【書評?】2020年に読んだ103冊を晒すよ!
明けましておめでとうございます。(今更?)(旧暦か)
#STAYHOME のおかげで2020年は自分史上一番本を読んだ年だった。
セレクションの一貫性のなさはともかく新潮社の100冊よりちょっとだけ多いんだぜ、すごくね?と誰かに自慢したくてウズウズしてるので、リスト&ちょっと書評にお目通し頂きつつ、新しい本と出会う機会として頂けたりしたら幸い。
103冊リスト
読了順。自分図書館の殿堂入りした本は太字。
GoodreadsのReading Challengeを貼ってあるので、気になった本があったら飛んで頂くと本の情報が見られます。
1. The 19th Wife David Ebershoff
2. 美徳のよろめき 三島由紀夫
3. Brooklyn Colm Tòibín
4. 「怖い絵」で人間を読む 中野京子
5. 危険な世界史 中野京子
6. The Testaments Margaret Atwood
7. There There Tommy Orange
8. カラーひよことコーヒー豆 小川洋子
9. ヴィヨンの妻 太宰治
10. 犬のしっぽを撫でながら 小川洋子
11. 深き心の底より 小川洋子
12. アンネ・フランクの記憶 小川洋子
13. とにかく散歩いたしましょう 小川洋子
14. 妖精が舞い降りる夜 小川洋子
15. いつも彼らはどこかに 小川洋子
16. 博士の本棚 小川洋子
17. Pachinko Min Jin Lee
18. Do Not Say We Have Nothing Madeleine Thien
19. 夜の声 井上靖
20. A Good Man is Hard to Find Flannery O'Conner
21. The Dutch House Ann Patchett
22. 坂の上の雲 1 司馬遼太郎
23. 坂の上の雲 2 司馬遼太郎
24. 10 Minutes 38 Seconds in This Strange World Elif Shafak
25. 夜明け前 第一部 上 島崎藤村
26. The Sympathizer Viet Thanh Nguyen
27. The Tattooist of Auschwitz Heather Morris
28. 雪沼とその周辺 堀江敏幸
29. 守教 上 帚木蓬生
30. All the Light We Cannot See Anthony Doerr
31. Bird Box Josh Malerman
32. Did You Ever Have a Family Bill Clegg
33. The Joy Luck Club Amy Tan
34. Man's Search for Meaning Viktor Frankl
35. Alias Grace Margaret Atwood
36. アスパーガールズ ルディ・シモン
37. The Shell Collector Anthony Doerr
38. Dear Edward Ann Napolitano
39. ふなうた 三浦哲郎
40. Uncle Tungsten: Memories of a Chemical Boyhood Oliver Sacks
41. 針がとぶ Goodbye Porkpie Hat 吉田篤弘
42. 片づけられない女たち サリ・ソルデン
43. Extremely Loud & Incredibly Close Jonathan Safran Foer
44. 坂の上の雲 3 司馬遼太郎
45. 坂の上の雲 4 司馬遼太郎
46. 坂の上の雲 5 司馬遼太郎
47. 潜伏キリシタンは何を信じていたのか 宮崎賢太郎
48. かくれキリシタンの起源 -信仰と信者の実相 中園成生
49. 面白南極料理人 西村淳
50. The Road Cormac McCarthy
51. 坂の上の雲 6 司馬遼太郎
52. 坂の上の雲 7 司馬遼太郎
53. 坂の上の雲 8 司馬遼太郎
54. 消された信仰 -最後のかくれキリシタン 広野真嗣
55. A Woman of No Importance: The Untold Story of the American Spy Who Helped Win World War II Sonia Purnell
56. Girl, Interrupted Suzanna Kaysen
57. Little Fires Everywhere Celeste Ng
58. The Bell Jar Sylvia Plath
59. The Velveteen Rabbit Margery Williams Bianco
60. ビロードのうさぎ マージェリィ・W・ビアンコ、酒井駒子
61. The Nightingale Kristin Hannah
62. ことばの食卓 武田百合子
63. 富士日記 上 武田百合子
64. 富士日記 中 武田百合子
65. 妻を帽子とまちがえた男 オリバー・サックス
66. 西の魔女が死んだ 梨木香歩
67. 富士日記 下 武田百合子
68. 小川洋子の陶酔短篇箱
69. 小川洋子の偏愛短篇箱
70. 夏の花・心願の国 原民喜
71. あの頃 武田百合子
72. 天才の栄光と挫折 -数学者列伝 藤原正彦
73. 伊豆の踊子・温泉宿 川端康成
74. 眠れる美女 川端康成
75. 婉という女・正妻 大原富枝
76. 野火 大岡昇平
77. 月の家族 島尾伸三
78. 新耳袋 十 木原浩勝、中山市朗
79. 死の棘 島尾敏雄
80. 海辺の生と死 島尾ミホ
81. 「わかっているのにできない」脳 1 ダニエル・G・エイメン
82. 祭り裏 島尾ミホ
83. 数学物語 矢野健太郎
84. 島の果て 島尾敏雄
85. 紅茶と薔薇の日々 森茉莉
86. American Dirt Jeanine Cummins
87. On Death and Dying Elizabeth Kübler-Ross
88. Everything I Never Told You Celeste Ng
89. 小高へ -父 島尾敏雄への旅 島尾伸三
90. 小岩へ -父 敏雄と母 ミホを探して 島尾伸三
91. 図解 数学の世界 ヤザワサイエンスオフィス
92. Control Your Depression Peter Lewinsohn
93. 狂うひと -「死の棘」の妻・島尾ミホ 梯久美子
94. 浮浪児1945- -戦争が生んだ子供たち 石井光太
95. How to Survive a Plague: The Inside Story of How Citizens and Science Tamed AIDS David France
96. 雪国 川端康成
97. 話せない私研究 モリナガアメ
98. ちくま日本文学 1 内田百閒
99. ねこは るすばん 町田尚子
100. お供え 吉田知子
101. 野良猫の拾い方 東京キャットガーディアン
102. The Sorrows of Young Werther Johann Wolfgang von Goethe
103. Awakenings Oliver Sacks
ちょっと書評
8月に中間発表と称してまとめた分はこちら。
これ書いたあとに殿堂入りしたものの中から何冊か書評を。
★★★★
https://www.amazon.co.jp/dp/B00M0KIRM6/
Everything I Never Told You Celeste Ng
リディア・リーが死んだ。
成績優秀で友達にも恵まれ、将来が希望で満ち溢れていたはずのリディア。大学教授の中国系の父と進歩的で美しい白人の母の愛情を受けて育ったリディア。3人兄妹の中で両親の一番のお気に入りだったリディア。
湖の底で人知れず崩れていった彼女と一緒に、危うい均衡を保って存在していた家族像が静かに音も立てず壊れていく。
同じ作家さんの'Little Fires Everywhere'と合わせて、去年読んだ本の中で最上位くらいに入る面白さ。
LFE同様家族の関係がテーマ。LFEより前の作品で、作者の作品世界を構成する要素が既にほとんど出揃っているのが分かる。
外からの力でピタゴラスイッチする家族関係だったLFEに対し、今作の家族には閉ざされた世界で薄皮を剥ぐように変化する繊細な緊張感がある。
事実はひとつ。でもそれぞれに少しずつ曇った視点から見ると幾通りにも違って見える。その視点を追いながら家族像が移り変わる様子を、繋ぎ合わせるように追体験する作品。
出来事に対するキャラクターの反応、心理のリアリズムはところどころ今ひとつなところも。キャラクターによっては掘り下げは深いけど描写が足りない部分もある。でも心理描写は丁寧で、時として抉るように精緻に描き出される感情には覚えがありすぎて息苦しくなるほど。
キャラクターたちの行動が生み出す結果が物語を進めていく力が強く、ストーリーに釘付けになる。群像的な複数のストーリーラインが紡ぎ合わさるようにして読者を引っ張っていくこの巧みさは、この作家さんの天才的な持ち味だと思う。
文体は簡潔にして端正。リズムが良くて読みやすく、軽やかなのに時々ヒヤリとする感じも。思考に引っかかりなく染み込むように言葉が入ってくる快感はポール・オースターっぽさがある(文体は全然違うけど)。
https://www.amazon.co.jp/dp/4480425012/
ちくま日本文学 1 内田百閒
死んだ友人に借りていたものを夜毎取り返しに訪ねてくるその妻。見知っているはずなのに不穏な手触りしか残さない東京の情景。意識の端をかすめ始めたら最後、山高帽の男は符号のように幾度も現れる。
恥ずかしながら今まで短篇をつまみ食い的に読んだことしかなかったので、充実した百鬼園先生デビューには欲張りパックなこちらが良かろうと選んだ。
いい意味でとりとめのない短篇も、おそらく実生活に材を採った随筆的作品も、まさに悪夢の中を漂い歩くような妙な不安定さが心地よくてクセになる。
日常のすぐ横にはちょっとズレた奇妙な世界線がつかず離れず撫でるように存在しているかも知れなくて、それは混線するほど近くにあるので、百鬼園先生は時々知らないうちにそっちにフラフラ散歩してしまうのだ、と勝手に想像しながら読んだ。ああ愛おしい。
自分は小さい頃から「普通」の世界の見え方と自分の見え方が3cmぐらいズレてる自覚があって、それが所謂生きづらさにつながってる気がするんだけど、百鬼園先生に於かれましては20cmぐらいズレてそうっていうか、ステレオ写真見るときの眼鏡が合ってないあの感じに似てるというか、1枚めくったところの別の世界線(しかもそれが空が紫だったり看板に微妙に読めそうで読めない文字が書いてあったりする時空のおじさん的世界線ぽいんだ)から間違って来ちゃった人っぽいというか、なのに視点が主観で曇ってなくて(素敵に歪んではいるが)、その視座のやわらかさをもう敬ってしまう。
独特な時間の流れ方やロマンが溢れて止まらない小道具、騙し絵的な匂いのする情景などなど、マンガにして描きたくなる作品だなと思ったら(特に「冥土」)、谷口ジロー先生が既にやってるんですね。読むと絶対影響されそうなので、読まないままいつか自分でマンガにしてみたい。
巻末の赤瀬川原平氏の解説も秀逸。「宇宙人の私小説」。まさに。
https://www.amazon.co.jp/dp/4480025464/
ことばの食卓 武田百合子
枇杷、牛乳、兵隊さん、おいらん、シベリヤ、桃の刺青、ざらめをまぶした薄荷飴、蚊いぶしの草の燃える匂い。天袋に澱んだ光の中でお雛様は無言で囁き交わすし、羊は腕時計の止め金が痛いと言うし、紙包には男が一人分包まれている。
武田百合子作品はどれも素晴らしすぎて全部語りたくなるけど、特に1冊としてのまとまりが良いこちらを。
百鬼園先生がズレてるひとなら、百合子さんは空気まで見えてしまう人だと思う。そしてその空気は密度が濃くて、生きてるものも死んでるものも全部鮮明な匂いがする。
作品名が「ことばの『食卓』」なので中心のテーマは食べ物なんだけど、各篇必ずしも食べ物がはなしの真ん中にあるとは限らない。最初に何かがぽん、と登場すると、そこから散歩するようにはなしが飛躍したり広がったり、独特なつながりをもって世界が広がっていく。そのつながり方、つながった先にあるものの選び方が唯一無二で、それを結びつける糸が見えてる作者の視線にドキッとする。
この連想の散歩のしかた、何かに似てるなと思ったら武田泰淳の「目まいのする散歩」だった。作品の中の空気も似てる感じがするけど、性差なのか、その捉え方が夫婦でだいぶ違うのが面白い。武田百合子作品は死んだものも生きてるものも区別なく同時に空気の中に充満してる感じがいつも独特だなと思っていて、武田泰淳作品の生死がゆるやかにひとつながりで存在してる空気感と共通しながらも好対照だと思う。
「お弁当」「雛祭りの頃」は特に艶かしくていきいきとした腐臭(熟れ過ぎて腐りそうなのか腐ってるのかギリギリ微妙な果物的な(食卓だけに))が堪能できて白眉。寝る前に思い出したように読み返して空気に浸って慄えて眠る、という自分にとって一番楽しい短篇とのつきあい方ができる本だった。
やんわりと的確に作品世界を描写する挿絵も良い。食べ物ばかりかと思ったら突然無機質だったりよく分からないものが描き込まれててぎょっとする感じ、すごい的確。
(そしてここでも登場する赤瀬川原平氏の偶然に、何かよく分からないものの掌の上で転がされてるような奇妙な気分になる)
以上です
今年は今まで読もう読もうと思いながらなかなか手を付けられなかったシリーズをついに読む年にしたいです。中公の世界の歴史とか。さあどうなるやら。
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