銀杏(ぎんなん)

 秋になった。いつものように、昼、コンビニに弁当を買いに行くのだが、この時期、ちょっとした問題が発生する。会社からほんの数百メートルの距離なのだが、通りのイチョウ並木が大量の銀杏を投下するので、歩道がそれで埋め尽くされるのだ。臭いのは承知しているが、踏まずに通行することはまず不可能だ。

 始めて銀杏の臭さが身に染みたのは高校時代のことだ。今はもう廃校になってしまった母校のグランドには大きなイチョウの木があった。もう少し端に寄せて植えればいいものをトラックの脇にあったものだから、秋には走路に大量の実を落とした。いや、あれだけの大木だからイチョウは元々そこにあったのだろう。あとからイチョウを避けるようにトラックを作ったというのが実態に違いない。いずれにしろ、運動部がそこをランニングすると実が踏みつけられて銀杏のあの匂いがあたり一面に立ちのぼった。私は美術部に所属していたのだが、美術室は丁度そのイチョウの傍に位置しており、風にのって匂いが美術室を直撃した。来る日も来る日も、何度も何度も、周回する度に延々と踏みつけられる銀杏は、その匂いで運動部に抗議しているのかと思えた。しかし、とばっちりを食う美術部はいい迷惑だった。

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