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【脚本公開⑤】メテオライン

みんな大好き長編SFです。
タイトル、自分の脚本の中で2番目くらいに好き。

初演

劇団AQUA 第9回公演
メテオライン

日程 2015/12/26~2015/12/27
会場 浦安市民プラザWave101小ホール

タイトル

メテオライン

登場人物(男1・女1・男女可1)

シリウス 男
アル 女
警察 男女可

上映時間の目安

1時間30分

1.

★箱を八の字形に並べる
★箱の上にはチャッピー(仮)

宇宙船フロア内

シリウス 「あぁ、やっぱり、旅はこうでなくちゃ。」

窓を覗きながら

シリウス 「美しい風景、広い空」

シリウス 「愉快な仲間と! 壊れた宇宙船! ねぇ、俺達さ、いま、すごーく、旅してるって感じじゃない?」

返事はない。
しばらくチャッピーと一人芝居するシリウス

シリウス 「(声を変えて)そうだね、シリウス。旅っていうのはいいもんだ。自分の知らない世界が見られるし、とんでもないハプニングが起きたりする。」

シリウス 「(戻して)最新のM-I型宇宙船だったからこそ、こうしてわずかな充電期間で済むわけでさ、もしも普通の船だったら、俺たちこの星で干し肉になってたよ。俺たちは、こんなところでジャーキーになっている場合ではない。なぜなら、この遥か彼方まで続くメテオラインには、もっと、危険な敵と、スリリングなジャーニーが待っているからね。」

シリウス 「(チャッピー)とっても刺激的な毎日が送れる。これだから旅ってのはやめられない」

シリウス 「(戻って)そうだねチャッピー! それがロマンってやつだ。ロマンを追い求めるのに、スリルと仲間は必要不可欠」

シリウス 「二つ前の星で手に入れた君も、今となっては立派なこの船の乗組員だ。もう仲間のいない旅なんて考えられない!」

シリウス 「(チャッピー)シリウス…!」

シリウス 「チャッピー!」

チャッピーと抱き合うシリウス

シリウス 「そうさ、ロマンを、メテオラインを追い求めるのに、スリルと仲間は必要不可欠…。」

シリウス 「(「アブラハムの子」に乗せて)メテオラインには、2人の子。一人はロマンチックであとは…(チャッピーに向かって)ワイルド!」
アル 「メテオライン?」
シリウス 「喋った!!!」

シリウス 「えっ!?」
アル 「メテオラインってなに?」
シリウス 「キミ、どこから入ってきたの」
アル 「(指を指す)あいてたよ。不用心だね」
シリウス 「なんてこった!」
アル 「もし私が盗賊だったらもう大変だよ。今頃あなたはそこで倒れているかもね?」
シリウス 「勝手に入ってくると言う点では盗賊と一緒だよ。じゃぁキミ、一体誰なの」
アル 「私は……アル」
シリウス 「アル?」
アル 「あなたは?」
シリウス 「俺? シリウス…と、こっちはチャッピー」
アル 「(無視して)シリウス。早速だけど、お願いがあるよ」
シリウス 「金目のものならないよ。そうだ、これをあげよう。『銀河ヒッチハイクガイド』 俺の命の次の次に大切なものだ。宇宙中のロマンがぎっしり詰まっている。ほら、これをもってどっかにお行き。」
アル 「そうじゃないの。」
シリウス 「じゃぁなに? 食べ物? 簡単な宇宙食しかないよ。たぶんあんまり美味しくないと思う、キミの口には」
アル 「おなかも空いてない。そういうことじゃないんだよ。私がお願いしたいのは、もっともっと重要なこと」
シリウス 「と言うと?」
アル 「あのね、シリウス」

一瞬の間

アル 「私を連れて、この星から逃げてほしい」

暗転 

2.

この星のどこか
どこかと通信をしている警察
警察が現れると、スポット

警察 「こちらには、居ないようです」

警察 「はい、昨日の目撃情報からしてそう遠くはないと…」

警察 「…”そら”に、逃げられなければいいのですが」

警察 「さあ。人を見たらすぐに襲ってくるような、獰猛なやつかもしれません」

警察 「厄介なことになる前に、こちらでケリをつけましょう」

警察 「ご安心を。そんなヘマはしませんよ」

警察 「私の役目は、彼女を在るべき場所に帰すこと」

警察 「わかっていますよ。はい、それでは」

通信を切断する
暗転

3.

宇宙船フロア内

シリウス 「逃げるって…それって、どういうこと?」
アル 「それは…その。」
シリウス 「…誰かから、逃げているの?」
アル 「(静かに頷く)…。ごめんなさい、私、まだ頭が混乱していて。」
シリウス 「ゆっくりでいいよ。話してみて。あ、そうだ。落ち着くまでこれを持っているといい」

チャッピーをアルに渡すシリウス

アル 「……これは?」
シリウス 「チャッピー。この船のもうひとりの乗組員。」
アル 「チャッピー」
シリウス 「チャッピーはこんな見た目でも、熱いハートと鋭い皮肉を胸に秘めている。しかも服を着ていない。…ワイルドだろ?」
アル 「……。」
シリウス 「ごめん、ここ、笑うところだよ」
アル 「(少し笑って)…ありがとう。少し、落ち着いてきたかも。」

間を置いて

アル 「私はね、ある組織から逃げてきたんだ。」
シリウス 「組織? この星の?」
アル 「そう。いつ追いつかれるかもわからない。私はスクラップだから、追いつかれたらどうなるか。もしかしたら…。」
シリウス 「…もしかしたら?」
アル 「ううん。…シリウスは旅人だよね? いろんな星を回っているんだよね?」
シリウス 「そうだよ。この船で旅をしている。旅はいいよ。はじめての世界で、次にどんなことが起こるんだろうって、常にドキドキできる。」
アル 「ドキドキ…。」
シリウス 「そう、今もドキドキの真っ最中だよ。なんせ船が予定外の充電切れを起こしている。」
アル 「……じゃぁ、しばらくはここに留まるってこと?」
シリウス 「あぁ、けど、そんなに不安に思うことはない。この船は最新式の惑星光エネルギー充電を備えている。昼も夜も関係なく充電ができる。きっと一週間もすれば、出発できるだろう」
アル 「…そう、少し待てば、出発できるんだ…。」
シリウス 「そのとおり。旅にはこんな不測の事態が付き物だ。大事なのは、こんなハプニングが起きたとき、どううまく乗り切るか。」
アル 「じゃぁ、今までも乗り切ってきたの?」
シリウス 「乗り切ってきたよ。ただ、一人旅は気楽なのはいいが、充電切れを起こした不幸も、美味しいものを食べた幸せも、分かちあう相手がいない。」
アル 「それって、心細くはない?」
シリウス 「そろそろ心細くなってきたね。すっかりチャッピーと会話するのが板についてしまったよ。」
アル 「……。」
シリウス 「ここも、笑っていいところだよ」
アル 「ねぇ、シリウス。」
シリウス 「なんだい」
アル 「改めて、聞きたいんだけど。無理なお願いなのはわかっているんだ。けれど、今はそうも言っていられない。私がこの星から逃げるのに協力してもらえないかな。…お願いします」

頭を下げるアル

シリウス 「……ロマンを追い求めるのに、スリルと仲間は必要不可欠」
アル 「え?」
シリウス 「いいね。ずっと探してたんだ。君みたいな子!」
アル 「私みたいな…?」
シリウス 「そう! 君はロマンを追い求めるのに必要なものを一気に持ってきてくれた。それだけで価値がある。断る理由なんてない」
アル 「ロマン?」
シリウス 「あぁ、だけどひとつだけ条件がある。これさえ守ってくれれば俺は君を歓迎しよう」
アル 「…なんでもする。協力してくれるなら。」
シリウス 「アル。君は今日から俺と旅をする仲間だ。仲間になってくれ」
アル 「仲間?」
シリウス 「そう。俺、ずっとほんものの仲間が欲しかったんだ!」

アルに向かって手を差し伸べるシリウス
ゆっくりとその手を掴むアル

暗転

4.

★箱を一列に並べる
★チャッピーはける
★工具箱を用意する

宇宙船のそと
工具を持ってなにかをしているシリウス
食べ物?がたくさん詰まったかごを持って通りかかるアル

アル 「何をしてるの?」
シリウス 「あぁ、これ? 船のメンテナンスだよ」
アル 「どこか壊れたの?」
シリウス 「ううん、特に問題はなさそう。」
アル 「よかった」
シリウス 「それ、持つよ。…(小声で)重っ。これ、なに。食べ物? とってきたの?」
アル 「うん」
シリウス 「えっ…。なんで一言言わないの。そんなにがんばらなくていいんだよ。見つかったらどうするんだ」
アル 「でも私、このくらいしないと、他にできることなんて、ないし…。」
シリウス 「いいんだよ、アルは。自分の身を一番に考えて。」
アル 「けど……。シリウスは、こうして働いているのに、乗せてもらっている私がなにもしないでなんていられないよ。」
シリウス 「気にすることないよ。なにを隠そう、俺は機械のメンテナンスをして動かすのが大好きなんだ」
アル 「またそうやって、私に気を使っているの」
シリウス 「とんでもない。本音も本音だよ。そこらじゃ有名だよ、シリウスは機械バカのロマンバカだって」
アル 「そんなに?」
シリウス 「そんなに。」
アル 「そうなんだ。シリウスは、やりたいことがあるんだね…」
シリウス 「アルは?」
アル 「え?」
シリウス 「アルは、どんなことがしてみたい?」
アル 「私は…」
シリウス 「なんでもいいよ。ちょっとしたことでもいい。なにか目的があったほうが、素敵な旅になるだろ」
アル 「私は……『楽園』に行ってみたい」
シリウス 「『楽園』?」
アル 「小さい時、まだお母さんと一緒にいた時…絵本で読んでもらったんだ。主人公は今の私と同じ…スクラップになってしまうけど…そうした欠陥のある人たちが幸せになれる場所があるの。それが、『楽園』」
シリウス 「楽園…」
アル 「絵本のなかのお話だよ。本当には、そんな場所はないかもしれないけど…私は、できるなら、そんな場所に行ってみたいな。」
シリウス 「だから、この星を出たいの?」
アル 「そうだね。逃げようって思ったときに、最初に頭をかすめたのがそれだったの。虚像かもしれないけれど、たった一つの私の希望…。」

シリウス 「ねぇ。アルは、本当の幸せって、なんだと思う?」
アル 「…『本当の幸せ』?」
シリウス 「そう。『本当の幸せ』」
アル 「…そんなこと、考えたこともなかった」
シリウス 「俺はね、いつも考えているよ」
アル 「『本当の幸せ』って…なにか、って?」
シリウス 「そう。俺、それが何だかわからないんだ。」
アル 「どうして?」
シリウス 「どうしてだろうね。今までなんとなく生きてきたからかな。」
アル 「なんとなく生きていると、幸せがなんだかわからなくなるの?」
シリウス 「そうかもね。俺は自分が凡人であることを知っていたから、尚更かな」
アル 「凡人?」
シリウス 「え?」
アル 「シリウスが?」
シリウス 「そうだよ?」
アル 「………そうなんだ…。」
シリウス 「俺はさ、凡人だけど人よりも少しだけ得意なこともあった。機械いじりだ。」
アル 「機械が好きなの?」
シリウス 「機械が好きなの。なんでも解体したし、なんでも組み立てたよ。ラジオに通信機、コンピューター、拳銃とか爆弾も、バイクに宇宙船なんかも部品一つ一つにばらしてやった。没頭していると時間も忘れるんだ。」
アル 「素敵だね」
シリウス 「ロマンだろ。けど、俺が機械の歯車をじっと見つめてテンション上がってる間にも、みんなはたくさんのことを成し遂げてキラキラ笑ってるんだ。みんなが多くを勉強している間、俺は機械とにらめっこしてた。自業自得なんだ。周りから置いてきぼりを食ったのは。気が付いたら、周りが眩しくて眩しくて仕方なかった」
アル 「だから、幸せじゃないの?」
シリウス 「機械に熱中することも幸せなのかもしれなかったけど、俺はそれで幸せになれなかったんだよ。だから…逃げ出した」
アル 「シリウスも逃げたの?」
シリウス 「アルと一緒だね。あぁ…けど、旅をしているのはそれだけが理由じゃない。」
アル 「そうなの?」
シリウス 「うん。俺、元居た星ではうまくやれなかったんだよね。バカだからすぐ人に騙されちゃって。」
アル 「え…」
シリウス 「機械が好きでさ。それをいじるのもロマン感じてさ。それで、人の役にも立てるなんてラッキーって舞い上がってたんだけど。調子に乗って色々首突っ込んでたら、疎まれて、それで居心地悪くなった。バカだよねー。」
アル 「それは…」
シリウス 「だから、ずっと一人で旅してたんだ。親父が昔メテオラインの話してたなーって思い出してさ。この狭い星に居場所がないなら、その『本当の幸せ』とやらを見つけに行こうかなって。なんだかんだ首突っ込んでたからツテで船も手に入ったし。改造して旅したら楽しいかなって。それでまぁ、いまに至るかんじかな。」
アル 「……。」
シリウス 「そうだ、アルは、メテオラインが何か、って言ってたね」
アル 「…! うん!」
シリウス 「メテオラインはね、元々は流れ星の描く軌跡のことを表す言葉だったんだけど、今は互いに影響しあう星と星の軌道を繋ぐ線のことを言うんだ。そして、そのメテオラインを辿った先には、『本当の幸せ』があると言われている」
アル 「……だから、シリウスは旅をしているの」
シリウス 「そう。俺はメテオラインを辿って、『本当の幸せ』が何かを知りたいんだ。」
アル 「『本当の幸せ』…。」
シリウス 「なんだか、アルの『楽園』と似ているよね」
アル 「うん!」
シリウス 「そうなんだ、だから、なんだか、俺はアルを放っておけないのかな。アルの言っている楽園っていうのも、俺が探している『本当の幸せ』も、実は行き着くところはおなじなのかな…。」
アル 「シリウス?」
シリウス 「いつか、それがわかる時が来るのかな」
アル 「くるよ、きっと。シリウスなら」
シリウス 「……ありがと。」
アル 「私は、シリウスは幸せな人なんだと思っていたよ」
シリウス 「へぇ、アルからみたら俺は幸せな人なのか。ねぇ、その幸せってどういう幸せなんだろう」
アル 「だって、シリウスは自分で目標を持って選んだ道を進んでいる。夢に向かって旅をしているから」
シリウス 「それを言うなら、いまのアルだって同じだよ。『楽園』を目指したいんでしょ。絵本だろうがなんだろうが、立派な夢だ。夢って、そういうものだろ」
アル 「…ほんとう?」
シリウス 「確かにそれも幸せだよね。夢を持って、それに向かって進むこと。」
アル 「私、幸せだった?」
シリウス 「そうかもしれない」
アル 「そっか、私、幸せなんだ…。えへへ、嬉しいなぁ」
シリウス 「…よかったね」
アル 「私、自分は幸せになれない人間なんだと思ってたよ」
シリウス 「どうして?」
アル 「役立たずだから」
シリウス 「……アル、さっきも自分のことをスクラップだって言っていたけど、それって…」
アル 「……」
シリウス 「ごめん! 言いたくなければ別にいいんだ。俺に、知られたくないことだってあるよね…」
アル 「ううん、こんなに優しくしてくれているのに、隠し事をするのは良くないよね。……シリウス、話すよ私のこと」
シリウス 「……。」
アル 「私はこの星の組織に作られた人間兵器なんだ」
シリウス 「人間兵器?」
アル 「うん。私のいた組織は、人の身体に種を埋め込んでサイボーグ化して、戦闘用の奴隷として、戦争をしている他の星に売り飛ばしてるところなんだ」
シリウス 「…じゃあ、アルも……」
アル 「うん、背中に翼があるの。だけど、私の翼は欠陥品だから飛べないの。ちゃんと翼が生えた人たちは自由に空を飛べるのに。みんなすごく気持ちよさそうに空を飛んでて羨ましいなぁって思うけど、昨日まで空を飛んでた人は今日になったら戦争に連れていかれて、もう戻ってこない。もし私も空を飛べたら、きっと、人を殺して…自分も殺されちゃうんだなって。だから諦めたよ。『私は幸せになんかなれない』」
シリウス 「だから、逃げ出した?」
アル 「(首を振る)…捨てられるってわかったら、急に怖くなっちゃった。気がついたら、飛び出していたよ。翼が小さくて良かった、簡単に隠すことができるって。……翼なんて、なければよかったのかもしれないのにね」
シリウス 「アル……」
アル 「黙っててごめんね。やっぱり私はシリウスと一緒には…」
シリウス 「何言ってるんだよ! すごいじゃないか、翼が生えてるなんて」
アル 「えっ?」
シリウス 「すごい、ロマンだよ。翼が生えた少女なんて。やっぱりメテオラインを辿ってきて正しかったんだ」
アル 「ロマンじゃないよ、ただの人殺しの人間兵器だよ」
シリウス 「戦争を目的に作られた翼かもしれないけど、アル、君自身は兵器なんかじゃないじゃないか。こうしてここにいることを選んだ以上、戦火に汚れてしまうことはないから。」
アル 「選んだなんて立派なことじゃないよ…逃げ出した、それだけ。何も誇れることはないよ。」
シリウス 「そんなことない。」
アル 「そんなことあるよ…。今だってシリウスに甘えてる。もしかしたら、あなたのことだって巻き込むかもしれないって、わかっているのに。卑怯で汚い人間の翼だよ。」
シリウス 「巻き込まれそうになったら…アルが連れ戻されそうになったら、俺が守るよ。」
アル 「え…」
シリウス 「アルが『楽園』を目指せるように。アルの翼が血に濡れないように。俺が守るよ。だから安心して。」
アル 「シリウス…」
シリウス 「…って、俺何言ってんだろ! つまり、何が言いたいのかって言うと…。悪の組織から逃げてきた少女がいたら、それを守るのがセオリーなんだ。だって、そのほうがロマンだろ!」
アル 「……へんなの。シリウスって、やっぱり変わってるよ。凡人なんかじゃないよ。」
シリウス 「心外だな」
アル 「これからは、凡人じゃなくて変人に改めるといいよ。」
シリウス 「すこぶる心外だ」
アル 「いいじゃない。その方が私は好きだよ」
シリウス 「(顔を背けて)……もう、食事にしよう。俺が支度するから、アルは休んでて」
アル 「ねぇシリウス」
シリウス 「なに?」
アル 「私、シリウスに出会えてよかった」

暗転
★シリウスは工具箱をもってはける 

5.


この星のどこか
どこかと通信をしている警察

警察 「目的を捕捉しました。容姿と首輪が一致します。間違いないでしょう」

警察 「えぇ、けれど…少し、面倒なことになっているようです」

警察 「わかっていますよ。穏便にことを済ますためには…少しの時間が必要です」

警察 「お任せください。今回も私のほうで、うまくやりますから。…はい。それでは。」

通信を切断する

警察 「…私は、期待されている。」

警察 「うまくやるためには…彼らを引き離す必要がある。人間兵器に、馴れ合いなんて必要ない。彼女たちに必要なのは、躊躇なく人間を殺せるような、冷静で冷酷なこころ」

警察 「彼女は、未発達であるがゆえに、そのこころを持つことができなかった。二つの意味で欠陥品。かわいそうな子。」

警察 「……かわいそう、なんて。そんな感想を持つなんて、私もまだまだ未熟な証拠かな。」

警察 「私は、期待されている。」

警察 「だから…冷酷にならないと。」


暗転

6.

★箱を八の字形に並べる
★テーブル用の箱を中央に置く
★中央の箱の上にかごを置く

宇宙船フロア内

シリウス 「どれもおいしそうだなぁ。見たことないものでいっぱいだ」
アル 「このあたりで自生しているものだから…果物ばっかりになっちゃったけど。お魚もあるよ」
シリウス 「魚は…あとで焼いてみようか。煮込んでみてもいいけど」
アル 「お料理するの?」
シリウス 「せっかく材料があるんだから、調理するのも悪くないね。」
アル 「それって、すごく楽しそう! 私、やってみたい!」
シリウス 「…そんなに食いついてくれるなんて思わなかった。興味あるんだね」
アル 「あるよ! 一緒にお料理しようね。私、やったことないんだ。だからとっても楽しみ」
シリウス 「仲間が居れば、楽しさも二倍ってやつだね」
アル 「なに、それ?」
シリウス 「俺のいた星ではね、楽しいことや嬉しいことは、仲間が居ると倍になって、悲しいことや辛いことは、逆に半分になるってよく言うんだ」
アル 「そうなんだ! それって、とっても素敵だね。仲間ってすごいんだね!」
シリウス 「そうさ、仲間はすごいんだ。俺、仲間ができたらやりたいこと、いっぱいあったんだよ。」
アル 「やりたいこと?」
シリウス 「そう。一緒に旅をしたい。一緒においしいものを食べたい。一緒に綺麗な景色が見たい。一緒に、遥か彼方まで続くメテオラインを辿りたい。…ロマンだろ。」
アル 「(笑う)シリウスは、ほんとうにロマンが好きだね。」
シリウス 「ロマンだ!って思うと、こころがわっと沸き上がってくるんだよ。アルにはそういうとき、ない?」
アル 「うーん…。少しだけなら、わかるかも。私も、『楽園』のことを考えると、そんなふうになるから。」
シリウス 「でしょ!? さすがアル、俺のロマンをわかってくれるなんて。アルが仲間になってくれてよかったよ。」
アル 「そんな、大げさだよ」
シリウス 「大げさなんかじゃないさ。こうしてなにかを食べるだけでも、ひとりじゃないって実感するんだ。」
アル 「どうして?」
シリウス 「おいしいものを食べるときは、仲間と一緒に食べたほうがひとりで食べるよりもずっとおいしく感じるんだ。」
アル 「一緒の方が、ひとりよりも…ずっと?」
シリウス 「そう。それって、アルのおかげだよ。」
アル 「…それを言うなら、私もそうだよ」
シリウス 「え?」
アル 「私も、もうひとりじゃないんだって思える」
シリウス 「アル…」
アル 「シリウスのおかげだよ。シリウスにはもう頭があがんないね。」
シリウス 「そんな、俺だってアルには頭が上がらない…ってそんなこと言ってたら、俺たち、お互いに地面に頭をこすりつけながら歩かなきゃいけなくなっちゃうね。」

短い間

アル 「…(笑う)へんなの。想像したら、おかしくなっちゃった。」
シリウス 「(笑う)俺たち、ふたりしてヘコヘコするなんておかしいよね。」

暗転

★テーブル用の箱をはける
★残りの箱を一列に並べる
★かごはアルが持っていく

場面変わり、宇宙船の外
果物を集めているアル、それに近づく警察

警察 「こんばんは」
アル 「……!」

硬直するアル

警察 「あぁ、そんなに怖がることはありませんよ。なにも取って食おうってわけじゃない」
アル 「…私を、連れ戻しに来たんでしょう」
警察 「こっちもコトを荒立てたくない。大人しく私の言うことを聞いてくれれば、あなたにも、…彼にも。手出しはしないと約束します」
アル 「…! 彼は、なにも関係ない。」
警察 「えぇ、あなたはそう言うでしょうね。けれど、警察はどう思うでしょう。組織は、どう思うでしょう。人間兵器を匿ったとなれば、罪に問われる可能性があります」
アル 「……けど、私、決めたんだ。シリウスと一緒に、この星を出るんだって。星々をめぐる旅をするんだって。」
警察 「それも砂上の楼閣だったというわけです。少しの間、いい夢が見られてよかったですね。」
アル 「夢…」
警察 「そう、それはただの夢。その証拠に、あなたはこれから現実を知ることになる」
アル 「嫌だ…やっと、落ち着ける場所を見つけたんだよ。これからも、きっと、ずっとずっと楽しいことが待ってるんだよ。私は、それを手放すなんて嫌だ…。」
警察 「もう、手放す時が来たんですよ。あなたの境遇で、そんな幻想を抱く時点で間違っていたんです。」
アル 「どうして…? やっと、変われるんだよ、私。ずっと今の私じゃない、別のなにかになりたいと思って、ここまで来て。あと少しなんだよ。あと少しで、変われる気がするのに。それが、間違っていたって言うの? 私が、人間兵器だから?」
警察 「そうですよ。あなたは常に周りの人間を危険に晒している。そのことに、もっと早く気づくべきだった」
アル 「危険?」
警察 「そう。けれど、今から私の言うことに従えば、そんな危険もなくなりますよ。」
アル 「どういうこと?」
警察 「取引をしようってわけです」
アル 「そんなの…」
警察 「彼があなたのせいで死んでもいいの?」
アル 「……。」
警察 「聞き分けのいい子は好きですよ。じゃぁ、しっかり聞いてくださいね。」
アル 「………。」

なにかを口パクで話す警察
それに頷くアル
警察が去って、アルにスポット

アル 「ごめんなさい、シリウス…。」

暗転

7.

★工具箱を用意する

宇宙船の外
シリウスが鼻歌を歌いながら船のメンテナンスをしている
アルがそれを不思議そうに眺めている

シリウス 「こういうのは、何度やってもやりすぎということはないんだ、アル。安全に万全を期してね…」
アル 「シリウスが楽しいなら、私はそれでいいと思う」
シリウス 「え、ち、違うよ。自分の楽しみのためにやってるんじゃなく…ほら、いつ出発してもいいようにさ…」
アル 「(笑う)わかってるって。大丈夫だよ。」
シリウス 「……ほんとかな。」
アル 「うん。…私はそろそろ休もうかな。シリウスも、夢中になって夜ふかししたらダメだよ?」
シリウス 「約束はできないなぁ。なにせ夜行性だから」
アル 「…そう言って、朝も早起きだよね? いつ寝てるの?」
シリウス 「アルがお寝坊さんなだけだよ。俺はちゃんと遅寝遅起きだ。」
アル 「そうかなぁ…。」
シリウス 「それに、アルが来てから毎日楽しくて仕方ないんだ。眠ってばかりいたら時間がもったいないだろ。」
アル 「そう。…じゃぁ、私もあしたは早起きしてみようかな?」
シリウス 「お、いいね。じゃぁ明日は朝から約束の料理をしようよ。」
アル 「…そうだったね。なにをつくろうか。」
シリウス 「豪華な朝食としようか。ジャムを作って、倉庫からパンを引っ張り出してきて…コンポートにサラダ、スープを作って、魚はムニエルにしようかな」
アル 「…そんなにたくさん作れるかな?」
シリウス 「出来上がる頃にはお昼になっちゃうね。これじゃ朝食にならないや。もっと厳選することにするよ。」
アル 「うん。」
シリウス 「アルも、ちゃんと何を作りたいか考えておいてね?」
アル 「うん、任せて。それじゃぁ、おやすみなさい。」
シリウス 「おやすみ。」

アルが去る
一人取り残されるシリウス
時計の針の音
しばらく作業をしているシリウス
やがて、手を止めて

シリウス 「……うん。特に問題は見当たらない。この調子なら、あしたの夜には出発できるかも。」

シリウス 「そしたら、明日はパーティーだな。おいしいものをたくさん食べて、出発の準備をして…きっと楽しいだろうな。」

シリウス 「な、チャッピー。」

シリウス 「はやく明日がくるといいな。きっと、アルも喜んでくれる」

時計の音が大きくなる
暗転 

8.

★工具箱をはける
★便宜上、この暗転中に箱を八の字形に直す

宇宙船の外
雨の音
フードを目深にかぶり、一人佇んでいるアル

アル 「私は幸せになんかなれない……か。」

とぼとぼと歩いて消えていく
暗転

宇宙船フロア内
★中央にチャッピー
シリウスが入ってくる

シリウス 「アル! アル!」

シリウス 「くそっ…どこ行ったんだよ…!」

チャッピーに駆け寄る

シリウス 「チャッピー。起きたら、アルがいないんだ。部屋も、アルのものはぜんぶなくなって、綺麗になってた。連れ戻されたんじゃなくて、きっと、自分からいなくなったんだと思う。」

シリウス 「どこに行ったか、知っていたら、教えてよ、チャッピー…。」

チャッピーを抱えて座り込むシリウス

シリウス 「もう、仲間なんだ。仲間になったんだ。チャッピー。きみも大切な仲間だけど、アルはそれ以上だ。もう、アルがいなくなるなんて考えられないんだ…。」

シリウス 「けど、アルはそうじゃなかったのかな…。ほんとうは、アルは、俺に愛想つかしちゃったから出て行ったのかな。」

シリウス 「(首を振って)…仲間なら、ちゃんと確かめないと。(立ち上がり)そうだよ、こんなことしている場合じゃない。はやくアルを探しに行かないと!」

駆け出すシリウス
暗転

★箱を一列に並べる
★チャッピーはける

宇宙船の外
一人佇んでいるアル

アル 「ほんとうに、これで良かったのかな。」

アル 「……。シリウスに、嘘ついちゃった。いっしょに、朝ごはん作ろうって言ったのに。」

アル 「せめて、最後に、二人で作った朝ごはんだけでも一緒に食べたかったな。」

アル 「…ダメ。急がないと、間に合わなくなっちゃう…」

去ろうとするアル
反対側の袖からシリウスの声

シリウス 「アル!」
アル 「シリウス…?」
シリウス 「よかった、まだ近くにいてくれて。探したよ」
アル 「どうして?」
シリウス 「え?」
アル 「どうして、探しにきたの?」
シリウス 「そんなの、仲間だからに決まってるだろ。」
アル 「仲間なんかじゃないよ。」
シリウス 「アル?」
アル 「私は…シリウスの仲間になる資格なんて、最初からなかった」
シリウス 「なにいってるんだよ、アル。」
アル 「最初から…私なんかが…誰かと仲間になんかなれるはずなかった。旅なんてできるはずなかった。ごめんね、もっと早く気づいていれば、シリウスのこと、傷つけずに済んだのに。」
シリウス 「アル…。」

シリウス、アルに近寄ろうとして

アル 「ダメ! …来ちゃ、ダメ。」
シリウス 「どうして?」
アル 「私、私は…人間兵器だから。あなたを傷つけてしまうんだよ。」
シリウス 「そんなのどうだっていい。関係ない。ねぇ、アルは俺と一緒にいるの、嫌だった? 俺はね、すごく楽しいよ。ほんとうに。」
アル 「嫌なわけない! 嫌なわけないよ。私だって、すごく、楽しくて、こんな日がずっと続けばいいって思ってた」
シリウス 「だったら…!」
アル 「…けど、ダメなんだよ。」
シリウス 「なにが?」
アル 「私がシリウスのそばに居ると、私の事情にシリウスを巻き込んでしまうんだよ。」
シリウス 「そんなの、俺がなんとかするよ」
アル 「それじゃダメなの」
シリウス 「……。」
アル 「それじゃダメなんだよ……。」
シリウス 「アル…。」
アル 「私に関わった以上、シリウスの命も狙われるかもしれない。お願いだから、早く逃げて」
シリウス 「アルを置いては行けないよ」
アル 「シリウス」
シリウス 「狭い世界に閉じ込められて、絶望して、逃げ出してもっと広い世界に飛び立ちたいって…願ったのは、アルだけじゃない。…俺だって、そうだった。自分の星に留まってうじうじ腐っているのが嫌だったから、外に出たかったから、だから、俺は旅をしてるんだ。俺は、アルも俺と…同じだと思ったから、どうしてもここから連れ出したいと思ったんだよ。」
アル 「やめてよ…。シリウスがそうやって、いつも優しくしてくれるから。だから、私は、普通の女の子みたいに生きていいんだって…そんな気がしてしまう。そんなの、許されないのに。」
シリウス 「いいんだよ。だって、アルは普通の女の子だもの。」
アル 「違う…。私、わたしは…」
シリウス 「アルは、普通の女の子でしょ。俺の仲間でしょ。だったら、何か困っていることがあるなら、俺に言ってよ。一人で抱え込まないでよ。そんなに自分を傷つける必要なんかない。楽しいことも、辛いことも、分かち合おうって言っただろ。」
アル 「そんな…そんなこと」
シリウス 「きみを苦しめるばっかりのそんな重い荷物なんて、抱え込む必要ないよ。俺にも半分持たせてよ。そしたら、案外軽かったねって、二人で笑えるかも知れないだろ」
アル 「それで、いいのかな…ほんとうに…。私、そんな資格なんて…」
シリウス 「仲間になるのに、資格なんていらないよ。話してみてよ、アル。」
アル 「……うん。」

アル 「昨日、私、警察に会ったんだ。組織に依頼されて、私を連れ戻しに来た警察に」
シリウス 「警察…?」
アル 「そう。その人は、私がシリウスと一緒に居るのを知ってて、それで、お別れする時間をあげるって…。」
シリウス 「…やけに悠長だな。その場で連れ去ったりしないなんて」
アル 「穏便に済ませたいから、取引をしようって言った。私の首輪には、爆弾が仕込まれているから、いつでも爆発させることができるって言って、だから私、逆らえなかった…。」
シリウス 「爆弾…! だから、そんなに俺を巻き込むことを気にしてたの」
アル 「(頷く)シリウスと上手にお別れして、今日、約束した時間にちゃんと戻ってきたら、シリウスのことを見逃してくれるって言ったの。でも、私、シリウスにちゃんとお別れ言えなかった。約束、破っちゃった。ごめんなさい…。」
シリウス 「そんなの、アルは悪くないよ。謝る必要なんてない。それより、その約束の時間って、あとどのくらい?」
アル 「まだだよ。まだ、少し、余裕はあるけど。…でも、急がないと。」
シリウス 「まだ諦めるのは早いよ、アル。そんなやつの言うことなんて聞く必要ない。」
アル 「でも、首輪が…!」
シリウス 「そんなふうにアルを縛り付けるだけの首輪なんて、解体しちゃえばいいんだよ。」
アル 「そ、そんなこと、できるの?」
シリウス 「俺を誰だと思ってるの。機械バカでロマンバカのシリウスだよ? 爆弾の解体くらい、任せてよ」
アル 「…わかった、任せる。お願いします、シリウス」
シリウス 「うん! 爆弾解体なんて」
アル 「ロマン!」
シリウス 「だろ」

暗転

9.

警察 「そろそろ、約束の時間か…」

警察 「…化け物退治と言えば、聞こえはいいのだけど」

警察 「人間兵器アルデバラン。幸運の星とは、全く、大そうな名前だ。」

警察 「…私はいつまでこんなことを続けなければいけないんだろう。まるで組織の尻拭いだ。」

警察 「いつも、思っていた。異形な身体をしていてもみんな人の心をもっていた。組織そのものを叩いてしまえばこんなこと初めから必要ないのに……」

警察 「嫌な世の中だ。政府もこの星の維持に、組織に依存しすぎた。当分はこのままだろう。胸糞悪い事情に目をつぶれば、犠牲の引き換えに市民は安定した幸せな生活を送れている」

警察 「私は…私の、この手は、なんのために…」

警察 「いや、…私は、使命に従うだけだ。」

警察 「全宇宙の平和のために…。」

暗転

10.

★箱を八の字形に並べる
★工具箱を用意する

宇宙船フロア内

シリウス 「とれた!」

シリウス、アルのチョーカーを取り外す

アル 「すごい、ほんとうに外れた!」
シリウス 「さすがに緊張したよ……」
アル 「シリウス、ありがとう!」

アル、シリウスに抱き着く

シリウス 「わっ、まってまだ爆弾手に持ってるんだって!」
アル 「あっ…そうだったね」
シリウス 「さ、はやく準備しよう、アル」
アル 「準備?」
シリウス 「もう船の充電が終わってるんだ。今すぐこの星を出よう」
アル 「わかった!」
シリウス 「よしっ、急ごう!」

警察登場

警察 「上手にお別れできましたか?」
シリウス 「えっ…」
警察 「なんて、聞くまでもなかったですね。」
アル 「警察…!」
シリウス 「なんだって!」

シリウス、アルを背中に隠す

警察 「今更隠したって無駄ですよ。彼女とは昨日お話し合いをしましたから」
アル 「嘘だよ…あんなの、話し合いなんかじゃなかった…。」
警察 「かわいそうな身の上だから、せっかくきれいにお別れする時間をあげたのに。期待に応えてもらえなくて残念です」
アル 「……。」
シリウス 「アルの首輪はもうありません。あなたがアルを脅す材料はなくなりました。もう彼女を開放してあげてください」
アル 「シリウス…」
警察 「脅すだなんて人聞きの悪い。どうやって外したのかわからないけど、その子はこちらで保護するから、大人しく渡してくれませんか?」
シリウス 「嫌です。俺は、アルと一緒に旅をするって、もう決めたんです。」
警察 「そうしないと…」

警察、銃を取り出してシリウスに向ける

警察 「貴方を撃たなきゃいけなくなる。」
アル 「…ダメ! 下がって、シリウス」
シリウス 「(無視して)それでも、アルを渡すわけにはいかない」
警察 「貴方は、アルデバランがどれだけ危険な存在なのか、わかっていないんですか?」
シリウス 「知ってますよ。人間兵器、アルデバラン。アルは背中に翼が生えてるだけで、それ以外は普通の女の子。」
警察 「わかってないね。アルデバランは人殺しの道具です。こちらに渡さずにどうするつもりなの? ケースに入れてコレクションの棚にでも飾る? 見世物小屋にでも売れば高く売れるとでも思っているの?」
シリウス 「アルは道具なんかじゃない。俺と一緒にメテオラインを辿る旅をする仲間だ」
アル 「シリウス…。」
警察 「メテオライン? 辿っていけば幸せになれるって昔流行ったアレのこと? それで、アルデバランがその生い立ち、境遇の果てで幸せになれるとでも思っているんですか?」
アル 「……。」
シリウス 「なれるさ。俺たちはそれを一緒に見つけたいから旅をするんだ。幸せになりたいと願って、それに向かって進んでいけば、きっと俺たちの望む幸せが見つかる。俺はそれを信じてる!」
警察 「確信犯めいた考え。君は危険だね。話し合いの余地はない、か…。」
シリウス 「!」
警察 「ごめんね。」

銃声とともに暗転

11.

照明がつくと、シリウスの目の前にアルが立ちはだかっている
崩れ落ちるアル

シリウス 「アル!?」
警察 「アルデバランの翼が人を守った……」
シリウス 「アル! アル!!」
アル 「うぅ…」
シリウス 「しっかりしろ!!」
アル 「だ、大丈夫…」
シリウス 「大丈夫じゃないだろ! どうして…」
アル 「誰かを守るのがロマンだって言ったのは…シリウスでしょ。私も、そうしてみたかっただけだよ」
シリウス 「そんなの…俺が、俺がアルを守るって言ったのに!」
アル 「だ、大丈夫だよ……。翼に当たっただけだから」

警察、銃を構えなおす

警察 「次は仕留めるよ」
アル 「やめて…!」
シリウス 「アル、大丈夫だから。…これを見ろ。」

シリウスチョーカーを取り出す

警察 「それは……」
シリウス 「これが何か分かるよな。首から外しはしたけれど、爆薬はまだ中に残ってる。これを床に叩きつければどうなるか…。それが嫌なら、この船から出て行ってくれ。」
警察 「物騒だね。やってみればいいじゃない」
シリウス 「えっ……」
警察 「どうやって解体したか知らないけど、それを外すには信管を抜くほかない。床に叩きつけたぐらいじゃ爆発なんてしませんよ」
シリウス 「そんな……」
警察 「ハッタリに騙されなくて、残念だったね。…貴方を確保します」
アル 「待って、狙いは私だけでしょ、彼に罪はない」
シリウス 「アル!?」
アル 「あなたたちのところにいきます。だから彼を見逃してください」
警察 「…いいでしょう」
シリウス 「だめだ!アル!」
警察 「手を上にあげてこちらに来なさい」
アル 「はい」
シリウス 「アル!」
警察 「動くな!」

シリウス 「…あなたは…」
警察 「?」
シリウス 「あなたはなぜ、こんなことをしているんですか。」
警察 「アルデバランは人間兵器。市民を守るためには、逃げ出した人間兵器を捕まえておく必要がある。そのくらい、少し考えればわかるでしょ。」
シリウス 「何が市民を守るだ。逃げ出した一人をしつこく追いかけて、本当にその気があるなら大元の組織をなんとかするのがあなたたちの役割じゃないのか!」
警察 「君には、難しいかもしれないけど…。この星の経済は、この事業で回っている。大人の事情ってやつだよ。アルデバランという犠牲の引き換えに、市民たちは幸せを得られる。だったら、それを守るのが私たち、警察の役目でしょ。」
シリウス 「そんなの、間違ってる…。そんなの、本当の幸せなんかじゃない!」

シリウス立ち向かおうとするが、額に銃を向けられ止まる

警察 「次は頭を狙いましょうか?」
アル 「シリウス、もういいよ!」
シリウス 「けど…!」
アル 「私、これでいいの。少しの間だけど、一緒にいられて楽しかった。私、私のせいでシリウスが傷つく姿は見たくないよ。だからもう、いいんだ。ね? やめようよ、シリウス」
警察 「彼女もああ言っていますよ。あなたの何がそうまでさせるんですか。命を捨てようとしてまで守ろうとしているものは、一体何でしょう?」
シリウス 「約束したんだ、本当の幸せをふたりで見つけるって」
警察 「その結果がこれですか。こんな疫病神なんかに深入りしなければ、もう少しまともな人生が送れたかもしれないのに」
シリウス 「違う! アルは俺の仲間だ。仲間を犠牲にして手に入れた幸せなんて、俺が求めた幸せじゃない!」
警察 「たとえここを切り抜けたとしても、アルデバランはどこへいっても殺戮兵器か異形の化け物扱いですよ。死ぬよりももっとつらい目に遭う。それでも幸せになれると思うんですか?」
シリウス 「なれるさ! ふたりでいればどんなにつらい目に遭ったとしても、心があきらめない限り不幸なんて存在しない!」
アル 「シリウス……」
警察 「…それが、あなたの幸せですか。」
シリウス 「そうだ、俺は…アルと一緒に、旅がしたいんだ…。これから辛い思いをするくらいなら、いま終わらせたほうがましだって…俺にはそうは思えない。だって、知ってしまったんだ、アルのこと。彼女が欠けた状態で、俺は幸せを目指せるなんて思えないんだ。」

警察、銃を下ろす

警察 「はぁ、そうですか……あぁ、よく見たら大きな勘違いをしていましたね」
シリウス 「えっ?」
警察 「捕まえなきゃならないやつは、首輪をしてると書いてありましたが…。よくよく見てみれば、顔は似ていますが肝心の首輪をしていませんねぇ。他人の空似ってヤツでしょうか。」
アル 「…どういうこと?」
警察 「しかも勢い余って罪のない一般人まで撃ってしまいました。これはばれたら大事になってしまうかもしれませんねぇ。」
シリウス 「もしかして…見逃してくれるのか……?」
警察 「……示して下さい。アルデバランなんて人間兵器に生まれた身でも、彼女次第で人並みの幸せが得られるかどうか」
シリウス 「ああ、必ず」
アル 「シリウス!」

アル、シリウスに駆け寄る。警察はける。

暗転

12.

★工具箱はける
★箱を八の字形に並べる
★中央にチャッピー

宇宙船フロア内

シリウス 「チャージよし。備蓄よし。チャッピーよし。これで粗方問題ない…かな」
アル 「あとは、エンジンを入れるだけ?」
シリウス 「そうだね。やっと出発できる」
アル 「うん!」
シリウス 「この星から出られるね」
アル 「……うん。」
シリウス 「名残惜しくはない? ほら、一応…アルの生まれ育った星だしさ。」
アル 「…全然。むしろ、不思議なほど清々しいかも。」
シリウス 「清々しい?」
アル 「うん。私、アルデバランの翼がなくなって、とってもすっきりした気持ちなんだ。背中がとっても軽くて…翼がないのに、どこまでも飛んでいけそうな気がする。」
シリウス 「それは…もうアルが、縛られていないってことだね」
アル 「縛られる?」
シリウス 「なんだろ…説明が難しいけど、君が君自身であることを構築していたものに、アルが縛られなくなったから…」
アル 「私を私にしていたものは…翼は…、もう、ないから?」
シリウス 「そういうことになるかな?」
アル 「けど、私、翼がなくなっても、なんだか新しい翼が生えたみたいなんだ。どこまでもいける、そんな翼が。」
シリウス 「どこまでもいける、翼?」
アル 「それは目に見えなくて…けど、きっと、私にも、シリウスにも、誰にでも生えているもので…。背中に生えているから、自分の目には見えないから、気が付くことができないけど。ほんとうはみんな、自分で思っているよりも、遠くへ飛んでいけるのかもって、思うんだ。」
シリウス 「……自分で思っているよりも、ずっと、遠くへ…?」
アル 「そう!」
シリウス 「そっか…それが、アルの幸せ?」
アル 「そうなのかも! 私、いますっごく幸せ!」
シリウス 「俺も…」
アル 「うん?」
シリウス 「俺も、幸せかも」
アル 「それは…『本当の幸せ』?」
シリウス 「わからない。けど、うまく言えないけど…アルに会えて、やっぱりメテオラインを辿ってきてよかったって思うんだ。」
アル 「私、もう、翼ないよ?」
シリウス 「そういうことじゃないよ。」
アル 「…じゃぁ、どういうこと?」
シリウス 「……それは秘密。ほら、アル。座って。」
アル 「うん!」

シリウス 「じゃぁ…発進するね。」

船が進み出す音
やがて暗転する



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