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旅先での寂しさを癒してくれたバーのマスターたち

旅は3日目となりましたが、なんとまだ1日目の出来事を書ききれておりません。夜の散歩がてら一蘭まで歩いた僕は、帰りの道中で1、2杯引っ掛けることにした。知らぬ土地に降り立ったばかりで、周囲には仲間たちと騒ぎ合う若者グループや中国人、韓国人の大群。強い疎外感に苛まれる僕に、夜の暗さが追い打ちをかけてくる。いつもは味方をしてくれる夜とも、今宵ばかりは敵対関係だ。

ギラギラとした歓楽街を歩いていると、一際目を引く看板を見つけた。狼の群れに羊が1匹だけ迷い込んでしまったような、そんな違和感を放つシンプルかつ落ち着いた看板。店名ロゴとともに「←Barあり」と書かれている。矢印の指す方向には「ザ」がつくほどの裏路地。初めて訪れた土地の裏路地の隠れ家的バーに潜入するには、そこそこ勇敢な心が必要だ。僕にそんな度胸はない。けれど今は旅行中...心に特別なブーストがかかり、普段なら不可能な行動をも可能にする。その謎パワーにあやかり、ひっそりと佇むバーの門戸を叩いた。

カウンターの中には落ち着いた出立ちのマスター。ボリューミーなパーマ、そして上品に整えられた髭をたくわえ、いかにもな雰囲気を醸し出している。客は僕以外に1人。ひとまずメニューを受け取り、おすすめの「旬の果物カクテル」をいただく。果実系のお酒は好きだし、暑い季節にはぴったりだ。

僕が1人しっぽりカクテルを楽しんでいる間、マスターともう1人の客が談笑する。とはいっても、少し話しては沈黙、また話しては沈黙という感じで、ゆったりと気持ちのよい時間が流れる。「今日はどこかで飲んできたんですか?」しばらくして、僕を慮ってかマスターが話しかけてきた。距離感の詰め方がバグっている僕は、さきほど福岡に着いたばかりであること、一蘭を食べてきたこと、一人寂しい思いをしていること、余計なことまで洗いざらい打ち明けた。さすが喋りを生業の一部としているだけあって「ここにいれば一人じゃないですよ」と深い懐で僕を受け入れてくれた。

店内BGMでBeautiful Worldがリピートされていたので「エヴァお好きなんですか?それとも宇多田ヒカルでしょうか」と尋ねてみました。その僕の質問をキッカケに、オーナー、もう一人の客、僕の3人での会話が弾んでいった。アニメの話をはじめ、福岡の地元トークなど旅のお役立ち情報、果ては「もうこの後3人で飲みに行きましょうや」とまで言われた。福岡に着いて1.5時間、バーに入店して2時間、たったこれだけの時間で人と出会い、打ち解けるまでに至った。我ながら運に味方されたと思ったが、マスターは「これが博多のおもてなしたい」と、屋台文化の根強さを存分にアピールしてくれた。

話半分かと思いましたが、僕が2杯目を飲み終えた後にマスターが店の締め作業を済ませ「さ、行きますか」と、通りでタクシーを拾った。本当に行くのか...社交辞令でなかったことが驚きだが、淋しさを持て余していた僕としては大歓迎も大歓迎。3人を乗せたタクシーは天神へと向かう。

僕は翌日の朝に友人たちと落ち合う予定があるにも関わらず、結局そのまま朝まで飲み明かしてしまった。しかも、マスターのご厚意でお代は出していただきました。恐らくもう会うことのない相手でしょうに、一期一会を大切にするこの心意気に敬意を示したい。さすがに飲みすぎてフラフラの足取りでしたが、なんとかタクシーに乗り込み宿に辿り着き、1人用のポッドで眠ったのでした。

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