流れ雛

このまえ小学生の時の同級生と久しぶりに会って、それで思い出したことがあったから適当に書いていく。
身バレ怖いのでちょこちょこフェイクとか挟んでるけど、良ければ聞いてってください。

小学生の時、クラスに一人いじめられっ子がいた。
病気なのかなんなのかわかんないけど眼球の白目の部分が真っ黒で、それでクラスの気の強いやつらにいじられてた。
○○菌がうつるぞー!みたいなやつあるじゃん、あれをもっと過激にしたのが毎日ある感じね。
でもさすがに外見のことだし、わりとみんなわきまえてたっていうのかな。ごく一部のやつが騒いで、他のやつらは結構普通に接してた。俺もその普通に接してたやつの一人。

んで、そのいじめられっ子をRとするね。Rの家って結構デカいんだよ。古くて大きい。
地方の田舎だし、まだ村だった時はかなり偉かったんじゃないかな。そんな感じ。
それでRの家の近くに住んでたやつがそれをいじめっ子に教えたらしくて。いじめっ子も興味持っちゃったわけ。
小学校からはそこそこ遠い場所にある家だから、休みの日に取り巻きたちも連れてRの家に押しかけよう!ってなった。
俺もまぁ、気になっちゃって。そいつらについていくことにした。

そこそこ遠いって書いたけど、実際かなり遠かった気がする。
片道4kmくらいなんだけど、バスがもう廃線になってたからチャリで行くしか無いのよ。しかもRの家のある集落って、まぁまぁ山の中だからずっと登り道なのね。
だからもうみんなヒィヒィ言いながらチャリ漕いで行った。
道案内しないといけないからRもいたんだけど、いつも本読んでるようなやつだから体力とか全然無いみたいで。分かれ道とかあるたびに先頭のいじめっ子……主犯格のKが後方に怒鳴ってさ、Rはもう疲れ切ってるからヘロヘロの声で答えるわけ。そんなやりとりがすげーあったの覚えてる。

で、当時小学生だったし、そんだけ移動するならやっぱり親に話しておくべきじゃん?そこら辺ってクマとか出る場所だったし。
だから俺、母さんにちゃんと連絡しといたのよ。友達んち行ってくるーって。
そしたらまぁ、「どこの友達?」って聞かれて。「○○(Rの家がある集落の名前)」って答えてもあんまりピンと来てないみたいだった。
うちの母さんは県外から嫁いできたから、ここらへんの地理とかあんまり詳しくなかったらしい。
父さんとかに言えば何かしら知ってたのかなーって今は思うけど、でも多分止められてただろうな。結果的に言えば、そのくらいのことが起きたと思う。

話戻すね。
Rも含めて4、5人くらいの人数でチャリ漕いでって、ようやくその集落についた。
山のあたりにあるせいか田んぼよりも畑のほうが多くて、道の脇にぽつぽつある家はもう人が住んでるのかわからないくらいボロボロになってて。だから古くてデカいRの家はすごく目立ってた。
黒い板で出来た小さい塀付きの塀がぐるっと敷地を囲んでて、木造のRの家の屋根と、土蔵って言うの?白い壁の蔵が見えた。
もうKはテンションぶち上がり。お宝さがししようぜ!!って。
まぁ、でも喜んでるのはKくらいで、R以外の残りのやつら(俺も含む)はなんかもうタジタジって感じだったよ。
そんな家に住んでるやつをいじめてたって知ったら、そらそうもなるよな。Kはそもそもいじめてるって自覚がなかったのかも。

で、RはRでもう諦めてるって感じ。聞いた話だと、休みの日でもRの家の人たちは夜遅くにならないと帰ってこないらしい。
家の中にはもう寝たきりのおばあさんと、その介護の人がいるくらい。二人ともめったに外には出てこないってことで、じゃあもう蔵にお邪魔しようぜってなった。
デカい家なだけあって、蔵には頑丈そうな鍵がかかってた。蔵の鍵は家の人が管理してるみたいなんだけど、Rは何回か勝手に借りて中に入ってるって言ってたからその時も持ってきて貰った。
蔵なんか入って何か楽しいことでもあんの?って聞いたら「あるよ」って。だから、Rの家のデカさにビビってた俺たちもちょっと元気になった。っていうか、まぁワクワクするよな。昔のおもちゃとかがあるのかもって思ったし。

そんで、期待して蔵の鍵を開けてもらったんだけど。埃っぽいくらいで、楽しげなものは何もなかったわけ。
古くて高そうな木の黒いタンスとか、もう使って無さそうな仏壇みたいなやつとかが置いてあるくらい。
こっちが勝手に期待しといてアレなんだけど、俺らみんなガッカリしちゃってさ。
埃まみれのものとか触るの嫌だし、Kが懐中電灯持って奥まで行ってる間にずっと入り口のあたりで待ってたの。

まぁ、あんだけ頑張ってここまで来たのに何もなかったんじゃそうもなるわって感じなんだけど、取り巻きのひとりがRに「何もねーじゃん、嘘つき!」って言い出したらみんな止まらなくて。
嘘つき!とか騙しやがって!とかワーワー騒いでたんだけど、そこでRの様子がおかしいことに気づいたのね。
何もない蔵の天井を見上げて、そこから目が離せないみたいな感じ。しかも全身がぶるぶる震えてて。俺は怖くなってRに近寄った。そしたらR、こう言ったんだ。
『おかあさん』
って。
何が何だかわかんなくなって、とにかくRの肩掴んで揺すったよ。そしたらR、やっと我に帰ったみたいで、「どうしたの?」
ってキョトンとした顔で聞いてきた。
俺が聞きたいよって思ってたら、いじめっ子たちが騒ぎ始めた。
あいつ、なんか変なこと喋り出してるぞーって。それで、いじめっ子の1人が俺らのほうに近づいてきて、「お前ら何か隠してんの?」って言ってきた。
だから、俺は首振って否定したよ。だって本当に心当たりなんて無かったから。
Rの家に来たことないし、今日が初めてだったから。でも、そのいじめっ子は全然信じてくれなかった。
俺らの顔見てニヤッとして、「やっぱなんかあんじゃん」って言いながら、またRに詰め寄って行った。
Rは泣き出しちゃってて、でも、他の奴らも一緒になって文句を言い続けてた。

そしたら、ちょうどその時にKが帰ってきたんだ。すっげー意地の悪い笑顔でさ、正直イヤな予感がした。
Kは手に小さい小瓶を持って、「おい、やべーもん見つけたぞ」ってそれを俺たちに見せた。
本当に小さい……片手に収まるくらいの小瓶で、中には赤黒い液体みたいなのが入ってた。ドロドロしてて、よく持ってきたなって感じ。
ぶっちゃけ、俺らはKに引いてたんだけど、Kが「見ろよ、これって血じゃね?」って。
確かにそう言われたらそう見えるようなものだったし、変なにおいもした気がする。でもなんで、こんな蔵の中にそんなもんがあんの?って話になるじゃん。
Kも他の取り巻きも、みんなして「キモー!」だの「やっぱキモいやつの家にはキモいもんがあるんだな」だの。俺はもう頭がこんがらがって、とりあえずRに大丈夫か聞いたよ。そしたらRはもう泣いてて、うんうんってうなずくだけだった。

そんな時、ふと、蔵の奥の暗がりに誰かいるのに気づいた。
白い着物を着た小さい女の子が立ってた。髪が長くて、目元が隠れてて、なんかすごい不気味だった。
その子もこっちを見てた。多分じっと俺たちを睨むように見てたと思う。
俺はなんかもう動けなくって、とりあえずRにあれが誰か聞こうとしたんだ。他のやつらは気づいてなかったみたいだし。
「R、あの奥にいるのって誰?」俺はRを振り返った。そしたら、またRの様子がおかしくなってた。
さっきよりもっと激しく震えてて、呼吸も荒くて、目の焦点も合ってなかった。
明らかに普通じゃない様子で、さすがにKたちも心配……というか、焦ってるみたいだった。
R、目の焦点は合ってないんだけど、顔の方向はずっと同じで。多分あの女の子が見えてるんだろうなって。
俺はもう、マジでビビっちゃって。とりあえず女の子の方に視線だけ戻したんだけど、もういなくなってるわけ。
今思うと、蔵の奥のほうにでも行ったのかもしれない。俺の様子を見たKが「なんかあんのかよ」って聞いてきて、俺は正直に話したよ。
奥の方に女の子がいて、それを見たらRがおかしくなったって。
Kは「マジかよ!」なんて言ってまた蔵の奥に行こうとしたんだけど、駄目だった。
Rが、突然Kに襲いかかったんだ。

Kに、っていうよりかはKが持ってる小瓶に、かな。いきなり飛びかかって、Kの手から小瓶を奪い取った。
いじめられっ子のRが反撃することなんてまずなかったから、俺らはもうポカーンとしちゃって。
Kだけは「何すんだよ!!」って小瓶を取り返そうとRに向かってった。反射だろうなぁ、奪われたから奪い返すくらいの感じ。
でも、Kが小瓶を取り返すことはなかった。
R、その場でその小瓶の蓋を開けてさ。中を全部飲んじゃったんだ。

俺ら、もうパニックだよ。だってR、急に様子が変になったかと思ったら蔵の中にあった得体の知れない液体を飲んだんだぜ? 俺らは慌てて止めようとしたけど、遅かった。
Rは立ちながら死んでるみたいにピクリとも動かなくなっちゃって、いくら揺さぶっても反応なんてしないの。
もうビビってんのは俺だけじゃなかった。その場にいる全員、じりじり後ずさりしてRから距離を取り始めた。
これ、誰に報告すりゃいいの?誰か呼んできたほうがいいんじゃないの?でもRの家の人は夜にならないと帰ってこないって話だったし……。
多分俺ら、全員同じことを考えてたと思う。何か取り返しのつかないことになっちゃったのはなんとなくわかった。だから、とにかくここから出ようって思ったんだ。

そしたらさ…………蔵の外から悲鳴が聞こえた。
男の人の低い悲鳴。俺はRから「おばあちゃんの介護は男の人がしてる」って聞いてたから、その人の声だろうなってわかった。
でも突然のことだったもんで、その悲鳴をきっかけにいじめっ子たちは全員外に逃げ出して行っちゃった。
あとに残されたのは俺とRだけ。もう勘弁してくれよ、って感じだったけど、この状態のRを放置していくわけにもいかないし。
とりあえず外に出なきゃとは思ったから、俺はRの手を掴んで外まで引っ張って行こうとした。
揺さぶった時は反応なかったんだけど、その時はすんなり動いてくれたから助かったな。
蔵から出たら、いじめっ子たちは全員帰った後みたいだった。誰もいなかった。
蔵の中だったから正確な時間はわからないけど、確か5時とか6時くらいだったんじゃないかな。
だから「俺ももう帰るわ」ってRに言おうとして、そこで初めてRがずっと何かぶつぶつ言ってることに気づいた。

ごめん、間あいちゃった。
今でも思い出すと寒気がしてさ、それで時間かかった。続ける。

R、ずっと雛祭りの童謡を歌ってたんだ。
明かりをつけましょぼんぼりに、ってやつ。抑揚も何もなかったから、歌うってよりも本当につぶやくって感じだったけど。
もうマジで意味わかんないよな。すげー怖いし。
だから俺、その場でRの手を離して速攻でチャリに跨って帰った。蔵の外まで連れ出してたし、もういいだろって。

行きはずっと微妙な上り坂だったから帰りは下り坂で楽なはずなのに、全然そんな気がしなかった。
ずっと何かが追いかけてきてるみたいな感じがして、まぁ気の所為だったんだけどさ。
そんで家に帰ってきて、さっさと寝た。部屋の電気はつけっぱなしにした。

次の日、Rは学校に来なかった。
蔵で起きたことを知ってる俺らも話題にあげられなくて、誤魔化すみたいにくだらない話をして家に帰った。
でも、ただいまーって家に入ったら血相変えた様子の母さんが飛び出してきてさ。
「あんた、昨日Rくんの家に行った?」って聞いてくるわけ。すげー焦ってるみたいで、嘘とかつけなくて。素直に頷いたよ。
そしたら母さんが教えてくれたんだ。
「昨日、Rくんの家族が全員死んじゃったんだって」って。
結局Rはそのまま別の学校に転校して、それっきりだった。

長くなってごめん。
最初に「このまえ小学生の時の同級生と久しぶりに会って、それで思い出したことがあったから適当に書いていく。」って書いたけど、その同級生がR。
久しぶりに会ったら当時とは比べ物にならないくらい明るくなってたんだけど、髪を伸ばしてたりネイルしてたりでちょっと女の子っぽくなっててさ。それであの雛祭りの歌のことを思い出して、ここに書き込みました。
なにか知ってるひとがいたら教えてください。

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