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「アニメが好き」発言の危うさ

マッチングアプリなどを通じ、初めましての人と会話をする機会が増えて改めて思う。もう「アニメが好きです」は相当に地雷発言だ。ただアニメが好きというだけで同志…なんて時代はとうの昔に幕を閉じており、きょうび敢えて「アニメが好きです」と言ってくる人に出会うと変に身構えてしまう。

背景として、アニメのジャンルやファン層が多様化したことが挙げられる。とにかく作品の数が多い多い。かつて、話題になるアニメがさほど多くなかった頃は、男も女も関係なく皆同じような作品を観ていた。だから当時は「アニメが好きです」である程度は通じ合えたのだ。けれど今はそうもいかない。僕の勉強不足もありますが、とりわけ女性向けの作品は見たことも聞いたこともないタイトルが山ほどある。自分の守備範囲とはまったくの別領域なので、これだけでも「アニメ好き」で一括りにすることの危うさが見て取れるでしょう。

昔から女性向けの作品は少なからずあったでしょうが、僕の体感だと『おそ松さん』辺りからニュータイプの女性アニメファンが増えてきたような気がしています。1つのターニングポイントでしょうか。そこで、女性向け作品はグッズがよく売れるぞ!と勘づいた制作側も、こぞって女性向け作品に注力するようになった。推し活しかり、男はあんまりグッズを買わんからね。女性は好きな作品やキャラクターの関連商品にたくさん貢ぐことで、それらへの情熱や愛を表現しようとしている(ように見える)。アニメだって商売なのだから、そりゃあ女性向け作品に力を入れるよなあ、と納得だ。男性諸君、二次創作を見てシコってばかりいないでグッズや原作の単行本を買うのだぞ!

戯言はさておくとして、男女によって嗜好の差が拡大するばかりか、もはや同じ作品が好きな者同士であっても上手く噛み合わない場合がある。原作ファンとして見ているか、声優が好きで見ているのか、スタジオなどの作り手を目当てに見ているか、つまり”作品とどう向き合っているか”によって、仲良くなるキッカケになるどころか、下手をすれば価値観の大幅な違いが露呈しかねない。夫婦でも政治の話はNG、なんて言いますが、アニメや漫画もそれに近い状況になっている気がします。政治・宗教・野球、タブーな話題として、ここにアニメ漫画も追加しよう。もちろん、気の置けない間柄で、互いの意見を尊重し合いながら会話ができるなら問題ありませんが、すすんで初対面の相手との話題に選ぶ必要もありますまい。

実のところ、長年アニメファンをしている人たちは、あまり積極的にその手の話題を振ってこない。むしろかなり控えめだ。上で書いたような理由のほかにも、アニメ鑑賞は呼吸と同じ(くらい当たり前のこと)なのでわざわざ言う必要がない、とか、自分が好きな作品を言うのが恥ずかしいor貶されるのが怖い、とか、各々が経験に基づく事情を抱えている。長いことオタクしていれば、不快な思いをすることだってある。すると、加齢も相まってどんどん保守的になっていくものだ。

僕もめっきり「アニメが好きなんですよね」とは言わなくなった。そのセリフを言う自分に違和感もある。今更改まって言うのがおかしいのだ。おそらく、今後も言う機会はまずないでしょう。こういう、いかにも厄介な老害オタクっぽい語りをするのも、リアルでは控えておきたいものですね。

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