部室①
「やっべぇ…おいマー、アイリに言って部室の鍵借りて来てくんねぇか」
耕太が制服のポケットをあちこちまさぐりながら愛薫に背を向けたまま言った。
愛薫の1コ上で3年生の耕太は男子テニス部の部長だが、後輩に指導するどころか練習にも滅多に顔を出さない。
それでも部長として部室の鍵を顧問から預かってい
たのだが、しょっちゅう家に忘れてくる。
「え〜またっすかぁ…なんか俺が怒られてる感じになるからヤなんすよねぇ」
愛薫が口を尖らせると
「ばぁか マーだからでぇじょぶなんだって。 ほれ、ダッシュダッシュ!」
振り向いた耕太が半笑いで愛薫の肩に手を掛け、強制的にまわれ右をさせてから背中を押した。
三年生の教室がある3階まで階段を昇ると廊下に愛凛の姿が見えた。
1年生から男女テニス部のマネージャーをしている佐藤愛凛。
美人の部類に入る顔つきだが髪はところどころ茶色くスカート丈も校則違反、切れ長の目と大きめな口から発せられる低音のハスキーボイスと相まって元宝塚の男役女優のようだ。
実際その風貌からか、後輩女子からは「りぃ先輩」と呼ばれて人気があった。
「佐藤先輩、コータ先輩が部室の鍵貸してくれって…」
腕組みをして同じテニス部の麗奈と話をしていた愛凛は
「はぁ?また? っていうかなんでアンタをパシらせてんの?」
腕組みしたまま愛薫を睨みつけるようにして言い放つ愛凛に
「すんません…」
俯きながら小声で謝る愛薫だが、俯いた視線は愛凛の上履きに釘付けだった。
1度も洗ったことがないんじゃないかというほど黒ずんだ上履き…。
両方のつま先に黒マジックで書かれた ♡AIRI♡ の文字も読み難い程だ。しかも愛凛はいつも踵を潰して履いている。
愛薫が何度か嗅いだ事のある上履き…。
潰れた踵の横をつまんで靴箱から出す瞬間のトキメキ、そっと鼻を入れて嗅いだ時のムヮァッと蒸れた足独特の匂い、愛凛の足から滲み出た脂で黒光りしている足指の跡…トイレに持ち込んで射精したくなる衝動を何度となく抑えた事を思い出して股間がムクムクと起き上がりそうになる。
「アンタが謝るこっちゃないけどさー 自分で来なよってコータにいっときな」
そう言って愛凛が教室へ向かう時も愛凛の足元から目が離せない。歩くたびに踵が上履きから離れ、薄黒く汚れた白いソックスの足裏がチラチラ見えるからだ。
『あの隙間に鼻を突っ込んで深呼吸したい…いや一度でいいからあの靴下を脱がせて嗅ぎ、次に愛凛の足、特に足指のつけ根に鼻をつけて嗅ぎたい…』
「フフ…でもあれじゃぁアイくんに怒ってるみたいじゃんねぇ」
麗奈が愛凛の後姿を見ながら呟く。
小柄でショートカット、大きな瞳がクルクルとよく動き小動物のような可愛さがある麗奈は愛凛とは真逆のタイプだ。
「う…ん、まぁ」
我に返った愛薫は曖昧な返事をしながら麗奈の上履きに目をやる。この上履きも嗅いだ事がある…
愛凛のよりは元々の白さを保っている。途中で買い替えたか洗ったのかも知れない。
『匂いと足指の跡の濃さはかなりのもんだよな…朝練してるからな』
「ほい鍵」
愛凛が戻ってきて【部室】と書かれた小さな巾着袋を差し出す。
開けると丸いキーホルダーに鍵が3本ついている。
愛薫が〔男〕と書かれた鍵だけを外そうとすると
「バッカ、 用具室のもいるだろって言われたら面倒くさいじゃん。1本だとあんたら失くしそうだし袋ごと持ってきなよ。いつもそうしてるから」
「あ、そうなんすか。わかりました。 じゃ、どもっ」
愛薫は巾着袋をズボンのポケットにねじ込み、足早に歩きだした。
「あー 田中ぁ!あたしレナともう帰っから!明日返せってコータに言っといて!朝練ないからって!じゃあね!」
愛凛の声に
「うっす!」
とだけ返して階段を降りながら
『これは…すごいチャンスなんじゃないか…?』
愛薫の頭がフル回転を始めた…。
つづく…
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