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第33話「ロンドン留学へ出発」

ロンドンへの出発の日、1996年1月6日は土曜日だったので、会社の仲間が空港まで見送りに来てくれた。同じ一般団体旅行課の牧野や安田、鱸に加え、教育旅行課の田中と布施も集まった。

「ありがとうございます。お休みの所、わざわざ空港まで来ていただきまして。」

カツヒロは少し、驚いていた。なぜなら、出発日こそ周りに伝えてはいたものの、肝心な便名は誰にも伝えていなっかったからだ。その事を同期の牧野に尋ねると。

「カツヒロはJALのマイレージプログラムを使っているから、多分、今回もJALを使うだろうと思ってね。事前に便名と出発時間を調べておいたんだ。それで、さっき田中と一緒にJALのチェックインカウンターで、武藤勝弘はもうチェックインしているか?って、聞いたら、少し前にチェックイン済だと分かったから、皆で手分けしてお前を探したんだ。」と教えてくれた。

「よっし、まだ出発まで時間あるんだろう。最後にビールでも飲もうぜ。

一番年上の鱸が、音頭をとって空港内のレストランに誘った。荷物のチェックインは既に済ましておいたので、30分ぐらいの時間が作れた。第一ターミナルの北ウイングの隅にあるファミレス風のレストランで、ビールの中ジョッキを人数分、それにフライドポテトとジャーマンソーセージをオーダーした。

昼間から、それもすきっ腹で飲むビールは、少しきつかった。でも、自分の為に時間を作って、見送りに来てもらえた事の方が嬉しかった。

カツヒロな、お前はやっぱり凄いよな。新入社員の頃は、なんか生意気な奴だと思っていたけど、あっと言う間に支店内で一番になって、気づいたらもう、違うステージに向かって行くんだもんな。」

安田は羨ましそうにそういうと、ビールをお代わりした。安田はカツヒロの新人教育係で1年目の頃、非常にお世話になった。

「安田さん、確かに私は生意気でしたね。本当にご迷惑をたくさんかけてしまいました。ゴメンナサイ。」

「いいんだよ、それくらい個性や自己主張の強い奴じゃないと、成績の良い営業マンになんて成れないんだから。」

今度は鱸が口を開いた。

「そうだな~、競合他社との厳しい入札競争に勝ち残るためには、新人だろうが、ベテランだろうが、"自分のプランが負けるはずはない”と思うくらいの奴じゃなければ、仕事なんて受注出来ないもんな。」

「とにかく、お前は後の事は気にすんな。千葉支店はお前が一人抜けても、俺たちが何とかするから、ロンドン楽しんで来いよ。」

「はい。ありがとうとございます。戻ってきたら、ヨーロッパのプロ添(添乗員)になるつもりなので、皆さんのツアーで指名して下さいね。」

カツヒロはそう言って、最後にビールの残りを口の中に押し込んだ。

JAL機体

日本航空のロンドン・ヒースロー空港行きの便は、定刻より10分程遅れの13:40分に出発をした。これから約12時間を機内で過ごす事になる。日本とは時差が9時間あるから、順調にフライトすれば、現地時刻の16:30頃到着する。

カツヒロは、ぼーっと窓から、外の景色を眺めていた。これまで、添乗で国内線、国際線を合わせると20回以上飛行機に乗って来たが、仕事で乗る時はいつも通路側だったから、窓側の席に座ったのは4年前のメルボルン留学時以来になる。

ロンドンに行くのは2年ぶりだな。あの時はバッキンガム宮殿で衛兵の交代を見られたし、有名なビックベンがある国会議事堂、大英博物館やピカデリーサーカスも周った。他にもウインザー城やタワーオブロンドンと有名どころは一通り行かせてもらった。

入社一年目の10月に、安田さんが取って来た香取郡町村会ヨーロッパ視察ツアーの添乗で行かせてもらった。あのツアーは各市町村から課長や係長クラスの中堅職員が2名ずつ選ばれて、その代表がヨーロッパの福祉政策や都市政策を学んでくるという趣旨で毎年実施される。

最初にドイツに入り、フランクフルトとベルリンを観光し、次にオランダのアムステルダム、フランスのパリと周り、最後がロンドンでそこから日本へ戻った。まだ統一通貨のユーロは存在しない頃の話なので、国が変わるごとに通貨も両替したり、追加の飲み物代やオプショナルツアーの清算作業が大変だったことだけが、鮮明に記憶に残る。

確かあの時もJALだったな。安田はルフトハンザ航空やブリティッシュエアウェイズを使った方が旅行代金が安くなると勧めたが、役所関係の海外旅行だと、日系のエアラインが大抵好まれる。理由は、もしも何かあった時に外資だと対応が不安だとか、機内でも安心して日本語が使える環境が良いとの事だった。

あー、それにしても12時間は長いなー。

映画を見たり、音楽を聴いたり、本を読んではみたものの、中々か時間が過ぎない。機内食はあと1時間ぐらいしたら夕食が出てくるころなんだろうけど、やる事がない。そう言えば、CAのお姉ちゃん達は暇な時間、何してんだろう?適当な理由をつけてギャレーに言って話をして見たいと思ったが、隣の2名はぐっすり寝ていたから、起こすのは悪いと思って辞めた。

「JALのCAかあ、なんか、あの制服を着ているだけで、普通の女性より数倍綺麗に見えるんだよなあ。いいよな、あんなカワイイ彼女がいたら。もしもパイロットに成れたら、CAさんと結婚出来るのかな?

カツヒロの妄想は続いた。

そう言えば、昔、「スチュワーデス物語」を見ていたのを思い出した。俺、あの時、主人公の松本千秋が憧れる村沢教官に成りたって思っていたんだよね。今からでも、教官に成れるのかな?でも、JALって男のCAがいないみたいだから、無理なんじゃないの?それなら、そんなめんどくさい事せずに、JALのお姉ちゃん達が宿泊するホテルを突き止めて、デートに誘ったらいいんじゃない。でも、無職の24歳じゃ相手にしてもらえないか?

そんな事を考えていたら、ヒースロー空港に到着した。

いよいよだね。新しい旅がスタートするぞ。

スーツケース

ターンテーブルでスーツケースを受け取り、迎えのドライバーとの待ち合わせ場所に向かった。今度のホームステイ先はインド人の母子家庭と言う事らしい。


つづく。

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