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イシ×ヌマcp 忍路鰈

何者か「オショロガレイ」

猛暑過ぎ去った11月、ホームグラウンドの新潟ふるさと村を物色していると違和感のあるシルエットをしたカレイを見つけた。

お分かりいただけたであろうか。

一見すると「こいつがなんやねん」といった感想を持つだろうが魚が好きな人には「ここいらで見かけない顔だねぇ…」となるだろう。
事実私もしばらく確信は持てなかったし、前のお客さんはしたり顔で「おっ!今日はマツカワあるんだね」と言っていた。
挙げ句の果てには仕入れた張本人である社長は「いんや…白身なんだけど よく分かんね…」と最後には図鑑とお品書きとにらめっこし始めてしまった。
しかしながらその図鑑には載っていないのだ。
というのもこのカレイ、名をば「オショロガレイ」と呼びその性質から図鑑に載るのは希なのだ。

次にこいつを見てほしい。

断じてヒラメではない。

これもオショロガレイだ。
ヒラメ様の見た目をしているがこの個体が特別な存在というわけでもない。
重ねて正確に言えばこいつには標準和名も与えられていない。
というのもこのカレイは「イシガレイ」と「ヌマガレイ」という二種類の魚の交雑種なのだ。
学術的には交雑種は一代限りのものと考えられており繁殖できない為、「種」として認められず従って標準和名もつけられないのだ。
つまり上で散々「交雑種」と読んでいるが正しくは「交雑個体」である。
(ただ今回は交雑種呼びをする。)
じゃあオショロガレイのオショロは何かと言うとこの魚が最初に発見されたのが北海道の小樽の忍路湾(おしょろわん)から来ている。
形質的には二種類の特徴を足して二で割ったような見た目をしておりヌマガレイに多く出る目が左側に寄る特徴や各鰭に現れる縞模様をもっている。

裏側には大なり小なり茶色の斑文が散らばる。

鱗はヌマガレイ様にイボ状に散らばるのだがその鱗がイシガレイのように骨質板に変質している。
この鱗が縁側と側線近くに散らばっているので五枚卸にするにはなかなかにかったるいのだ。いい加減にしてほしい。

オショロガレイの骨質板。細かい鱗が広い範囲に散らばっている。
イシガレイの骨質板。有眼側の一部にまとまって連なっている。

オショロガレイ解体。

頭を落とし、内臓を除け、イライラ誘発鱗をよけて五枚卸にすると

お…?厚みが…。

分厚い。大陸プレートもかくやと言わんばかりに肉が盛り上がっている。
同サイズならヒラメよりもカレイ類の方が身が厚い気がするけどオショロ君は顕著だと思う。

こんなん公共施設ならあっちゅう間にスロープ工事される。

それに加えて二尾とも脂がのっている。
交雑種であり子孫を残せないという前提を考えると
「養殖サーモンは人工的に安定した三倍体を作り生殖巣の成熟を抑えその分のエネルギーや脂肪を身に蓄えるように品種改良をする」
みたいな事が自然界で割と頻繁に営まれているのかな?
そう思うと知らずに抱卵個体を買ってげんなりする事も減るのだろうか…?
色々思うことはあるがそれは後にして食べてみよう。
次はいよいよ。

オショロガレイ実食。

サクをそぎ切って刺身に。

皿の模様がすけ〜るくらい。

気持ち水っぽい身質をしていたのを脱水シートで来るんで締めた。
有眼側の銀皮はイシガレイに寄った色合いをしている。
軽い脱水処理をしたため歯触りが強調されサクッと歯が入り咀嚼をしたらモチモチっとした弾力を楽しめる。
質の悪いカレイは血の風味なのか渋いようなゲジゲジするようなきらいがあるがこれは野締めなのにそういったノイズになる雑味が無い。
あっさりしていながらも芯のある旨味を持つと同時に脂質がゆっくりと溶け出すので品良くまとまっている。

肝臓と縁側。

軽く湯通しした肝臓は食感こそ色味よくプリッとしているが味は薄く信条であるところの口溶けの良さや魚臭さはまったく無い。
縁側は身から切り離した途端ポロポロ崩れてしまった。
しかしコリコリとした食感は健在で身の味の要素を倍増…いや、三倍程膨らませたような濃さに奥行きのあるふくよかな味わいになっている。

おまけは昆布締め。

酒や酢の代わりに柚子の皮と果汁を使って仕立てた。
昆布の塩気と爽やかな柑橘香が良いアクセントになり日本酒にぴったりな一品になった。
乙だ〜。

まとめ。

関心を持たなければ「何の変わりもない魚」かあるいは釣り人から「なんかよく分からないカレイ」どまりなオショロガレイだがそのルーツや生態から見ると実に興味深く個性的な魚だと言える。
多少。水っぽいながらもうま味があるし肝臓のことを思えば徹底的に筋肉に脂を蓄えるのかもしれない。
この辺は他の季節や個体を食べないと断言できないが。
現状、この魚は魚食い以外からは魚屋からすら評価も認知もされておらず他の雑魚と十把一絡げで一尾300円未満(野締めなのもあるが)と価値が見いだされていないように思える。
こんなに美味しいんだし大きくなるのだからイシガレイ同様に活け締めして価値をつけてやっても良いよなと思う反面、安定的に水揚げされるわけでは無さそうだし手間暇をかけようと最初の一歩を踏み出す漁師や水産業者というのも今後出ないだろうなとも思う。
何かのタイミングで釣れたら血抜きと神経締めしてやるくらいが関の山なのかなぁ…。
今後も見つけたら即買いかな。

余談。

ここから先は適当に書き綴るのでぶっちゃけ読まなくてもかまわない。
私は「現段階の食味の面」で言えば子孫を残さない代わりに養殖サーモンと似た理屈でカラスガレイ程では無いといえ脂を蓄えるオショロガレイのポテンシャルを買っている。
一方で生態的や環境的にはどうなんだろう?
例えば近年問題になってるブラウントラウトとイワナの交雑個体は狭い範囲で生活し性成熟しないため「本来生まれてくる純粋な魚が生まれてこない」「交雑種によって川のリソースやキャパシティを圧迫する」「遺伝子汚染」
「単純に外来種による捕食圧」などの問題が挙げられている。
狭い河川であれば在来のイワナとヤマメの交雑種であるカワサバも個体が増えれば似たような問題が増えてくるだろう。
イシガレイとヌマガレイの交雑種であるオショロガレイは広い海で純粋な種の資源を圧迫しないだろうと思う。
全体的には安定して漁獲はされていなさそうだがこの日のふるさと村を見るとまとまって入荷していたので増加自体はしているのだろうか?(あるいは選別して集めた?)
将来的にはオショロガレイによって引き起こされる問題も出てくるのだろうか…?

考えさせられる顔。



どうでも良いけどやっぱりipadよりも一眼の方が画質良いね。


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