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【エッセイ】苦し紛れの嘘

「いや、それはさすがに苦し紛れすぎやろ」

小学2年生で、5時間目の授業を冷汗まみれで聞いている自分自身に僕が言いたい言葉だ。

小学校低学年の頃の僕は、学校で大便ができなかった。和式便所にどうしても慣れない僕は、とにかく便意を我慢した。たとえそれが2時間目にフライング気味に襲ってきたとしても、僕は住み慣れた自宅のトイレで4時間後に開放されることを夢見ていた。そんな長時間我慢できる確率がどれほど低いかも知らずに。

その日の便意は給食終わりにやってきた。

「あと、2時間我慢したら家に帰れる」

始めはいつものようにそう考えた僕だが、その日の便意はその甘い考えを真正面から壊しに来た。例えるならウルトラ怪獣のゼットンのような慈悲なき便意であった。

さすがにこれは我慢できないと感じた僕は、お昼休みにトイレへと向かう。そこに待ち受けていたのは慣れない和式便器。もう漏れるという焦りと、慣れない和式便器に対して、どうやってしたらいいねんという困惑が交じり合い、僕はよくわからないタイミングで排便を決行した。

その結果、大便は便器の中ではなく、”便器の縁”と”僕の靴のかかと部分”にまたがるように落下した。

どうしたらいいねん!!!

絶望、恥じらい、怒り、悪臭に包まれた個室の中で僕は一瞬パニックに陥った。

「とにかく拭かな」

何とか冷静さを取り戻し、僕は便器の縁とかかとについた大便をふき取り、友人たちに気づかれまいと、額に滲んだ汗をトイレットペーパーでふき取り、教室へと戻った。

その後の掃除の時間は誰にも気づかれることなく、残すは5時間目のみ。

これを乗り越えれば、解放される。

そう安心しかけたその時、、、

「なんかくさない?」

横に座っているY君が、トリガーを引いてしまった。


いや、待てよ、拭いたぞ。さっきしっかり拭いたぞ。俺ではないぞ。


そう思いつつも、それとなく机とお腹の間に顔を潜り込ませ、足方面に臭覚を向けてみると、確かににおう。お前のにおいはそんなに手ごわかったのか。これは後にわかったのだが、トイレで僕は大便をかかとに付けただけでなく、軽く踏んでしまっていたのだ。

皆さんに想像してほしい。小学校時代の上靴を。底に細い溝がいっぱいあった人がいると思う。そこに大便たちは入り込んでいた。

とにかく、このにおいが自分から発せられていると分かった僕からは、冷汗が溢れ出し、クラスの中で始まりだした犯人捜しを切り抜けなければならなくなってしまった。

僕は考えに考えた、なんとかこの場を上手く収めることができないか。もちろん小学2年生の僕に潔く白状する勇気など到底ない。

そして、グルグル頭を回転させるうちに、最高の方法を思いついた。これならみんな納得し、何事もなく授業に戻ってくれるはずだ

僕は高らかに挙手をした。そして先生から当てられた僕が言い放った一言は、、、


「先生、これ魚の皮のにおいです。さっきの給食のとき誰かが落としたと思います。」


苦し紛れすぎやろ


全てをくみ取った先生が、半ば強引にみんなを授業へと引き戻してくれました。

先生ありがとう。



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