まぼろしの王女
時空の帳から滲みだした振動が今まさに姿を結びつつあるなかで、それはひとつの声として響きわたった...
「わたしを探してください...
わたしはここにいます… あなたの中にわたしを探してください...」
その声は、微細な振動がいのちの火を灯すような、極限の緊張感を秘めたヴァイブレーションを宿していた。
それは時空が相転移するような、エネルギーの飽和状態のなかに目覚めた記憶が微細な振動で満たされたいのちの舞踏のように響いている...
次元のゆらぎのなかに結ぶいのちの言葉は、時空と記憶との干渉のなかに声を躍らせ大地を穿ち、自らの血潮を探し求めるかのように啼いていた...
深い哀しみと無上の悦びとが交差するように変幻してゆく様は、明滅のなかに灯る命の幻影を導く祭礼のようでもあった。
穿たれた泉から立ち昇る血潮によって、言葉は記憶を纏ってゆく...
それは言葉だけが空間を支配しているような重力をともなって現れてくる・・・
「わたしを探しなさい...」 密度を増した声は、減衰することのない波紋となって身体のなかを巡ってゆく...私が声を聴いているのか… 声が私を体現しているのかすら定かではないなかで、「声」は血潮となって記憶を走らせてゆく...
大樹のなかを立ち昇ってゆく水のように、記憶の幻影は微細な振動となって私のなかを駆け巡っている… そしてそれは幻に命が灯る瞬間だった...
............
私は泉に咲いた言葉の花のなかにいた...
言葉の血潮は弾ける気泡のなかで私を融かし、いのちの上昇気流となって舞い上がってゆく...それは微細な記憶の粒子が血潮によって目覚め、無数の細胞となって脈動を呼び覚ましてゆく光景を彷彿とさせていた...
まぼろしは今や私のなかに君臨し、私と同時に生きていた...減衰することのない波紋は、今では私の脈動となって私を生きている。
私を探しなさい… と繰り返される声は、私のなかで「私」として顕現している。その脈動だけが私を知る唯一の証しだった。声は脈動であり私と根源とを繋ぐ命脈となって存在していた...
泉に咲く花の上で私は私の声を聴き、記憶の細胞が語る封印された幻影を生きている...脈動だけが伝えてくる記憶の旋律に色は瞬き、記憶の舞踏は果てしなく続いてゆく...
脈動のなかに躍る声の彼方に... 私は遠い故郷の「花の香」を聴いたような気がした… 魂の故郷の言葉の薫りを...
それは私が旅立ちを決意した朝の薫りだった...
声の主は、旅立ちを見送った「ことのはの国」の王女だった...
............
帰還の旅はいま、果てしない彼方に目指すべき「言葉の星」を見出したのだった...
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