。パンケーキなんてホットケーキミックス溶いて焼いたら家で作れるじゃんって。そう思うでしょ?」
昴 「うん」
真緒子 「そしたらね、食べてみてびっくり! フォークで刺して持ち上げるのも大変なくらい、ふわっふわでね? 口の中に入れたらカスタードクリームみたいにとろけるの! もうこれパンケーキの革命だよねー。」
昴 「そうだね」
真緒子 「その時は初回だからプレーンを頼んだんだけど、他のも食べてみたいし、今度昴とも一緒に行こうと思って…」
昴 「……。」
真緒子 「昴?」
昴 「……え? なに?」
真緒子 「どうしたの? ぼーっとして」
昴 「え、…俺、ぼーっとしてた?」
真緒子 「してたよー。結構疲れてる?」
昴 「いや、ううん、そういうわけじゃないよ」
真緒子 「そうかな。なんかあった?」
昴 「大丈夫だよ。真緒子は心配症だ」
真緒子 「心配性っていうか…」
昴 「ごめん、次どこいこっか? 真緒子が気になってた夜カフェ行く?」
真緒子 「…ううん。今日はいいや」
昴 「そう?」
真緒子 「…昴は、あんまり思ってること話してくれないよね」
昴 「え?」
真緒子 「疲れてるみたいだし、夜カフェは今度にしよ?」
昴 「俺は大丈夫だって…」
真緒子 「大丈夫じゃないから言ってるのー。今日は早めに寝なよ?」
昴 「…わかった。ごめん。」
真緒子 「いいよ。じゃぁ、またね?」
昴 「うん。また。」

場転


2-2

居間のシーン
きゅうりをかじりながらテレビを見ているせいら
昴が帰宅する

せいら 「おかえりー」
昴 「ただいま」
せいら 「今日はなんとバンバンジー」
昴 「フーン」
せいら 「食べないの?」
昴 「あとで」

昴が階段を上る足音。

母 「昴帰ってきた? ごはんは?」
せいら 「あとで食べるって」
母 「そう」
せいら 「バンバンジーなのに…」
母 「バンバンジーでテンション上がるのあなただけでしょ」
せいら 「きゅうりが入っているのに…」
母 「きゅうりが入ってればなんでもいいんでしょ」
せいら 「きゅうりは偉大なのよ。全体の約90パーセントが水分で構成されているの。つまりほぼ水」
母 「ふーん」
せいら 「水分補給にとてもいいの!」
母 「ふーん」
せいら 「もっと興味持ってよ」
母 「母さん忙しいの」
せいら 「うそ! さっきまで一緒にテレビ観てたじゃない!」
母 「み、観てないわ」
せいら 「台所の陰から暇そうに観てたの、私知ってるのよ」
母 「……。」
せいら 「お母さん?」
母 「……。」
せいら 「お母さん!?」
母 「(狸寝入り)」
せいら 「また都合が悪くなるとすぐ狸寝入りするんだから! 起きて!」

立ったまま寝ている母をゆさぶるせいら。

母 「(目覚めて)はっ。」
せいら 「こんなことで狸寝入りするのやめてよ」
母 「仕方ないじゃない、そういう体質なんだから」
せいら 「便利な言葉ね」
母 「妖とヒトの混血って言ったって、ちょっと妖の特徴が強く出るってだけじゃない? それって、西洋人と日本人のハーフで色素が薄いとか、花粉症とか、そういう体質みたいなものだと思うのよ」
せいら 「花粉症はちょっと違うと思う」
母 「母さんも若いころは他人と自分との違いに悩むこともあったけど、年とってくるとこういうふうに折り合いつけられるようになってきたわ」
せいら 「まぁねー…実際、『ふつう』の子は混血の存在なんて知らないし、どう説明したらいいのかわからないこともあったけど…」
母 「だから、体質よ! ものすごく体が硬い人とかいるじゃない? それと一緒!」
せいら 「たとえがだんだん雑になってきたわ」
母 「(狸寝入りしようとする)」
せいら 「阻止!」
母 「ふがっ」
せいら 「はぁ。…昴も、お母さんみたいに大雑把だったらよかったのにね」
母 「母さんの大雑把なところはあなたが全部持って行っちゃったのよ」
せいら 「やぁね、私お母さんよりは繊細よ。じゃなきゃ乙女たちの心を時めかせる文章なんて書けないわ。」
母 「で、その原稿はもう上がったの?」
せいら 「(スマホを取り出して)私、今はどうぶつたちに貢物をするのに忙しいの。」
母 「(苦笑)…ほどほどにするのよ。」

退散するせいら。
場転


2-3

会社のシーン

上司 「天野くん、今いいかしら」
昴 「は、はい」
上司 「先方から要望があって、この間やってもらったところ、仕様変更になったから。」
昴 「えっ…」
上司 「今週中に、今やってるところまで直しておいてね。」
昴 「わ、わかりました。では、手分けして…」
上司 「何言ってるの。みんな、自分の仕事があるんだから、あなたの仕事なんて手伝ってられないでしょ。」
昴 「え」
上司 「それに、今まであなたが手を付けてた箇所なんだから、あなたがやるのが一番早いでしょ。」
昴 「そ、それは……。」
上司 「なに、その顔。ふつうに考えたらわかるでしょ。そのくらい。責任もって最後まで担当するのが筋でしょ。それとも何、みんなの受け持ちの仕事を止めてまで、こっちをやれって言うつもり?」
昴 「…いえ。自分がやります。」
上司 「天野くんさぁ、何か言いたそうにしてやめるの、やめてくれない?」
昴 「は、はい。すみません。」
上司 「すみませんじゃなくって…。まぁいいわ。」
昴 「はい…。」

上司が去る。
ひとり取り残される昴。
場転


2-4

真緒子と夕暮れの喫茶店

真緒子 「ここのウリはね、なんといってもロールケーキなの。生クリームとカスタードのWクリームと、たまごたっぷりで弾力のあるスポンジの相性が抜群だって、食べログに書いてあって!」
昴 「そうなんだ、確かにおいしそうだね。」
真緒子 「うん!」

ケーキを食べようと構える真緒子にフォークを差し出す昴。

真緒子 「ありがと。」
昴 「どうぞ、召し上がれ」
真緒子 「いただきまーす。はぁ、この丸いフォルムがたまらない…そう思わない?」
昴 「ロールケーキ見てそんなこと言う人初めて見た」
真緒子 「んー、おいしい…」

真緒子がロールケーキを食べながら紅茶を飲む様子を眺める昴。

真緒子 「なに?」
昴 「いや、癒されてた」
真緒子 「(笑って)なにそれ。昴も食べなよ、おいしいよ?」
昴 「うん」
真緒子 「このスポンジが、すっごく私の好きなスポンジ。もちもちしてる」
昴 「うん、おいしい」
真緒子 「ね。元気出た?」
昴 「え?」
真緒子 「ここのところ元気ないじゃない?」
昴 「そう、かな?」
真緒子 「うん。言わなくてもわかるよ。」
昴 「真緒子はすごいね」
真緒子 「うん、私、エスパーだから」
昴 「それはすごい」

真緒子の紅茶が二杯目に突入したのを見て、
砂糖とミルクを差し出す昴。

昴 「はい」
真緒子 「すごい、なんでわかったの?」
昴 「俺、エスパーだから。二杯目はミルクティーだよね」
真緒子 「うん。…覚えててくれたんだ」
昴 「エスパーだって」
真緒子 「そうだった。わたしたち、エスパーだった。」
昴 「意味わからん」
真緒子 「では、エスパーの真緒子さんが、昴くんのお悩みを当ててしんぜよう」
昴 「おう、当ててみやがれ」
真緒子 「(ティースプーンをにぎりしめて)むむむ…」

真緒子 「見えた! …職場で面倒な上司に絡まれた!」
昴 「……。」
真緒子 「当たった?」
昴 「当たった。真緒子、本当にエスパーなんじゃない?」
真緒子 「えっへん。…ネタばらしをすると、このあいだも仕事終わりで元気なかったから、職場でなんかあったのかなって、アタリつけてただけなんだけどね。」
昴 「真緒子はよく見てるな…」
真緒子 「へへ。昴は優しいから、何か言われても言い返せないんだよね。」
昴 「優しくは、ないよ。臆病なだけ。相手が間違ってると思っても、それを指摘する勇気が出ないだけだ」
真緒子 「でも、それって、無駄な争いを避けてるってことでしょう? 一つのやさしさだと思うけど」
昴 「そうかな…」
真緒子 「けど、たまには言い返してもいいかもね。その人もさ、昴が言い返してこないってわかってるから、妙に絡んでくるんじゃない?」
昴 「…確かに。」
真緒子 「昴は、もっと自分に自信持っていいと思うよ?」
昴 「…難しいこと言うね。けど、真緒子がそういうなら、努力するよ」
真緒子 「うん。エライエライ。」

何かを考えている間。

昴 「…真緒子。」
真緒子 「なに?」
昴 「大事な話があるんだ。」
真緒子 「…うん。なに?」
昴 「真緒子、俺と…」

しばしの間。

真緒子 「昴?」

なにかを言おうとするが、やはり言えない昴。

昴 「………ごめん、やっぱりなんでもない。」
真緒子 「そう…??」

場転


2-5

居間のシーン

せいら 「こんな素敵な場所でディナーが食べられるなんて、夢みたい…。ビルの明かりの一つ一つが、まるで夜空を煌めく星々のよう…。きれいね…。」

せいら 「あぁそうだね、けれど、君の瞳のほうがもっとキレイだ。」

せいら 「えっ…。」

せいら 「君の瞳は、この空のどんな星よりも美しい…。(花束を取り出すマイム)結婚してくれないか」

せいら 「ひかるくん…!」

せいら 「君の残りの人生を、俺に託してほしい」

せいら 「…喜んで。私を、あなたのお嫁さんにしてください」

いつのまにか後ろで見ていた昴と目が合う。

昴 「……。」
せいら 「どうよ? とびきりロマンチックでしょ?」
昴 「確かに、ロマンチックではあるかもしれないけど…」
せいら 「けど?」
昴 「…こうして客観的に見ると、恥ずかしいやら居た堪れないやら…」
せいら 「はぁ?」
昴 「いや、なんでも」
せいら 「でーもさー、こういう、言い回しになんかしっくりこないのよね。薄っぺらいっていうか。」
昴 「まぁ…。王道だとは思うけど」
せいら 「もっと、臨場感っていうの? リアリティが欲しいのよね。」
昴 「リアリティねぇ…」
せいら 「彼女持ちの弟にアドバイスもらいたいなーなんて…」
昴 「自分で彼氏作ってプロポーズしてもらった方がリアリティが出るんじゃないの。」
せいら 「ぐっ…なかなかえぐってくるわね…」

水を飲み干すせいら。

昴 「何年彼氏いないんだっけ?」
せいら 「うるさいうるさーい。作家・夕星(ゆうづつ)せいらはペンが恋人なんですぅー。」
昴 「ペンっていうか、パソコン」
せいら 「そこは比喩表現ですぅー。」

水を飲み干すせいら。

昴 「ていうか、さっきから水飲みすぎだから」
せいら 「飲まないと干からびるし、干からびたら弟に文句言われるし」
昴 「その心がけはエライけど、あんまり飲みすぎると水中毒になるぞ」
せいら 「体質なんだから仕方ないじゃない」
昴 「体質、ねぇ…」
せいら 「そうよ。体質。わたしの体が乾きやすいのも、春になるとあんたが花粉症発症するのも体質」
昴 「モノは言いようだな」
せいら 「母さんの受け売りだけどね。あの適当さ、ちょっとくらい見習ってもいいんじゃない」
昴 「…そう簡単に割り切れたら、苦労しないよ」
せいら 「まーた、辛気臭い顔して。あんた、態度に出るんだから注意しなさいよ。」
昴 「姉さんに言われたくない」
せいら 「で? 真緒子ちゃんとなんかあったの?」

間。

昴 「……姉さんに関係ないだろ」
せいら 「当たったみたいね」
昴 「……。」
せいら 「何年あんたのお姉ちゃんやってると思ってるの? 相談なら乗るわよ」
昴 「小説のネタにしようったってそうはいかないからな」
せいら 「やぁね、そんなわけないじゃない」
昴 「どうだか……。」
せいら 「私思うんだけど、女の子が憧れるプロポーズって2種類あるわよね。」
昴 「はぁ?」
せいら 「ドラマの定番、高層ビルのレストランで高級ディナー、そして満を持してプロポーズ! ってパターンがまず一つね」
昴 「さっきのやつだろ」
せいら 「そう。で、普段通りのデートをして、世間話をするようにプロポーズをする。これがもう一つのパターン。」
昴 「あぁ…テレビを見ながらとか、食事をしながらとか、そういうやつ」
せいら 「そういうやつ!」
昴 「けど、せっかく一世一代のプロポーズなのに、そんなフツウでいいのかね…」
せいら 「いや、このパターンは、逆に、ふつうに、日常っぽく言われることによって、『この人の日常の延長線上に私との未来があるんだわ♡キュン♡』ってなるらしいわよ」
昴 「よくわからん…」
せいら 「どちらにせよ、真剣に相手と向き合って、自分の思っていることをきちんと伝えれば、相手にもその気持ちが伝わると思うの」
昴 「イイ感じにまとめ始めたな…」
せいら 「大事なのは、身の丈に合ったプロポーズよ。演出にこだわりすぎて、身の丈に合わないシチュエーションで、借りてきた言葉で思いを伝えても、それは相手の心に響かないじゃない?」
昴 「…なるほどね。珍しく、作家らしい言葉で締めるじゃん」
せいら 「珍しくは余計」
昴 「はいはい」
せいら 「ま、お礼はキュウリ一本でいいわよ。相談代」
昴 「相談してないし、しかもお代とるのかよ…」

お母さんが台所から顔を出す

母 「私は、ふたりの思い出の場所でプロポーズするのがいいと思うわ」
昴 「聞いてたの…」
母 「お父さんがプロポーズしてくれたのも、よくデートしていた海浜公園で夕焼けを見ているときだったわ…」
せいら 「(タンスからハンカチを出して)『子供たちになんてことを教えるんだ!』だって」
母 「いいじゃない、減るものじゃないし」
昴 「父さんのメンタルは着実にすり減ってると思う」

インターフォンが鳴る。

母 「はーい、今出まーす」
せいら 「待って! お母さん、出ちゃダメ!!」
母 「えー??」

せいらの制止も間に合わず、君島さんが出てくる。
あわててタンスの引き出しを閉める昴。(ハンカチが挟まる)
君島は、タンスを一瞥するが、気にせずに続ける。

君島 「おじゃまします」
母 「はい、どうぞー」
君島 「先生?? 報連相はちゃんとしてって、私いつも言ってますよね?」
せいら 「はいぃ……。」
君島 「もうこの際原稿があがってるかどうかはどっちでもいいんです。いや、上がっててほしいですけど!」
せいら 「はい」
君島 「都合が悪くなったら連絡を絶つのをやめてください、シンプルに心配するでしょ」
せいら 「すみませんでした」
君島 「デッドラインわかってますよね? それ超えたら、本当に、今度こそ、本出せなくなりますからね」
せいら 「承知しております」
君島 「それならいいんです。じゃ、原稿楽しみにしてますから、ちゃんと進捗報告してくださいね、先生。」
せいら 「はい。肝に銘じておきます。」
君島 「じゃ、お邪魔しました」

君島が去る
慌ててタンスからお父さんを救い出す

昴 「父さん大丈夫?」
母 「『体が締め付けられるように痛かった…』だって」
せいら 「実際締め付けられてたからね」
昴 「ごめんって…」
母 「まだ上がってなかったのね、新刊の原稿」
せいら 「締め切りをぶち破るまでが作家の様式美じゃない?」
昴 「君島さん呼び戻してそのセリフ聞かせてやりたい」
せいら 「嘘です。ごめんなさい。やめてください。」
母 「それで、なんだっけ? プロポーズするのよね? 昴が。」
せいら 「そうそう昴が。」
昴 「いいって、蒸し返さなくて」
母 「お父さんも応援してるって。」
昴 「あ、ありがとう…。」
せいら 「思い出の場所でプロポーズするんでしょ。」
昴 「それで決定みたいな感じで言わないで」
母 「『さすが父さんの息子だ!』だって。」
昴 「だから、まだ決まってないから」
せいら 「何よ、煮え切らないわね…。」
昴 「みんな、勝手に話を進めすぎなんだよ。」
母 「でも、プロポーズはするんでしょ?」
昴 「そりゃぁ…いつかは…。」
せいら 「いつかって?」
昴 「そういうのは、タイミングってものがあるだろ。タイミングが来たときに、また」
せいら 「そんなこと言ってたら一生プロポーズできないんじゃない?」
母 「ちょっと、せいら」
昴 「俺は俺のタイミングがあるんだから、姉さんは口出しするなよ」
母 「昴も」
せいら 「へー、そのタイミングっていつ来るの? 何時何分何秒地球が何回回った時?」
昴 「小学生か…」
せいら 「あんたの言い訳もね、その程度よ。小学生と一緒。」
昴 「は?」
せいら 「だから、あんたの程度に合わせてやったって言ってるの。」
昴 「よく言う。口だけはよく回るよな。」
せいら 「そんなはっきりしない彼氏に振り回されて、真緒子ちゃんかわいそー。」
昴 「そんなのっ…。俺が一番、よくわかってるよ」
せいら 「いつかいつかって、先延ばしにして、大事なことは何にも言ってくれない彼氏なんて、信用できないんじゃないかしら。」
昴 「わかってる。いざ言おうとすると、言えなくなるんだから仕方ないだろ。俺は本当に真緒子と並んでもいい人間なのか、真緒子のこれからをずっと俺が預かっていいのか、わかんなくなって何にも言えなくなるんだよ。」
せいら 「あのね、あんたのそういうはっきりしないところ、悪いところよ。大事な時に決断できなきゃ、真緒子ちゃんを不安にさせてしまうでしょ。」
昴 「……姉さんには関係ないだろ」
せいら 「またそれ? 確かに私には関係ないけど、あんたがはっきりしないからいけないんでしょ。普段はそれでもいいけど、決めるときはビシッと決めなさいよ。じゃないと彼女が可哀そうだって言ってるの。」
母 「ちょっと、ちょっと待って…あぁもう(狸寝入りする)」
昴 「うるさいな! どうせ姉さんには『フツウ』の俺の気持ちなんてわかりっこないだろ。」
せいら 「どういう意味?」
昴 「姉さんも、父さんも、母さんも、俺とは違って妖の特徴があるだろ。もともと、何の特徴もない『フツウ』の俺とは違う人間だろ。」
せいら 「それが何? ちょっと妖の血が濃いだけで、ふつうに生活してる、ふつうの人間よ。あんたと同じ。」
昴 「何が普通だよ…。俺にとっては、みんなふつうなんかじゃない。父さんは布だし、母さんは狸だし、姉さんは河童だ。ふつうなんかじゃないだろ。」
せいら 「そうやって自分を正当化するために周りに壁作ってわめいたところで、現実は何も変わらないのよ。私なんて、きゅうりが好きでちょっと泳ぐのが得意なくらいのふつうの人間よ?」
昴 「ふつうの人間はきゅうりを主食にしないだろ」
せいら 「大体、あんたの言う『フツウ』ってなに? ふつうなんて、自分がふつうだと思えばなんでもふつうなのよ。世の中に、本当にふつうの人間なんて一人もいないの。あんた、個性と特徴をはき違えているのよ。」
昴 「それは…」
せいら 「いい? あんたのその甘っちょろくて優柔不断で妙に自分に自信がないけど、真面目で優しいところは個性よ。」
昴 「褒めてるのか貶してるのか…」
せいら 「何でそんなに自虐的なのか知らないけど、よくも悪くも個性なんだから、自分なりに折り合いつけて生きていくしかないでしょ。そんなに自分が嫌なら、変わる努力をしないと」
昴 「変わる努力…?」
せいら 「ま、いい機会なんじゃない。プロポーズ。」
昴 「……。確かに。」
母 「落ち着いた?」
昴 「うん…」
母 「何度も言ってるけど、せいらも言いすぎちゃうところあるから、ちゃんと気を付けるのよ。」
せいら 「あ、はい…。(昴に)ごめん。」
昴 「別に、今に始まったことじゃないし…。」
せいら 「ふふ…可愛くない返事。」
昴 「どっちが。母さん、また狸寝入りしてただろ。」
母 「仲裁できなさそうだったから。」
昴 「まぁ、あの勢いの姉さんを止めるのは至難の業…」
せいら 「あんたもね」
母 「もう、喧嘩しないの。…昴。」
昴 「はいはい?」
母 「母さんはね、結婚って、新しい家族を作るってことだと思うの。」
昴 「家族を作る…」
母 「そう。他人同士から始まった父さんと母さんは、結婚して家族になって、せいらと昴、あなたたちが生まれて、親になって。そして次は昴。あなたが、新しい家族を作る番なのね。」
昴 「母さん…」
母 「私は、自分の親族とは折り合いが悪かったけど、父さんと結婚して、新しい家族が出来て、こういう人生も悪くないなって思ったわ。あなたは、母さんにとってはいつまでも子供だけど、大切な彼女と家族になって、新しい人生を歩もうと思っているのなら、母さんは応援してるから。あなたならきっと素敵な家族が作れる。大丈夫よ。だから、プロポーズ、がんばるのよ。」
昴 「…ありがとう、母さん。」
せいら 「(涙ぐみながら)母さん…」
母 「なんであなたが泣いてるの」
せいら 「だって…まだ昴プロポーズすらできてないのに、お母さん、そんな、結婚式のスピーチみたいなこと言うんだもん」
昴 「プロポーズすらできてないとか言うな」
母 「気が早すぎたかしら」
昴 「でも、いい激励だったよ」
せいら 「いい、昴。ビシッと決めてくるのよ。ビシッと。」
昴 「わかってるって。思い出の場所、ねぇ…」

昴が考え事をしながら去る。
場転


2-6

回想
夕暮れの中、真緒子がベンチに座っている(舞台のヘリとかを利用しましょう)
しばらくして、昴が飲み物を持って真緒子の隣に座る

昴 「レモンティーでよかった?」
真緒子 「うん。ありがとう。(受け取って)わ、暖かい」
昴 「(少し照れつつ)真緒子さん、手冷えてるね。ごめん、寒かったでしょ」
真緒子 「ううん。あ、いくらだった? これ」
昴 「いいって。このくらい出させてよ」
真緒子 「そう? …じゃぁ、いただきます」
昴 「どうぞ。」
真緒子 「……ふふ。」
昴 「なに?」
真緒子 「ううん。さっき、猫カフェで猫に威嚇されて謝ってる昴くん思い出したら、ちょっとね。」
昴 「それは忘れてよ…。」
真緒子 「猫に敬語使ってて面白かった。」
昴 「なんか、機嫌を損ねる真似をしちゃったみたいだったから」
真緒子 「初めて見たよ、猫にあんなに丁寧に話しかける人。」
昴 「それを言うなら、真緒子さんが何もしてなくても周りに猫が集まってきたのも、初めて見る光景だったよ。」
真緒子 「あぁ、あれね…。」
昴 「猫の集会ってあんな感じなのかな。こう、真緒子さんと一緒にぐるっと円になってさ…」
真緒子 「なんか、私、そういう体質なんだよね。猫が好きなにおいするのかも。」
昴 「何それ。魚とか?」
真緒子 「そうそう、ササミとか。」
昴 「(近づいて)そんな匂いしないけどな…。(気づいて離れる)あ、ごめん」
真緒子 「ううん。」
昴 「……。」
真緒子 「……。」

お互いにもじもじしている。
しばしの間。

真緒子 「夕焼け、きれいだね。」
昴 「あ、うん…。」
真緒子 「きれいなピンク色。私、こういうピンク色の夕焼けって好きなんだ。キレイだよね。」
昴 「そう、だね。」
真緒子 「……。」
昴 「……。」

何かを伺っているような間。

昴 「あの、さ…。」
真緒子 「なに?」
昴 「……。」
真緒子 「……。」

何かを言おうとしてはやめ、を繰り返す昴。

昴 「(決心して)俺、真緒子さんのこと……。」
真緒子 「うん。」

が、一向に言葉が出てこない。

昴 「…ごめん。なんでもない」
真緒子 「……。」
昴 「(立ち上がって)さ、寒くなってきたし、もう帰ろうか? 冷えるでしょ。」
真緒子 「待って。」

立ち上がった昴の服の袖をつかむ真緒子。
しばしの間。

真緒子 「私、昴くんのことが好き。…付き合ってくれる?」
昴 「…は、はい…。」

回想終わり
場転

3-1

会社のシーン
窓から夕陽が差し込んでいる

昴 「また、あの夕焼けだ…」
上司 「天野くん?」
昴 「は、はい?」
上司 「このあいだ仕様変更で直してもらったところなんだけど、ここの分岐がまた前の記述に戻っていたわよ。」
昴 「え? けど、それって…」
上司 「なに?」
昴 「いや……」

なにかを決心する間。

昴 「(小声で)自信をもって、ビシッと…」
上司 「な、なに、言いたいことがあるなら言いなさいよ。」
昴 「…はい。そこの分岐なのですが。以前の記述のままだとパフォーマンスが落ちると指摘された箇所なので、ついでに修正しました」
上司 「(面食らって)な、なにそれ。だれが指摘したの?」
昴 「…それは、その、…西宮さんです。」
上司 「えっ、わ、私…? な、なに言ってるの、そんなのいつ…」
昴 「(メモを見て)一週間前ですね。ですがそのあと、その、パフォーマンスが落ちる記述に直すようまた西宮さんから指示があり、違うなとは思ったのですが…。その時に、申し出ていればよかったですね。すみません。」
上司 「な…な…そ、そういうことは、もっと早く言いなさいよ」
昴 「はい。すみませんでした。以後、気を付けます。」
上司 「ふ…ふん。わかればいいのよ、わかれば…」

ぶつぶつ言いながら去っていく上司。
ひとりガッツポーズをする昴。

昴 「……よし!」

場転


3-2

居間のシーン
ばたばたと支度している昴

せいら 「いよいよ、今日みたいね…。」
昴 「姉さん、余計なことするなよ。」
せいら 「余計なことってなーに?」
昴 「しらじらしい…。原稿終わってないんだから、大人しく家に居ろよ。」
せいら 「もちろんそのつもりよ。」
昴 「普段家にいるときそんな格好してないだろ。ついてこようとしてるのバレバレなんだよ。」
せいら 「なんのことかしら。」
昴 「絶対、余計な事するなよ。」
せいら 「わかってるって。」
昴 「どうだか…」
せいら 「それより、忘れ物ない?」
昴 「多分…」
せいら 「あんた、抜けてるとこあるんだからしっかり確認してから出なさいよ」
昴 「あぁ、うん。うわ、もうこんな時間か」
せいら 「何分の電車?」
昴 「30分!」
せいら 「ダッシュ!」
昴 「いってきまーす」
せいら 「いってらっしゃーい」

しばらくひらひらと手を振るせいら。

せいら 「さて。」

上着を着て、出ていくせいら
場転

3-3

せいら 「はい、こちらお姉ちゃん。応答せよ。」
母 「こちらお母さん。ねぇ、本当にやるの?」
せいら 「やるわよ。大丈夫、邪魔はしないから。後ろからこっそり見守るだけよ。」
母 「あなたもたいがい、弟離れしなさいよ。」
せいら 「違うわよ。こんな、小説のネタになりそうなもの、見逃すわけにいかないでしょ? これは、取材よ。取材。」
母 「まぁ、なんでもいいけど…」
せいら 「ターゲット、第一ポイント通過したわ。母さん、第二ポイントに移動して。」
母 「はいはい…」
せいら 「ターゲットの動きはどう?」
母 「順調に駅に向かっているわ。…あ。」
せいら 「なに?」
母 「異常発生。直ちにターゲットのもとへ向かうわ。」
せいら 「え? ちょっと!」

場転


3-4

道端で上司に絡まれている昴

上司 「あら天野くん、ぐうぜんね?」
昴 「に、西宮さん…」
上司 「あのあと天野君が私の担当箇所のコードのミスも指摘してくれたおかげで、これから休日出勤よ。天野君はどこかへおでかけ?」
昴 「えぇ…まぁ…」
上司 「よかったら、手伝ってくれないかしら。なかなか人が集まらなくて、困ってるのよ。」
昴 「ですが、このあとは外せない用事が…」
上司 「そこをなんとか…(スマホを取り出して)あ、ごめんなさい、ちょっと」

通話している上司。
母がこっそり昴に話しかける。

母 「昴、昴」
昴 「え、母さん!? どうしてここに?」
母 「いいから。ここは私がなんとかするから、あなたは彼女のところへ行きなさい。」
昴 「え? でも…」
母 「いいのいいの。狸は人を化かすものなんだから、母さんの本領発揮よ。」
昴 「母さん、俺の仕事内容なんてわからないだろ…」
母 「……そこはまぁ、すきを見て逃げ出すから大丈夫よ。」
昴 「大丈夫じゃないだろソレ…」
母 「いいから、あなたは早く行きなさい。」
昴 「…ごめん、ありがとう、母さん」

昴がはける。

母 「久しぶりだけど…へーんしん!」

一瞬暗転して、昴と入れ替わってください。
通話を終えて、振り返る上司。

上司 「ごめんなさい、話の途中で。それで、悪いんだけど…」
昴 「はい、手伝います!」
上司 「あら、そ、そう? じゃぁ、お願いするわ」
昴 「がんばりまーす!」
上司 「…どうしたの? 天野君、今日ちょっと変じゃない?」
昴 「大丈夫でーす! ほら、早く行きましょう!」
上司 「え、えぇ…」

昴がはけたのと反対方向に急いではける上司と母。
場転


3-5

駅へ急ぐ昴。

昴 「あ、そうだ、真緒子に連絡…」

ポケットの中をまさぐる。
スマホが見つからない。

昴 「な、ない…嘘だろ…」

急いで鞄の中をひっくり返す。
勢いあまって、指輪を川に落とす。
SE:川ポチャの音お願いします。

昴 「あっ……」

うなだれる昴

昴 「踏んだり蹴ったりだ…どうしよう…」

せいらが現れる。

せいら 「お困りのようね!」
昴 「悪いけど、いま姉さんの相手してる余裕ないから」
せいら 「落し物はなにかしら?」
昴 「だから、いま姉さんの…」

せいら 「見つけにくいものかしら?」
昴 「だからさぁ…」
せいら 「私を何だと思ってるの? こんなの、私にかかればちょちょいの…ちょいよ!」

川から勢いよく指輪が戻ってくる。
昴がキャッチする。

昴 「うおっ…」
せいら 「河童は水神様でもあるのよ?」
昴 「姉さん、ありがとう…」
せいら 「さ、早く行きなさいよ。」
昴 「いや、もうすでに遅刻気味なんだけど、スマホ家に忘れてきたから真緒子に連絡とれないんだよ」
せいら 「は? なにやってんの?」
昴 「だから一回家にもどって…いや、それだとかなり遅くなっちゃうか…」
せいら 「仕方ないわね、ほら、私の貸してあげる。これで電話かけなさいよ。」
昴 「なるほど!」

電話をかけようとして、止まる昴。

せいら 「どうしたの?」
昴 「いや、…真緒子の連絡先、普段アドレス帳に登録してあるの使ってるから、暗記してないんだよ……。」
せいら 「そのくらい暗記しときなさいよ…」
昴 「暗記しないだろ…」
せいら 「仕方ないわね…とりあえず、あんたは次の電車に何としても乗りなさい。ダッシュ!」
昴 「おう!」

昴が走り去る。

せいら 「(電話)もしもしお父さん? こちらお姉ちゃん。うん、まぁそれはいいんだけど、…いま昴が向かってるんだけど、結構遅刻しそうだからどうにかして真緒子ちゃん足止めしてくれない? うん、……えー、こういう時くらい元の姿に戻れば?」

場転


3-6

真緒子が水族館前で待っている。
スーツ姿で帽子を深くかぶった男が、真緒子に話しかける。

男 「すみません。道をおたずねしてもよろしいですか。」
真緒子 「あ、はい…」
男 「…もしかして、お待ち合わせですか? 少しだけお時間頂戴しても?」
真緒子 「いえ。遅れてるみたいなので…大丈夫ですよ。」
男 「ありがとうございます。このあたりで、喫茶店を探しておりまして。」
真緒子 「喫茶店…ですか。見たことないですね。お調べします。(スマホで検索する)…なんという名前のお店ですか?」
男 「それが、ど忘れしてしまいまして…何だったかな…せいせん、…すいせん…?」
真緒子 「…見つからないですね。」
男 「泉、という文字が入っていたと思うのですが。」
真緒子 「ないですね。ほかに何か、特徴は?」
男 「そうですね…昔よく、妻とデートに立ち寄った喫茶店なのですが、特に特徴というほどのものもなく…」
真緒子 「そうなんですね。」
男 「その喫茶店の、何の変哲もないナポリタンが、あの頃は美味しく感じたものです。あれを、どうしても、もう一度食べたくなりまして。」
真緒子 「ナポリタン…いいですね。古き良き喫茶店という感じがします。」
男 「私の若いころからあったので、実際に、旧いのです。ぜひまた妻を連れていきたいと思って、探しに来たのですが、もう遠い記憶、どうやって行っていたのかも思い出せず。」
真緒子 「それは…なんとしても探し当てたいですね。ナポリタンですか…」
男 「どこの喫茶店にもある、ナポリタンでした。ですが…妻と一緒だと、何倍にもおいしく感じたものです。」
真緒子 「わかります。…一緒にいる人で、食べ物の味って変わりますよね。」
男 「…お待ち合わせしていらっしゃる方のことですか?」
真緒子 「はい。けど、もしかしたら、もう来ないかもしれないです。」
男 「おや。それはまた、どうして?」
真緒子 「…最近、なにか大事な話があるっていうんです。けど、その内容は教えてもらえなくて。だから、言いにくい内容なのかなって、悪い想像しちゃって。」
男 「それは…よくない。非常に、よくないですね。」
真緒子 「私が悪いんです。きっと、私が今まで言えてなかったことに、気づいちゃったんだと思います。だから…」
男 「それは…」

昴が走ってやってくる。

昴 「真緒子、ごめん! 遅くなって!」
真緒子 「…もう来てくれないと思った。」
昴 「ごめん、スマホ家に忘れちゃって、途中でいろいろあって。」
真緒子 「…わかった。来てくれたから、もういいの。」
昴 「ごめん。行こうか。」
真緒子 「あ、待って。おじさまに道を聞かれてたの」

振り向くが、男はもういなくなっている。

昴 「おじさん? どこ?」
真緒子 「あれ? …まぁ、いいや。行こうか。」
昴 「うん。」

場転


3-7

夕暮れの公園

真緒子 「楽しかった!」
昴 「おなかすいたじゃなくて?」
真緒子 「え?」
昴 「真緒子、どの魚見てもおいしそう~って言ってたじゃん。」
真緒子 「うん。夜ご飯はお魚が食べたくなった。」
昴 「水族館であんまりその感想は出てこないよ…」
真緒子 「で、でも、ペンギンは可愛かったよ。」
昴 「魚見てるときのほうがテンション高かったけどね。」
真緒子 「そ、そうかなぁ~…」
昴 「あ、ちょっとそこで座って待ってて。飲み物買ってくる。」
真緒子 「うん。」

ベンチに座って待つ真緒子。
すぐに昴が飲み物を持って戻ってくる。

昴 「はい。ミルクティーとレモンティー、どっちがいい?」
真緒子 「昴は?」
昴 「俺は、どっちでもいいよ。」
真緒子 「じゃぁ、ミルクティーにする。…ありがと。」
昴 「うん。」

飲み物を飲んで、一息つく二人。
間。

昴 「真緒子、あのさ…」
真緒子 「うん。」
昴 「今日も、その、大事な話が合って…」
真緒子 「うん…。」

気合を入れる昴。

昴 「真緒子、その…」
真緒子 「いいの。もう心の準備はできてるから、人思いに言って。」
昴 「え?」
真緒子 「私、もうわかってるから。」
昴 「え? あ? そうなんだ? えっと、じゃぁ…。真緒子、俺と…」
真緒子 「やだ! やっぱり、聞きたくない。」
昴 「(ショックを受けて)え?」
真緒子 「ごめん。私、本当は嫌なの」
昴 「嫌? え、なにが?」
真緒子 「ずっと、言いにくそうにしてたもんね。ごめんね。昴は優しいから、言えないんだよね。」
昴 「待って、なんの話?」
真緒子 「でも、私、やっぱり嫌だよ。昴と別れるなんて嫌。」
昴 「別れる!? 俺、そんなこと一言も言ってないよ」
真緒子 「でも、これから言おうとしてたでしょ。ごまかさなくてもいいよ。私のこと、気持ち悪くなっちゃったんでしょう?」
昴 「真緒子のこと、気持ち悪いなんて思ったこと、ないよ。」
真緒子 「嘘! このあいだ、いいレストランで食事したとき、気づいちゃったんでしょ? それで、このあいだからよそよそしかったんだ。」
昴 「気づいたって、なにが?」
真緒子 「だから、私が猫又だって!」
昴 「……は?」
真緒子 「隠してたわけじゃないのよ。私にとってはふつうのことだし、それで生活できてるし。けど、今までだって、何人かに気づかれて、気持ち悪いって距離おかれたりもしたし。私、昴に気持ち悪がられるのは嫌だったから、言えなくて、でも、こんな思いするなら最初に言っておけばよかった。ごめんなさい。」
昴 「待って待って。ちょっと、追いついてないけど…。え、真緒子って、猫又なの?」
真緒子 「え? そうだけど…気づいてたんじゃなかったの?」
昴 「え? 気づくタイミングあった?」
真緒子 「倒れる寸前のコップをつかんで反射神経いいとか、ナプキンをつかむときにツメ立てたりとか、…あれ? これで気づいたんじゃなかったの?」
昴 「気づかないよ!」
真緒子 「あれ?? そうだったの? じゃぁ、大事な話って何なの?」
昴 「あー…ちょっと待って。整理する。真緒子は、猫又の混血なのね?」
真緒子 「うん。フィクションの中にしか出てこないから、信じられないかもしれないけど…。今まで黙っててすみませんでした。」
昴 「いや、それを言うなら俺だって…。そっか、俺にとっては当たり前すぎて気づかなかったけど、確かに言っておくべきだったかも…」
真緒子 「え?」
昴 「真緒子、安心して。俺の家族、俺以外全員混血で妖の特徴があるんだ。」
真緒子 「……昴以外、全員?」
昴 「そう。なかなかないでしょ、混血がこんなに集まるなんて…」
真緒子 「なにそれ…そんなの、初めて聞いた…。珍しいね…。」
昴 「だから、真緒子が混血なのなんて、なんにも気にしないよ。俺だって、それで真緒子の見方が変わったりしないよ。」
真緒子 「なんだー…もう、私、ずっと不安で…」
昴 「不安にさせてごめん。でも、大丈夫だから。」
真緒子 「うん。わかった。」

夕日が差し込む

真緒子 「ふふ…思い出すなぁ…。私が昴に告白したときも、こんな夕焼けだったよね。」
昴 「真緒子がっていうか、あれは俺が…」
真緒子 「うん。私、わかってた。あのとき、昴が私に一生懸命告白しようとしてるの見て、カワイイなって思った。だから、待ちきれなくて、私から言っちゃった。」
昴 「うん…。」
真緒子 「夕焼け、キレイだね。ピンク色の夕焼け。」
昴 「そうだね。…俺、これから先も、真緒子と一緒にいろんな景色が見たい。」
真緒子 「うん…。」
昴 「(婚約指輪を取り出して)真緒子。俺と結婚してください」
真緒子 「…うん。私でよければ。」

場転


3-8

居間のシーン。
真緒子が訪ねてくる。

昴 「あがって。」
真緒子 「はい。お邪魔します。初めまして、昴さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいている、柊木真緒子と申します。本日はお時間を作っていただき、ありがとうございます。あ、これ、よかったら皆さんで…」
母 「まぁまぁ、いいのに…ありがとうね。」
真緒子 「いえ。」
父 「いらっしゃい、どうぞ、あがってください」
真緒子 「ありがとうございます。あれ…」
昴 「どうしたの?」
真緒子 「あの…違ってたらすみません。どこかでお会いしましたか?」
父 「さぁ…。あなたのようなお美しい方は、一度お会いすれば忘れないと思うのですが」
昴 「父さん?」
母 「お父さん?」
父 「いえ、なんでも」
せいら 「真緒子ちゃん。話には聞いているわ。」
真緒子 「はい。えっと、河童のお姉さん…?」
せいら 「猫又の真緒子ちゃん。今日はお寿司とってるから、みんなで食べましょう。」
真緒子 「お寿司! お寿司ですか!!」
せいら 「お魚好きなんでしょ?」
真緒子 「ありがとうございます! 大好きです!」
昴 「今、ないはずのしっぽが見えた…。」
母 「二股に裂けたしっぽね?」
昴 「そう」
せいら 「こちらこそ。あなたのおかげで、いいものが書けたわ。これで心置きなく…」
真緒子 「いいもの??」

インターフォンが鳴る。
すぐに君島さんが入ってくる。

君島 「お邪魔します! 先生、デッドライン、わかってますよね? (真緒子に気づいて)あ、すみません…。」
せいら 「はい。(封筒を渡して)お待たせしました。ついさっき、メールでデータも送っておきましたので、確認よろしくお願いします。」
君島 「先生~! 信じてました! さすが、夕星(ゆうづつ)せいら先生!」
真緒子 「え? 夕星せいら先生って、あの…お姉さんが…!?」
昴 「あれ、真緒子、姉さんのこと知ってるんだ。」
真緒子 「知ってるよー! 私、あの、いつも読んでます。先生の作品。」
せいら 「あら、ありがとう。うれしいわ。」
真緒子 「特に一作目がすっごく好きで! 何回も読み返してて!(鞄から文庫本を取り出す)もー何回先生の作品にときめいたことかわからないくらいで…」
せいら 「私、真緒子ちゃんとすっごく仲良くなれそう」
昴 「それはよかった…。ほら真緒子、一旦座ろう。」
真緒子 「あ、うん、そうだね」
母 「君島さんも、ごはんまだだったらどうぞ。」
君島 「あら、いいんですか…。じゃぁ、お言葉に甘えて…。」

みんなが席について

昴 「えー…、みなさん、グラスの準備はよろしいですか? それでは…乾杯!」

それぞれ乾杯をする。
最後に昴と真緒子が乾杯をして、
幕。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?